「ねーねー、雪子。坂上さんって彼女いるの?」
練習が始まる前の時間。
バドミントン部の練習場所である第一体育館の片隅で雪子を見ることなく尋ねた深岬に雪子は壁打ちをしていた手を止めた。
自分の近くで靴紐を結んでいる深岬をまじまじと見る。
深岬は雪子の視線に気づくことなく、靴紐を結んでいたが、一定の間隔で鳴っていた音が止んだこととぽとっとシャトルが落ちた音に顔を上げた。
「どうしたの?」
雪子の様子に不審げに聞き返す深岬。
雪子は、深岬の横に座りこんで深岬の顔を両手で挟むようにしては、深岬の顔を覗き込む。
きょとんとして深岬は、雪子を見返した。
「あんた、坂上気になるの?」
「へ?いや、違うけど…」
「じゃあ、何で」
「この前の帰りに一緒に帰ってた子達とそういう話になってさ…」
「あ、そう」
深岬の答えに納得したのか、勢いがそがれたように深岬の顔から手を離して深岬から離れた。
小首を傾げて雪子を見返す。
「坂上のことだから、すぐ自分で言うようになるだろうけど…いるよ。これが信じられないくらい可愛いのがね」
「雪子は、見たことあるの?」
「あるよ。去年の学祭に連れてきてた時にね」
「じゃあ、この大学じゃないの?」
雪子の台詞からどうも同じ大学ではないと判断した深岬が尋ねると雪子は頷いた。
「詳しいことは興味なかったから聞いてない」
だろうね…と深岬は心の中だけで答えた。
体育館に入ってきた小島の姿を見つけて、あんたが興味あるのは、小島さんだもんね…。とも思った。
小島が一回だけ体育館の入り口に立って中を確認した後、去っていくのを見てから、雪子を見る。
「あ、じゃあ小島さんは?」
「いないよ」
「はやっ」
即答した雪子に揶揄半分で少し大きめの声で言うと雪子が顔を赤くする。
「深岬…あんたねぇ」
「そりゃ、バレバレになるわ。もっと上手くやれば?」
「うるさいわね…あ、センパイ来た!」
呆れたような視線を送る深岬に悔しそうに呟くように言うと雪子は、同じ空間の中に上級生を見つけて、駆け寄っていく。
その姿を見送りながら、深岬も立ち上がって既に集まって輪が出来ている同じ学年の集団の方へと寄っていく。
「空きコマどうする?」
と聞いてきたのは、涼子だった。
「どうしよっかなぁ」
「ウチ、来てもいいよ?」
眉根を寄せて悩む深岬に涼子が提案した時に、カバンの中に入れた携帯電話のバイブが震える。
「ちょっと待って」
涼子に断って確認する画面に出ているのは、坂上の名前だった。
どうしたんだろうと思って、深岬が涼子を一度見ると彼女からは、「出ていいよ」という返事が返ってくる。
『深岬ちゃん。今、ヒマ?』
「ヒマと言えばヒマですけど…」
『ご飯いこ』
「あ…はぁ」
涼子と一緒にいるので、彼女をちらりと確認すると涼子はきょとんとした顔で深岬を見返す。
「友達と一緒にいるんですけど…」
『あ、この間の子?』
と俄かに坂上の声が明るくなった気がした。
だが、深岬はあまり気にすることなく肯定した。
「そうですよ」
『連れてきていいから』
「あ、はぁ」
用件だけ伝えると通話は一方的に途切れた。
深岬は戸惑ったまま、携帯をカバンの中に仕舞うと涼子を見る。
「どうかした?」
「ご飯いこって、涼ちゃんも来る?」
「いいの?」
「連れておいでって言ってから問題ないと思う」
そう言って、涼子を連れて待ち合わせの場所に行く。
坂上の指定してきた待ち合わせ場所に深岬と涼子が到着すると坂上の他に小島と見たことのない2人の女子学生の姿がある。
「あ、来た来た」
「何ですか?急に」
「いや、学部の後輩の子たちなんだけどさ、バド部に興味あるっていうからご飯いこって誘ったんだけどさー、同じ学年の子に話を聞くのが一番かなぁと思って、深岬ちゃん呼んだんだけど」
坂上の説明に深岬はちらりと小島の近くにいる深岬と同じ学年の女の子達を見る。
イマドキの格好をした、可愛い女の子達。
少し下世話な目で見てしまうのは、仕方がない。
自分の横にいる涼子を見て薄々感じていた深岬だったが、自分はもう少し身形に気を使うべきかと考える。
美人でもない上に化粧ひとつしない顔。
服も適当でいつも動きやすいものが基本だ。
お洒落のおの字も出てきやしない。
「ナンパでもしたんですか?」
「あー近いものがあるかも…」
冗談半分で聞いた深岬に苦笑を浮かべて坂上は答える。
深岬は少し冷めた視線を坂上に送る。
坂上は気にした風でもなく邪気のない笑みを浮かべながらことを説明してくれる。
「去年落とした授業で声かけたらさー、バド部の人ですよね~って声かけられるからびっくりしちったよー。参ったね」
悪びれずに言う坂上の姿に、参ったねじゃねぇだろという深岬の言葉は喉の奥に飲み込まれた。
少し前に雪子に彼女がいると聞いたのにこの人は何をやっているんだと信じられない気持ちが大きい。
彼女がいようがいまいが関係ないものなのだろうか。
今まで、付き合ったことのない深岬にはわからない。
そう言えば、坂上に彼女がいることを深岬に教えてくれた雪子の姿も見当たらない。
「まぁ何でもいいですけど、珍しい雪子がいないですね」
坂上の背後を確認するように顔を動かしてみてみるが、やはり雪子の姿はない。
「雪子は、今日バイトの日でいないんだよ」
「そうなんですか。というか…私じゃなくても、麻美ちゃんとかでも良かったんじゃないですか?」
部活の練習のときでもよく麻美に声をかけている姿を見かける深岬は自分よりそっちの方がいいんじゃないかと思い口にしたが、坂上は笑いながら否定した。
「麻美ちゃんより深岬ちゃんの方が声がかけやすくって」
声がかけやすいという言葉の裏には、一体どんな意味が込められているのかはわからない。
というよりも気にしないようにした深岬だった。
「でも、良かった良かった。行こう行こう。リョウちゃんもこのために呼んだんだし、女の子ツルならやっぱりあの顔は最強だろ?」
にっと笑って女の子と話をしている小島を指差す。
別にナンパじゃないのだから、そこまでする必要はないかと思うが、女の子たちの様子を見ていると確かにとも思えてくるのだから不思議だ。
深岬は、小島から坂上に視線を戻す。
坂上の笑う顔は、何だか憎めない顔だった。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック
2007
「だからさー」
「っつーか、それはお前がおかしいんだって」
「ま、飲めばいんじゃね?」
面白いくらいに会話がかみ合わない。
何かあれば、飲めばいいという言葉で括られる。
毎回のことだが、何とかならないんだろうかと思いつつも「ま、飲めばいいか」と思う自分は相当染まってきているのかもしれないと思う深岬。
目の前に置かれたコップは、なみなみに酒が入っている。
安い焼酎のオレンジジュース割り。
たまにビール。
これがいつものメニューだった。
ちょびちょび飲んであらかじめいざという時のために減らしておくのも良し。
コールがかかった時に、一気にあけるのも良し。
そこは自由なのだが、失敗して飲みすぎると次が注がれるから要注意。
「今年の新歓いつ?」
いつものように、雪子、小島、坂上の3人に深岬が何故か混じって飲んでいると気の知れた者同士で飲んでいるということもあるが、酔うといつもより表情が豊かになる小島が雪子と坂上を見て聞いた。
「5月の第二週の土曜日」
「あれ、交流戦は?」
「その次」
「しっかりしてよ、リョウちゃん。次期部長だよ」
「あ、そうなんですか?」
深岬が驚いた声をあげると他の3人の視線が深岬に集まる。
雪子たちの代で練習によく参加しているのは、小島と坂上だ。若干、小島の方が来る回数は多いかもしれない。女子ではダントツで雪子。
だが、どちらかと言えば坂上の方が部長に向いている気がしてならない深岬は不思議でならなかった。
その深岬の疑問をくみ取ったのか坂上が答えてくれる。
「あー去年の夏から秋くらいには俺って話も出てたわけよ?」
「それが、何で?」
「俺、めんどくさいの嫌いだからさー。それに一時期嫌気がさして部活に顔出さなかった時期があって先輩達も焦ったみたいだわ。俺に任せたら危険だからって」
「部長って指名制なんですか?」
「いいや、違うよ。その学年で話し合って決めたらいいけど、大体先輩達の予想するの人間が部長になるらしいんだよなこれが」
「それに、坂上はリョウちゃんに俺は部長なんかやりたくなーいって言ったんだよね?」
雪子の言葉に全く悪びれることもなく頷く坂上だった。
「そうそう。他人の世話なんか見てられっかーってね」
豪快に笑いながら言う坂上に首をかしげずにはいられない深岬。
自分一番みたいな台詞をはいておきながら、今部活の練習に顔を出してて一番下の学年―要は深岬達一年生だが、新入生に一番声をかけたりして気を配っているのは、坂上のような気がするのだ。
もちろん、雪子もそうだが。
「サシで飲みに行って、リョウちゃんに頼むよって言ったらリョウちゃんが笑顔で頑張るよって言うからリョウちゃんが次期部長」
「へぇ。じゃあ、雪子が副部長?」
「分かってるじゃん」
「じゃあ、飲も!」
すっかり出来上がっている小島が割り込んでくる。
『うっわー、うざい』と思ってても口には出さない深岬だった。
何より、楽しんでいるのだから仕様がない。
「新歓って何するの?」
「まあ飲み会だけど、オフィシャル飲み会だからこーゆー感じじゃなくてもっと激しくなるなぁ」
「まあね。最初はびびるだろうな」
「新歓っていう名目だけど上級生が騒ぐだけだしね」
聞けば聞くほどいいイメージがわかない。
「自己紹介させていただきまーすってね」
「あれはびびった」
雪子が目を見開いて言うもんだからそれは相当だったのかもしれない。
「もう今じゃ普通だけどね~。交流戦行く度にさせられるんだから慣れるわよ」
「この時期、新歓荒らしも出るけどウチは部員全員が新歓荒らしみたいなものだしなぁ」
「去年もいたいた」
やっぱり…と確信を持たざるを得ない。
「OBとかも顔を出してくれるし、普段あんまり練習にこない人たちもくるよね」
「それが腹立つ」
とコップを握り締めていうのは坂上だった。
少し酒が入ると気性が荒くなる坂上。
雪子と小島は気にした様子はないから、まだ大丈夫なのだろうけど、聞くところによると何回か店の壁を壊したり、ものを壊してきたこともある男だ。
練習にこない相手に向かって、言う彼の言葉はまあ仕方ないんだろうと思って深岬も聞き流していた。
「部活なんだから来いよっつーんだ」
「まぁまぁ、4年は就職活動あるしね?」
「4年はいいんだよ!問題は、3年だよ3年。あいつら、まだ幹部じゃねぇ俺達に押し付けてこねぇじゃねぇか」
宥めるような雪子の声にも納得がいかないようにドンっと机を叩きつける。
この時点で、坂上はも結構酔っていたのかもしれない。
その後は、出来上がって周囲を把握できていない小島の妙なノリと雪子が坂上を宥めていつも通りの空気に戻ったのだが、深岬からしてみれば坂上の意外なところを知ったという感じだった。
いつも笑いながら練習に参加しているときは、何だか周囲を盛り上げている男でちゃらちゃらしたような雰囲気を回りにアピールするような感じだが、根はまじめで熱い男なのかもしれないと普段見せる彼とのギャップのようなものを感じて、何だか落ち着かない深岬だった。
それと同時に、何だかその日は、部活の深遠を見たような気がした。
新入生が増えれば、当然帰りが一緒の方向の子も増える。
頻繁に飲み会をしている雪子たちだが、深岬が毎回のようにそれに参加するわけではない。
3人で話したいこともあるだろうし、特に気にも留めていない深岬だった。
部活が終わった後、食事に行って帰りは一緒の方向の子と途中まで一緒に帰る。
電車の中で取りとめのない会話を繰り返す。
その内容は、部活のことだったり、学校の授業のこととかいろいろある。
女の子同士なら尚更話題は次から次へと山のように出てくる。
ある日の帰り、3人で帰っていると1人の深岬と同じ学年の子が切り出してきた。
「ねぇねぇ、何で深岬ちゃんは、雪子サンのこと呼び捨てで呼ぶの?」
「あ!それ私も思った」
すっかり上級生の間では浸透していたが、新入生の中では違ったのかもう一人も異様に食いついてくる。
「あー、雪子とは中学の時、3年間同じ部活で…。高校になってからも何回か会ってたから。私一浪だし」
と説明したら納得してくれたようで深岬はほっとする。
すぐに彼女達の話題は別の話題に移る。
「色んな先輩から聞くんだけどさ…。雪子さんんと小島さんってどうなってんの?」
そこが彼女達が本当に聞きたかったところかも知れない。
「さぁ?坂上さんから聞いた話だと雪子の一方通行らしいよ。」
「あ、そうなんだ」
深岬がさらりと答えると2人は顔を見合わせて頷きあっている。
「何で?小島さん狙ってるの?」
「そういうわけじゃないけど…」
と否定はするものの、全くゼロというわけでもなさそうな様子だった。
まあ、あれだけ格好よければ多少コミュニケーション力が欠けていても問題はないかもねと深岬も彼女達の様子を見ながら思った。
だが、すぐに話が変わる。
「坂上さんはどうなんだろうね」
「遊んでそうなイメージだけど」
「それは、確かにそうかも」
「深岬ちゃんはどう思う?」
と話を振られて頭の中に坂上の姿を思い浮かべる。
あまりそう言った話は聞かないけどどうなんだろうと首を傾げる深岬。
あの性格で彼女がいないということもないだろうと思いながら、今度、雪子にでも聞いてみるかと考えていた。
「まぁ、彼女くらいはいるんじゃない?」
「やっぱそうだよね」
と下らない話で時間が過ぎていった。
「っつーか、それはお前がおかしいんだって」
「ま、飲めばいんじゃね?」
面白いくらいに会話がかみ合わない。
何かあれば、飲めばいいという言葉で括られる。
毎回のことだが、何とかならないんだろうかと思いつつも「ま、飲めばいいか」と思う自分は相当染まってきているのかもしれないと思う深岬。
目の前に置かれたコップは、なみなみに酒が入っている。
安い焼酎のオレンジジュース割り。
たまにビール。
これがいつものメニューだった。
ちょびちょび飲んであらかじめいざという時のために減らしておくのも良し。
コールがかかった時に、一気にあけるのも良し。
そこは自由なのだが、失敗して飲みすぎると次が注がれるから要注意。
「今年の新歓いつ?」
いつものように、雪子、小島、坂上の3人に深岬が何故か混じって飲んでいると気の知れた者同士で飲んでいるということもあるが、酔うといつもより表情が豊かになる小島が雪子と坂上を見て聞いた。
「5月の第二週の土曜日」
「あれ、交流戦は?」
「その次」
「しっかりしてよ、リョウちゃん。次期部長だよ」
「あ、そうなんですか?」
深岬が驚いた声をあげると他の3人の視線が深岬に集まる。
雪子たちの代で練習によく参加しているのは、小島と坂上だ。若干、小島の方が来る回数は多いかもしれない。女子ではダントツで雪子。
だが、どちらかと言えば坂上の方が部長に向いている気がしてならない深岬は不思議でならなかった。
その深岬の疑問をくみ取ったのか坂上が答えてくれる。
「あー去年の夏から秋くらいには俺って話も出てたわけよ?」
「それが、何で?」
「俺、めんどくさいの嫌いだからさー。それに一時期嫌気がさして部活に顔出さなかった時期があって先輩達も焦ったみたいだわ。俺に任せたら危険だからって」
「部長って指名制なんですか?」
「いいや、違うよ。その学年で話し合って決めたらいいけど、大体先輩達の予想するの人間が部長になるらしいんだよなこれが」
「それに、坂上はリョウちゃんに俺は部長なんかやりたくなーいって言ったんだよね?」
雪子の言葉に全く悪びれることもなく頷く坂上だった。
「そうそう。他人の世話なんか見てられっかーってね」
豪快に笑いながら言う坂上に首をかしげずにはいられない深岬。
自分一番みたいな台詞をはいておきながら、今部活の練習に顔を出してて一番下の学年―要は深岬達一年生だが、新入生に一番声をかけたりして気を配っているのは、坂上のような気がするのだ。
もちろん、雪子もそうだが。
「サシで飲みに行って、リョウちゃんに頼むよって言ったらリョウちゃんが笑顔で頑張るよって言うからリョウちゃんが次期部長」
「へぇ。じゃあ、雪子が副部長?」
「分かってるじゃん」
「じゃあ、飲も!」
すっかり出来上がっている小島が割り込んでくる。
『うっわー、うざい』と思ってても口には出さない深岬だった。
何より、楽しんでいるのだから仕様がない。
「新歓って何するの?」
「まあ飲み会だけど、オフィシャル飲み会だからこーゆー感じじゃなくてもっと激しくなるなぁ」
「まあね。最初はびびるだろうな」
「新歓っていう名目だけど上級生が騒ぐだけだしね」
聞けば聞くほどいいイメージがわかない。
「自己紹介させていただきまーすってね」
「あれはびびった」
雪子が目を見開いて言うもんだからそれは相当だったのかもしれない。
「もう今じゃ普通だけどね~。交流戦行く度にさせられるんだから慣れるわよ」
「この時期、新歓荒らしも出るけどウチは部員全員が新歓荒らしみたいなものだしなぁ」
「去年もいたいた」
やっぱり…と確信を持たざるを得ない。
「OBとかも顔を出してくれるし、普段あんまり練習にこない人たちもくるよね」
「それが腹立つ」
とコップを握り締めていうのは坂上だった。
少し酒が入ると気性が荒くなる坂上。
雪子と小島は気にした様子はないから、まだ大丈夫なのだろうけど、聞くところによると何回か店の壁を壊したり、ものを壊してきたこともある男だ。
練習にこない相手に向かって、言う彼の言葉はまあ仕方ないんだろうと思って深岬も聞き流していた。
「部活なんだから来いよっつーんだ」
「まぁまぁ、4年は就職活動あるしね?」
「4年はいいんだよ!問題は、3年だよ3年。あいつら、まだ幹部じゃねぇ俺達に押し付けてこねぇじゃねぇか」
宥めるような雪子の声にも納得がいかないようにドンっと机を叩きつける。
この時点で、坂上はも結構酔っていたのかもしれない。
その後は、出来上がって周囲を把握できていない小島の妙なノリと雪子が坂上を宥めていつも通りの空気に戻ったのだが、深岬からしてみれば坂上の意外なところを知ったという感じだった。
いつも笑いながら練習に参加しているときは、何だか周囲を盛り上げている男でちゃらちゃらしたような雰囲気を回りにアピールするような感じだが、根はまじめで熱い男なのかもしれないと普段見せる彼とのギャップのようなものを感じて、何だか落ち着かない深岬だった。
それと同時に、何だかその日は、部活の深遠を見たような気がした。
新入生が増えれば、当然帰りが一緒の方向の子も増える。
頻繁に飲み会をしている雪子たちだが、深岬が毎回のようにそれに参加するわけではない。
3人で話したいこともあるだろうし、特に気にも留めていない深岬だった。
部活が終わった後、食事に行って帰りは一緒の方向の子と途中まで一緒に帰る。
電車の中で取りとめのない会話を繰り返す。
その内容は、部活のことだったり、学校の授業のこととかいろいろある。
女の子同士なら尚更話題は次から次へと山のように出てくる。
ある日の帰り、3人で帰っていると1人の深岬と同じ学年の子が切り出してきた。
「ねぇねぇ、何で深岬ちゃんは、雪子サンのこと呼び捨てで呼ぶの?」
「あ!それ私も思った」
すっかり上級生の間では浸透していたが、新入生の中では違ったのかもう一人も異様に食いついてくる。
「あー、雪子とは中学の時、3年間同じ部活で…。高校になってからも何回か会ってたから。私一浪だし」
と説明したら納得してくれたようで深岬はほっとする。
すぐに彼女達の話題は別の話題に移る。
「色んな先輩から聞くんだけどさ…。雪子さんんと小島さんってどうなってんの?」
そこが彼女達が本当に聞きたかったところかも知れない。
「さぁ?坂上さんから聞いた話だと雪子の一方通行らしいよ。」
「あ、そうなんだ」
深岬がさらりと答えると2人は顔を見合わせて頷きあっている。
「何で?小島さん狙ってるの?」
「そういうわけじゃないけど…」
と否定はするものの、全くゼロというわけでもなさそうな様子だった。
まあ、あれだけ格好よければ多少コミュニケーション力が欠けていても問題はないかもねと深岬も彼女達の様子を見ながら思った。
だが、すぐに話が変わる。
「坂上さんはどうなんだろうね」
「遊んでそうなイメージだけど」
「それは、確かにそうかも」
「深岬ちゃんはどう思う?」
と話を振られて頭の中に坂上の姿を思い浮かべる。
あまりそう言った話は聞かないけどどうなんだろうと首を傾げる深岬。
あの性格で彼女がいないということもないだろうと思いながら、今度、雪子にでも聞いてみるかと考えていた。
「まぁ、彼女くらいはいるんじゃない?」
「やっぱそうだよね」
と下らない話で時間が過ぎていった。
2007
深岬がバドミントン部の部活に参加するようになってから、日が経つに連れて入部を希望して体育館にやってくる新入生、或いは、ひやかしも含めて見学をしにやってくる新入生の数は日に日に増えていった。
新入生としては、初めに部に顔を出していた深岬は勿論のこと連日のように入れ替わり立ち替わり現れる新入生の姿に、深岬だけじゃなく上級生も把握ができずに困る結果になっていった。
そこそこ真面目に練習には取り組んでいるもののバドミントン一筋という訳でなく、部活もやって他のことも適度に楽しみたいというような人間の集まりだ。
初心者を敬遠するような部の雰囲気でもないことが、それに拍車をかけていたのかもしれない。
現に、上級生の半分は初心者で始めたものもいるし、見学に来た新入生も大半は初心者ばかり。
そうこうしているうちに、練習に参加する新入生の数も増えていった。
もう何がなんだかわからない状態。
「今年は、一体どうしたんだ?」
と首を傾げるのは上級生。
「今、何人?」
「数だけで言ったらざっと15人は入部確定」
「うわーすげっ」
「俺らの年って、10人だけで残ったの2年に上がって6人しか残ってねぇし」
練習後、すっかり恒例となった食事に連れて行って貰った先での上級生の話にもくもくと食事を口に運びながら耳を傾ける深岬。
今日は、深岬の他に2人参加者が居た。深岬の他に、男と女が1人ずつ。
どうやって話に絡んだらいいかもわからなくて黙ったまま聞いているしかなかった。
笑いながら言ったのは、坂上で、彼は続けて言う。
「今年は何人残るかなぁ、半分残ればいいほうだな」
「っつーか、坂上、気がはえーよ。まだ新歓も終わってねぇだろ」
「ホントだよ~」
上級生が笑い飛ばすのに合わせるように笑うしか深岬たちにはできなかった。
一コマ目からの授業ははっきり言って面倒くさい。
朝早く起きなきゃならないし、それこそ本当に前日大学の近く…雪子の家にでも泊めてもらって学校に行きたくなるくらい面倒。
家を出るのは、6時半位に出なくちゃならない。
それこそ、じゃあ一コマ目の授業を取らなければいいという話になりそうだが、そうは上手くいかないというもの。
その授業が必修の課目だったりするものだから厄介なのだ。
電車に揺られながらうとうとする。
辛うじて席を確保できた日はまだいいが、できなかった日なんて最悪だ。
乗り換えも含めて2時間近く電車で立ちっ放しはつらい。
不思議なもので、まるで体内に正確な時計でも備えているかのように大学近くの駅になると目が覚める。
ぼうっとして働かない頭で電車を降りると大学に向かう。
眠い目を擦って教室に入ると後ろからぽんっと背中を叩かれる。
振り返ると涼子の姿がある。
「おはよ…」
「おはよう。眠い」
「眠いねぇ」
いつもよりか2割り増しで間延びした声で言う深岬に軽く笑いながら涼子は相槌を打つと空いている席に二人で並んで座る。
カバンの中からノートを取り出す。
「何で、一コマからこんな授業があるんだか…」
「あはは、仕方ないよ~昨日も部活だっけ?」
深岬のぼやきに律儀に返してくれる涼子の問いに頷く。
結局、涼子は適当に選んでテニスサークルに入ったようだった。
やっぱりサークルと部活では何か違うものがあるようなのは、深岬も感じ取っていた。
「うん、今日は休みだけどね…。今さ、新入生が凄くてさ」
「凄いって?」
「増殖中」
「うそ~」
「先輩達も首傾げるくらいだよ」
「それは、凄いね」
「名前覚えらんなくて困る」
と深岬が言うと涼子は可愛く笑った。
自然とクラス中の視線が涼子に集まっているのが深岬には、分かった。
涼子はなれているのかあまり気にしたような様子はなく、その後も普通に会話をする2人だった。
5コマまで授業のある日は、それだけで疲れてしまう。
練習をしている体育館に顔を出すと今日も見知らぬ顔が増えている。
「こんにちわ~」
と言って入っていくと坂上に手招きをされる。
何だろうと首をかしげながら入っていく。
「新入生だって。すっかり馴染んでるけどこっちも新入生ね。深岬ちゃんって言う名前」
「え、そうなんですか?普通に入ってくるからてっきり上級生かと思いましたよ」
笑いながら言われた深岬は、そりゃあ早くから参加してたら嫌でも慣れるわと口には出さないものの心の中で毒づいた。
「進藤 深岬です」
「片岡 麻美です。よろしくね」
「深岬ちゃんと一緒で経験者だって」
「へー、そうなんですか」
あまり感慨もなく答える。
総合大学なだけに学部数も学生の数も多い。
注目を集める機会も増えてきたとはいえ、まだメジャーとは言い難いスポーツだが、数撃ちゃ当たるとは言ったもので何人かは経験者くらいいるだろうと思って深岬はあまり深く考えずに答えた。
「反応薄いなぁー」
「だって、そりゃあいるでしょ。経験者の1人や2人」
「それはねー今年の入部希望の子って経験者が少ないんだよ」
と答えをくれたのは、いつの間にか近くに来ていたこの部の部長だった。
深岬から見ると2学年上にあたる。
「あー、そうなんですか?」
「そう。だから重宝しないとね?」
「いや、初心者でも強くなる子は強くなるんじゃないですか?テニスやってた子とかなんか特に…」
「あ、でもやる気が違うから」
『私、やる気あんまりありませんけど…』とは口にし難かった。
もともと、学科では期待ができそうになかった友達が出来ればいいという程度にしか思っていないのだ。
ものすごく居た堪れない感じがしてきた深岬は、適当に着替えに行くと誤魔化して輪の中を抜け出した。
着替えていると更衣室に雪子が入ってくる。
顔を向けると雪子も深岬を見つけて寄ってきては、手にしていた荷物を深岬に渡してくる。
「ほら、ラケットとシューズ」
「ありがと」
いちいち持ってくるのが面倒なラケットとシューズを雪子から受け取りながら礼を述べる。
雪子が預かってくれるという言葉に甘えて、預けっぱなしにしていた。
部室も一応あることにはあるのだが、狭くて個人のものはあまり置けるような状況じゃなかったので雪子が提案してくれたのに飛びついた。
一応、最初にまずいかなと思った深岬だったが、いちいち、毎回家から持ってくる面倒くささには敵わなかった。
「また新しい子来たって?」
「うん。さっき坂上さんが紹介してくれた。経験者らしいよ」
「今年、経験者少ないからなぁ」
とぼやくように言う雪子。
やっぱり気になるところらしい。
着替えを終えて、靴を履き替える。
誰でも出入りできる更衣室に貴重品を置いておくのは危険なので、貴重品とラケットを手にして更衣室を雪子と一緒に出る。
「今日も、飲み会するよ。もちろん参加だよねー」
「っていうか、あんた本当に好きよね」
「えー?そうでもないよー」
嘘つけと深岬は心の中で呟いた。
そして、今日もアレを見る羽目になるのかと少し嘆息した。
アレというのは、雪子と小島がべったりする所。
まぁ一方的に雪子が小島を掴んで離さないのだが、小島も別に抵抗もしないから雪子がますますエスカレートするのではないんだろうかと深岬は冷静に分析する。
雪子は傍から見たら誰でもわかるくらいに小島が好きだというオーラが出ているのだが、小島は全くそんな様子を見せない。
普段、あまり自分から話をしない小島はどこか掴みにくい。
こちらから話しかければきちんと返事を返してはくれるし、面白ければ笑いもする。
けど、やっぱり一種のとっつきにくさのようなものがある。
これでもましになったほうだと雪子も坂上も声を揃えて言うが、何分彼らのような親しみやすい人間と比べてしまうとどうもまだ近寄りにくい。
練習を終えた後、帰ると言っているのに無理やり雪子の家に連れて行かれて何度目になるかわからない飲み会。
こんなんだから新しく入ってきた子達にも新入生に見られないんだと思わざるを得ない深岬だった。
新入生としては、初めに部に顔を出していた深岬は勿論のこと連日のように入れ替わり立ち替わり現れる新入生の姿に、深岬だけじゃなく上級生も把握ができずに困る結果になっていった。
そこそこ真面目に練習には取り組んでいるもののバドミントン一筋という訳でなく、部活もやって他のことも適度に楽しみたいというような人間の集まりだ。
初心者を敬遠するような部の雰囲気でもないことが、それに拍車をかけていたのかもしれない。
現に、上級生の半分は初心者で始めたものもいるし、見学に来た新入生も大半は初心者ばかり。
そうこうしているうちに、練習に参加する新入生の数も増えていった。
もう何がなんだかわからない状態。
「今年は、一体どうしたんだ?」
と首を傾げるのは上級生。
「今、何人?」
「数だけで言ったらざっと15人は入部確定」
「うわーすげっ」
「俺らの年って、10人だけで残ったの2年に上がって6人しか残ってねぇし」
練習後、すっかり恒例となった食事に連れて行って貰った先での上級生の話にもくもくと食事を口に運びながら耳を傾ける深岬。
今日は、深岬の他に2人参加者が居た。深岬の他に、男と女が1人ずつ。
どうやって話に絡んだらいいかもわからなくて黙ったまま聞いているしかなかった。
笑いながら言ったのは、坂上で、彼は続けて言う。
「今年は何人残るかなぁ、半分残ればいいほうだな」
「っつーか、坂上、気がはえーよ。まだ新歓も終わってねぇだろ」
「ホントだよ~」
上級生が笑い飛ばすのに合わせるように笑うしか深岬たちにはできなかった。
一コマ目からの授業ははっきり言って面倒くさい。
朝早く起きなきゃならないし、それこそ本当に前日大学の近く…雪子の家にでも泊めてもらって学校に行きたくなるくらい面倒。
家を出るのは、6時半位に出なくちゃならない。
それこそ、じゃあ一コマ目の授業を取らなければいいという話になりそうだが、そうは上手くいかないというもの。
その授業が必修の課目だったりするものだから厄介なのだ。
電車に揺られながらうとうとする。
辛うじて席を確保できた日はまだいいが、できなかった日なんて最悪だ。
乗り換えも含めて2時間近く電車で立ちっ放しはつらい。
不思議なもので、まるで体内に正確な時計でも備えているかのように大学近くの駅になると目が覚める。
ぼうっとして働かない頭で電車を降りると大学に向かう。
眠い目を擦って教室に入ると後ろからぽんっと背中を叩かれる。
振り返ると涼子の姿がある。
「おはよ…」
「おはよう。眠い」
「眠いねぇ」
いつもよりか2割り増しで間延びした声で言う深岬に軽く笑いながら涼子は相槌を打つと空いている席に二人で並んで座る。
カバンの中からノートを取り出す。
「何で、一コマからこんな授業があるんだか…」
「あはは、仕方ないよ~昨日も部活だっけ?」
深岬のぼやきに律儀に返してくれる涼子の問いに頷く。
結局、涼子は適当に選んでテニスサークルに入ったようだった。
やっぱりサークルと部活では何か違うものがあるようなのは、深岬も感じ取っていた。
「うん、今日は休みだけどね…。今さ、新入生が凄くてさ」
「凄いって?」
「増殖中」
「うそ~」
「先輩達も首傾げるくらいだよ」
「それは、凄いね」
「名前覚えらんなくて困る」
と深岬が言うと涼子は可愛く笑った。
自然とクラス中の視線が涼子に集まっているのが深岬には、分かった。
涼子はなれているのかあまり気にしたような様子はなく、その後も普通に会話をする2人だった。
5コマまで授業のある日は、それだけで疲れてしまう。
練習をしている体育館に顔を出すと今日も見知らぬ顔が増えている。
「こんにちわ~」
と言って入っていくと坂上に手招きをされる。
何だろうと首をかしげながら入っていく。
「新入生だって。すっかり馴染んでるけどこっちも新入生ね。深岬ちゃんって言う名前」
「え、そうなんですか?普通に入ってくるからてっきり上級生かと思いましたよ」
笑いながら言われた深岬は、そりゃあ早くから参加してたら嫌でも慣れるわと口には出さないものの心の中で毒づいた。
「進藤 深岬です」
「片岡 麻美です。よろしくね」
「深岬ちゃんと一緒で経験者だって」
「へー、そうなんですか」
あまり感慨もなく答える。
総合大学なだけに学部数も学生の数も多い。
注目を集める機会も増えてきたとはいえ、まだメジャーとは言い難いスポーツだが、数撃ちゃ当たるとは言ったもので何人かは経験者くらいいるだろうと思って深岬はあまり深く考えずに答えた。
「反応薄いなぁー」
「だって、そりゃあいるでしょ。経験者の1人や2人」
「それはねー今年の入部希望の子って経験者が少ないんだよ」
と答えをくれたのは、いつの間にか近くに来ていたこの部の部長だった。
深岬から見ると2学年上にあたる。
「あー、そうなんですか?」
「そう。だから重宝しないとね?」
「いや、初心者でも強くなる子は強くなるんじゃないですか?テニスやってた子とかなんか特に…」
「あ、でもやる気が違うから」
『私、やる気あんまりありませんけど…』とは口にし難かった。
もともと、学科では期待ができそうになかった友達が出来ればいいという程度にしか思っていないのだ。
ものすごく居た堪れない感じがしてきた深岬は、適当に着替えに行くと誤魔化して輪の中を抜け出した。
着替えていると更衣室に雪子が入ってくる。
顔を向けると雪子も深岬を見つけて寄ってきては、手にしていた荷物を深岬に渡してくる。
「ほら、ラケットとシューズ」
「ありがと」
いちいち持ってくるのが面倒なラケットとシューズを雪子から受け取りながら礼を述べる。
雪子が預かってくれるという言葉に甘えて、預けっぱなしにしていた。
部室も一応あることにはあるのだが、狭くて個人のものはあまり置けるような状況じゃなかったので雪子が提案してくれたのに飛びついた。
一応、最初にまずいかなと思った深岬だったが、いちいち、毎回家から持ってくる面倒くささには敵わなかった。
「また新しい子来たって?」
「うん。さっき坂上さんが紹介してくれた。経験者らしいよ」
「今年、経験者少ないからなぁ」
とぼやくように言う雪子。
やっぱり気になるところらしい。
着替えを終えて、靴を履き替える。
誰でも出入りできる更衣室に貴重品を置いておくのは危険なので、貴重品とラケットを手にして更衣室を雪子と一緒に出る。
「今日も、飲み会するよ。もちろん参加だよねー」
「っていうか、あんた本当に好きよね」
「えー?そうでもないよー」
嘘つけと深岬は心の中で呟いた。
そして、今日もアレを見る羽目になるのかと少し嘆息した。
アレというのは、雪子と小島がべったりする所。
まぁ一方的に雪子が小島を掴んで離さないのだが、小島も別に抵抗もしないから雪子がますますエスカレートするのではないんだろうかと深岬は冷静に分析する。
雪子は傍から見たら誰でもわかるくらいに小島が好きだというオーラが出ているのだが、小島は全くそんな様子を見せない。
普段、あまり自分から話をしない小島はどこか掴みにくい。
こちらから話しかければきちんと返事を返してはくれるし、面白ければ笑いもする。
けど、やっぱり一種のとっつきにくさのようなものがある。
これでもましになったほうだと雪子も坂上も声を揃えて言うが、何分彼らのような親しみやすい人間と比べてしまうとどうもまだ近寄りにくい。
練習を終えた後、帰ると言っているのに無理やり雪子の家に連れて行かれて何度目になるかわからない飲み会。
こんなんだから新しく入ってきた子達にも新入生に見られないんだと思わざるを得ない深岬だった。
2007
まさにそれは、阿鼻叫喚。地獄絵図。
そんな言葉がぴったりと当てはまるような光景だった。
明らかに引いている深岬をお置いて、騒ぐ姿はまさに本当に自分が口実に過ぎないと実感せざるを得ない。
「びっくりした?」
と声をかけてきたのは、深岬が記憶している範囲でこの集団の長である部長の男だった。
そんな彼もすっかり顔は真っ赤になって出来上がっている。
「ええ…まぁ」
「まぁ、俺も最初の時はびっくりしたんだよね~。っつーかここまでひどくなったの坂上や小島達の代が入ってきてからだよ」
それは、男の嘆きのようなものも含まれていたかもしれない。
そう言われて集団の中心にいる坂上、小島そして雪子の姿を見る。
騒ぎながら飲む坂上。
そんな坂上に飲まされる小島、そして雪子を煽る小島。
乗せられるままに飲む雪子。
周りからの声もあり酒に手をつける3人。周りを巻き添えにする3人。
どちらにせよ中心にいるのは、坂上、小島、雪子の3人だった。
友人の初めて見せる意外な姿に驚かずにはいられない。
横から話しかけてくる男に適当に相槌を打ちながら、3人を見ているとふと雪子と視線が合う。
ヤバイと思った時には遅かった。
雪子が駆け寄ってくると深岬の腕を掴んで輪の中央に引っ張っていく。
その後は、筆舌に尽くし難い光景しか残らなかった。
翌朝、雪子の部屋で目の覚めた深岬は自分の身を襲う想像を絶する吐き気と頭をかなづちで殴られたことなどないが、まるで殴られたようにがんがんと響く頭。
少し動かすだけで痛みを訴える。
まさに生ける屍。
「うぅ…」
「大丈夫かぁ?」
のたうち回りながら声を上げた声に返ってきたのは、低い男の声。
ばっと目を見開いて体を起こした深岬がそこに見たのは坂上で、にっと笑った顔を深岬に見せるのだが、深岬の頭は急に動いたことにガンガンと響く。
「あ…いたた」
「二日酔いだなぁ。こりゃ。雪子ー。深岬ちゃん目ぇ覚めたみたいだぞ」
「あ、起きた?」
坂上の声に、雪子が深岬の前に姿を見せる。
明らかに昨夜は、深岬より大量に酒を飲んでいた筈なのに全く二日酔いのふの字も見せることなくすっきりとした顔で現れる雪子によりいっそう深岬はげんなりとした表情を見せる。
おかしいだろ…と。
「水いる?」
という問いに、こくこくと頭を振ると雪子が水を差し出す。
それを黙ったまま、飲むとごんっと強い力でコップと叩きつけるように置くとじろりと雪子を見る。
彼女は楽しそうな顔をして深岬を見返す。
「おっかしいでしょ…。何アレ」
「ほれみろ。雪子、やりすぎだろ」
「あはは~ごめんねぇ」
「ごめんねじゃない!」
「まぁまぁ、深岬ちゃん。まだ寝てるヤツいるし」
「へ?」
声を荒げる深岬を落ち着かせるように坂上が雪子のベッドの上を示す。
深岬がふとそちらに向けると雪子のベッドの上を占領する大きな男を見て深岬は目を見開く。
「小島さん?」
坂上もそうだが、何故小島も雪子の家で寝ているのか。
深岬はいくら思い出そうとしても思い出せない。
「何でですか?」
痛む頭を抑えながら坂上に聞くと彼は、子供のような顔で笑う。
「寝ちゃった深岬ちゃん連れてきたの俺達だもん」
寝ていたのだから彼らが何故ここにいるのか覚えていなくて当然だった。
だが、聞かなければ良かったと思った深岬だった。
はぁああと大きく溜息をつく。
「ご迷惑おかけしました」
「リョウちゃんと2人で捕らえられた宇宙人みたいにして運んだんだぜ」
その姿を想像しては、何たる間抜けな姿かと少し後悔した。
自分から話を逸らそうとして雪子のベッドを占領している小島を見た。
「何で、小島さんが雪子のベッドを占領してるんですか?」
何気なく疑問を口にした深岬に坂上は悪がきのような笑みを浮かべて深岬を手招きをする。
首を傾げつつも坂上に近づくと声の量を下げて小さな声で雪子には聞こえないように言う。
「リョウちゃんと雪子いっつも一緒に寝るから」
と聞いて思わず深岬の顔が赤くなる。
この瞬間だけは、二日酔いの頭痛もむかむかも吹き飛ぶ。
歯をむき出しにして笑う坂上の顔を間近でまじまじと見る。
「2人は…?」
付き合っているのかという深岬の問いを皆まで言わずとも分かったのか坂上は首を振る。
首を振った坂上をまじまじと見返す。
一緒のベッドで寝ているということは、そうではないのかと深岬には不思議ではならない。
「雪子の一方通行」
「なるほど…」
「何が、なるほどよ!坂上!あんたもねぇ、深岬に余計なこと教えるんじゃないの!」
「余計なことじゃないだろ?知っておかなきゃな。なぁ?」
「深岬も頷くんじゃないの!」
いつの間にか2人の傍に来ていた雪子が、小さな声で話を続ける深岬と坂上に雪子の大きな声が響く。
それは、深岬の二日酔いにはかなり効く声で、深岬は顔を顰めた。
雪子の怒声にも全く悪びれる様子のない坂上が、深岬に同意を求める。思わず頷いた深岬に雪子の怒声がもう一度響く。
さすがにその大きな声は、眠っていた小島を起こしたのか深岬の起きた時同様変なうめき声を上げてのたうちまわる小島に3人の視線が同時に向く。
一番、早く動いたのは雪子で、いそいそとベッドサイドに近づくと小島に声をかけている。
「リョウちゃん。起きた?」
「ユキ……。水…」
寝ぼけた小島の言葉に雪子が彼のために水をとりにいく。
その姿は、坂上から教えられるまでもなく深岬に雪子が小島を好きだと教えている。そして、深岬は自分が最初に小島と雪子のやり取りを見た時に思った、考えが間違ってなかったことを知る。
雪子の動きを目で追いかけた後、坂上と顔を見合わせてお互いにどちらからともなく噴き出した。
声を上げて笑い出した深岬と坂上に気にすることもなく、甲斐甲斐しく小島の世話を焼く。
最初に、深岬と坂上の様子に気がついたのは、小島のほうだった。
「2人ともどうしたの?」
「何でもないって」
小島の不審な顔すらおかしく見えて、深岬は笑い続け、坂上が代わりに答える。
坂上の答えにも首をかしげながら、小島は大きく伸びをすると「腹減ったなぁ」と何気なく言う。
そんな小島を見て、とめどなく自由な人なのかもしれないと深岬は小島のことを思った。
そして、そんな小島が好きな雪子。
小島と雪子の関係を一番傍で見て、楽しんでいるのが自分の横で笑う坂上なのだと3人の関係を理解した深岬だった。
「どっか食べに行く?」
「深岬ちゃん。授業何コマから?」
「あ、今日は昼からです」
小島の希望を叶えるために、小島に聞き返す雪子。
放っておけば置いていかれそうな深岬に声をかけてくれるのは、坂上で。
深岬の中で、どこか人を揶揄して楽しむところがある男が一番周囲に目を配れるのではないかと思った。
深岬の答えに頷くと「よしっ」と大きな声を上げて立ち上がる。
「飯行くぞー。ファミレスでいっか?」
「いこいこ」
と朝のファミレスに向かって雪子の家を出た4人だった。
そんな言葉がぴったりと当てはまるような光景だった。
明らかに引いている深岬をお置いて、騒ぐ姿はまさに本当に自分が口実に過ぎないと実感せざるを得ない。
「びっくりした?」
と声をかけてきたのは、深岬が記憶している範囲でこの集団の長である部長の男だった。
そんな彼もすっかり顔は真っ赤になって出来上がっている。
「ええ…まぁ」
「まぁ、俺も最初の時はびっくりしたんだよね~。っつーかここまでひどくなったの坂上や小島達の代が入ってきてからだよ」
それは、男の嘆きのようなものも含まれていたかもしれない。
そう言われて集団の中心にいる坂上、小島そして雪子の姿を見る。
騒ぎながら飲む坂上。
そんな坂上に飲まされる小島、そして雪子を煽る小島。
乗せられるままに飲む雪子。
周りからの声もあり酒に手をつける3人。周りを巻き添えにする3人。
どちらにせよ中心にいるのは、坂上、小島、雪子の3人だった。
友人の初めて見せる意外な姿に驚かずにはいられない。
横から話しかけてくる男に適当に相槌を打ちながら、3人を見ているとふと雪子と視線が合う。
ヤバイと思った時には遅かった。
雪子が駆け寄ってくると深岬の腕を掴んで輪の中央に引っ張っていく。
その後は、筆舌に尽くし難い光景しか残らなかった。
翌朝、雪子の部屋で目の覚めた深岬は自分の身を襲う想像を絶する吐き気と頭をかなづちで殴られたことなどないが、まるで殴られたようにがんがんと響く頭。
少し動かすだけで痛みを訴える。
まさに生ける屍。
「うぅ…」
「大丈夫かぁ?」
のたうち回りながら声を上げた声に返ってきたのは、低い男の声。
ばっと目を見開いて体を起こした深岬がそこに見たのは坂上で、にっと笑った顔を深岬に見せるのだが、深岬の頭は急に動いたことにガンガンと響く。
「あ…いたた」
「二日酔いだなぁ。こりゃ。雪子ー。深岬ちゃん目ぇ覚めたみたいだぞ」
「あ、起きた?」
坂上の声に、雪子が深岬の前に姿を見せる。
明らかに昨夜は、深岬より大量に酒を飲んでいた筈なのに全く二日酔いのふの字も見せることなくすっきりとした顔で現れる雪子によりいっそう深岬はげんなりとした表情を見せる。
おかしいだろ…と。
「水いる?」
という問いに、こくこくと頭を振ると雪子が水を差し出す。
それを黙ったまま、飲むとごんっと強い力でコップと叩きつけるように置くとじろりと雪子を見る。
彼女は楽しそうな顔をして深岬を見返す。
「おっかしいでしょ…。何アレ」
「ほれみろ。雪子、やりすぎだろ」
「あはは~ごめんねぇ」
「ごめんねじゃない!」
「まぁまぁ、深岬ちゃん。まだ寝てるヤツいるし」
「へ?」
声を荒げる深岬を落ち着かせるように坂上が雪子のベッドの上を示す。
深岬がふとそちらに向けると雪子のベッドの上を占領する大きな男を見て深岬は目を見開く。
「小島さん?」
坂上もそうだが、何故小島も雪子の家で寝ているのか。
深岬はいくら思い出そうとしても思い出せない。
「何でですか?」
痛む頭を抑えながら坂上に聞くと彼は、子供のような顔で笑う。
「寝ちゃった深岬ちゃん連れてきたの俺達だもん」
寝ていたのだから彼らが何故ここにいるのか覚えていなくて当然だった。
だが、聞かなければ良かったと思った深岬だった。
はぁああと大きく溜息をつく。
「ご迷惑おかけしました」
「リョウちゃんと2人で捕らえられた宇宙人みたいにして運んだんだぜ」
その姿を想像しては、何たる間抜けな姿かと少し後悔した。
自分から話を逸らそうとして雪子のベッドを占領している小島を見た。
「何で、小島さんが雪子のベッドを占領してるんですか?」
何気なく疑問を口にした深岬に坂上は悪がきのような笑みを浮かべて深岬を手招きをする。
首を傾げつつも坂上に近づくと声の量を下げて小さな声で雪子には聞こえないように言う。
「リョウちゃんと雪子いっつも一緒に寝るから」
と聞いて思わず深岬の顔が赤くなる。
この瞬間だけは、二日酔いの頭痛もむかむかも吹き飛ぶ。
歯をむき出しにして笑う坂上の顔を間近でまじまじと見る。
「2人は…?」
付き合っているのかという深岬の問いを皆まで言わずとも分かったのか坂上は首を振る。
首を振った坂上をまじまじと見返す。
一緒のベッドで寝ているということは、そうではないのかと深岬には不思議ではならない。
「雪子の一方通行」
「なるほど…」
「何が、なるほどよ!坂上!あんたもねぇ、深岬に余計なこと教えるんじゃないの!」
「余計なことじゃないだろ?知っておかなきゃな。なぁ?」
「深岬も頷くんじゃないの!」
いつの間にか2人の傍に来ていた雪子が、小さな声で話を続ける深岬と坂上に雪子の大きな声が響く。
それは、深岬の二日酔いにはかなり効く声で、深岬は顔を顰めた。
雪子の怒声にも全く悪びれる様子のない坂上が、深岬に同意を求める。思わず頷いた深岬に雪子の怒声がもう一度響く。
さすがにその大きな声は、眠っていた小島を起こしたのか深岬の起きた時同様変なうめき声を上げてのたうちまわる小島に3人の視線が同時に向く。
一番、早く動いたのは雪子で、いそいそとベッドサイドに近づくと小島に声をかけている。
「リョウちゃん。起きた?」
「ユキ……。水…」
寝ぼけた小島の言葉に雪子が彼のために水をとりにいく。
その姿は、坂上から教えられるまでもなく深岬に雪子が小島を好きだと教えている。そして、深岬は自分が最初に小島と雪子のやり取りを見た時に思った、考えが間違ってなかったことを知る。
雪子の動きを目で追いかけた後、坂上と顔を見合わせてお互いにどちらからともなく噴き出した。
声を上げて笑い出した深岬と坂上に気にすることもなく、甲斐甲斐しく小島の世話を焼く。
最初に、深岬と坂上の様子に気がついたのは、小島のほうだった。
「2人ともどうしたの?」
「何でもないって」
小島の不審な顔すらおかしく見えて、深岬は笑い続け、坂上が代わりに答える。
坂上の答えにも首をかしげながら、小島は大きく伸びをすると「腹減ったなぁ」と何気なく言う。
そんな小島を見て、とめどなく自由な人なのかもしれないと深岬は小島のことを思った。
そして、そんな小島が好きな雪子。
小島と雪子の関係を一番傍で見て、楽しんでいるのが自分の横で笑う坂上なのだと3人の関係を理解した深岬だった。
「どっか食べに行く?」
「深岬ちゃん。授業何コマから?」
「あ、今日は昼からです」
小島の希望を叶えるために、小島に聞き返す雪子。
放っておけば置いていかれそうな深岬に声をかけてくれるのは、坂上で。
深岬の中で、どこか人を揶揄して楽しむところがある男が一番周囲に目を配れるのではないかと思った。
深岬の答えに頷くと「よしっ」と大きな声を上げて立ち上がる。
「飯行くぞー。ファミレスでいっか?」
「いこいこ」
と朝のファミレスに向かって雪子の家を出た4人だった。
2007
翌日、その日から始まった授業の中から、履修しようと考えていたものだけを受けると深岬は必要な道具を持って小島から教えられた体育館に来ていた。
昨日の部活の勧誘会で見かけた部員の姿が何人か見られる。
こういう時ほど入りにくい場所はないと思えるのは何故か―。
恐る恐る体育館の入り口から中を覗き込む、深岬の姿はどこか変質者を彷彿とさせる。
「深岬」
と後ろから声をかけられ思わず体をびくりと揺らしてしまったのもきっとその所為かもしれない。
驚いた所為もあってドキドキという胸を押さえながら後ろを振り返ると嬉しそうに笑う雪子の姿がある。
雪子は体育館の入り口で靴を脱いで、急いで駆け上がってくると深岬に近づいてきて、深岬の手を引いたまま中へと進んでいく。
深岬よりも体つきは小さいはずの雪子の強い力に引っ張られ深岬は自分と雪子に集まる視線に気付いていたが、掴まれた腕は離れることもなく、そのまま雪子の後を追うような形で彼女を追いかけた。
「あ、やっぱり来た」
と少し眦を下げたのは既に来ていた小島だった。
深岬はちょこんと頭を下げる。
そんな深岬の代わりに胸を張って答えるのが雪子だった。
「あったり前でしょ?」
「雪子は関係ねぇだろ。深岬ちゃんって経験者だったんだね?言ってくれれば良かったのに」
そう雪子に横槍を入れてきたのは、昨日も見た坂上という男だった。
身長は、深岬よりも若干高い程度で、どこか軟派な雰囲気のある男だった。
何も聞いてこなかったのはそっちだろと思いつつも、深岬は年長者相手に食ってかかることもできずに苦笑を顔に浮かべた。
「女の子に夢中で聞いてこなかったのはそっちでしょうが」
「可愛い女の子に声をかけないなんて、男がすたるでしょ?なぁリョウちゃん?」
雪子の怒ったような口調にも悪びれることなく小島に同意を求める坂上に雪子がさらに金きり声をあげたのは、間違いない。
「リョウちゃんがそんなことするわけないでしょ!」
「わっかんねぇかなぁ?」
「あっちに更衣室あるから着替えておいで」
怒り出した雪子と彼女をおちょくるように少し小バカにしたような坂上の言い合いはいつものことなのか、小島は少し離れた位置にある更衣室を示す。
言われるままに深岬が更衣室に向かい着替えを済ませて戻ってくると言い合いも収まっていた。
その後は、普通に練習に参加する深岬だったが、一年以上、高校の受験期間も含めると2年近く運動から遠ざかっていたために思うように動かない体をもてあましていた。
普通に練習メニューをこなしていく彼らもそんな深岬の様子に覚えがあるのか、あまり無理はするなというように声をかけてくれる。
時間が経つと5コマ組みと呼ばれる5コマ目の授業を終えてから練習に参加する者達も集まり、練習を続ける。
最後に、全体で集まったところで各人自己紹介をしてその日は終わった。
とは言っても、一気に名前を言われても深岬にそれを処理できるだけの能力はなく、なんとなく顔はつかめたものの名前は一致しなかった。
「深岬ー。ご飯行くでしょ?」
練習後に着替えていると雪子が声をかけてくる。
それに深岬は、顔を上げて、時計を確認する。
微妙な時間だった。
その時点で7時半。こちらを9時に出れたとしても家に帰りつくのは11時を過ぎる。
雪子が一年で下宿に切り替えたのは、この所為かと納得せざるを得ない。
「んー。帰るの遅くなるから…」
「なぁに言ってんの。1年の間はご飯おごられっぱなしよ~。行かなきゃ損でしょ」
それにうっと固まる深岬。
現金な話しだが、それは非情に魅力的だった。
がっしりと肩に雪子の腕を回されて、何だか嫌な予感がする深岬。
「それに、あんた忘れてないでしょうね?今日は、あんたの新歓」
「だから…その新歓って何よ?」
新歓、新歓と男達が言うのを聞いた深岬だったが、実質それが何をするものなのかは、深岬にはわからない。
雪子に聞くと妙に納得したように「あ、そっか」と頷いている。
肩に回っていた雪子の腕が外れたのを感じて、深岬はその隙に着替えを素早くすませてしまう。
「新入生歓迎会」
「あっそ。私一人しか新入生いないじゃん」
「あー、ウチの部、新しい子がくるたんびにやってんのよねー。ウチらん時もやってたよ。最初はびっくりしたけどねー」
とけたけた笑う他の女子部員を不思議そうな顔で見る深岬。
何じゃそりゃ―と。
「帰れなくなったら、雪子んち止まってけばいいよ~」
「ってか、いつも最後は雪子の家だし」
なんて軽く言いながら、先に着替え終わった女子部員達が出て行く。
残されたのは、まだジャージのままの雪子と着替えを片付けている深岬だけになった。
「何でそんなにやってるわけ?」
「んー?唯、口実にして飲みたいだけだよ」
「はぁ?」
「まぁ見てれば分かるって」
雪子の言葉に自分は完全な巻き添えじゃないかと一抹の不安を覚えつつ、しかし、仮にも主役となる人間を帰してくれる彼らではなく深岬は結局、母親に今日は泊まってくと入学して早3日目にしてそんな連絡をする羽目になった。
一体、何してるんだかと思った深岬だったが、まいっかと深く考えないようにした。
食事に行った後、一度解散して、家に帰る人間は家に帰り、もう一度集合となった。
練習に参加していたほとんどの者が、下宿している者だった。
深岬は当然雪子の家に連れていかれる。
「あー荷物適当においとけばいいから」
と言って案内されるままに深岬は入るが、まず玄関先にある台所に目が行く。
綺麗で問題はないのだが、そこに並んだ空の酒瓶や空き缶の数々に思わず引きつった笑みを浮かべる。
入ってこない深岬を不審に思って雪子が深岬を振り返る。
「どうかした?」
「な…何コレ…」
「あー酒瓶」
「見たらわかるわよ。何この量」
「この前の飲み会で出たゴミなんだけど、ゴミ捨てまだだから」
何てことないように言う雪子に思わず深岬は乾いた笑いを零した。
不思議そうな顔をして見てくる雪子に深岬は心の中でおかしいでしょ…、これ一回の量じゃないってばと言わずにはいられなかった。
「荷物置いたら行こうか?」
「あ、うん」
言われるままについていく深岬。
もう一度、玄関先に大量におかれた空き瓶、空き缶を見て寒気を覚える深岬だった。
これから起こることの恐ろしさを予感して――。
昨日の部活の勧誘会で見かけた部員の姿が何人か見られる。
こういう時ほど入りにくい場所はないと思えるのは何故か―。
恐る恐る体育館の入り口から中を覗き込む、深岬の姿はどこか変質者を彷彿とさせる。
「深岬」
と後ろから声をかけられ思わず体をびくりと揺らしてしまったのもきっとその所為かもしれない。
驚いた所為もあってドキドキという胸を押さえながら後ろを振り返ると嬉しそうに笑う雪子の姿がある。
雪子は体育館の入り口で靴を脱いで、急いで駆け上がってくると深岬に近づいてきて、深岬の手を引いたまま中へと進んでいく。
深岬よりも体つきは小さいはずの雪子の強い力に引っ張られ深岬は自分と雪子に集まる視線に気付いていたが、掴まれた腕は離れることもなく、そのまま雪子の後を追うような形で彼女を追いかけた。
「あ、やっぱり来た」
と少し眦を下げたのは既に来ていた小島だった。
深岬はちょこんと頭を下げる。
そんな深岬の代わりに胸を張って答えるのが雪子だった。
「あったり前でしょ?」
「雪子は関係ねぇだろ。深岬ちゃんって経験者だったんだね?言ってくれれば良かったのに」
そう雪子に横槍を入れてきたのは、昨日も見た坂上という男だった。
身長は、深岬よりも若干高い程度で、どこか軟派な雰囲気のある男だった。
何も聞いてこなかったのはそっちだろと思いつつも、深岬は年長者相手に食ってかかることもできずに苦笑を顔に浮かべた。
「女の子に夢中で聞いてこなかったのはそっちでしょうが」
「可愛い女の子に声をかけないなんて、男がすたるでしょ?なぁリョウちゃん?」
雪子の怒ったような口調にも悪びれることなく小島に同意を求める坂上に雪子がさらに金きり声をあげたのは、間違いない。
「リョウちゃんがそんなことするわけないでしょ!」
「わっかんねぇかなぁ?」
「あっちに更衣室あるから着替えておいで」
怒り出した雪子と彼女をおちょくるように少し小バカにしたような坂上の言い合いはいつものことなのか、小島は少し離れた位置にある更衣室を示す。
言われるままに深岬が更衣室に向かい着替えを済ませて戻ってくると言い合いも収まっていた。
その後は、普通に練習に参加する深岬だったが、一年以上、高校の受験期間も含めると2年近く運動から遠ざかっていたために思うように動かない体をもてあましていた。
普通に練習メニューをこなしていく彼らもそんな深岬の様子に覚えがあるのか、あまり無理はするなというように声をかけてくれる。
時間が経つと5コマ組みと呼ばれる5コマ目の授業を終えてから練習に参加する者達も集まり、練習を続ける。
最後に、全体で集まったところで各人自己紹介をしてその日は終わった。
とは言っても、一気に名前を言われても深岬にそれを処理できるだけの能力はなく、なんとなく顔はつかめたものの名前は一致しなかった。
「深岬ー。ご飯行くでしょ?」
練習後に着替えていると雪子が声をかけてくる。
それに深岬は、顔を上げて、時計を確認する。
微妙な時間だった。
その時点で7時半。こちらを9時に出れたとしても家に帰りつくのは11時を過ぎる。
雪子が一年で下宿に切り替えたのは、この所為かと納得せざるを得ない。
「んー。帰るの遅くなるから…」
「なぁに言ってんの。1年の間はご飯おごられっぱなしよ~。行かなきゃ損でしょ」
それにうっと固まる深岬。
現金な話しだが、それは非情に魅力的だった。
がっしりと肩に雪子の腕を回されて、何だか嫌な予感がする深岬。
「それに、あんた忘れてないでしょうね?今日は、あんたの新歓」
「だから…その新歓って何よ?」
新歓、新歓と男達が言うのを聞いた深岬だったが、実質それが何をするものなのかは、深岬にはわからない。
雪子に聞くと妙に納得したように「あ、そっか」と頷いている。
肩に回っていた雪子の腕が外れたのを感じて、深岬はその隙に着替えを素早くすませてしまう。
「新入生歓迎会」
「あっそ。私一人しか新入生いないじゃん」
「あー、ウチの部、新しい子がくるたんびにやってんのよねー。ウチらん時もやってたよ。最初はびっくりしたけどねー」
とけたけた笑う他の女子部員を不思議そうな顔で見る深岬。
何じゃそりゃ―と。
「帰れなくなったら、雪子んち止まってけばいいよ~」
「ってか、いつも最後は雪子の家だし」
なんて軽く言いながら、先に着替え終わった女子部員達が出て行く。
残されたのは、まだジャージのままの雪子と着替えを片付けている深岬だけになった。
「何でそんなにやってるわけ?」
「んー?唯、口実にして飲みたいだけだよ」
「はぁ?」
「まぁ見てれば分かるって」
雪子の言葉に自分は完全な巻き添えじゃないかと一抹の不安を覚えつつ、しかし、仮にも主役となる人間を帰してくれる彼らではなく深岬は結局、母親に今日は泊まってくと入学して早3日目にしてそんな連絡をする羽目になった。
一体、何してるんだかと思った深岬だったが、まいっかと深く考えないようにした。
食事に行った後、一度解散して、家に帰る人間は家に帰り、もう一度集合となった。
練習に参加していたほとんどの者が、下宿している者だった。
深岬は当然雪子の家に連れていかれる。
「あー荷物適当においとけばいいから」
と言って案内されるままに深岬は入るが、まず玄関先にある台所に目が行く。
綺麗で問題はないのだが、そこに並んだ空の酒瓶や空き缶の数々に思わず引きつった笑みを浮かべる。
入ってこない深岬を不審に思って雪子が深岬を振り返る。
「どうかした?」
「な…何コレ…」
「あー酒瓶」
「見たらわかるわよ。何この量」
「この前の飲み会で出たゴミなんだけど、ゴミ捨てまだだから」
何てことないように言う雪子に思わず深岬は乾いた笑いを零した。
不思議そうな顔をして見てくる雪子に深岬は心の中でおかしいでしょ…、これ一回の量じゃないってばと言わずにはいられなかった。
「荷物置いたら行こうか?」
「あ、うん」
言われるままについていく深岬。
もう一度、玄関先に大量におかれた空き瓶、空き缶を見て寒気を覚える深岬だった。
これから起こることの恐ろしさを予感して――。