深岬が練習に初参加した日に、深岬の新歓と称して大学近辺の安い居酒屋で開かれた飲み会も惨憺たるものであったが、今、自分の目に映るものは何だろうと深岬は思った。
迎えに来たバスに乗るように促され、一次会の会場となっている居酒屋に入る。
指示されるままにくじを引かされてその場に座る。
上級生の間に新入生が挟まれるような席順になっているのは、新入生と上級生の交流が図れるようにと配慮した結果。
今年に限っては、新入生が多いせいか、たまに新入生同士が横になる席も見受けられるがそれは、致し方ないことだろう。
深岬は、練習に参加していることも手伝ってか同じテーブルに同席する上級生はほとんど顔見知り程度だったので、少しほっとしながら会が始まる時間がくるのを待つ。
「しっかし、今年の一年は多いね」
深岬の左隣に座っていたのは、雪子、小島、坂上達と同じ学年の井川 理恵だった。
あまり練習に参加しておらず、深岬は今まで2、3回程度しか顔を合わせたことがなかったが、雪子と仲がいいことも手伝って普通に喋れる程度にはなっていた。
深岬の前には、先日坂上達と一緒に昼食を食べに行った野坂の姿がある。飄々としたような顔をしながら、理恵の言葉に相槌をうつ。
「ほんとだなー。俺、深岬ちゃんや望ちゃんくらいしかわかんねぇや」
「あれ、センパイ知ってるんですか?」
驚いたような顔をして野坂の顔を見返した理恵に野坂は笑いながら、この前一緒にご飯行ったもんねーと深岬に同意を求めてくる。
深岬は肯定しながら理恵の顔を見る。
「坂上さんと小島さんにご飯連れてってもらったんです」
「そうそう。俺が福田さんと慶子の3人で一緒に歩いてたらばったり道端であって、その後は便乗しちゃったの」
「あのー、そろそろ始めたいので、グラスにビールの準備してもらっていいですか?」
理恵が野坂と深岬どちらにかは分からないが、何かを言おうとして口を開きかけた時、先ほど野坂の口からも上がっていたが、立ち上がっていた慶子が同じ空間にいる全員に届くような大きな声で言う。
一瞬シーンと静まりかえった後、机に均等に並べられたビール瓶を手にした野坂が深岬に突き出してくる。
深岬は上級生にそんなことさせるのは…と思ってビールをコップに注いでもらうためにコップを突き出すのではなく、野坂から瓶ごと受け取ろうとしたが、野坂とそして理恵にも制されてしまう。
「今日は、新入生が主役だから」
と言われてしまえば立つ瀬はない。
ありがとうございますとコップを差し出してビールを注いでもらう。
少しでいいですと遠慮しようとした深岬だったが、どこから聞いてきたのか―恐らく情報源は雪子、坂上、小島のうちの誰かだろうだ、飲めるから遠慮はいらないと理恵が野坂に告げたことによってコップなみなみに注がれてしまう。
うわぁと心の中で思いながらも、礼を言ってコップを置く。
野坂はその後、理恵のコップにも同じようにビールを注ぐと野坂が手にしていた瓶を理恵が取り上げて野坂に酌をする。
そして、丁度ころあいを見計らったかのように慶子の声がかかる。
「全員揃ったようなので、主将の久保田くんから挨拶を」
「あ…。主将の久保田です…。今日は、バド部の新歓に来てくれてありがとうございます。もう入部を決めて練習に参加してくれてる子や、まだ迷ってる子もいると思いますが是非、これから皆で楽しく部活をやっていきましょう。今日は上級生と少しでも交流を深めてバド部を知ってくれたらと思います。それでは、乾杯」
慶子に促されて立ち上がった主将の久保田という男が、挨拶の言葉を一通り述べると各テーブルで乾杯という声があがり、グラスとグラスをぶつけあう音がしてくる。
小さなビールグラスでは、大量に酒を消費している彼らには物足りないのか、それともそれが普通なのか、一杯目は一気に飲み干し、その後すぐに2杯目を注ぎあっている。
新入生の中には、勝手がわからずに戸惑っている様子の子達もいるし、やけに場慣れしている子もいたりして中々面白い。
すでに何回か強制的に飲み会に参加させられてきた深岬は、もちろん場慣れしている人間の1人に数えられるだろう。
上級生同様に一気にグラスを空け、即座に2杯目が注がれる。
それでも、まだビール片手に目の前に並べられた食事に手を伸ばす程度で飲み会としては、今まで深岬が参加してきたものに比べたら可愛いものだと思えた。
だから、深岬も最初は、数人で集まって開くような飲み会とは異なり、部活全体での飲み会とはこんなものなのかと思っていたのだが、その考えは長くは続かなかった。
乾杯の挨拶から約30分が経過しようという頃か。
料理に手を伸ばしながら、近くの上級生と雑談していた深岬だったが、突如部屋の中央の前にビールケースがひっくり返して置かれたのを見て目を丸くした。
一体、何が始まるのだろうと――。
まるで、それは安いステージのようで、答えを求めるように横に座る理恵の顔を見た深岬に、理恵は「見てたらわかるよ~」なんてアルコールの所為で俄かに赤くなった顔で答えるだけ。
そして、すぐに前に出てきたのは、主将として一番はじめに挨拶をしていた久保田だった。
「新入生にこれから自己紹介をしてもらいたいと思います。その前に主将から手本を…」
という慶子の言葉に、久保田がビールケースの上に瓶ビールを持って立つ。
手に持たれた瓶ビールに深岬の頭にあまり考えたくないことが浮かぶ。
「おすっ!体育会系バドミントン部所属!人文学部国際文化学科3年久保田 宏と申します!尊敬する先輩は福田先輩でっす!!」
隣の部屋にまで聞こえるのではないかという大きな声を張り上げた久保田の姿に新入生は呆気に取られて、上級生は楽しそうに笑いながら、言葉の区切りのところで合の手のように声をあげる。
名前があがった福田に視線が集中し、福田コールが上級生を中心にあがる。
照れたように笑いながら、ビールの注がれたコップを持って立ち上がると一気に煽る。
福田がもう一度座るのを確認すると久保田は、最後に一際大きな声を張り上げて「以後よろしくお願いいたします!!」と言った後、手にした瓶ビールを一気飲みする。
手拍子交じりのコールと新入生の数人の明らかに引いた視線が久保田に集中する。
「じゃあ、一年生順番に前に出てお願いします」
と言われて順に前に出て自己紹介をさせられる深岬をはじめとする一年生。
深岬の順番は、丁度真ん中と言ったところ。
さすがに久保田のように瓶ビールで一気飲みをするような破格な新入生などはいなかったが、上級生からまだ一度も会ったことのない先輩の名前を言うように言われて戸惑いながら言われた人物の名を口にする者もいれば、自分から率先して言う者もあり、また、途中で噛んだりしようものなら粗相といわれて手にしていたコップに注がれていたものを一気させられた上にもう一度最初からやり直しであったりとか、上級生と学科が一緒であったり、出身の県や学校が一緒ならばその上級生と一緒に乾杯をする。
一応、飲めるか飲めないかの配慮はしているようであったが、新入生はわけもわからず雰囲気に呑まれている状態といった方が正しいだろう。
深岬もまた然りだった。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック
Post your Comment