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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0213
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2008

0408
どうだったのかという問いに一言で答えるならば――。



最悪。

惨憺。

散々。



というのは言い過ぎだろうか。
いや、言いすぎではないと深岬は思う。


本当に惨憺たるもので散々でその後の自分は2日酔いならぬ3日酔いを抱える羽目になるという最悪なものだったのだから。

「一言で言うなら…」
「言うなら?」
「んー最悪?」
「はぁあ?」

明らかに深岬の言葉の最後には、疑問符がついている。
楽しみにしていた深岬を知っているだけにその答えは彼にとって意外だったのかもしれない。

土日の休みを利用して一部とはいえ深岬の所属するバドミントン部のメンバーで企画された旅行。
それは、深岬にしてみれば惨憺たるものだった。
まず、初日に片思いの相手である坂上ののろけ話を聞かされてショックを受ける。
そしてそのショックを引きずったままだったために、その後の行程を楽しめるはずもなく。
その夜の飲み会の場で悩んでいる自分がバカらしく思えたことはいいことだったのかもしれないが、その後がいけなかった。
まるで憂さを晴らすかのように浴びるように酒を飲んでかっくらって撃沈。
最初こそ深岬の様子に面食らっていたが途中からは面白がって上級生が飲ませたせいもあり、散々迷惑をかけた上に翌日はほぼ死人の状態だった。
大学に帰ってきたはいいものの2時間以上も電車に揺られて無事でいられる自信もなく、またまだ飲み足りないとばかりに大学近辺の居酒屋で飲み会を敢行しようとした上級生達に引きずられるようにしてそのまま飲み会に強制参加を強いられたのだ。
そこで、2日酔いには迎え酒と無茶苦茶なことを言われながらアルコールに手を出したりしたものだから、今の惨状に至る。
何が嫌かというと記憶がはっきりと残っているからことのほか性質が悪い。
記憶を飛ばせていたらどれほど楽だったか。

これで楽しいといえるほうがどうかしている。
きっとそんなことが言える人間の頭はネジがどこかおかしいに違いない。
つくづく思い出してみてもありえないと思えるのだから―。
この2日間の記憶を思い出していた深岬の口からは自然とため息が零れる。

目の前で溜息を吐く深岬を津田は、じっと目で追いかける。その瞳は、いつものような楽しそうな瞳ではなく、鋭い瞳だった。
自分を置いて過去のことに思いを馳せている深岬に置いていかれたような気分になっているのか。それは、分からない。
ただ、詰まらなさそうな顔をしていることには変わり無い。
津田の自分を見る視線に気づいた深岬がまじまじと対峙する不機嫌な男を見返す。

「な、何よ」
「何で目の前に僕がいるのに、他のこと考えるのさー。めっだよめっ!」

眉間に皺を寄せてまるで子供に叱るように言う男に盛大な疲れを感じる。
もう空になったが、うどんの丼が乗ったトレーを横に退けるとがくりと身体を机の上に伏せる。

「あんたが聞いたんでしょうが。あんたが…」
「僕がつまんないのーっ!」
「ああ、はいはい」

おざなりな返事をすると「よいしょ」と言う掛け声とともに体を起こす。
すかさず、津田の突っ込みが入る。

「深岬ちゃん。おばちゃんみたい」

即座に机の下で深岬の足が津田の脛を蹴り上げ、津田が悲鳴をあげる。
恨みがましい目で見てくる男に深岬はふんっと鼻息荒く顔を横に向ける。
浪人していた学生は、かなりの割合で年を気にする傾向にある。
深岬も然りだった。深岬だけではない、部活などでも深岬の他にもいる。それに、ネタにもされやすいのだ。

「誰が、おばちゃんだって?」
「だって、よいしょっておばあちゃんみたいじゃん…痛っ!」
「まだ言うかっ」
「ごめんなしゃい」
「よろしい」

項垂れた犬のような津田を見て、溜飲を下げるのだった。

「深岬ちゃん。旅行中に何かあったの?」

少し深岬を伺いながらもまだ聞いてくるのに対して、何でそこまで知りたがるのかと相手の顔を怪訝な目つきで見返す。
しかし、にこにこと笑うだけの表情にいつものことながら読めない。
読めないから逆に気持ち悪いし、何だか負けているような気分になって何となく腹立たしい。

「その顔むかつく」
「えーっ!?どーして?」
「どーしても」
「僕は、深岬ちゃん好きだよー」

恥ずかしげもなく恥ずかしい台詞を平然と蕩けそうな笑顔で言う。
坂上のことが好きで、津田のことは何とも思っていない深岬ですらくらりときてしまいそうになる。それこそそんなこと言われた日には、よろめく女がどれだけいることか。
しかし、津田が惜しげもなくそう言うのは深岬に対してだけなのだ。
そんなことは知らない深岬は、津田が誰にでも言っていると思っているだけに勘違いしないようにとそっけない態度を知る。

「ああ、はいはいどーも。それは、彼女に言ってあげなよ」
「彼女にも言うけどね~。深岬ちゃんは特別」

確かに、特別といわれれば特別な扱いは受けている気にはなる。
深岬の姿を見つければ自分の横にいるのが友人だろうが彼女だろうがお構いなしに駆け寄ってくるのだ。
その時の深岬は、いつも犬に懐かれている飼い主のような気分になってしまうのだが…。
特に津田のその姿を目にしたときの彼女やそれらしき人物と思しき者からの視線にはある種、痛いものがある。
彼女達に思うところはあるのだろうが、それでも深岬が面と向かって何かを言われたことはない。津田が上手く抑えているのかそれとも深岬など敵のうちにも入らないと見下しているのかどちらかは定かではないが、何故これほどまでに懐かれるのかは未だ不明というところ。

「そんな特別いらんって前から言ってるでしょうが」
「知ってる~」

でれっと笑う姿をこの男を追い掛け回している女達に見せてやりたいと何度思ったことか。

「こんなところでくっちゃべってないで、さっさと授業行けば?」
「深岬ちゃんは?」
「気持ち悪くてそれどころじゃない」
「何で?」

お前は何でも知りたがる2歳児かと心の中で突っ込みながらぶすっとした口調で「3日酔い」と小さな声で答える。
深岬の顔は真向かいに座る男には向いていなかったが、見えなくても分かるものは分かる。津田の視線をこれでもかというほどに感じる。
そして、ぶっと噴出すような声が聞こえてきたと思ったら次の瞬間には、大笑いされてしまう。
その笑いに少なからず羞恥心を覚える深岬だった。
顔を赤くして未だ笑い続けている男をきっと睨みつけるとぴたりと笑い声は止まったのだが、顔の緩んだ筋肉だけは治らなかったようだった。
にこにこというよりもにやにやという形容詞がぴったりと当てはまる顔つきで深岬を見返す。

「くくっ…一体、どんだけ飲んだのぉ?」
「うるっさいなぁ、もう」
「3日酔いって普通の人はそうそう経験しないでしょー」
「さんっざん、のろけ話聞かされて悔しかったから浴びるように飲んで絡んでやっただけよ」

踏ん反り返って言う深岬にとうとう、津田の整った顔は見事に崩れた。

「自棄酒?うっわー迷惑ー」

それは言われるまでもなく分かっている。
翌朝には、大謝りに謝り倒していい加減にしろと言われたくらいだ。
酔っ払うと面白いと最後に言われたのだが―。
それは、深岬にとっては嬉しくも何もない賛辞だった。褒めて貰えるなら別のところがいいと思うのは自分の我侭なのだろうか――。

そんなことを目の前で大笑いする男に聞けるわけもなく恥ずかしさと何でこんなに笑われなきゃならないのかという次第に腹立たしさが湧いてくる中笑い声が納まるまでそのまま羞恥に赤らめた顔ながらもぶすっとしたような表情で笑いこける男を見続けた。
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2008

0407
「うー、気持ち悪…」

それでも腹は減る。
しかし、一日前に比べると格段にましだった。
深岬は今、人生発の3日酔いなるものを経験していた。

経験なくてもいいものなら経験しなくてもいいものだ。寧ろ、このまま一生したくなかった。

微かに残る気持ち悪さを抱えながら大学のキャンパス内を歩く。
自然と足取りも重たい。

昨夜は、深岬の家に泊めてもらったので、ぎりぎりまで寝ることができたのだが、それでも酷い状態の深岬を見て、家主である雪子は寝てていいと言ってくれたのだが、深岬自身授業があったのと同じように雪子も授業があったので断って雪子の家を出た。
荷物だけは邪魔になりそうだったので、預かってもらったのだが…。

「気持ち悪いし…お腹すいた…」

一人で歩いている深岬の言葉を聴いてくれるものもいないというのに、気分の悪さが少しでも和らげばとぶつぶつと呟きながら歩く。
遠目から見るならば、立派な変質者の仲間入りである。

時計で時間を確認してみるともう授業が始まっている時間だった。
しかし、今の深岬の状況でとてもじゃないが授業なんて受けられそうになかった。
たとえ教室に行ったとしても、気持ち悪さとの格闘で教授の声など左から耳へ逃げていくか或いは、そもそも入ってこないかのどちらかだろう。
それならまだいい。
空腹時の人間の生理的な反応である腹の音が鳴ったりしようものなら、恥ずかしさでしばらく不登校にすらなりそうだ。
迷った末に学食に向かう。

「とりあえず…何か…入れよ…」

のっそりとした亀の歩みで学食内に入っていく。

その日のメニューが並べられるショーケースの前に立ち、何を食べるか選ぶ。
しかし、そこに並べられた偽者の料理ですら深岬の気分の悪さに拍車をかける。
あっさりとしたものならまだいい。しかし、どこの大学の学食にでもあるだろう。油物のメニューは存在する。
むしろ麺類か油物かに偏りがあるのがほとんどだ。
想像しただけで吐き気が再来する。一種の視界の暴力と言ってもいいのではないだろうか。
極力視界に入れないようにして、深岬はその前から離れると麺のコーナーへと向かって何も入っていない素うどんを頼んだ。

2コマ目の授業の始まったばかりの時間のために、まだ人もまばらで昼になると学生で混雑するはずのその空間は驚くほどすいている。
ちらほらと座って食事をしているのは、深岬と同じように講義の前に腹ごしらえをしに来た学生に違いない。
ただ、違うのは深岬とは違い決して3日酔いなどではないだろうということだ。
適当な席に座ると湯気の立つどんぶりの中のうどんに口をつけ始めた。

不思議と食べている間は、気持ち悪さが消えてくれるから不思議だ。
少しでも不快感から解消されたいがために食べる速度は自然とゆっくりになる。
いつもより時間をかけて食す深岬が丁度半分を食べ終えるか終えないかというくらいの頃に、自分の視界が暗くなるのを深岬は感じた。
不審に思って顔を上げると座っているテーブルの真横に立つ長身があった。
目を細めてその横に立っている人物の顔を確認する。

深岬がそれと認識するのと同時か、にこりと相手が笑みを浮かべた。

「やっぱりー」

女なら放っておかない。おくほうがどうかしていると思えるほど整った配置に目鼻立ちの男。
見まごうことなき、何故か自分に懐いている津田 旭その人だった。

「あんひゃ…ひゃにひへんの?」

うどんの麺を口に入れたまましゃべる深岬の声は何を言っているか全く判別できない。
津田も同じだったようで、くすくす笑いながら深岬に言う。

「深岬ちゃん。何言ってるかわかんなーい」

その指摘に、「そりゃそうだわ」と納得して急いで口の中のものを咀嚼して飲み込む。
ごくりと嚥下した後、水を飲みながらもう一度傍にたっている男に確認する。

「あんた何してんの?」
「そーゆー深岬ちゃんこそ何してんの?」
「見てわかるでしょ?朝ご飯食べてるのよ」
「うん。わかる」
「わかるなら聞くな」
「だからー、授業始まってるのに何でこんなところで悠長にうどんなんか食べてるのかなぁって思ったんじゃん」

深岬のそっけない態度はいつものことだが、答えが自分の期待したものと違ったようでむぅっと眉間に皺を寄せて再度問う津田。

「その質問そっくりそのままあんたに返すわ。あんたこそ、何で授業始まってるのにここにいるわけ?」
「だって、遠くから見たら深岬ちゃんに似た人がいると思ったんだもん」
「それだけ?」
「それだけー」

えへへと笑ってみせる姿は、いつも思うのだが大型犬を彷彿とさせる。

「授業出てなさいよ」
「えー。深岬ちゃんいないのにぃ?」
「私のためにノート取っておいて。それで、私に貸せ」

何でそこに自分の名前が出てくるのかわからない深岬は、内心げっそりしたように思いながら津田に横柄な口調で言う。
別段、気分を害した様子を見せることもなく―寧ろ、にこにこと笑顔のまま津田が答える。

「大丈夫大丈夫何とかなるって」
「…何その自信」

呆れたように言いながら、津田から視線を外して中断していた食事を再開する。
津田は、深岬の向かい側の席に座ると黙ったまま深岬がうどんを食べるのを待っている。
見られながらの食事は居心地が悪い。

「何?」
「見てるだけー」

という答えに、昔そんなCMがあったなぁとどうでもいいことを思い出す。
そして、すぐにそんなことを思い出している場合かと自分で自分に突っ込みを入れてみる。

「あのさぁ。待ってなくていいから授業行ったら?」
「んーん。深岬ちゃん待ってる」
「だから待ってなくていいって」
「いいから、いいから」

どこがいいのかと思うものの、深岬に対してだけだがぼけぼけした喋りや外面に似合わない意外に頑固な面が目の前の男にはあるのを知っているだけに深岬はそれ以上言うのをやめた。
ただ、津田が待っているからといって食事のスピードをあげるかと言えばそんなことはない。
津田が現れる前と同じスピードで平らげていく。
その遅すぎるスピードにも津田は何も言わずに時折深岬に話かけながら、大人しく待っている。

全く持って津田という人間が未だによく分からない深岬だった。

後、少しで食べ終わるというところだった。

「旅行どうだったの?」

と津田に聞かれたのは…。
思わず深岬の動きがぴたりと止まってしまったのを津田は見逃さなかった。

「何かあったの?」

目ざとい男は、知らない振りなどしてくれる訳もなくずぼっと深岬の踏み入られたくないところまで踏み込んでくる。
思わず天を仰ぎたくなる。
上目遣いに津田の顔を確認すると興味津々という表情でこちらを見ている。
見た後に、「うわっ」と思ってしまう深岬だった。
聞かなかった振りをできたらどれだけ良かっただろうか。
しかし、深岬がそれを実行するには些かタイミングを逸していた。

2008

0406
それからというもののおいしいものを食べても、楽しいはずの会話をしていても何をしても気分が乗らない自分がいる。
話は合わせる程度。
食事も咀嚼するだけで、味なんてうろ覚えだ。

「どーしたの?」

その声が自分にかけられたものだと気づくまでに時間を要した。
自然と下がっていた顔を上げるとそこには、野坂がいた。

手には、酒の入ったコップが握られている。
同じものが深岬の目の前にも存在している。
場所は、宿泊する安いホテル。
そのうちの一室で恒例の酒盛りだ
部の人間が集まって飲みに発展しないほうが彼らにとって異常だ。
今も、アルコールが入ったことで異様に騒いでいる者が数名。まだ、それほど酔っていないものは、大人しく飲んでいたり、すでに酔っ払っている者にさらに酒を飲ませたりと各人がやりたい放題。
そこへ入っていけるほど深岬の気分はいいものではなく。
最初、やめとくと言って自分達に割り当てられた部屋で寝てようと思ったのだが、同室の雪子に引っ張られるようにして連れてこられた。
どうも浮かない表情をしている深岬を心配してか始まったばかりの頃は深岬の横にいて大人しく飲んでいた雪子だったが、常に飲んでは騒ぐ中心人物といえる彼女が大人しくしていられるわけもなく。
気づけば、騒ぎの中心に居て他の者と浴びるように酒を飲んでいる。
そこには、坂上の姿もある。

野坂の声に顔をあげた深岬だったが、取り繕うような笑みを浮べたが、それは見事に失敗していたようだった。

「何でもないですよ」
「坂上?」
「え…と」

そこで、はっきりと違うといえればまだ良かったのかもしれない。
しかし、悲しいことに深岬は言葉に詰まってしまった。
それほど飲んでいないとは言え、アルコールの影響も手伝っているのかもしれない。

「やっぱり」

苦笑を浮べながら深岬の横に腰を下ろす。
野坂の動きを深岬はただ目で追いかけることしかできなかった。
彼の顔が赤くなっているのは、アルコールの所為だろう。
深岬は、悲しいかなどれだけ飲んでも顔色が変わらないタイプの人間だ。

「車で何かあったの?」

答えに逡巡してしまう。
野坂は、深岬の気持ちを知っている。
困ったように野坂を見て、少し離れた位置で騒いでいる坂上を一瞥してまた、野坂を見る。
不思議そうな表情を浮べてこちらを見てくる野坂をじっと見つめながら、どうせ相手は自分の気持ちを知っているのだからいいか…と思いぎゅっと噛み締めて閉じていた唇を開いた。
それでも言い出すまでには、時間がかかったのだが野坂は、急かすこともなくただ黙って待っていてくれた。

「…あったというか……別に坂上さんは悪くないですよ…私が勝手に落ち込んでるだけだし…」
「そうなの?俺は、てっきり何かされたのかなぁなんて思ってたんだけど」
「いや…福田さんと坂上さんの会話で…」
「何?」
「坂上さんの女癖の悪さと彼女ののろけ話を聞かされただけなんです。ほんと、ただ…それだけで」
「ショック受けちゃった?」
「のろけ話がちょっと…」
「そうか…」

聞き出したはずの男は、頷くだけで何も言ってはこない。
しかし、寧ろそれが深岬にとって心地よかった。
下を俯いたままの深岬の頭にそっと大きな手が触れる。
童顔な顔つきも手伝ってか見た目はひょろひょろとしているように見える野坂だが、その体躯にはしっかりとした筋肉がついている。
以前、練習後にふざけて「脱げば私、凄いんです」などと言って上半身裸になって遊んでいた時に深岬も目にしているのだが、その身体つきは筋肉質な身体である。
外見にそぐわない大きくて無骨な手にひどく安心感を覚えて、不覚にも泣きそうになる。
ただ、事実を聞いただけだというのに―。自分に落とした影は大きい。
分かっていたはずなのに―。

そんな自分が嫌になる。
のろけ話を聞かされたショックとそれに一々反応して落ち込んでいる自分への苛立ち。
感情のコントロールがうまくできないはがゆさ。

「てっちゃーん!!浮気はいかんよ浮気は!彼女に報告しちゃうよ~」

はしゃいでいる者たちとは一線を隠してどこか重たくシリアスな雰囲気を纏っていた深岬と野坂だったが、それは見事に1人の男によってぶち壊された。
大きな声で叫んだ後、下を向いていた深岬の上にどっかりと体重を乗せてくる。
自分より10キロ以上は重たい男の身体に当然、そんなものが降ってくるなんて思いもしなかった深岬の身体は前のめりに崩れる。
小さな悲鳴とともに―。

「うっ…いたっ…」

酒臭い。
上に、頭がビンの角か何かでぶつけたかのように痛い。

「2人でこそこそエロイんだからー」
「重い…」
「もー。俺も混ぜてよー」

男によって潰された深岬の悲鳴など圧し掛かっている男には届いていないようだった。

「福田さん。深岬ちゃん潰れてます」
「あ…」

見かねた野坂の指摘で初めて気がつきましたとばかりに声を発する福田に圧し掛かられていた深岬のネジはどこかへと消えてしまったようだ。

「重たいっつーのっ!!」

力よく身体を起こして上に圧し掛かっている福田の下から抜け出る。
圧し掛かっていた男に向き直るときっと睨みつける。

「人の上に圧し掛かって何を悠長に会話してんですかっ!?」
「怒っちゃやぁよ」

と言って小首を傾げつつウィンクする様は、23、24のむさい男がしてもかわいげのかけらもない。寧ろ不快感そのものだけが残る。
顔を顰めた深岬の眉間によった皺を人差し指でつんつんと押しながらまたもや酔っ払いは深岬の怒りを煽る。

「カルシウム不足かなぁ?牛乳は大事よー。ほらぁ、怖い怖いおばさんになってる。皺増えちゃうよ~」

失礼きわまりない言葉。通常なら軽く笑って流せるものも今の深岬にそんな余裕はなかった。
無言で立ち上がると先輩にあたる男を足蹴にして床に転がすと立ち上がってひっくり返った蛙のような福田を上から睨みつける。

「ああああぁぁぁ!!もうっ!悩んでたのがバカらしいっ!こんなバカ騒ぎしてるところでうじうじ悩む私が悪いってのはわかってるのよっ!」

突然、声を張り上げた深岬に驚いた視線を寄越すのは、何も転がされた福田だけではなかった。
部屋中の視線が深岬へと向いている。水を打ったように静かだった。
しかも、頭に血が上っている深岬は一向に気にした様子もなく、声を張り上げた所為で息があがり、肩を上下させながら息をしたまま転がる福田を見つめる。
そして、彼の右手に握られたボトルに目が行く。
ずいっと足を踏み出して福田に近づくと彼の手からボトルを取り上げる。
そして、ボトルの蓋を取って開けると口をつけ、ビンを一気に傾ける。
中に入っていた液体がどんどんと深岬の胃の中へと消えていく。

「うわっ!それ原液!」
「ああぁぁ!さすがにそれは、ダメだって!」
「深岬っ何してるの~!?」

深岬の突然の暴挙にただ呆然と彼女の行動を見ていた周囲だが、慌てて止めに入る。
取り押さえられるようにして手にしていたビンを取り上げられる。

「こうなったら飲んでやるー!」
「ちょっと、どうしちゃったの?野坂さん何したんですか?」
「俺は、何も…。強いていうなら福田さんだよー」

飄々とした口調で野坂が今だ転がりながら目を点にして深岬を見つめる福田を指差すと全員の視線が福田に向く。
何のことかさっぱり分からない福田は、手を顔の前で何度も振り「知らない」ということを主張する。

「ま、いんじゃない?」

と軽く笑いながら野坂は立ち上がると近くにあったコップを手に取って深岬に差し出す。

「あ、ありがとございます」

礼を言えるくらいには落ち着いた深岬だったが、そこにジュースで割った焼酎を注がれるとそのまま勢いよく一気飲みをしてしまう。
深岬らしからぬ飲みっぷりに上級生達は目を丸くしていたが、誰かが笑いだすと同時に元の騒がしい空間へと戻っていった。

「一体どうしちゃったの?」

時間を置いてそう聞きに来たのは坂上だった。
その時には、雪子を含めて数人の上級生と飲む―もとい飲まされていた深岬は据わった目で坂上をじぃっとにらみつけた後、そのほっぺたをぎゅーっとつねりあげた。

「いひゃい!いひゃい!ひゃんひゃよー」
「いけーもっとやってやれー。女の敵ー」

はやし立てるのは、近くにいた福田だった。
彼は、悪乗りして深岬と同じように坂上の頬をつねり上げた。
元はといえば元凶は、坂上なのだ。
なのに全くそ知らぬ顔でそんなことを聞いてくる相手に多少なりともむかつきを覚えるというもの。

「はい、そこまでー。深岬は、こっちで大人しく飲みなさい。福田さんはそのまま思う存分やってください」

雪子が深岬の手を取り上げるようにして、坂上から引き離しながら言う。
そんな彼女の言葉に、福田が坂上に乗り上げるようにして悪ふざけを開始する。

「まかせとけいっ!」

という言葉と坂上の悲鳴だけが、大きく部屋中に響きわたった。

2008

0405
しばらく他愛もない雑談を繰り返していた深岬と坂上だった。
坂上の話を聞いている限りでは、最近の自分の付き合いの悪さを暗に責められているようで居心地の悪さを感じ始めていた。

「うー、まだかぁ?」

そこへ、まるで助けが入ったかのように寝起きのどこか惚けた掠れた声が聞こえてくる。

「あ、起きました?」

後部座席から聞こえてきた声にバックミラー越しに坂上が確認しながら苦笑する。
助手席と運転席の間から顔を出す福田。

「今どこ?」
「あと、少しです。もう二日酔いいいんですか?」
「んー、大丈夫っぽい。これで飲める」

満足そうに言う福田にまだ飲む気かと脱帽する深岬に対し、坂上が笑いながら言う。

「福田さんなら2日酔いでも飲むでしょ。迎え酒ーとかいいながら」
「正解ー」

坂上の答えにおどけた調子でいいながら、2人で声をあげて汚く笑う。
―何だこの人たちは…。

とばかりに冷ややかな視線送る深岬だった。
そんな深岬の視線に気づいたのが、福田が深岬の方に顔を向けると半笑いで言う。

「いやだー。退かないでよ。オジサン傷ついちゃう」
「じゃあそのまま傷ついててください」
「いや。アレだね。深岬ちゃんはSだね。Mのオジサンにはたまらんね」
「福田さん。もっと退いてます」

坂上の指摘にも楽しそうに声をあげて笑うだけ。まだ酔っているのかと言いたくなる。
これが先輩でなかったら間違いなく言っていただろうに―。
しかし、福田はころっと顔つきを変えると深岬から今度は前を向く。

「後どんくらい?」
「もう、すぐじゃないですかね?」

おどけてたかと思うと急に真面目な顔をして坂上と会話をする。
そして、真面目になったかと思えば急にふざけたようなことを言い出すのだ。
それが福田という男の面白さでもあり、坂上も懐いているのかもしれない。

「うおぉぉ!牡蠣が俺を呼んでるー!」

狭い車内、それも近くで叫ばれては五月蝿いというもの。
思わず顔を顰めた深岬に楽しそうに笑う坂上。

「別に牡蠣だけじゃないでしょ」
「いーや。俺は牡蠣を目当てにきたんだ。牡蠣牡蠣牡蠣。腹壊すほど食いたいね」
「酒もあるらしですよ」
「うっほー。牡蠣、酒。牡蠣、酒」

ますますテンションの上がる福田。
しかし、ぴたりとその声は止まってしまったので、深岬はどうしたのかと横にあるはずの福田の顔を探すと運転席のシートに身体をもたれさせながら力無い声で呟くように言う。

「…叫びすぎて……腹減った」

流石にこれには笑わずにはいられなかった。

「坂上、飛ばして急いでくれや。俺の腹の緊急事態」
「そのまま緊急事態でいてください」
「そんな冷たいこと言うなよー。お前もSか」
「その、人をSかMかで括るの止めましょうよ」
「いんや。止めない。俺はやめないぞー。それよりも急げー」
「無茶言わないでください」
「何て薄情なヤツなんだ」
「腹空かしてた方が旨さ倍増ですよ」
「それは、そうだな。よし、ゆっくり行けー」

失礼だとはわかっているが、バカだとしか思えなかった。
笑いを必死に噛み殺していると福田の視線が深岬に向く。

「深岬ちゃん、どうしたんだ?」
「いや、福田さんのせいでしょ」
「俺が何をした?」

本人は、全く自分の言動というものを理解していない。

「まぁ、いいでしょ。そっとしておいてあげてください。それが、親切というものです」
「ん?それもそうか?それで、牡蠣のほかに何があるんだ?」

牡蠣牡蠣と五月蝿いくらいに連呼していたのは自分なのに、彼の中では数分前のことすら抜けているらしい。
福田という男に慣れている坂上ですら、苦笑を浮べている。

「海鮮ものなら何でもうまいっすよ」
「その言い方だと前にも行ったことがあるような言い方だな」
「あー、今から行くところ俺が前に彼女と旅行したときに行ったんですよね。それを雪子たちの前で話したら行きたいって言われてじゃあ旅行でも企画して行くかってことになったんですよ」

坂上にしてみれば、聞かれたから経緯を答えただけに過ぎないのだろう。
しかし、深岬は彼の口からでてきた“彼女”という単語に動揺を隠せなかった。
動揺というのは大袈裟かもしれないのだが、とりあえず平静を装ってはみるものの内心穏やかではなかった。
そんな深岬の様子に坂上も福田も気づくことなく会話を続けていく。

「お前…それ本当に彼女かぁ?」

怪しむような福田の顔には、下卑た笑みが浮かんでいる。
一方、聞かれた坂上は慌てたように早口になっていた。

「何言いだすんですか?彼女に決まってるでしょ!」

心なしか上擦っているように聞こえなくも無い。
坂上の慌てた様子を面白がってさらに続ける。

「その日だけ彼女とかじゃないのかぁ?深岬ちゃん知ってるか?コイツは本当にひどい男だよ」

後ろから伸びてきた手がぽんと深岬の左肩に触れる。

「どう、ひどいんですか?」

そう聞き返すのが今の深岬には精一杯だった。

「こいつの彼女見たことある?」
「ありますよー。凄く可愛い人ですよね」
「そう!それもおかしいんだけど…。そんな可愛い彼女がいるのに…こいつは合コン三昧だし、浮気はするし…。勿論、エッチだってしちゃうんだ。こういうのを女の敵というんだ。このろくでなしー」

もともと、色んな人から女癖が悪いという話は聞いていた。
だから、深岬からしてみれば今更なのだが…。

「ちょっとあることないこと言いふらさないでくださいよ」
「俺がいつ嘘を言った。いい加減認めたらどうだ」
「あのですね…今向かっているところは、本当に彼女と行ったところなんですって。昨日、もっかい行くって話をしたら、ずるいって言われたんですから」
「連れてこればよかったのに。可愛い子なら大歓迎だ」
「嫌ですよ」
「ケチなヤツめ」
「何とでも言って下さい。聞き飽きるくらい聞いてますから」

と坂上の口ぶりからもう何度も言われているのだということがわかる。

「何でこんな男がいいのか」
「それは、俺も思いますよー」

でれっと笑いながら答える坂上が気に入らなかったのだろう福田は後ろから坂上の頭を強く叩いた。

「痛っ」

と言いながらもどこか嬉しそうな坂上。
見ているのはつらかった。
だが、それで終わりではなかった。

「聞いてくださいよ。この前もねー……」
「何だ?」

と彼女ののろけ話をその後、目的地につくまで延々と聞かされた深岬と福田だった。
福田はヤジを入れながらも楽しんで聞いていたようだったが、深岬には到底そんな気にはなれずに気分だけがどんどんと沈んでいった。
ふと途中で坂上と福田から視線を逸らすように窓の外に目を向けた時に、窓ガラスに反射する自分の顔を見ては、我ながらひどい顔だと思った。

漸く目的地について車から降りてもとても楽しそうな表情を浮べることはできなかった。

2008

0404
知りたいと思うのは、相手のことで知らないことがあるのが嫌だから―。
知りたくないと思うのは、自分ではないほかの誰かと彼の親密さを見せられているように感じて落ち込んだり、嫌な気分になるから―。

正反対のベクトルを持った欲がせめぎあう。
いつだってそうだ。
知りたいと思って知って、後悔して。
知らないと気になって手につかなくて、知りたいと思ったり―。

「…ちゃ…、深岬ちゃん」

自分の考えにとらわれていた深岬は自分の名を強く呼ぶ坂上にはっとしたように顔をあげた。
その拍子に怪訝な顔で自分を見ている坂上の視線に気づき、引きつったような笑みを浮かべた。

「眠い?眠いなら寝てていいよ。福田さんみたいに…」

と言いながら背後に視線を向けた坂上の真似をして後部座席を振り返るといつの間に寝ていたのだろうか、鼾をかいて寝ている福田の姿がある。

「別に眠くないですよ。ちょっとぼうっとしてただけです」
「本当に?無理しなくていいよ。朝早かったんでしょ」
「早かったのは、早かったけど…運転してくれてる坂上サンに失礼だと思うし…」

それは、少しでも相手に良く見られたいがために出てきた言葉。
坂上は揶揄するようにバックミラー越しに後部座席を見る。

「だったら、福田さん大概失礼な人ってことにならね?」
「あ、いや…。そういう意味じゃなくて…」
「ま、いいけど。俺も何か話してるほうが楽しいしね。流石に2人に爆睡されちゃあ詰まんないし」

しどろもどろになる深岬を軽く笑いながらもまるで深岬の言葉をフォローするように言う坂上にドキリとする。
こういう所に弱いのだ。
自然と顔が熱くなる。幸いにも運転中の坂上の視線は前を向いていて深岬に向いて深岬を向いていないため気づかれることはなかった。
それでも誤魔化すように慌てて次の話題を探した。

「最近の飲み会ってどんな感じなんですか?」
「ん?」

深岬のぼんやりとした核の部分がつかめない質問に坂上の口から腑抜けたような声で聞き返す声が漏れる。
我ながら、何を聞いているのかと思うがそれしか思いつかなかった。
少し早口ながらも何を聞こうとしたのかを伝える。
その落ち着きのなさが髪を執拗に何度も耳に掛けなおす仕草に現れている。

「小島さんと慶子さんが揃って参加してるならなんだか雪子が凄いことになってそうな気がして」
「ああ。凄いも何もないぜ」

と答える坂上の声はどことなくげっそりとしたものだった。

「具体的には…」

知りたくなるのは、野次馬根性かそれとも友人を心配してか。
答えは半々というところだろう。

「大荒れ」
「やっぱり…」
「雪子のヤツも最初は、遠慮?っていうのもアレか…悪いと思ってるのか。小島にはそんなに近寄らずにさ他のヤツと話したりしてるんだけど、酒が入って酔ってくるともうダメだわ。理性がきれた状態っつーのかなぁ。絡み酒」

坂上の説明を聞きながら、その光景がまざまざと思い浮かんでくるようで声には出さずに心の中で「うーわー」と感嘆の声をあげた。

「慶子さんの性格だからさ、俺らの前じゃ小島の彼女ですっていう面しねぇじゃん?」
「ああ、はい。確かに…」

脳裏に浮かんでいる友人の姿を頭から追い出して、今日の旅行には参加していない上級生の姿を思い描いた。
確かに坂上の言うとおりだと頷く。
練習後に一緒に帰ったりする姿はよく見かけるが人の目があるところ即ち、自分や他の部員の前ではそれほど親密な様子を見せないのは確かだ。
それは、互いに話あった所為でそうなっているのか自然とそんな形になったのかは小島と慶子の2人にしかわからないだろう。
でもそのお陰か、練習や部活の中では2人の関係が少なくとも悪影響を与えている様子はない。
だからこそ雪子も平静を保っているように見られるのかもしれない。

「だから、雪子も調子にのっちまうんだよなぁ」
「そんなに凄いんですか?」
「べったり」
「ハハっ…」

自然と乾いた笑いが零れる。
しかし、それも長くは続かなかった。

「トイレにいくのも一苦労だってリョウちゃん嘆いてたし」

そこまで酷いのかと絶句した。
運転する坂上の顔を食い入るように見つめる。

「ヒドイだろ?」
「それで、慶子さん何も言わないんですか?」
「慶子さんはさー。仕方ないって言ってるけど、結構リョウちゃん2人になったときに言われてるみたいでさー」

そりゃあ、彼氏がいくら酔っているとはいえ違う女にべったりと纏わりつかれている姿を見るのは彼女としてはさぞかし嫌だろうと深岬も思う。
逆にそんなのを見せられて何も思わない寛容な彼女がいるのならそれこそ紹介してもらいたいくらいだ。

「今日だってさ。リョウちゃん来たがってたんだけどさ…。当然、リョウちゃんきたら慶子さんが来るし、仮に慶子さんが来なかったとしても今の雪子じゃあなって、止めとくって適当な理由つけて断ってたみたいだぜ」

そんな話を聞かされた後では、こなくて正解だと思わざるを得ないだろう。

「慶子さんとリョウちゃんも何時まで持つかなぁ」

とぼやくように言うのは、誰しもが思う疑問だ。
深岬も声にこそ出さなかったが、頷くことで答えた。

「しかも最近、リョウちゃんと望がやたら仲いいしなぁ」
「え?」

予想外の言葉に思わず大きな声をあげて反応してしまう深岬。

「なんかあれ…望がって言うより、リョウちゃんが気に入ってあれこれちょっかいかけてるっぽいしなぁ」

丁度信号が赤になったためハンドルに乗り上げるように身体を前に倒しながら、目の前の横断歩道を渡る人を視線で追いかけながら何気なく口にする。
深岬自身、坂上ばかりに目がいく状態だから小島の様子など気にしたこともなかった。
それ以前に、見目のいい男だが言葉を交わすこともほとんどない。それでも他の一年生に比べると雪子と親しいということもあり、格段に多いのだが、深岬は小島と一緒にいると何となく居心地の悪さというようなものを感じてしまう。
何を考えているのかわからないという節もある。
だからこそ、雪子にしろ慶子にしろ小島の見目以外にどこがいいのか分からないのだ。

「そんなの余計に雪子が荒れるじゃないですか。それに、慶子さんもあんまりいい気しないと思うんですけど…」
「そうなんだよなぁ。リョウちゃんも気づけっつーんだよなぁ」

溜息とともに坂上が言うのと同時に、信号が赤から青へと変わったので、身体を起こして車を走らせる。

「一回、見てみてよ。凄いから…。凄いっつーか、凄惨?」
「聞いただけで想像できるからいいです。どうせ、雪子の処理を私にさせる気でしょ?」
「あたりー」

悪びれることなくにっと犬歯を見せて笑う。
恐らく今は坂上が被害を被っているのだろうと深岬には想像がつく。

「最近、理恵が忙しいみたいであんまり飲み会こねぇから必然的に俺が雪子の面倒見なきゃなんないわけよ?わかる。この飲みたいのに飲めない辛さ」
「それを私にやれってことでしょ?」

坂上の口から出た雪子や坂上と同じ学年で雪子と特に親しくしている上級生の顔を思い出しながら、横目で坂上の顔を確認すると相手は、苦笑を浮べた。

「いいじゃん?ま、それもあるけど…深岬ちゃんと飲みたいわけよ」
「…」

ここでこの台詞は卑怯だろうと思った。
そんなことを言われた日には、冷静さを欠いても仕方ない。
自然と気分が浮上していくのがわかる。

「最近、飲み会にも来てくれないからさ…。まぁ、リョウちゃんと雪子があんなんだから4月頃にしてたような飲み会は無理だけどさ…」
「…あ、はぁ。機会があったら…でも、私が行っても行かなくても別に変わらないですよ。」

物凄く嬉しいのに、深岬の性格も災いしてか口から出てきたのはそんなつれない台詞だった。
しかし、表情は明らかに言葉とは違っていた。
それを坂上が見ていたかどうかは定かではないが…。

「そんなことないって…」
「とか言って望や麻美の方がいいんじゃないですか?」

口にした後に、これではまるで2人に嫉妬しているみたいではないかと思い至る。いや、間違いなく嫉妬をしているのだが…。
しまったと思いながら横を確認するが相手は別に変わった様子は見せなくてほっとした深岬だった。

「深岬ちゃんも一緒だよ?」

ほっとした深岬だったが、その後の坂上の台詞に気にはかけてもらっていると思いつつも彼女達と同列であることにショックを感じずにはいられなかった。
そして、わかっているのだ。
望や麻美と同列に並べるような台詞を吐いておきながら、決して同列ではないことを―。
その証拠に坂上から特別に連絡が来るようなことは滅多にないのだから……。

その場凌ぎの言葉笑みを浮べてはみるものの、きちんと笑えていたかどうかはわからない。
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