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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

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2008

0526

Vizard (57)



少年と青年の狭間をさまよっているような年下の男相手に、いつまでも呆けていることは、女のプライドというものが許さなかった。

「何を調べろというのかしら?」

挑戦的な瞳と口の端を持ち上げて、意味深な笑みを浮かべて女は問う。
一哉は、女の様子に満足したように笑い返した。

「簡単なことだ。ある男の素行調査」
「あら?」

女は笑った。
すぐに、一哉の口にした“ある男”というのが、誰かピンと来たからだ。

「彼女のために?」

横目で意味深な視線を送ると不快そうに一哉の眉間に皺がよった。
そんな表情を見るといくらか気分がすっとする。
自分の方が優位に立っているように感じられるから…。

しかし、すぐにもとの表情に戻される。
つまんないと心の中で毒づきながら、女は一哉に問う。

「さっき、あんたが言ったように簡単なことだから、別にあたしじゃなくてもあんたで事足りるでしょ?」

デスクの引き出しからシガレットケースを取り出すとその中から一本煙草を取り出して口に銜えると火をつける。
深く息を吸い込んだあと、吐き出す。
紫煙が2人の間でゆらゆらと昇っていく。

「確かに、もちろん。俺も調べるさ。あんたにして欲しいのは、男の過去について調べて欲しい」
「過去?そんなもん調べてどうすんのよ」
「それは俺の勝手だろう。結婚してからの1年で付き合った女全て調べてくれ」

女の問いには、答えず要求だけを突きつける。
女としては、依頼とそれに見合う報酬が得られれば余計な詮索をしないのが信条だが、気にならないといえば嘘になる。
多少なりとも深くないとは言い切れない付き合いがあった相手だけに、教えてくれるのではないかという期待も込めて訊いたのだったが、彼は口を割らなかった。

「場合によっては、別の仕事も頼むかもしれない」
「ちょっとぉ、そんな曖昧な言い方じゃわからないじゃない。それに、そんな女いないかもしれないわよ」
「あんたの仕事は評価してるんだ。あんたがいないと言えばそれえを信じる。とりあえず、堺…いや、水原 正一の過去について調べてくれ」

自分よりも10近くも年下の少年の口から出てきた言葉に目をまん丸に開く女。
まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。
不遜といえば不遜。
自分より上、あるいは同等の人間に言われるならまだしも、高校生のまだ子供とも言うべき人物に言われるなど誰が想像しただろうか――

「くっ…」

呆けた顔で一哉を見つめていた女は、口に銜えていた煙草を手に持つと女は、顔を大きく下げた後、肩を震わしはじめた。
一哉が女の様子に険しい表情になる。
次の瞬間、一哉の聴覚を刺激したのは、耳をつんざくばかりの甲高い笑い声だった。

「くくっ……。あはは…。あーはははっ」

やがて笑いは乾いたものへと変化していく。
怪訝な顔つきで笑い続ける女を見つめていた一哉だったが、不意に女の鋭い視線とぶつかり、体を身構えた。

「評価ねぇ。まさか、あんたにそんなこといわれるとは思わなかったわ…」
「…」
「いいわ。調べてあげる」





一哉が、屋敷内に寄り付かなくなってからというものの一週間が経過しようとしていた。
日に日に焦りは大きくなっていく。
不安で仕方がない――

宗司からは、しばらく離れるというだけのことだった。
その言葉から戻ってくるということが単純に予想されるのだが、綾にはこのまま戻ってこないのではないかと不安でならなかった。
夫である堺など別に戻ってこなくても気にかけない。
誰よりも側にいて欲しいのは一哉なのに――
―それは、父親ですら例外ではない。
今、自分の側についている宗司よりも一哉に側にいて欲しい。
なのに、居て欲しい人はここには―自分の側にはいない。

姿も影も見えない。

時間の経過とともに不安は大きくなっていくばかり―。
このまま、帰ってこないのではないか――
もう既にどこかへ行ってしまったのではないか――
戻ってこないのでは――

そんなの嫌だ。
どこにも行って欲しくない。
自分の側から離れないで――
それだけでいいから。
それ以外に何も望まないから――

しかし、それを望む相手はここにはいない。



朝、出迎えに来た人物はいつもと変わらず――

「おはようございます。お嬢様」

少し前までの2人ではなく、1人だった。
今日も見えない姿が一層のこと不安にさせる。
どこにいるのか。
いつ戻ってくるのか。

どれだけ聞いても返ってくる答えは同じと知りながらも、聞かずにはいられなかった。
また、時間の経過とともに焦りも手伝ってか、その頻度も増えていた。

「ねぇ、一哉は?」

――



宗司は、いつものように出迎えた主人である綾に慣例どおり頭をたれ、挨拶を口にした後、顔をあげ、そこに映る彼女の不安げでいてどこか悲壮感を漂わせる表情に内心で溜息を零した。
――今日もか…と。
次に彼女から返ってくる言葉は聞かなくても分かった。
そして、自分の返す言葉もいつもと同じだった。
同じことの繰り返し。
自分の主たる仕事を放り出して、碌に学校にも通わずに一体何をしているのかと自分の義弟の行動を推察しようとしても何を考えているのかなど結局のところ彼には、理解なんてできなかった。また、しようとも思わなかった。
この機に主である綾の信頼を勝ち得ることができれば、自分はまた元通りの地位に戻れるとチャンスと思っていたのだったが、宗司の見通しは甘かった。
彼女の口から零れるのは、常に不在の人物。
最初の頃は、一日に一度程度だったのが、今では一日に何度も聞かれる。
回数が多くなり、それが毎日とあらば、当初は気にも留めないものでも、いい加減にもどかしさを覚えるというもの。
宗司とて例外ではなかった。
一哉のことが気になって、心配で不安で仕方のない綾は、目の前の宗司の様子などお構いなしなものだから気づきこそしていないが、一哉の名前が綾の口から零れるたびに宗司の眉尻がぴくりと動く。

あいつは知っているのだろうか―。
こんな彼女の姿を―。

そして、一体何をしているのだろうか…。

そして、いくら宗司がフォローしているからと言って、何故勝手に傍を離れた者を主はずっと気にかける必要があるのか――

綾だけでなく、宗司の中でも一哉の行動によってもたらされる葛藤に似たものがあった。
知らぬは当人ばかり――
知らず知らずのうちに握った拳の所為で、短く切りそろえられた爪が手のひらの皮膚に食い込む。
それが訴える痛みにはっとして、宗司は冷静になると綾を促がして、自分の仕事を全うするべく、彼女を屋敷から綾が現在、籍を置いている大学へと送り届けるために外へ連れ出した。
言われるままに外へと出た綾だったが、心ここにあらずそんな言葉がぴったりと当てはまるような姿だった。

 

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