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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0320
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2008

0529

Vizard (60)



煙草の紫煙が部屋に充満する。
すぐ側に置かれた灰皿には、吸殻がこんもりと山を作っている。
数時間前までは、その灰皿には灰一つ落ちていなかった。
2人が口を閉ざしてから有に数時間が経過しようとしていた。
散らばった写真はそのままに、一哉は虚空を見つめ続け、女は煙草を燻らせる。
また、一本と灰皿に吸い終わったほとんどフィルターしか残っていない吸殻を押し付け、女が更にもう一本と手を伸ばそうとしたときに一哉が身じろぐのを察して女の注意が、一哉へと向けられる。

「どうしたの?」
「ちょっとね…」

ふふっと笑いながら言葉を濁して答える一哉に背筋に寒気が走る。
吸おうとして手に持ったままだった火のついていない煙草をぽろりと落としてしまった。
落とした煙草を拾うことも忘れて、ひきよせられるようにして女は一哉を見つめ続けた。
目を逸らすことができなかった。
次に紡がれる言葉をただ待った。待つことしかできなかった。

「こうなったら、墜ちてもらうしかないよね」

言葉自体は柔らかいものだったが、その発言内容は余りに黒く暗い。
告げる瞳も暗く淀んでいる。

「墜ちるって…あんた…」
「協力してくれるよね?」

否とは言えない雰囲気がある。
誰が、言えようか。下手な男よりも迫力があるその姿。
女は、頷く事も首を振ることも、指一本動かすことすらできなかった。
ただ、ただ年若い男の少年の顔を見つめ続けるだけだった。

「手駒はありすぎるくらいで十分だからね」

それは、最早子供の吐く台詞ではなかった―。





自室の扉をいつもより荒立った手つきで閉め、背を扉に預けると髪をぐしゃりとかきあげてずるずると床にしゃがみこむ。
ふぅっと大きく息を吐き出す。

「どこに行ってるのよ…。なんで、いないの…。なんで帰ってこないの」

ここにはいない人物に向けられた言葉。
本当に居て欲しい人に向けられた言葉。
だが、聞いて欲しい相手にそれが届くことはない。

不安だけが膨らんで―。



がしがしと長く伸びた髪を乱暴にかきあげると立ち上がり、広い室内へと足を進めようとした。
丁度その時、今まで背を預けていたはずの扉が五月蝿く音をたてて開く。
最低の礼儀でもあろうノックもせずに無礼極まりない行為。
突如、耳に飛び込んできた音と人の気配に、扉に背を向けたまま目を見開いた綾だった。
遠慮の欠片もないその音に驚くと同時に、そんな行為をする人物に心当たりなどなく、一体誰だと思ったが、即座に脳裏に浮かんだのは、一哉の姿だった。
期待を胸に秘め、振り返った先にいたのは綾の期待には程遠い人物。対極にいるといっても過言ではない。
顔を紅潮させ、険しい表情で綾を睨み付けんばかりに目を吊り上げている堺の姿がそこにはあった。
期待した一哉ではなく、堺の姿に一気に綾の体を落胆の色が走りぬけ、不快そうに眉間には深い皺が刻まれた。
相手の顔が不機嫌そうだろうがなんだろうが綾には関係ない。
ふいっと顔を逸らしながら素っ気無い態度で問う。

「何の用かしら?」

その声は2人の冷え切った関係を如実に表すような冷え冷えとした声だった。
玄関先で、最初に己が家の中に足を踏み入れたとき以来、自分を見ようともしない綾の態度に腹を立てている堺の苛立ちを煽るばかり。

「ノックもせずに入ってくるなんて、無礼にも程があるんじゃなくて?」

堺には背を向け、室内に足を進める綾。
一瞬の己へと向けられた侮蔑の色を含む瞳に堺は、吊り上った目尻をますますつりあげた。
乱暴にカバンの中に手を突っ込むと掴み上げた封書を床の上にぶちまけるようにしてほうりなげた。
ばさばさっと紙が音を立てる音に人の部屋にずかずかと無遠慮に入り込むだけじゃ飽き足りず、一体、何をしているのかと怪訝な顔つきで綾は再び、見たくもなかったが後ろを振り返った。
そして、床に散らばる紙に眉を潜めた。

何かの報告書のような形式のそれが散らばっていた。
床にぶちまけた本人は、拾う素振りも見せず、俄かに興奮しているせいか、どこか血走ったようなぎらぎらとした瞳で綾を睨みつけるだけだった。
口許には、不自然な引きつった笑みが象られ、乾いた笑いが零れ落ちる。
どこか尋常でないその姿は、不気味を言わせしめる効果がある。
綾は、堺の様子に気味の悪さを感じつつも彼のことは気にせず、床に散らばる紙のある場所に近づくとゆっくりと腰を下ろして、それらの中から一枚を手にとった。
紙面に踊る文字を追いかけた綾は、目を僅かに見開いた。
耳障りな男の低い笑い声はその間も綾の鼓膜を刺激する。

「人は見かけによらないものだ」

嘲笑混じりに聞こえてくる声は、極力排除して、綾はそのほかにも散らばる紙を拾い上げては、目を通す。

「あんな薄汚い金に群がるハイエナのような奴に水原の敷居を跨がせるなど言語道断。お義父さんがこのことを知ったらどうするか…想像しただけでも愉しくなってくるだろ?あのいけ好かない無能な草壁も只ではすまないだろうに」

くくっと喉で笑いながら高らかに宣言する堺。身勝手きわまりない発言。
それは、己にとって好都合な材料が手元にあるからこそ言える言葉だ。
その材料とは、堺がいままさにばらまいたものであり、今の綾の意識を占有しているそれである。
今まで散々な扱いを受けたことに対してもこれで少しは気が晴れるというもの――
笑いが次から次へと零れてきて、止まらない。
愉悦に浸る男が綾に持ってきたものとは、彼女の夫たる己の意見を聞かず彼女が唯一といってもいいほど固執しているものの別の一面。

草壁 一哉の身上書。

過去に行ってきた悪行。男娼まがいの行為で大金を手にしていたこと―。

堺は、それを綾や水原の一哉に対する信頼を失墜させるのに十分であると踏んだ。
気に食わないものは遠ざける。
自分にとって邪魔なものは、排除する。
使用人に馬鹿にされたままでは腹の虫が収まらない。
これで幾分かは気が晴れるというもの。
悔しそうにあの秀麗な顔が歪むのを想像すると―、己を馬鹿にしてきた綾が自分への見識を改めるのを想像すると―、水原からの信用がおかれるのを想像すると今にも足が踊りだしそうになってくる。
これからが見ものだ―と。
まずは、目の前の女から……。

そう思いながら下卑た笑いを繰り返していた堺だったが…。



―ビリビリッ。



紙を裂く音にはっとした。
笑みを浮かべていた口許は不自然に筋肉が持ち上げられたまま、恐る恐る音のする方に目を向け、綾が自分がぶちまけたものをびりびりに裂いている姿に絶句した。

「なっ!何をしているっ!?」

声を荒げた堺に構うことなく、綾はひたすらびりびりに紙を破ってしまうと、丁寧に紙片をかき集めて、立ち上がる。
そして、迷うことなく自分の部屋の中央にあるテーブルに向かうとテーブル上に置かれていた皿の上にそれらを載せ、引き出しの中からお香を焚くときのために部屋においてあるマッチを取り出すと火をつけて紙片を焼いてしまった。
見る見るうちに灰へと変化し、残ったのは燃えカスのみ。

絶句し、驚愕に目を見開いている堺を綾は、睨みつけると口の端を持ち上げて嗤い返した。

「このゴミがどうかしたかしら?」

悪びれる様子など全く見せずに淀みない口調で聞き返す。

「なんてことをっ!!」

我に返った男はどたどたと足音を立てて、綾に近づいてくると綾の体を突き飛ばして、さきほどまで燃えていた僅かにものが焼ける臭いを残すそれらを確認する。
突き飛ばされた拍子にバランスを崩し、悲鳴をあげた綾は、体を床に打ち付けた。

「これはっ!大事な…」
「あら、だって床に落ちてたんですもの。ゴミじゃないの?」

体を起こしながらも綾は毅然と言い放つ。
男の顔が怒りに赤く染まっていく。
確かに床に放り投げたのは堺だ。
だが、綾の言い分はあんまりだろう。
堺が意図を持って床に投げたのを分かっていながら、綾は寧ろ堺の行動を逆手にとった。

「てっきり、いらないものだと思ったわ」
「そんなわけあるかっ…!」
「じゃあ、床に置かないでよ。紛らわしい」

ふんっと鼻で笑って顔を背ける綾に、ぎりっと歯軋りをする堺。

「残念ね。あなたの言葉だけじゃ、お父様は信じないわよ。余計、怒らせるのがオチだわ」

追い討ちをかけるような綾の言葉に堺は、綾を睨みつける。
その拳は、強く握られぶるぶると震えていた。
表情こそ勝ち誇ったかのように笑っていた綾だったが一発くらいは殴られるかと身構えた。しかし、堺は乱暴に机を叩きつけると部屋を出て行った。
強く叩きつけられた振動のせいで、皿の上にあった灰がひらひらと宙を舞った。

バタンと扉が壊れそうなほど大きな音を立てて閉まると同時に綾がぼそりと呟いた。



「馬鹿な男…」

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2008

0528

Vizard (59)




どこにも行かないで―。
私を一人にしないで―。





「綾、こんなところで何をしているんだ?」

背後から聞こえてきた怪訝な色を含んだ声に綾はハッと目を見開いて自分の後ろを振り返った。
そこに、面食らったような顔をして自分を見ている父親の姿を見つけた。
確かに彼の驚きは、尤もだろう。
何せ、彼女がいるのは玄関先なのだから。
何をするわけでもなくただ立っているだけだったり座ったり、うろうろと落ち着きなく歩いてみたり、一体、何をしているのか水原からしてみれば、皆目見当も付かない奇行としか言いようのない行動。
彼が堪らずに、そう尋ねてくるのも致し方ないことだろう。
尋ねられた綾は、慌てて姿勢を正すと引きつった笑みで誤魔化そうとするのだが、咄嗟に上手い言い訳など思いつくはずもなくまごついた答えしか出てこなかった。

「あ…あの……ちょっと…」

屋敷内に一哉の部屋があるから、ここに居れば帰ってきたときにすぐ捕まるだろうと思って綾は空いている時間のほとんどを玄関先で過ごしていたのだが、通り過ぎる使用人たちには一体どうかしたのかと気にかけられるし、父親に見つかって答えに窮してしまっている。
綾にそこまでさせる人物は一向に帰ってくる気配はない。
どこで、何をしているのかもわからない。
自分が彼を掴んだはずの手を振り払った冷たさと鋭い視線の強さだけを覚えている。
きっと怒っているのだ。
いつまで経っても自分本位な考えから抜け出せない自分に―。
呆れているのだ。
そう思うと胸が締め付けられる。
この痛みは、ただ好きだという言葉を喚き散らしていたときとは違う。
喪失感にも似た穴の空いたところを抉られるような痛み。
近くに居て一度は触れ合える距離まで近づいた相手と触れ合えないもどかしさはあっても、近くに――目の届く範囲にいてくれるということが自分にとっての、この苦痛の山でしかない屋敷での心のよりどころとなっていた。
しかし、それを願うことは所詮綾のわがままの域を越えないものであり、また綾自身気づいてはいたが、かといって一哉にいなくなられたら気が狂いそうになる。
触れ合えなくても、綾にとって一哉は一種の精神安定剤のようなものなのだ。
他の何もいらない――

綾が、父親に対し何と言い訳をするべきか迷っていると玄関の扉が音を立ててゆっくりと開く。
扉の開く音に綾と水原は反射的に顔を上げた。
綾は、待っていた人物だと顔を輝かせて、水原は突如聞こえてきた音に反応して振り返った。
だが、そこに居たのは綾の待ち望んでいた人物などではなかった。
一方、水原は驚いた顔をして自分と娘を見る男の姿に全てを察したように鷹揚に頷くとにこりと笑みを深く刻むと娘の肩を叩いて2、3度頷いた後、「そういうことか…」と小さく呟いた。

「お義父さんに綾さん…こんなところで一体何を……」

玄関先でなにやら顔を付き合わせていた水原と綾の姿に面食らったような顔をするのは、玄関の扉から入ってきた堺だった。
水原は、玄関先に居た娘に彼女が夫である堺を待っていたのだと考えて、自分が思っていたよりも娘と堺が上手くいっていると思い、嬉しそうに笑いながら上機嫌で綾の前から去っていったのだった。
しかし、実のところ綾が待っていたのは堺などではなく、一哉その人だ。
水原は曲解したに過ぎなかった。
彼の去った後、残された綾と堺の間には沈黙だけが残った。
堺を見ようとしない綾と碌に家に寄り付かなくなった堺。2人に会話が成立するはずもなかった。
どちらも気まずさから口を開こうとはしない。
まだ驚きから抜けきれずに玄関の三和土からあがることもせずに、呆然と綾を見る堺と堺を見ることなく顔を逸らし続ける綾。
その2人の姿は、ぎこちなく、夫婦と呼べる形態の代物ではなかった。

「あ…や」

堺が呼び止めようとした声にも振り返ることなく綾は、一度も堺と目を合わせることもなく玄関から立ち去った。
一人取り残された堺は、その屈辱とも言える綾の態度に奥歯をぎりぎりと強く噛み締め、歯軋りをした。
そして、自分が手にしているカバンの中の入っている手に入れたばかりの封書の存在を思い出し、乱暴に靴を脱ぎすてると綾の後を追った。





煌々としたライトの明りの下に並べられた写真を見て一哉は、喜ぶでもなく、また憤るでもなく、まるで詰まらないものを見るかのように無感情の瞳でそれを見ていた。
ブラインドの下ろされた窓の外は夜の帳が降り、暗い闇が支配する。
街中にはない、寂れたビルの周囲は外灯の灯りしかなく、暗い。
それとは対象的に室内は、蛍光灯に明りがひどく明るい。

「これだけ?」

飛び出した不満そうな声にそれらの写真を準備した女は、一瞬呆けた顔をしたが、すぐにむっと眉間に皺を寄せた。

「…これだけって…あんた、あたしがこれを手に入れるのにどれだけ時間を費やしたと思ってるわけ?」
「さぁ?この程度なら、俺も手に入れているんだけど」

広めのテーブルに所狭しと並べられた写真を無造作に取り上げながら目を通した後、すぐにぽいっと写真を投げた。
ひらひらと空気の抵抗を受けながら宙を舞う写真。
やがてとさっという音とともに、机の上に落ちる。
数十枚にも昇る写真には、どれも男女の姿が映っている。

「あんたって子は…」
「決定打にはならないんだよなぁ」

写真を押しのけて、机の上に肘をつくと手の平に顎を載せて誰に聞かせるわけでもなく自分に言う。
彼の前に座っていた女は、それを自分の仕事に対する不満ととり、むっと眉間に皺を寄せた。

「ちょっと!」
「ケンカふっかけようとしてんの仮にも水原の次期社長候補だよ?こんなぼやけた写真ばっかじゃ揉み消されるに決まってんじゃん」

視界に入る写真をぴっと弾く。
強く弾かれた遠くから撮影された写真は、映りが悪く、ぼやけている。
一哉の言うとおりかもしれないと思った女は、一度は開きかけた口を閉ざし、悔しげに噛み締めた。

「まぁ、でもあの男が浮気してるのは、間違いなさそうか…。でも決定打が欲しいんだよ。結局のところ、あんたが調べた過去の女は微妙なラインだったしなぁ……。自分の保身のためだろうけど、口割らなかったし…。そんな手合いに手出すんだから本当に底意地ひん曲がってるよな。あの男」

聞く人が聞いたらば、どの口がそれを言うといいかねない発言だったが、力なく呟かれた声は、どこか悔しさをはらんでいる声音だった。
女は女で、机に並べられた写真に目を向けていたために一哉の顔ははっきりと確認できなかったが、いつもの一哉らしくない声音にはっと顔を上げて一哉の方を見つめた。
視線を感じた一哉は、顔をあげて女を不思議そうな顔で見返した。
女は、一哉の瞳をじっと見つめて問う。

「…水原の過去の女の次は、今の女…。あんた、こんな浮気現場調べてどうするってのよ…。あのお嬢さんの結婚生活ぶち壊したいわけ?」

傍から見たら一哉の行動はそう見えるのかもしれない。
女の問いに、一哉自身そう思い、ふっと口許に笑みを忍ばせた。
そして、女から視線を外しながら小さな声で答えた。

「違う。俺は、ただ…」

その後に続く言葉は、小さすぎて女の耳には届かなかった。
しかし、一哉の遠くを見つめる表情に女は少なからずここにはいない、一哉の脳裏に浮かんでいるであろう人物に嫉妬心を覚えた。
女が見た横顔からは、いつもの力強い視線が柔らかく、虚空を見つめるせつなさを感じさせる瞳に――
彼が自分をそんな瞳で見つめることは、決してない……。

望んだとしても決して手に入れられることはないだろう。





「ただ…、幸せになって欲しい…」

その言葉は、誰の耳にも届くことはなかった。
自分の分も…。
誰よりも…。



なのに、思い出すのはいつも沈んだような顔ばかりだ――

2008

0527
Vizard (58)


憮然とした表情の男に向かって、へりくだった態度でどこか卑屈さを思わせる笑みを浮べた男が封書を差し出した。
尊大な態度でそれを乱暴な手付きで受け取った男は、同じく粗雑な手でその封書の中身を確認した後、にやりと笑った。
依頼主である男の口元に浮かんだ笑みを見て、それを差し出した男は、安堵の溜息を知らず知らずのうちに零していた。

「残りの金は近々、口座に振り込んでおく」
「あ、ありがとうございます」

礼を述べる声も自然と弾むというものだ。
封書を手にしたまま、乱暴に立ち上がると男は革靴の音を鳴らしてその部屋を後にした。
部屋の外で待っていた男が、部屋から出てきた主に対して頭を下げるのを一瞥した後、「帰るぞ」と憮然とした口調で言い捨てると先に足を進めた。勿論、下げていた頭を起こした男も先を歩く男の後を追いかけた。
駐車場の車を停めていた場所まで来ると、後からついてきていた男がさっと車に走りより、高級車の後部座席の扉を開けると礼を言うわけでもなく当然と言ったような態度で慣れた様子で車内に身体を滑り込ませる。
主が座ったのを確認すると扉を閉め、軽い身のこなしで、運転席に座る。
バックミラー越しに後部座席に座る主を確認しては、上機嫌な彼の様子に何か良いことでもあったのだろうかと思いつつも優秀な男は余計な詮索など何一つしない。

「正一様。今日はどちらへ」

ただ、己が主の言うとおりに行動するのみ――
それは、如何なるときも変わりない。





今日も、そこには自分の望む人物の姿などなかった。
同じように、彼の所在を聞いても、返ってくる言葉は一字一句違わずに同じ答えだった。
項垂れて、まさに意気消沈と言ったような態度を見せる綾に宗司は、いつものように苛立ちにも似た感情を覚えつつも、日課どおりに大学へと送り届けるために彼女を促がそうとした。

「お嬢様。お時間が…」
「お二人ともこんなところで何をしているのですか?」

久方ぶりに聞く声に、綾も宗司も一瞬空耳かと思ったくらいだった。
宗司は自分の後ろから聞こえる声に、綾は顔を俯けたままの状態で飛び込んできた待ち望んだ声に勢い良く顔を上げた。
最後に顔を合わせてからどれくらいの時間が経過していただろうか…。
姿が見えなかったことが不安で仕方なかった。
この数週間、探し続けた人物がそこにいる。
顔が輝くのも仕方ない。

「一哉!」
「お時間は大丈夫なのですか?」

今にも飛びつかんばかりに綾が一歩踏み出したその時、一哉の口から零れてきたのは、あくまで事務的な言葉。
再会を喜ぶような姿は綾一人だけで、一哉はまるで昨日まで普通に綾と接していたかのように自然な様子だった。
一哉に触れようと伸ばした手が止まる。

「一哉、お前こそこんなところで何をしている。学校はどうした。お前がこの時間にここにいること自体おかしいだろう」

宗司が己の左腕に嵌められた腕時計を確認しながら告げる。
その時計の針は、すでに9時半を示していて、確かに宗司の言うとおり、高校生である一哉がこの時間に屋敷にいることはおかしい。
一哉は、険のある兄の発言にくすりと笑い返す。

「申し訳ありません。着替えたらすぐに行きます。それでは…」

最後に綾を一瞥した後、軽く頭を下げると足早に綾と宗司の前から去っていこうとする。
そんな一哉の手を綾は無意識のうちに掴んでいた。
このまま、またどこかに行ってしまう。
行かせたくない。そう思った咄嗟の行動だった。
しかし、掴んだはずの手の力はすぐに弱まった。
自分を射抜くような鋭い瞳で、まるで睨みつけてくるかのような視線を向けてくる一哉に気づいたからだ。

「急いでいるので…」

と口調こそ柔らかかったものの、力の抜けたまま一哉の腕を掴んでいたその手は、綾が掴んでいない方の手で振り払われた。
そのまま背を向けて去っていってしまう一哉の背中を、綾は愕然と開いた瞳で追いかけた。

「お嬢様。少々お待ちいただけますか?」

と綾の背後で声がしたかと思うと、宗司が一哉の後を追いかけていく姿が綾の視界に入る。
早足の宗司が一哉に追いつき、何かを話している姿が見えてはいたが、何を話しているのかまでは、綾にはわからなかった。

大きな手に肩を乱暴に掴まれて、一哉は足を止めた。
振り返った先には、顔をこわばらせている兄の姿がある。

「まだ、何か?」

急いでいると告げた言葉は、嘘でも何でもない本心であったので、宗司に問う声には少し面倒くさそうな響きをもっていた。
宗司もそれに気づいていたが綾を始業時間までに届けなければならない宗司自身も急がなければならなかったために、気にしないようにしてすぐに本題に入った。

「お前、この数週間何をしていた?」
「…まだ、言えません」

一哉の答えに宗司の眉間に深い皺が刻まれた。

「お嬢様がお前がいないせいで始終不安そうにしている。お前のことばかり聞いてくるんだ。何をしているのか知らんが、いい加減にしろ」

それを口にすることは自分の無能さを認めているようで癪だったが、言わずにはいられなかった。
何度も何度も同じ押し問答繰り返し、そのたびに誤魔化さなければならない自分の身にもなれと言外に伝えたかった。
それが、伝わったかどうかはわからないが、一哉は、一度いつものように笑みを口元に浮べると何一つ悪びれた様子も見せずに告げた。

「そうですか…。でも、もうしばらくお願いします」
「なっ…!」

とだけ言うと呆けた顔をしている宗司を置いて、自室に向かった。
まるで一瞬の隙をついて逃げ出したような一哉を引き止めようとして伸ばした宗司の目に先ほども確認のために見た時計が飛び込んできたことで、その手は宙に浮いたまま、何も掴むことはできなかった。
問い詰めたい気持ちはあったが、このままでは綾が遅れるということを考えると一哉を問い詰めることはできなかった。
舌打ちをした後、踵を返して、綾のいる場所へと戻る。

「申し訳ありません。一哉のせいでいつもよりも出るのが遅くなったので急ぎましょう」

急いで綾の所に戻ると宗司は、綾を促がして屋敷を後にした。
心の端で、一哉のことを気にしながら――

宗司の運転する車の後部座席で、綾は自分の手を見つめていた。
触れた、掴んだはずの手は ここにはなかった。
するりと抜けていった。
否、違う。拒絶された。
掴んでいたはずの手は、冷たい彼の手によって解かれ、自分を見る瞳は鋭く、その手以上に冷たかった。
急に怖くなってくる。
両手を握り合わせて口元まで持っていく。

――きっと、自分に呆れているのだ。
我侭は言わないと言ったはずなのに…。
自分の行動を省みてみれば、自分のとった行動がその一言につきるもの――

彼の自分に対する態度がその応えだ。

目頭が熱くなってくる。
嫌だ――。と思っても自分にはどうすることもできない。
ただ、心の中で自分のしてきたことを悔いつつも何とか平静さを取り戻すのに精一杯だった。

置いていかれる―。
一哉が綾の前から姿を見せなくなってからというもののずっと綾が抱いていた不安だが、ここへ来てその不安が大きく膨らんでいくのを感じていた。

2008

0526

Vizard (57)



少年と青年の狭間をさまよっているような年下の男相手に、いつまでも呆けていることは、女のプライドというものが許さなかった。

「何を調べろというのかしら?」

挑戦的な瞳と口の端を持ち上げて、意味深な笑みを浮かべて女は問う。
一哉は、女の様子に満足したように笑い返した。

「簡単なことだ。ある男の素行調査」
「あら?」

女は笑った。
すぐに、一哉の口にした“ある男”というのが、誰かピンと来たからだ。

「彼女のために?」

横目で意味深な視線を送ると不快そうに一哉の眉間に皺がよった。
そんな表情を見るといくらか気分がすっとする。
自分の方が優位に立っているように感じられるから…。

しかし、すぐにもとの表情に戻される。
つまんないと心の中で毒づきながら、女は一哉に問う。

「さっき、あんたが言ったように簡単なことだから、別にあたしじゃなくてもあんたで事足りるでしょ?」

デスクの引き出しからシガレットケースを取り出すとその中から一本煙草を取り出して口に銜えると火をつける。
深く息を吸い込んだあと、吐き出す。
紫煙が2人の間でゆらゆらと昇っていく。

「確かに、もちろん。俺も調べるさ。あんたにして欲しいのは、男の過去について調べて欲しい」
「過去?そんなもん調べてどうすんのよ」
「それは俺の勝手だろう。結婚してからの1年で付き合った女全て調べてくれ」

女の問いには、答えず要求だけを突きつける。
女としては、依頼とそれに見合う報酬が得られれば余計な詮索をしないのが信条だが、気にならないといえば嘘になる。
多少なりとも深くないとは言い切れない付き合いがあった相手だけに、教えてくれるのではないかという期待も込めて訊いたのだったが、彼は口を割らなかった。

「場合によっては、別の仕事も頼むかもしれない」
「ちょっとぉ、そんな曖昧な言い方じゃわからないじゃない。それに、そんな女いないかもしれないわよ」
「あんたの仕事は評価してるんだ。あんたがいないと言えばそれえを信じる。とりあえず、堺…いや、水原 正一の過去について調べてくれ」

自分よりも10近くも年下の少年の口から出てきた言葉に目をまん丸に開く女。
まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。
不遜といえば不遜。
自分より上、あるいは同等の人間に言われるならまだしも、高校生のまだ子供とも言うべき人物に言われるなど誰が想像しただろうか――

「くっ…」

呆けた顔で一哉を見つめていた女は、口に銜えていた煙草を手に持つと女は、顔を大きく下げた後、肩を震わしはじめた。
一哉が女の様子に険しい表情になる。
次の瞬間、一哉の聴覚を刺激したのは、耳をつんざくばかりの甲高い笑い声だった。

「くくっ……。あはは…。あーはははっ」

やがて笑いは乾いたものへと変化していく。
怪訝な顔つきで笑い続ける女を見つめていた一哉だったが、不意に女の鋭い視線とぶつかり、体を身構えた。

「評価ねぇ。まさか、あんたにそんなこといわれるとは思わなかったわ…」
「…」
「いいわ。調べてあげる」





一哉が、屋敷内に寄り付かなくなってからというものの一週間が経過しようとしていた。
日に日に焦りは大きくなっていく。
不安で仕方がない――

宗司からは、しばらく離れるというだけのことだった。
その言葉から戻ってくるということが単純に予想されるのだが、綾にはこのまま戻ってこないのではないかと不安でならなかった。
夫である堺など別に戻ってこなくても気にかけない。
誰よりも側にいて欲しいのは一哉なのに――
―それは、父親ですら例外ではない。
今、自分の側についている宗司よりも一哉に側にいて欲しい。
なのに、居て欲しい人はここには―自分の側にはいない。

姿も影も見えない。

時間の経過とともに不安は大きくなっていくばかり―。
このまま、帰ってこないのではないか――
もう既にどこかへ行ってしまったのではないか――
戻ってこないのでは――

そんなの嫌だ。
どこにも行って欲しくない。
自分の側から離れないで――
それだけでいいから。
それ以外に何も望まないから――

しかし、それを望む相手はここにはいない。



朝、出迎えに来た人物はいつもと変わらず――

「おはようございます。お嬢様」

少し前までの2人ではなく、1人だった。
今日も見えない姿が一層のこと不安にさせる。
どこにいるのか。
いつ戻ってくるのか。

どれだけ聞いても返ってくる答えは同じと知りながらも、聞かずにはいられなかった。
また、時間の経過とともに焦りも手伝ってか、その頻度も増えていた。

「ねぇ、一哉は?」

――



宗司は、いつものように出迎えた主人である綾に慣例どおり頭をたれ、挨拶を口にした後、顔をあげ、そこに映る彼女の不安げでいてどこか悲壮感を漂わせる表情に内心で溜息を零した。
――今日もか…と。
次に彼女から返ってくる言葉は聞かなくても分かった。
そして、自分の返す言葉もいつもと同じだった。
同じことの繰り返し。
自分の主たる仕事を放り出して、碌に学校にも通わずに一体何をしているのかと自分の義弟の行動を推察しようとしても何を考えているのかなど結局のところ彼には、理解なんてできなかった。また、しようとも思わなかった。
この機に主である綾の信頼を勝ち得ることができれば、自分はまた元通りの地位に戻れるとチャンスと思っていたのだったが、宗司の見通しは甘かった。
彼女の口から零れるのは、常に不在の人物。
最初の頃は、一日に一度程度だったのが、今では一日に何度も聞かれる。
回数が多くなり、それが毎日とあらば、当初は気にも留めないものでも、いい加減にもどかしさを覚えるというもの。
宗司とて例外ではなかった。
一哉のことが気になって、心配で不安で仕方のない綾は、目の前の宗司の様子などお構いなしなものだから気づきこそしていないが、一哉の名前が綾の口から零れるたびに宗司の眉尻がぴくりと動く。

あいつは知っているのだろうか―。
こんな彼女の姿を―。

そして、一体何をしているのだろうか…。

そして、いくら宗司がフォローしているからと言って、何故勝手に傍を離れた者を主はずっと気にかける必要があるのか――

綾だけでなく、宗司の中でも一哉の行動によってもたらされる葛藤に似たものがあった。
知らぬは当人ばかり――
知らず知らずのうちに握った拳の所為で、短く切りそろえられた爪が手のひらの皮膚に食い込む。
それが訴える痛みにはっとして、宗司は冷静になると綾を促がして、自分の仕事を全うするべく、彼女を屋敷から綾が現在、籍を置いている大学へと送り届けるために外へ連れ出した。
言われるままに外へと出た綾だったが、心ここにあらずそんな言葉がぴったりと当てはまるような姿だった。

 

2008

0525

Vizard (56)




弟が口にした言葉に耳を疑った。
ドアに手をかけたまま振り返った先にあったのは、真剣な顔をした弟の表情だった。

「お願い…だと?」

怪訝な顔つきで聞き返した宗司のもとに、一哉は足を踏み出す。
敷き詰められた砂利を踏む音が響く。
お願いなどと今まで一哉の口から聞いたことなどない。
何があっても頭など下げぬ面白みも虐め甲斐もない弟だった。
これほどその言葉が似合わない存在がいるだろうか――

「一体、何を?」

常日頃、お願いなどと口にしない者のそれであれば、誰であろうとその内容が気になって当然だろう。
一体どれほど高尚なものなのか。それともくだらないものなのか。
聞き返した宗司は、まだ快諾するか拒否するかどちらとも決めていなかった。

「しばらく、お嬢様をお任せします」
「は?…何を言って……」

宗司の目を見据えてそう口にした一哉の表情は、冗談で口にしているとは思えないほど真摯な表情だった。
しかし、一哉の口にした言葉は冗談でも草壁の人間が軽々しく口にしていい言葉ではない。
その言葉の持つ意味が分かっているのかと疑った。

「理由は、今は口にできません。期間もどれくらいになるかわかりません。ですが、よろしくお願いします」

そう言うと、深々と頭を下げて見せた。
しかし、宗司には納得できない。できなくて当然だ。不確定要素が多すぎる。
一方的に職務を放棄すると言っているのだ。しかも、それがどの位なのかも分からないという。
はいそうですかと頷けるわけもない。
一哉も一哉で、はっきりと分かっていないものをそう簡単に口にすることはできない。
ただの自分の杞憂だけで終わるかもしれないし、己の推察が的を得ている可能性だってある。
そのどちらも否定することができないのが今の状態なのだ。

「そんな一方的な要求を私が聞くとでも?」

双方ともに、譲れない部分があるためににらみ合いになるのは、必至だ。

「聞けないと?」

喉の奥から搾り出すような声に、怜悧な瞳が向けられる。

「当然だ。お前、自分が言っていることの意味分かっているのか?」
「もちろん」

責めるような強い口調で告げられる言葉に一哉は、即答した。
分かっている。しかし、だからと言って、見過ごせるわけがないのだ。

「貴様…。自分の責務を放棄するということを分かっているのか!?草壁の人間として許されない行為だぞ!いくらお嬢様に目をかけていただいてるからといってやっていいことと悪いことがある!その判断もできないのか!」

宗司の一喝にも一哉は顔色一つ帰ることはなかった。
変わらぬ瞳で宗司を見ていた。

「事と次第によっては、今の任を外されるぞ」
「構いません。お忘れですか?一度は、今の任を外して欲しいがために勘当を要求した人間です」

激昂する宗司とは対照的に、一哉は冷静だった。
落ち着いた淀みない声で答えた一哉を、細めた双眸で睨みつける宗司。
己が望んだものを今、また簡単に手放そうとしている弟が憎い。

「貴様…」
「お願いします」
「お前の地位なんて戻ってくるときには、なくなってるぞ。私が獲ってやる」

そんな言葉でも一哉の顔色を―眉一つ動かすことはできなかった。
ただできたのは、俄かに明るくなったような声だった。

「ありがとうございます」

もう一度、深く頭を下げると一哉は宗司に背を向けて屋敷の中へと戻っていった。
そんな弟の後ろ姿を宗司は、彼の姿が屋敷内に消えていくまでずっと睨むような目線で追い続けた。





朝、屋敷を出ようとした綾は、そこにあるはずの姿が見えないことに不安を覚えた。
そういえば朝から全く姿を見かけていない。
玄関先に現れたもう1人に不安に駆られたまま、焦ったような顔つきで伺う。

「宗司…。一哉は?一哉がいないの」
「一哉は、別の用件で動くことになりました。何卒、ご理解ください」
「え…。聞いてない。聞いてないわ」

当然、綾は顔を青ざめさせて聞いていないということを繰り返した。
宗司は、綾の様子を見て奥歯を噛み締める。
何故、こうもあの弟は主の気を占有させ続けることができるのか。

「どうして?宗司は何か知ってるの?」
「私も詳しいことは…」

結局のところ一哉が何をするために綾のもとを離れたのかは宗司は知らないので、答えようもない。
また、いい加減なことを言うことだけは彼自身避けたかった。
言葉を濁すことしかできないもどかしさを感じつつもそれしかできない宗司は綾にそういうことしかできなかった。
綾は、一体自分を置いて一哉がどこに行ってしまったのか、それだけが不安だった。
このまま戻ってこないような気がして――
自分から離れたいと言っていた一哉の言葉を聞いているだけに気が気ではなかった。
夫である堺が帰ってこなくても気にしたことなどないのに、少し一哉の姿が見えないだけでその不安は言い様のしれないほど大きなものだった――





馴染みではあったが、しばらく訪れていなかった場所に足を踏み入れる。
相変わらずぼろぼろだった。
自分が顔を出せば、きっと彼女は驚くに違いない。
どれくらい時間が経過しているか――
ここに足を踏み入れなくなってからというものの一年は有に経過していた。
懐かしさすら覚える扉の前に立ち、ドアノブを回す。
ぎぃっと物々しい音が立ち、ゆっくりと戸が開く。
柔らかな身のこなしで置くへと進んでいくと、前回とは違い、広いデスクになめらかな曲線美を描く脚を乗せて口に銜えた煙草の煙をぼんやりと追いかけていた。
ドアが開く音に彼女はそちらに顔を向ける。
そこに懐かしい顔を見出して驚いた表情を見せた。
一哉は時間の経過など全く感じさせることもなく、女に近寄っていった。

「久しぶり」

にっこりと笑いかけて言う一哉は、笑っているようで笑っていない。
女は、机の上に投げ出していた両足を床に下ろしながら瞠目した瞳で一哉を見つめた。
彼女がよく知るそれとなんら変わらない笑みを浮かべているはずなのに、背筋があわ立つような気がするのは、なぜだろうか…。
女が返事を返すのを忘れて一哉を見つめていると彼は、続けた。

「調べて欲しいことがあるんだ」

ぴくりと女の顔の筋肉が動いた。

「もちろん、報酬は払うよ。これでも俺、金はあるから」

聞かなくても知っている。
以前、自分が調べていたことに対して、一哉に冗談半分で高くつくと言ってやったら、その数日後、己の口座に大金が振り込まれているのを見て、驚愕したことは記憶に新しい。
前から、底の知れない不気味な一面に薄々と感づいていた女だったが、その時に確信したのだ。
自分の手に負える少年ではないと――

それから、全く音沙汰がなかったというのに、急にふらりと表れて彼は、調べて欲しいことがあると彼女に言う。
一体何をという興味と、何をするつもりなのかという不気味な不安が彼女の中でせめぎあっていた。

 

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