新歓の一週間後に別の大学で行われた交流戦。
誰の言葉だったか、お遊びのような試合だという言葉通りのものだった。
試合そのものよりもその交流戦では、新入生の顔見世というところに重点が置かれているようだった。
それともう一つ。近隣の大学との交流という目的。
大学生の交流なんてひとつ。飲み会しかない。
試合後には、きちんと飲み会の場が用意されていて他の大学の人間と交流という名の潰しあいを行う。
会のはじめには各大学ごとに新入生の自己紹介があり、先日の新歓はこの練習も含めていたのだと新入生は知ることになる。
各大学毎に新入生が前に立たされて自己紹介をする。
彼らの前には、上級生が並んで座り新歓のときと同様に尊敬する先輩はという下りで他大学の上級生の名前を挙げさせたり、同じ大学の1人の学生を狙い撃ちにしたりとまぁやりたい放題。
1人1人挨拶とともに一気飲みというのは、当然で全員が終わると最後には、新入生が全員揃って一気飲みをした後、「よろしくお願いします」という言葉とともに前から撤収する。
各大学特有のカラーがそこで表れる。
大人しいところは大人しいし、酒好きの集団であれば、当然その場でも悪ノリをする。
深岬の大学が大人しい部に入るわけもなく、ちらりと周りを確認したら、他大学の中には明らかにノリについていけなくて引いている大学もあれば、何故か一緒に混じって悪ノリしている他大学の学生の姿も見受けられる。
「コウさぁん」
交流戦の会場となった大学による新入生の自己紹介をトリにして、一通り終えて席に戻ってきた深岬が、大学の学食で行われる打ち上げ故にあまり味は期待できない冷めた料理に手をつけていると深岬のすぐ隣に座っていた坂上にすっかり酔いのまわった顔で一際高い声をあげて近寄ってくる他大学の一年生の姿がある。
「うわぁ!」
本格的に飲む前の腹ごしらえとして料理に手を伸ばしていた坂上は、まとわりついてきたその学生に驚いたような声をあげて慌てて手にしていた皿を置いて自分の首に手を回している人物を顧みた。
「かーわーべー!!ジャマ」
「いやん。いけずー。相変わらず男には冷たいんだから~」
しなを作る姿はどこか不気味だ。
酔っているからこそ許される行為かもしれない身長が180を超える大男のしなを作る姿は一品というよりもげてもの以外の何者でもない。
「安心しろ。お前以外には、俺優しーから」
「俺にもその優しさをわけてくださいよー」
「じゃかぁしい!俺を裏切って他大学行ったヤツなんか知らん」
「いやぁ」
「手に持ってるのを全部空けたら許してやる」
「そんな無茶言っちゃヤ・ダ」
「気色悪い」
「これはー、コウさんと飲もうと思って持ってきたんですよ。まぁまぁどうぞ」
と言いながら既にコップに注がれていたビールの上にさらになみなみにビールを注いでいく。
半目で坂上はそれを見届けると無言のままに横に座っていた深岬に差し出す。
「深岬ちゃんやる」
「俺の愛情をー」
「彼、悲しんでますよ」
「いいのいいの」
大げさに泣く真似をしてみせる彼を指差しても坂上はそ知らぬ顔。
よくまぁこんな扱いをされて寄ってくるもんだと思いながらも深岬は坂上から渡されたコップを受け取って口をつけた。
「あれ?えーと」
深岬がコップに口をつけていると坂上にぞんざいな扱いをされてもめげずに居た彼は深岬を見て声をあげた。
「え?」
「今日、試合出てた子だぁ」
と言われても深岬以外に試合に出てた人間は数人いる。
何だと思って深岬が怪訝そうに顔を顰めていると口から離したコップに先ほど坂上にしたのと同様にコップの中にビールを注いでいく。
「あの…」
「どーぞ」
人畜無害そうな笑みを浮かべてきても深岬には、同じように笑みを返すことはできない。
即座に近くにあった空のコップを掴むと相手のビール瓶を取り上げてなみなみ注いで、相手にビール瓶ではなく、コップを渡して自分がされたようににっこりと笑いながら「どーぞ」と言ってやる。
一瞬、硬直した彼は、深岬から無言の圧力を感じたのかコップを受け取ると坂上を見て一言。
「コワイ…」
坂上は、それを聞いて笑い飛ばす。
怖いと言われた上に坂上に笑い飛ばされて平然としていられる深岬ではなく、顔を赤くして笑った坂上ではなく、他大学の一年生をきっと睨む。
「ほらぁ」
「あのね…」
「ま、飲めばいいじゃん」
と軽く言う坂上を見て、深岬は同じようにコップになみなみ注ぐとそれを坂上に突き出す。
坂上は苦笑しながら、「仕方ねぇな」と言いつつも確りとそれを受け取るとちゃっかり回りを巻き込んで乾杯と言う。
「サカガミ、誰ー?知り合い?」
「ああ。俺の高校のときの後輩ですよ。川辺っていうんです」
たまたま近くに座っていたために、巻き添えを食らって乾杯させられた慶子が、空いたコップをテーブルの上に置きながら坂上に聞く。
坂上は、丁寧に空いたコップにビールを注ぎながら、答える。
深岬は、坂上の答えを聞いてからもう一度確認するように川辺の顔を見た。
「コウさんにはお世話になってまーす」
「そう思ってるんなら、どっか行け」
「冷たいこと言わないで~」
坂上にそっけなくされながらもにこにこ笑いながら坂上に近づこうとして嫌がられている。
「サカガミ~何してるの?」
深岬達の一団が一際大きな声をあげて盛り上がっているとそう言って尋ねてくる声があった。
サカガミと言っていたので、上級生かと思って顔を確認しようと声のした方を振り返るとそこに居たのは、深岬と同じ学年の麻美だったので驚きだ。
麻美の横には、他の大学のジャージを着た女子学生の姿がある。
「麻美。こっち来い来い」
下級生に名前を呼び捨てにされたというのに気にした様子もなく、坂上は手招きすると深岬との間に距離を作ってそこに麻美たちを招き入れる。
坂上もつい最近までは、麻美のことを呼び捨てではなく、麻美ちゃんと呼んでいたのにいつの間にか呼び捨てに変わっている。
驚いたままの深岬は呆然としたまま上級生の顔を確認すると彼らも俄かに驚いたような顔をしている。
「何時の間に…麻美ちゃんがサカガミ呼び捨てにしてんの?」
誰かが皆の驚きを代弁して聞くように口を開くと坂上は気にした様子もなく、寧ろ機嫌良さげに語る。
「俺、先輩って呼ばれるの背中がぞわぞわしてダメなんっすよねー。だから、高校でも川辺みたいにコウさんとかせめて苗字でもさん付けで呼ばしてたんですよー。麻美も最初は先輩って呼んできたので、どっちかで呼べっつたらこいつ最初っからサカガミ呼ばわりしてきたんっすけど、面白かったんでそのままこいつの好きにさせてるんです」
「なんだぁ。そうなの?」
「別に坂上がいいならいっか」
というように坂上の答えに笑いながら納得する上級生達だったが、深岬の中には釈然としないが、きちんと言葉にして表すことができないような感情が生まれていた。
違和感のようなものを感じながらも、深岬はすぐに気にしないようにしながら周りの雰囲気に合わせるように出てくるビールに手をつけた。
深岬がそれにはっきりと気がついたのは、もう少し時間が経過してからだった。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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