忍者ブログ
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0322
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2008

0102

深岬の所属するバドミントン部では、6月の半ばに毎年恒例で一週間ほどの合宿がある。
大学内に体育会用の合宿所が存在するのだが、そこを借り切って合宿を行う。
スケジュール上では、月曜から金曜までの5日間となっており、きちんといつもよりも練習時間が多く組まれている。
金曜までとなっているが、土曜日に他大学との交流戦が組まれている故に基本的には一週間まるまる合宿のようなものだ。
土曜日に帰ってきてから飲めるように合宿所は例年通り日曜まで押さえられている。

勿論、6月という時期だ。
大学の授業もあるのだが、その間は、朝練と夕方の練習が毎日のように組まれている。
昼間は学校。
当然、死活問題になってくるのは食事・風呂だが、食事は朝練と夕練の後にまとまってみんなで食べにいくということで何とかなる。
風呂は、大学近辺に住む下宿生の家で入るという強硬策が何年もの間とられてきている。

そして、毎晩のように飲み会が開かれる。
集まればすぐに酒に直結するのは、酒好きの集団ゆえに致し方ないといったところだろうか。
この微妙な時期に合宿をする目的として、第一にあるのはやはり練習なのだが、この時期大体新入生の数が確定する。
練習に参加する顔ぶれも固定してきたり、新歓には来なかったが後から入部を希望してきたものとの距離感を縮めるものとしてこの合宿は重宝されるのだ。
参加・不参加が自由となっている4年生や院生も度々姿を現しては、むしろ下級生よりも盛大に暴れるだけ暴れて帰っていく。

既にその合宿も水曜日を迎えていた。
部員の疲れなども考えてか、水曜日の午後からは、練習が組まれておらず帰りたいと希望すれば一日だけは、家に帰ることも可能だ。
深岬は授業の終わりと同時に伏せていた顔をあげると眠そうに大きなあくびをしながら、眠たい目を擦る。
きょろきょろと横を振り返り、涼子の姿を確認する。

「終わったぁ?」

と寝ぼけた声で尋ねれば涼子は苦笑を浮かべながらも終わったよと教えてくれる。
朝練をした後の授業を正直重たい。
襲ってくる睡魔に勝てずに授業始まると同時に落ちた深岬だった。
一応、出すだけ出しておいたノートをカバンの中に仕舞うと立ち上がる。

「眠いっ。ご飯ご飯」
「どこ行く?」
「午後から授業もないし、外にいこ」
「いいねぇ。そーしよ」

と言いながら、外に向かって歩きだした深岬と涼子だった。
昼からの授業がなかったために、のんびりとした時間を過ごして、大学へ戻る途中の道に1人暮らしをしている涼子は、家に帰ると言ったので、手を振って別れると深岬は1人になったままふらふらと大学への道を歩きながら、どうしようかと考えながら歩く。
合宿所に顔を出せば、誰かいるだろうかと思いつつ合宿所までの道を歩いていると途中で見知った顔とすれ違う。
学科のクラスメートで、必然的に同じ授業を受ける機会が多いので自然と顔も覚えていく。
入学当初、むさくるしい面々に気を取られて気づかなかったのだが、数多くのむさ苦しい男どもに混じっていた数少ない顔立ちの整ったクラスメートの1人だった。
何で気づかなかったのかと思うほどの整った顔立ちに上背のある細身の体。
合コンに行けば必ずと言っていいほど、注目を集めるだろうなと思いつつも深岬は、さほど興味はわかなかったので、顔だけは覚えていたが、名前までは覚えていなかった。
やはり、周りが放っておかなかったらしく、彼の横にはスレンダーな美女が手を組んで歩いている。
生憎と女の方は、深岬は知らなかったが、やっぱりなと思いつつ、不躾にも一枚の絵のようにお似合いの2人の姿を見つめていた歩きながら見つめていた深岬だったが、相手も深岬の視線に気づいたのか男の方―深岬のクラスメートと目が合う。
―まずい。じろじろ見すぎた。 …と思って深岬が目を逸らそうとしたが、向こうも深岬の顔を覚えていたのか、じっと深岬の顔を見てきた。
突然のことに困惑しながらも、深岬はわざとらしく視線を外したのだが、男から視線を外す直前、彼が深岬を見てにっこりと笑ったのを見逃さなかった。

顔見知りだから挨拶代わりに笑った程度なのだろう。
だが、綺麗とか可愛いなどという形容とはまるで縁のない深岬にとって、整った顔立ちの男から微笑まれることなど滅多にないことで、耐性のない深岬はすっかり動揺してしまい、ばくばくと脈打つ心臓を抱えたまま足早に彼の近くから去った。
心臓の上の辺りを手で押さえながら、足だけを早く動かす。
気付けば、いつの間にか合宿で利用している合宿所の前に来ていた。
立ち止まって一度深呼吸をして気持ちを落ち着けると合宿所の中へと入っていく。

もしかしたら、誰もいないかもしれない―と思いながら。
すれ違った男の存在を頭から消すように深岬は、中へと足を踏み入れた。

「あっれぇー深岬ちゃんじゃん。授業は?」

と馴染みの声がすぐに聞こえてきて深岬は声のした方を振り返った。
にっと人好きのする笑みを浮かべて深岬のほうに向かってくるのは、野坂だった。
ほっと肩から力を抜いて深岬も軽く笑いながら答える。

「授業はないので、来ちゃいました」
「オレもオレも。あれ?なんか顔赤くない?」

どきりと一瞬緊張が走ったが、すぐに首を振って「そうですか?」ととぼけてみせた後、話題を逸らす。

「誰かいますかね?」
「多分、誰かはいる気がするんだよねー」

と言って先に歩き出した野坂の後を追いかけて深岬も合宿所の廊下を歩き、一番奥にあるバドミントン部が借りている部屋へと向かう。
とりあえず、野坂がいたことで退屈な時間は過ごさずに済みそうだと思いながら歩いていった。

先を行く野坂が合宿所のドアを開けると、数人というよりも坂上と小島が先客として広い部屋の中央に大の字になって寝ている姿があり、一瞬驚いて目を見開く。

「ははっ、こいつら寝てらー。おーい起きろー」

寝ている2人の体を足で蹴りながら野坂が声をかけていると2人のうめき声のようなものがした後、のっそりとした動きで坂上が先に体を起こす。
坂上は険しい顔をしながらも起き上がるとそこにいる野坂と深岬の顔を見つけて、横でいまだ大の字になって寝ている小島の体をゆする。

「リョウちゃん、リョウちゃん」
「んーサカガミぃ?」
「起きろって、人が来た」
「みず…」

寝ぼけ眼で言う小島に坂上は、ばしんと頭を一回叩く。

「オレは、雪子じゃねぇよ。自分でとってこい」

坂上が笑いながら言うと小島は、立ち上がってふらふらの足取りで水を取りにいく。
野坂は苦笑を浮かべたまま2人の姿を見ていた。

「あれ?野坂サン、何してるんですか?深岬ちゃんも…」

明らかにとってつけたかのような坂上の言葉に、深岬も苦笑を禁じえなかった。
あまり良い気分ではなかったが、気にしないようにした。

「授業なくてヒマだったから誰かいるかなと思って覗いたら、お前ら寝てんだもん」
「寝かしておいてくださいよー」
「ヤダ。なぁ?深岬ちゃん」

と同意を求められても深岬には答えに困るだけだ。
曖昧な笑いを浮かべていると、坂上が頭をがしがしとかき乱す。

「…っし!どっか行きますか?」
「いいねぇ」
「んじゃ、雪子たちにも連絡取るか?」
「あ、オレも誰か呼ぼうっと」

どこかに連絡し始めた坂上と野坂を深岬は黙ったまま見ているしかなかった。
深岬とは違いまだ覚醒していない小島ははっきりとしない頭で深岬と同じように坂上と野坂の姿を見ていた。
PR

2007

1231
新歓の一週間後に別の大学で行われた交流戦。
誰の言葉だったか、お遊びのような試合だという言葉通りのものだった。
試合そのものよりもその交流戦では、新入生の顔見世というところに重点が置かれているようだった。
それともう一つ。近隣の大学との交流という目的。

大学生の交流なんてひとつ。飲み会しかない。
試合後には、きちんと飲み会の場が用意されていて他の大学の人間と交流という名の潰しあいを行う。
会のはじめには各大学ごとに新入生の自己紹介があり、先日の新歓はこの練習も含めていたのだと新入生は知ることになる。

各大学毎に新入生が前に立たされて自己紹介をする。
彼らの前には、上級生が並んで座り新歓のときと同様に尊敬する先輩はという下りで他大学の上級生の名前を挙げさせたり、同じ大学の1人の学生を狙い撃ちにしたりとまぁやりたい放題。
1人1人挨拶とともに一気飲みというのは、当然で全員が終わると最後には、新入生が全員揃って一気飲みをした後、「よろしくお願いします」という言葉とともに前から撤収する。
各大学特有のカラーがそこで表れる。
大人しいところは大人しいし、酒好きの集団であれば、当然その場でも悪ノリをする。
深岬の大学が大人しい部に入るわけもなく、ちらりと周りを確認したら、他大学の中には明らかにノリについていけなくて引いている大学もあれば、何故か一緒に混じって悪ノリしている他大学の学生の姿も見受けられる。

「コウさぁん」

交流戦の会場となった大学による新入生の自己紹介をトリにして、一通り終えて席に戻ってきた深岬が、大学の学食で行われる打ち上げ故にあまり味は期待できない冷めた料理に手をつけていると深岬のすぐ隣に座っていた坂上にすっかり酔いのまわった顔で一際高い声をあげて近寄ってくる他大学の一年生の姿がある。

「うわぁ!」

本格的に飲む前の腹ごしらえとして料理に手を伸ばしていた坂上は、まとわりついてきたその学生に驚いたような声をあげて慌てて手にしていた皿を置いて自分の首に手を回している人物を顧みた。

「かーわーべー!!ジャマ」
「いやん。いけずー。相変わらず男には冷たいんだから~」

しなを作る姿はどこか不気味だ。
酔っているからこそ許される行為かもしれない身長が180を超える大男のしなを作る姿は一品というよりもげてもの以外の何者でもない。

「安心しろ。お前以外には、俺優しーから」
「俺にもその優しさをわけてくださいよー」
「じゃかぁしい!俺を裏切って他大学行ったヤツなんか知らん」
「いやぁ」
「手に持ってるのを全部空けたら許してやる」
「そんな無茶言っちゃヤ・ダ」
「気色悪い」
「これはー、コウさんと飲もうと思って持ってきたんですよ。まぁまぁどうぞ」

と言いながら既にコップに注がれていたビールの上にさらになみなみにビールを注いでいく。
半目で坂上はそれを見届けると無言のままに横に座っていた深岬に差し出す。

「深岬ちゃんやる」
「俺の愛情をー」
「彼、悲しんでますよ」
「いいのいいの」

大げさに泣く真似をしてみせる彼を指差しても坂上はそ知らぬ顔。
よくまぁこんな扱いをされて寄ってくるもんだと思いながらも深岬は坂上から渡されたコップを受け取って口をつけた。

「あれ?えーと」

深岬がコップに口をつけていると坂上にぞんざいな扱いをされてもめげずに居た彼は深岬を見て声をあげた。

「え?」
「今日、試合出てた子だぁ」

と言われても深岬以外に試合に出てた人間は数人いる。
何だと思って深岬が怪訝そうに顔を顰めていると口から離したコップに先ほど坂上にしたのと同様にコップの中にビールを注いでいく。

「あの…」
「どーぞ」

人畜無害そうな笑みを浮かべてきても深岬には、同じように笑みを返すことはできない。
即座に近くにあった空のコップを掴むと相手のビール瓶を取り上げてなみなみ注いで、相手にビール瓶ではなく、コップを渡して自分がされたようににっこりと笑いながら「どーぞ」と言ってやる。
一瞬、硬直した彼は、深岬から無言の圧力を感じたのかコップを受け取ると坂上を見て一言。

「コワイ…」

坂上は、それを聞いて笑い飛ばす。
怖いと言われた上に坂上に笑い飛ばされて平然としていられる深岬ではなく、顔を赤くして笑った坂上ではなく、他大学の一年生をきっと睨む。

「ほらぁ」
「あのね…」
「ま、飲めばいいじゃん」

と軽く言う坂上を見て、深岬は同じようにコップになみなみ注ぐとそれを坂上に突き出す。
坂上は苦笑しながら、「仕方ねぇな」と言いつつも確りとそれを受け取るとちゃっかり回りを巻き込んで乾杯と言う。

「サカガミ、誰ー?知り合い?」
「ああ。俺の高校のときの後輩ですよ。川辺っていうんです」

たまたま近くに座っていたために、巻き添えを食らって乾杯させられた慶子が、空いたコップをテーブルの上に置きながら坂上に聞く。
坂上は、丁寧に空いたコップにビールを注ぎながら、答える。
深岬は、坂上の答えを聞いてからもう一度確認するように川辺の顔を見た。

「コウさんにはお世話になってまーす」
「そう思ってるんなら、どっか行け」
「冷たいこと言わないで~」

坂上にそっけなくされながらもにこにこ笑いながら坂上に近づこうとして嫌がられている。

「サカガミ~何してるの?」

深岬達の一団が一際大きな声をあげて盛り上がっているとそう言って尋ねてくる声があった。
サカガミと言っていたので、上級生かと思って顔を確認しようと声のした方を振り返るとそこに居たのは、深岬と同じ学年の麻美だったので驚きだ。
麻美の横には、他の大学のジャージを着た女子学生の姿がある。

「麻美。こっち来い来い」

下級生に名前を呼び捨てにされたというのに気にした様子もなく、坂上は手招きすると深岬との間に距離を作ってそこに麻美たちを招き入れる。
坂上もつい最近までは、麻美のことを呼び捨てではなく、麻美ちゃんと呼んでいたのにいつの間にか呼び捨てに変わっている。
驚いたままの深岬は呆然としたまま上級生の顔を確認すると彼らも俄かに驚いたような顔をしている。

「何時の間に…麻美ちゃんがサカガミ呼び捨てにしてんの?」

誰かが皆の驚きを代弁して聞くように口を開くと坂上は気にした様子もなく、寧ろ機嫌良さげに語る。

「俺、先輩って呼ばれるの背中がぞわぞわしてダメなんっすよねー。だから、高校でも川辺みたいにコウさんとかせめて苗字でもさん付けで呼ばしてたんですよー。麻美も最初は先輩って呼んできたので、どっちかで呼べっつたらこいつ最初っからサカガミ呼ばわりしてきたんっすけど、面白かったんでそのままこいつの好きにさせてるんです」
「なんだぁ。そうなの?」
「別に坂上がいいならいっか」

というように坂上の答えに笑いながら納得する上級生達だったが、深岬の中には釈然としないが、きちんと言葉にして表すことができないような感情が生まれていた。
違和感のようなものを感じながらも、深岬はすぐに気にしないようにしながら周りの雰囲気に合わせるように出てくるビールに手をつけた。
深岬がそれにはっきりと気がついたのは、もう少し時間が経過してからだった。

2007

1028
嫌だと思いつつも順番の回ってきた深岬は、ビールケースの上に立つと覚悟を決める。
腹の底から声を出す。
少しでも小さな声を出そうものなら、それだけで一気飲みのネタになりそうだった。

「おす!体育会系バドミントン部所属!工学部電気工学科1年進藤 深岬と申します!」

前に倣えというような感じで先に自己紹介が終わった新入生達と同じように自己紹介を繰り返すと前に陣取って自己紹介用の酒の準備をしていた坂上と小島がアルコールで赤くなった顔でにっと笑い、「出身は~?」などと聞いてくる。
その意図はわかっていたので、雪子と同じ中学校だったということを言えば、雪子と深岬の2人にコールが掛かる。
雪子達に混ざって飲み会に参加していた深岬に遠慮などというものは、坂上も小島もしない。
確りと飲まされた後、仕返しとばかりに「尊敬する先輩は皆さんです」という返しをして、上級生全員に飲ませるあたりは、まだちゃっかりしているかもしれない。
最後に、「以後、よろしくお願い致します」と言って手にしていたコップを傾けると一気に胃の中に液体を流し込む。
味など感じるものではないとこの数週間で学んだ。
自分の番が終わると何だかそれだけで、疲れてくるようだった。

自分の番が終わっても他の新入生の自己紹介が続く。
一通り終わったかと思っても、まだ更にそこから院に入学した者や、3月に卒業したばっかりで遊びにきていた社会人の自己紹介。
果ては、次期主将、副主将と何かとかこつけて続いていき、飲み会の雰囲気はエスカレートしていく。
ひどい…。その一言に尽きる。
自己紹介がひと段落しても、入れ替わり立ち替わり表れる上級生の乾杯攻撃に辟易しながらも応対し続けた深岬だった。
一次会が終わる頃には、相当酔っ払っている者もいたし、今にも寝ていきそうな者もいる。
飲み会の雰囲気に圧倒されて、若干困ったような顔をしている新入生の姿もあった。
逆にすっかりなじんでいる姿も多く見られた。
電車の時間があるからと帰る者もいたが、勿論深岬は帰れるわけもなく。
始まる前から荷物を雪子の家に預けた時点で帰る気はゼロと言った方が、正しいだろう。
少し人数の減った団体で、二次会の会場となるカラオケに向かう。
カラオケも基本的に変わりはなかった。
歌を歌うのに熱中する人間もいれば、酒を飲む事に夢中の人間もいる。
2時間ほどその場所で過ごして、解散となったのだが、そこで大人しく帰るような集団ではない。
家に帰るものもいれば、次どこに行くかと話をしているものもいる。
深岬はと言えば、泊めてもらう先が雪子の家だったので、必然的に雪子と行動を共にすることになる。

「雪子ん家で3次会するぞー」

と言って歩き出した集団の中に深岬はいた。
会場が泊めてもらうはずの家なのだから仕方ない。
10人くらいの団体で移動する。
そこで別段酒の買い足しをする必要がないのだから不思議なものだ。
勝手知ったるなんとやらで雪子の家の中を闊歩する姿は、ここで相当の飲み会が開かれているということを示している。
新入生では、深岬と望の姿があり、上級生は雪子の家でよく飲んでいる者達プラス何人かと言ったところか。
手際よくコップや氷を並べていく雪子に、酒の入ったボトルを持ち出して人数分の酒を作りだす坂上の姿。

「…っし、乾杯ー」

という声にあわせて先ほどまでの居酒屋での1次会、2次会のカラオケのような激しさはないが、次々にコップを空にしていく姿にどれだけザルなのかと思わずにはいられない深岬だった。
この日、最後まで付き合わされた深岬が翌日、2日酔いに苦しんだことは言うまでもない。

その翌日も朝から、飯行くぞと連れ出された深岬だったが、勿論気持ち悪さと格闘する彼女にまともな食事などできるわけがなかった。
そんな深岬の姿を見て、はるかに深岬を上回る量で飲んでいた坂上は、その姿を笑い飛ばし雪子に頭を叩かれていた。



新歓を機にして、練習に参加する人数が格段に増えた。
授業の都合などもあり、毎回の練習人数はばらばらだったが増えたことは確実だった。
その中でも注目を集めているのは、初心者ばかりの学年にあって経験者の深岬や麻美であった。

「今度の交流戦。深岬ちゃん行く?」
「行くけど…麻美ちゃんは」

麻美とペアを組んで練習していると麻美から尋ねられ、きょとんとしたように麻美の顔を見返す。

「さっきね、久保田さんと話をしてて、一年生用にいくつかエントリーしてあるんだって、それで出ないかって?」
「久保田さんが?」

別の深岬達とは少し離れたコートで練習している久保田に視線を向ける。
久保田を見ながら、深岬の中で疑問が湧く。

「シングルス?ダブルス?でも、ペア組めるほど練習してないよね」

ダブルスなど即席で組むようなものでもないだろうと思った。

「両方一応あるみたい。別に他の大学との交流戦だから、ほんとお遊びみたいなものだし、様子見程度で組んでも面白いみたいなこと言ってたけど?」

麻美から返ってきた答えにそんなものなのかと思いつつ、わかったということを示すように一回頷いた。

「そうなんだ。え、でも一年生って誰が行くの?どっちかでしょ?」
「何か、見学だけって子ならいっぱい。ほら、やっぱり初心者の子が多いじゃんね。だから今回はあんまり出たくないって子が多いみたいだから、出たかったらどっちもOKらしいけど?」
「まぁ、そりゃそっか」
「出る?」
「ん、まぁ折角だし、出れるなら出ようかな」

とあまり気乗らない様子の深岬だったが、折角あるならとりあえず出てみるかと曖昧な返事をした。
すると麻美は、目を輝かせたように深岬の手を掴んでくる。

「あ、じゃあ、ダブルス組もうよ」

別に深岬に断る理由もなかったので、頷く。

「もちろんシングルスも出るよね?じゃ!私、久保田さんに言ってくる」

と今度は深岬の返事を聞くことなく一方的に言うと一目散に駆けて久保田のところによっていく。
何であんなにやる気が出てくるのか。まるで自分とは全然違うなぁと麻美の後ろ姿を見ながら疑問を感じつつも、なんだかんだで毎回のように練習に参加している自分も似たようなものかと思った深岬だった。

ただ、一年以上のブランクのある自分に少し不安感に似たものを抱いていたのだが、麻美の言葉通り、本当にお遊びのような試合に直ぐにそれが杞憂であると気づくのだった。

2007

1027
深岬が練習に初参加した日に、深岬の新歓と称して大学近辺の安い居酒屋で開かれた飲み会も惨憺たるものであったが、今、自分の目に映るものは何だろうと深岬は思った。



迎えに来たバスに乗るように促され、一次会の会場となっている居酒屋に入る。
指示されるままにくじを引かされてその場に座る。
上級生の間に新入生が挟まれるような席順になっているのは、新入生と上級生の交流が図れるようにと配慮した結果。
今年に限っては、新入生が多いせいか、たまに新入生同士が横になる席も見受けられるがそれは、致し方ないことだろう。
深岬は、練習に参加していることも手伝ってか同じテーブルに同席する上級生はほとんど顔見知り程度だったので、少しほっとしながら会が始まる時間がくるのを待つ。

「しっかし、今年の一年は多いね」

深岬の左隣に座っていたのは、雪子、小島、坂上達と同じ学年の井川 理恵だった。
あまり練習に参加しておらず、深岬は今まで2、3回程度しか顔を合わせたことがなかったが、雪子と仲がいいことも手伝って普通に喋れる程度にはなっていた。
深岬の前には、先日坂上達と一緒に昼食を食べに行った野坂の姿がある。飄々としたような顔をしながら、理恵の言葉に相槌をうつ。

「ほんとだなー。俺、深岬ちゃんや望ちゃんくらいしかわかんねぇや」
「あれ、センパイ知ってるんですか?」

驚いたような顔をして野坂の顔を見返した理恵に野坂は笑いながら、この前一緒にご飯行ったもんねーと深岬に同意を求めてくる。
深岬は肯定しながら理恵の顔を見る。

「坂上さんと小島さんにご飯連れてってもらったんです」
「そうそう。俺が福田さんと慶子の3人で一緒に歩いてたらばったり道端であって、その後は便乗しちゃったの」

「あのー、そろそろ始めたいので、グラスにビールの準備してもらっていいですか?」

理恵が野坂と深岬どちらにかは分からないが、何かを言おうとして口を開きかけた時、先ほど野坂の口からも上がっていたが、立ち上がっていた慶子が同じ空間にいる全員に届くような大きな声で言う。
一瞬シーンと静まりかえった後、机に均等に並べられたビール瓶を手にした野坂が深岬に突き出してくる。
深岬は上級生にそんなことさせるのは…と思ってビールをコップに注いでもらうためにコップを突き出すのではなく、野坂から瓶ごと受け取ろうとしたが、野坂とそして理恵にも制されてしまう。

「今日は、新入生が主役だから」

と言われてしまえば立つ瀬はない。
ありがとうございますとコップを差し出してビールを注いでもらう。
少しでいいですと遠慮しようとした深岬だったが、どこから聞いてきたのか―恐らく情報源は雪子、坂上、小島のうちの誰かだろうだ、飲めるから遠慮はいらないと理恵が野坂に告げたことによってコップなみなみに注がれてしまう。
うわぁと心の中で思いながらも、礼を言ってコップを置く。
野坂はその後、理恵のコップにも同じようにビールを注ぐと野坂が手にしていた瓶を理恵が取り上げて野坂に酌をする。
そして、丁度ころあいを見計らったかのように慶子の声がかかる。

「全員揃ったようなので、主将の久保田くんから挨拶を」
「あ…。主将の久保田です…。今日は、バド部の新歓に来てくれてありがとうございます。もう入部を決めて練習に参加してくれてる子や、まだ迷ってる子もいると思いますが是非、これから皆で楽しく部活をやっていきましょう。今日は上級生と少しでも交流を深めてバド部を知ってくれたらと思います。それでは、乾杯」

慶子に促されて立ち上がった主将の久保田という男が、挨拶の言葉を一通り述べると各テーブルで乾杯という声があがり、グラスとグラスをぶつけあう音がしてくる。
小さなビールグラスでは、大量に酒を消費している彼らには物足りないのか、それともそれが普通なのか、一杯目は一気に飲み干し、その後すぐに2杯目を注ぎあっている。
新入生の中には、勝手がわからずに戸惑っている様子の子達もいるし、やけに場慣れしている子もいたりして中々面白い。
すでに何回か強制的に飲み会に参加させられてきた深岬は、もちろん場慣れしている人間の1人に数えられるだろう。
上級生同様に一気にグラスを空け、即座に2杯目が注がれる。
それでも、まだビール片手に目の前に並べられた食事に手を伸ばす程度で飲み会としては、今まで深岬が参加してきたものに比べたら可愛いものだと思えた。
だから、深岬も最初は、数人で集まって開くような飲み会とは異なり、部活全体での飲み会とはこんなものなのかと思っていたのだが、その考えは長くは続かなかった。

乾杯の挨拶から約30分が経過しようという頃か。
料理に手を伸ばしながら、近くの上級生と雑談していた深岬だったが、突如部屋の中央の前にビールケースがひっくり返して置かれたのを見て目を丸くした。
一体、何が始まるのだろうと――。
まるで、それは安いステージのようで、答えを求めるように横に座る理恵の顔を見た深岬に、理恵は「見てたらわかるよ~」なんてアルコールの所為で俄かに赤くなった顔で答えるだけ。
そして、すぐに前に出てきたのは、主将として一番はじめに挨拶をしていた久保田だった。

「新入生にこれから自己紹介をしてもらいたいと思います。その前に主将から手本を…」

という慶子の言葉に、久保田がビールケースの上に瓶ビールを持って立つ。
手に持たれた瓶ビールに深岬の頭にあまり考えたくないことが浮かぶ。

「おすっ!体育会系バドミントン部所属!人文学部国際文化学科3年久保田 宏と申します!尊敬する先輩は福田先輩でっす!!」

隣の部屋にまで聞こえるのではないかという大きな声を張り上げた久保田の姿に新入生は呆気に取られて、上級生は楽しそうに笑いながら、言葉の区切りのところで合の手のように声をあげる。
名前があがった福田に視線が集中し、福田コールが上級生を中心にあがる。
照れたように笑いながら、ビールの注がれたコップを持って立ち上がると一気に煽る。
福田がもう一度座るのを確認すると久保田は、最後に一際大きな声を張り上げて「以後よろしくお願いいたします!!」と言った後、手にした瓶ビールを一気飲みする。
手拍子交じりのコールと新入生の数人の明らかに引いた視線が久保田に集中する。

「じゃあ、一年生順番に前に出てお願いします」

と言われて順に前に出て自己紹介をさせられる深岬をはじめとする一年生。
深岬の順番は、丁度真ん中と言ったところ。
さすがに久保田のように瓶ビールで一気飲みをするような破格な新入生などはいなかったが、上級生からまだ一度も会ったことのない先輩の名前を言うように言われて戸惑いながら言われた人物の名を口にする者もいれば、自分から率先して言う者もあり、また、途中で噛んだりしようものなら粗相といわれて手にしていたコップに注がれていたものを一気させられた上にもう一度最初からやり直しであったりとか、上級生と学科が一緒であったり、出身の県や学校が一緒ならばその上級生と一緒に乾杯をする。
一応、飲めるか飲めないかの配慮はしているようであったが、新入生はわけもわからず雰囲気に呑まれている状態といった方が正しいだろう。
深岬もまた然りだった。

2007

0914
6人という結構な大所帯での移動。
小島と坂上が車を取りに行くかと相談しているのを見ながら、学内ではなく外に行く気なのかと推察できる。

「俺とリョウちゃん車取ってくるから、正門で待ってて」
「わかりました」

足早に去っていく小島と坂上を見送って深岬は、他の3人に向き直る。
一番早く声をかけてきたのは、この中では一番深岬と親しい間柄にある涼子だった。

「ねぇ、いいのかな…私、完全な部外者だよね」
「いいんじゃない?坂上さん可愛い女の子好きみたいだから」

とちらりと他の2人にも目をやる。
やはり、可愛いなと思ってしまう深岬。

「一年生だよね?」

2人のうちの1人が、恐らく坂上からも聞いているだろうに、深岬に確認するように聞いてくる。
会話のとっかかりとして聞いただけに過ぎないであろうが、頷くとにっこりと笑みを浮べる。

「学部は?」
「工学部」
「そっちの子も?」

と目で指すのは、涼子のことで深岬は、彼女の言葉に頷いた。

「この子は、バド部じゃなくてテニスサークル入ってるんだけどね。中高ってテニスやってたんだっけ?」

涼子に確認を取りながら深岬が説明すると片方が顔を輝かせた。

「えー、そうなの~!私もテニスしてたんだよ。日焼けすんのが、嫌だからバドミントン部に入ろうかなぁって」
「あーそうなんだ」

正門までの道を歩きながらそんな他愛もない話をしているとここ何週間で顔見知りとなった上級生とすれ違う。

「あっれー?深岬ちゃん」
「あ、センパイ」
「何々?友達?」
「はい、友達と入部希望の子ですよ。坂上さんと小島さんがご飯連れてってくれるんです」
「坂上たちが?」

遭遇した3人の上級生―深岬が知っているのは1人しかいなかったのだが、彼らの顔を見ながら深岬が答える。
深岬と話をするのは、専らその中の1人の女子学生だった。
深岬と話す上級生の女子学生に彼女と一緒にいた男子学生が声を潜めて彼女に尋ねる。

「慶子誰?」
「新しく入ってきた一年生ですよ。深岬ちゃん」

慶子と呼ばれた彼女は、深岬より二つ上の学年の3年生。
彼女は、後ろに立つ2人の男子学生に振り返って深岬を紹介する。
深岬は、慶子の話しぶりから一度も会ったことはないが部活の先輩かと判断して小さく頭を下げた。

「ども」
「あー雪子の友達だ。俺、4年の野坂っていうんだ。よろしくね~、最近は就活であんま部活行ってないけどまた顔出すね」

野坂と名乗った男は、中背くらいで柔和な顔に柔らかな笑みを浮かべて言う。
衣服に包まれた体は、がっしりとしているのがわかる。

「雪子の友達?俺は、M1の福田。最近、足遠のいてるけどまた練習行くよ」

もう1人の男が名乗る。
こちらは、深岬よりも若干身長が高く、野坂と名乗った男ほどではないががっしりとした体躯が見てとれる。
上級生に自己紹介されて名乗らないわけにはいかない。

「どうも、進藤です」
「坂上たちと飯行くの?」
「あ…はい」

福田の言葉に返事をしかけたところでカバンの中に入れていた携帯が震える。

「あ、ごめんなさい」

と携帯電話の画面を確認して、坂上の名前が踊っていることにやばっと思って慌てて電話に出る。

『正門ついたんだけど、どこ?』
「すぐ行きます」
『あ、うん。待ってる』

携帯電話をぱちんと閉じてカバンの中に仕舞うと目の前にいる上級生3人に視線を向ける。

「ごめんなさい。坂上さん達が待ってるので」

と言って彼らの前から去ろうとした深岬だったが、彼ら特に野坂と福田は顔を見合わせるとにっと笑う。

「俺らも行こっ」
「え?福田サン?」

慶子が突然の福田の声に驚きの声をあげる。
福田は慶子の肩に手を回すとぽんぽんと叩きながら深岬を見る。
いたずらっ子を彷彿とさせる福田の顔をきょとんとして見返す深岬。

「だいじょーぶ。だいじょーぶ。さぁ、行くぞー」

4人の一年生プラス3人の上級生という大所帯で正門に向かう。
先に到着して車から降りて待っていた坂上と小島の2人は突然現れた上級生3人の姿に最初、目を見開いた後にすぐに嬉しそうな笑顔になった。

「何してるんすかー?福田サン」
「いやー、慶子とてっちゃんと飯行くかって歩いてたら、深岬ちゃんと会ってさ~」
「じゃ、一緒に行きましょ」
「坂上ならそういうと思ったからついてきたし」

にかってと笑っていう福田に坂上は嬉しそうに眦を下げた。
見ているだけで、坂上が福田を慕っているということが手にとるようにわかる。

「あれ、雪子いないんだ。珍しい」
「今日は、バイトみたいです」

別のところでは、慶子と小島が親しげに話している姿が見られる。
坂上は野坂と福田の2人と少し話をした後、その場にいた全員に声をかける。

「行きましょ」

その声を合図にして、坂上と小島の2人の車にそれぞれ別れて大学から少し離れた店に昼食を食べに出かけた。



坂上に呼び出されて上級生と同じ学科の友人の涼子を含めた一年生と昼食に出かけた日と同じ週の週末。
その日は、バドミントン部の新歓の日だった。
昼食に出かけた先では、坂上の学部の後輩にあたる一年生の女子2人は、入部を迷っていると言っていた彼女達だが、新歓の場に2人の姿があった。
集合時間の前に雪子の家に荷物を預けに行っていた深岬が雪子と集合場所に現れたとき、2人が深岬を見つけて寄ってくる。
彼女達の名前は、大山 望と竹内 絵里と言う。
望は、黒々とした肩までのセミロングで薄っすらとした程度の化粧だが、それでも十分すぎるほど整っている顔立ちであり、それは彼女の持って生まれた素材のよさというものを存分に周囲にわからせてくれる。
可愛いというよりも美人といった形容が良く似合う。
一方の絵里は、茶色く染められた長いウェーブ状の髪にばっちりとしたメイク、自分を良く見せる方法を確りと心得ているといったところか。二重の大きな瞳が印象的で、可愛いらしい。
いつものように化粧ひとつしない深岬の姿は、何だかここへ来て少し浮いていた。
だが、気にすることもなく先日の昼食の一件で距離が近くなっていた深岬は、新入生の多いこの場において望と絵里が一番距離が近く感じる存在でもあったので、2人と他愛ない話をして時間を潰す。
そこへ、深岬と同じように経験者でもあり、すでに練習にも参加している麻美が何人かの新入生を連れてきて、部員が全員集まるころには、すっかりひとつの大きな集団ができあがっていた。

カレンダー
02 2026/03 04
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
フリーエリア
最新CM
[02/18 誤字報告]
[02/16 MN]
[04/14 sega]
[01/27 海]
[06/27 けー]
最新記事
(12/31)
(09/25)
(06/28)
(03/01)
(02/24)
最新TB
プロフィール
HN:
HP:
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
最古記事
(01/01)
(01/01)
(02/10)
(02/10)
(02/11)
忍者ブログ [PR]
* Template by TMP