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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0213
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2008

0421
「あれ…珍しい」

ぎりぎりで教室に滑り込んだ深岬は、そこに津田と涼子の姿がないのを見て小さく零した。
津田がいないことはままあることだが、涼子がきていないのは珍しかった。
そんな日もあってもおかしくないかと深岬は、適当な席に座った。
津田の友人達は相変わらず固まって座っていたようだったのでその近くに腰を下ろした。



遅刻でもしてくるのかと思ったが、結局2人は講義終了まで出てくることはなかった。
講義担当の准教授が出て行った後、昼をどうしようかなどと考えながら立ちあがるとふいに声をかけられる。
その声に振り返るとそれは、津田の友人達だった。
最近は行動を共にすることが多かったので、不思議なことではない。

「飯どうする?」
「どうするって学食でいいじゃん」
「3コマないし、外いかね?」
「ああ。まぁいいけど…」

という具合に今日の昼はいつもの学食から外に変わった。

「どこ行くの?ラーメン?定食?」
「進藤さんのチョイスって何だか俺らみたい…」

彼らからの指摘に深岬が立ち止まって考えてみると自分の口から出てきたのは、津田と行ったところばかりだった。

「そう?津田と行ったところばっかなんだけど?」
「あいつと?そんなところに?」

何もおかしいところはないのだろうと深岬は思うのだが、彼らは互いに顔を見合わせている。

「何か変?あいつ意外に安くておいしいところ知ってるのよねー」
「そんなにあいつと行ったりしてるの?」
「んー。そんなに回数は行ってないと思うけど…基本学食なんだけど急にあそこに行きたいとか言い出すから…。そのたびに面倒くさいって言うんだけど、奢るとかなんとか言ったりして譲らないんだから。頑固なのよ頑固」

きっと津田のことをこんな風に言うのは、深岬だけだろうと彼らは思う。

「奢ってもらえるなら行けばいいんじゃない?」
「何で奢られなきゃいけないのよ。あいつもおかしいのよ。女の子にはそうして当然だと思ってたとか言うし。ばっかじゃないのー」

けたけたと笑いながら深岬は先に教室を出る。
その後を津田の友人達が追いかける。

「さぁどこ行くの?」
「マックでいい?」
「うん。いーけど」

案外あっさりと行き先は決まり深岬と津田の友人の3人、合わせて4人で大学近辺にあるファーストフード店に向かう。
昼時ということもあり、深岬達と同じように学食に飽きたか或いは、時間に余裕があるからか外に食を求めた学生達が多くいる。
適当なメニューを選択して、あらかじめ取っておいた席に座る。
最初は、雑談交じりにハンバーガーを食べていた深岬だったが、大方食べ終わりセットメニューのポテトを摘みながら何気なく聞いた。

「今日、アイツは?」
「津田?」
「うん」
「さぁ?」

深岬が知らないように彼らも津田が来なかった理由は知らないようだった。
知らないのかと思ってまた食べることに集中しはじめるのだったが…。

「でも、あいついなくて良かったな…津田がいたから俺らなかなか話せなかったんだよな」
「あいついっつも進藤さんにべったりで睨みきかせてるからな」
「睨みなんかきかせてないわよ」

否定しながらも急な彼らの言葉に首を傾げながら3人を見る。
既に食べ終えていた3人は、深岬をじっと見つめる。
6つの瞳に見つめられるのは、何だか落ち着かない。

「何よ?」
「進藤さんって津田のことどう思ってるの?」
「は?」

突拍子もない問いに深岬の目がまんまるになる。
手にしたポテトを食べようと開いたままの口で固まる。

「津田は、『深岬ちゃんは友達』って言ってるけどさ。進藤さんは、津田のことどう思ってるのかなぁなんて。ほら、あいつってば男の俺らからみてもいい男だからあんなのに懐かれて恋愛感情…」
「ないわよ」

皆まで言い切る前に深岬はばっさりと言い捨てる。

「私も津田と同じ。アイツは友達。だって、私、他に好きな人いるし」

深岬が答えてポテトを口に含んでいると3人は顔を見合わせた。
そして、すぐに深岬に向き直る。
それが何だか気持ち悪い。

「何?まだ、何かあるの?」
「じゃあさ…もう少し涼子ちゃんに協力してあげてもいいんじゃない?」

1人が発した言葉に、他の2人がうんうんと頷くのを見て、「こいつらこれが狙いか…」と漸く悟った深岬だった。
おせっかいか、頼まれたかは深岬には判断はつかないが…。じとりと3人の顔を睨む。
涼子のことを呼ぶのも苗字でなく、名前だ。いつの間にこんなに親しくなったのか―。
少なくとも数日前まで、苗字で呼んでいたはずだと記憶している。

「あのさぁ、あんた達津田の友達じゃないの?」
「そうだけど?」

深岬の記憶している限り津田が彼らを友達と思っているかどうかは甚だ疑問だが…。
彼らはそのように思っているようだった。
口に出して答えたのは1人だけだったが、表情から伺うに他の2人も同様だろう。
何を聞いてくるんだという顔つきまでしている。

「津田が涼子のことどう思ってるか聞いたことある?」
「そんなの聞くまでもないだろ?」
「あんな可愛い子に好かれて嫌な思いする男なんていないだろ?」

―お前らバカか…。

と口にしそうになったのを深岬は堪えて心の中でとどめておく。
しかし、表情までは繕いきれなかったようで、深岬は引きつった顔をしていた。
そんな深岬に彼らのうちの1人がいう。

「進藤さんが津田のこと好きだって言うなら涼子ちゃんに協力しないのもわかるんだけどさぁ」
「そりゃ、ライバルだったら嫌だろうし…」
「そうじゃないんならもうちょっと協力的になってあげてもいいんじゃないの?」

代わる代わる尋ねてくる彼らに深岬の眉間に皺がよる。
しかし、彼らは深岬の変化に気づいていない。
涼子のための行動に酔いしれてるのかもしれない。困っている彼女のために何かしてあげているという自分達に―。

「見返り何?」

声のトーンを下げて言った深岬にぎょっとしたような表情を見せる。
深岬はそれだけで確信した。
涼子に頼まれてこうやって自分に言ってきたのだと…。
そして、涼子からは何か見返りがあるのだ。

「何言ってんの?」

その惚けたが怪しい。
一度、そう思ってしまうと何もかもが疑わしく見えてくるから不思議だ。

「いや、最近の涼子ちゃんがあまりに可哀想で…」
「慈善事業?」
「さっきから何言ってるの?」

深岬の挑戦的な表情と言葉に今度は彼らの表情が曇った。

「涼子に何言われたか知らないけどね。あんた達、津田の気持ちも汲んでやったらどうなの」
「そういう進藤さんは涼子ちゃんの」
「私、涼子だけの友達じゃないの。津田とも友達なの。言いたいことあるなら、私に面と向かって言えって言っといて。裏から手を回すような汚い人間に協力してあげるほど優しい人じゃないの。私」

最後ににっこりと笑って言い捨て、立ち上がるとまだ食べかけのトレーを持って、その机から離れる。
彼らの視線に気づいてはいたが振り返ることはしなかった。

気分は最悪―。
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2008

0420
「深岬ちゃん。昨日と同じ服」

会うなり目ざとくそう言うのは、津田だった。

「うるさい。そこに触れるなバカ」
「バカって言った方がバカなんだよぉだ。飲み会?」

小学生のような返しをする津田にいつもなら一つと言わず二つくらい憎まれ口を叩くのだが、今日の深岬にそんな余裕はなかった。

「そうよ」
「何かお疲れモード?」
「分かる?」

げっそりとした顔で問う深岬にこっくりと頷く。
深岬の目元にはクマがういていて、傍から見ても疲れているということがわかる。

「分かる。何だか人生に疲れたオジサンみたい」
「一言余計」
「痛いっ!」

余計な一言を発したがために深岬の制裁が津田に加わる。

「本当のことなのに」

もう一発。

昨日の疲れが取れないというのに、馬鹿の相手をしていられなかった。
強制的に参加させられた深岬は、旅行のときのように自ら醜態を晒すことはしなかったが、多大なお荷物の処理はさせられた。
旅行のときに坂上の車の中で聞かされた雪子を目の当たりにして、その処理の役目が深岬に回ってきたのだ。
遅れて飲み会に参加した小島に酔いつぶれた状態で絡み、離れなくなった雪子を無理やり引き剥がして、家へと連れ帰る。
ぐでんぐでんになった状態の雪子が歩けるわけもなくまた深岬一人でそんな状態の雪子を連れ帰ることは不可能だったので、男の部員が運んではくれたのだが、その後が厄介と言えば厄介だった。
雪子の家に着いた深岬は今度は、泣き始めた雪子の相手をしてほとんど寝れなかったのだ。
だから、睡眠不足の状態と精神的な疲労の両方が今の深岬を襲う。
今すぐにでも帰りたい。
寝たい。

「深岬ちゃん。また2日酔い?」
「違うわボケ。そうそう何度も2日酔いになって堪るか」
「もう機嫌悪いなぁ」

少しのことに声を荒げる深岬だった。
津田の言うことは尤もで、口にされると自分が八つ当たりしている様がよくわかる。

「あ…あたしのことはいいから…あんたはどーなのよ」
「僕?何のこと」
「決まってるでしょ」
「ああ。相変わらず~」

苦笑を浮かべる津田に「はあぁ」と大きく息を吐き出す。

「いい加減にはっきり言っちゃえば?この際」

と口にするのはいい加減にこの状態から解放されたいからだ。

「そうしたいのは、山々なんだけどねぇ」
「思わず、昨日の飲み会で先輩に愚痴っちゃったわよ。友達の板ばさみで苦労してるんですーって」
「何か言ってたぁ?」
「あんただったらそりゃ仕方ないって言われて終わりだった」

力なく言う深岬に軽く笑って返す津田。

「笑い事じゃないって…。私、いい加減疲れてきたんだけど」
「ごめーん。でも見捨てちゃイヤっ」

半分ふざけながら言う津田だったが、瞳が笑っていない。
それに気づいているから深岬も冗談めかして言う。

「見捨てないわよ。見捨てるとあんたが拗ねるって分かってるから」

嫌味を含ませた深岬に対して、それでも見捨てないという言葉が嬉しいのかにこにこっと顔の筋肉が緩んでいる。

「みっともなく緩ませるな」
「はいっ!」
「バカ」
「だからぁ」
「バカっていう人がバカなんでしょ。そーよ、どうせ私はバカですよー」

すたすたと先を歩いていく深岬を早足で追いかけてくる津田。
教室に入って適当な席に座る。
すると勿論、遅れて津田が深岬の横に陣取って座る。

程なくして涼子も姿を見せる。
軽く挨拶をして彼女は深岬の横ではなく津田の横に座った。
最近はずっとこうなので、深岬も特に気にはしていない。
津田も慣れたもので、別に動じる様子も見せない。

少し遅れて津田の友人達が入ってきて深岬の前に座るとちょっとした一団ができあがる。

「そーいえば昨日の夜、進藤さん見かけた」

突然、話を振られた深岬がきょとんとした顔で前の席に座る津田の友人を見返す。
昨日と言われて思い当たるのは、まぁ碌な姿じゃない。
軽く引きつった笑みを浮かべながら「どこで?」と聞く。

「道で、何か嫌がってるところ無理やり引きづられてるっぽかったけど、何だったの?あれ?」
「飲み会に参加しろって引っ張られてたのよ」
「部活?」
「そうそう。見てたなら声かけてくれれば良かったのに…そしたら帰れたかもしれないじゃん」

むっとした表情で言う深岬だったが、彼に非はない。

「無理だって。あんなところで声かける勇気ねぇもん」
「コイツだったら、間違いなく声かけてるわよ」

横に座る津田の顔を親指で指しながら言う。

「津田の場合、進藤さんに呼ばれたら飛んでいきそうだなぁ」

軽くおどけながら言う友人の言葉に、深岬も全くもってその通りだと思ってしまう。
津田も津田で苦笑を浮かべながら、その友人の言葉を肯定する。

「深岬ちゃんだったら仕方ないか」
「ほらな?」

と軽く笑いあうのだがその会話に涼子が入ってくることはなかった。



講義中に横に座る津田が深岬の腕を突っつく。
一体、何かとそちらに顔を向けると津田が普段講義のノートを取るのに使用しているルーズリーフがそっと差し出される。
何だと思いながら目を落とすと―。

『鈴木さんが、今日飲み会しないか?だって…』

と書かれているのを目にして自然とため息が零れる。横目でちらりと津田を確認すると舌を出して笑っている。
恐らく、涼子は津田だけを誘ったつもりなのだ。
それをそ知らぬ顔して、津田は深岬にも回してきた。
涼子も内心穏やかじゃないだろうと思う。
いや、もしかしたら津田の行動を見越して、今日ならば深岬が絶対に参加しないだろうと踏んでこうやって今日という日にちを選んで聞いているのかもしれない。

深岬は、でかでかとノートに書いて返す。

『無理』

と。
そのルーズリーフいっぱいでかでかと書かれた文字を見て津田はくくっと笑った。
津田の笑う顔を見ながら、ふんっと勢いよく鼻から息を吐き出す。
そして、そのルーズリーフを津田に返すのではなく前にいるクラスメートに回す。
彼らは嬉々として賛同していた。
すぐに帰ってきた紙を津田に渡すと彼は、涼子に回すのではなくさらに書き加えて深岬に突き出してくる。
涼子に見えないように体で隠すようにしながら…。

『だよね…。俺もいかないっと』
『どーせあんたは、私が行かないからでしょ』

一応、隙間から見えるといけないと思って深岬は書いた傍から上から黒く塗りつぶす。

『その通り』

津田も同じように書いてはすぐに塗りつぶす。
少し涼子が可哀想かなと思いつつもまぁ、巻き添え食らって迷惑こうむってるわけだからいいかと言い聞かせた深岬だった。

休み時間になると同時に津田に食い下がっていた涼子だったが、無理と一蹴されていた。
代わりと言ってはなんだが津田の友人達は妙に嬉しそうな顔で涼子に約束を取り付けていた。
結局、後にひけない状態になったまま、涼子が本当は誘いたかった津田が不在のまま飲み会が開かれたようだった。

2008

0419
立ち直るまでに時間がかかった深岬だったが、一度エンジンがかかってしまえばそれまでの恥などどこへやら。
場の空気にものまれた所為もあるかもしれない。
場の空気に飲まれはしたものの、酒には飲まれてはいない。
元々が強いだけに相当の量を飲まなければ中々、簡単には潰れることはない。

何かにつけて乾杯を強要する集団から抜け出して隅っこで水を飲んでいると横に同じように腰を落ち着けてくるのは、麻美だった。
ほんのりと赤い顔をしているが、麻美も深岬に負けず劣らず酒には強い。
こちらも酔っ払ったら大変なことになるという意味では、深岬とさほど大差はないだろうが―。

「今日、彼氏は?」

誰が聞いているかわからないので久保田の名前は出さなかった。

「家で大人しくしてるっぽい…もうすぐ就活だからってなんか言ってたなぁ。早く抜けて来いとは言ってたけどね」
「やっぱり?」
「やっぱり。別に遠慮しないで好きなだけ行っていいとか言っておきながら、本当は嫌なんだってバレバレだっつーの」
「愛されてんじゃん」

他愛ない話を隅っこでしているとどすっと背後に重みがのしかかる。

「何々何の話ー?私も混ぜてよー」

と圧し掛かってくるのは、既に酔っ払いと貸した望だった。

「望…」
「なぁにぃ?」
「重い……」
「えぇーひどーい」
「いいからどきなさいっ」

無理やり背中に圧し掛かってくる望を引き剥がすと頬を膨らませた望と顔を付き合わせる。
望はどこか据わった目つきで深岬の傍にあったコップを掴むと傾ける。

「これ水じゃんっ!」

絡むのは立派な酔っ払いの証拠。

「あ、ちょっと飲みすぎたから」
「どこがー?顔めっちゃ普通じゃん」

酔っ払いの癖してなんて鋭いんだと思いながら相手をしていると今まで横に座っていた麻美が立ち上がる。
自然と深岬と望の視線が彼女に向く。

「深岬。ということで私は帰るねー」

立ち上がって手を振る麻美。

「あ、彼氏?」
「そんなとこー」

望の問いに頷くとそのまま出て行ってしまう麻美だった。
望が麻美に彼氏がいることは知ってるんだと思いながら麻美を見送る深岬だった。
麻美の姿が見えなくなるとはぁと溜息をつく声が聞こえてくる。
何だと思って深岬が怪訝な顔付きで溜息の元に目を向けるとそれは、望だった。

「いいなぁ。彼氏ー。あたしも欲しー。ねぇ、深岬ちゃんそう思わない」
「うん。いーよねー」

本心からそう思ったので、深岬は頷いた。
麻美を見ていて何故か強くそう思うようになった。

誰もいなくなったところをずっと見ている深岬だったが、急に顔を掴まれる。
驚いて目を瞬かせていると目の前には目の据わった真剣な表情をした望の顔がこれでもかというほど近くにある。

「な…何?」
「まさかっ!深岬ちゃんにも彼氏いたりしないよねっ!?」
「い、いるわけないでしょ!」

望の剣幕に圧倒されながらも頷く深岬に満足したのか、緩んだ笑顔を顔に浮べながら「あたしも~。友達ぃー」と言いながら抱きついてくる。
その拍子に深岬の体が倒れこむ。

「うっうわぁぁ」
「2人とも何やってんの?」

隅の方で抱きついているのは望が一方的にだったが、倒れこんでいる2人の姿は異様で望に潰されながらも怪訝な声でそう尋ねてくる声を聞いた。

「あたし達、彼氏いなくて寂しいもの同士なんですー」
「望ちゃん。その前に深岬ちゃんの上からどこうか?なんだかそのうちチアノーゼでも起こしそうだよ」

その言葉に、漸く望が深岬の上から退いてくれた。
助かったと重いながら体を起こす。

「あんた、私を窒息死させる気?」
「違うよぉ。ゴメーン。乾杯して仲直りしよ?」
「この酔っ払い」
「ひどい…まだ酔ってないもん」

だが、その姿は紛れもなく酔っ払いそのもの。
適度に流して自分の傍から追い払う深岬だった。
望を呼ぶ上級生の声もあったことから、すぐに彼女は深岬の傍から離れていった。
代わりに彼女が今まで座っていたところに腰を下ろしたのは、野坂だった。
彼が自分の横に腰を下ろすのを黙って視線で追いかけていた深岬だったが、どうも旅行の一件で多大な迷惑をかけたという自負があるだけに顔を合わせるのが忍びなかった。

「復活してるじゃん」

アルコールの所為で少し赤くなった顔で言う野坂に何のことを言われているのか即座に理解した深岬は曖昧な笑みを浮べた。

「まぁ、悩んでばかりもいられないんで…こればっかりは仕方ないですし…時間の無駄ってヤツですよ」

答える深岬の言葉を聞きながら、望が空にしていった水の入っていたコップの中に酒を注ぐ。
そして、深岬にコップを手渡しながら悪戯っぽく笑う。

「あん時のえらい落ち込みようから考えると進歩したじゃん。どうしたの?何かあったの?」

揶揄するような男の言葉に苦笑を浮べずにはいられなかった。
あったといえばあったというかなかったといえばなかったような気もする。

「まぁ、学科の友達とちょっとごたごたが…」
「若いねぇ」
「茶化さないでくださいよ。板ばさみなんですよ…今」
「コイバナ?」

にっと笑って聞いてくる野坂に頷く。
決して楽しい話ではないが。
他人の不幸は蜜とはよく言うが、まさにそれなのだろう。当事者の苦労も知らずにと思わずにはいられないが、自分が恐らく第三者だったら野坂と同じような反応をしたかもしれないと思うと責められない。

「よぉし、相談に乗ってあげよう」

わざとらしく言う相手に「ただの出刃亀根性でしょ」と言うと否定せずに頷く野坂だった。
深岬自身、助言は貰えなくても誰かに聞いてもらいたいと思う気持ちはあったので、今の状況を野坂に話した。


野坂は一度津田と面識があるだけに、深岬の話しているのが誰のことかすぐにわかったようだった。

「ね、もしかして…前、話に入ってきたあの子?」

そういえばとその時のことを思い出して深岬が頷くと「そりゃ、女の子は放っておかないでしょ」と妙に納得したように頷く野坂だった。
相談とは口にしながらもその話を酒の肴にして愉しんでいるだけの野坂だったが、深岬は聞いてもらえただけですっきりした。
全てを話を終わった後にぽつりと呟く。

「恋愛って面倒ですよね…」

ぼやくように零すのはこの頃深岬が感じていたことだ。
別に同意をして欲しいわけじゃない。
ただ、相手を好きなだけでは収まらない。
周囲を巻き込んで迷惑をかけていくそれは、ひどく性質が悪い。

「だから面白いんじゃないの?」

にっこり笑って答える野坂の顔をまじまじと見返す。
だがすぐに眉間に皺を寄せて言い返した。

「それは、野坂さんの恋愛が上手く言ってるから言える言葉じゃないですか」

少しひがみの入ったような言葉になってしまったが、深岬は訂正しなかった。

「そうかもねー」

野坂はと言えば、意味深な笑みを浮べるだけだった。

色々と大変だねぇと頭にぽんぽんっと触れる手に前にも感じたような安心感を感じる。
結局は、「飲んで忘れたらいいよ」というありがちな言葉にそんな感情もどこかへと消失してしまったのだが…。

2008

0418
深岬が彼女にとっての意外な2人のラブシーンに遭遇してからさほど日も経たないうちの練習後―。

いつものように夕食を上級生につれて行ってもらった後に、帰ろうとすると深岬は寒くなってきたために首に巻きつけていたマフラーをきゅっと握られて若干、首を絞められてしまい変な声を搾り出すように腹の底から出した。
絞殺が目的でなかったようですぐに解放されたが、苦しくなったマフラーを元に戻しながら、自分を絞めてきた相手が誰であるか確認しようと振り返ると犯人はどうやら雪子のようだった。

「あんた、私を殺す気?」

軽く怖い顔をしながら見つめる深岬だが、相手はにやにやと笑うだけだった。
その笑顔が何だかよからぬことをたくらんでいそうでこう表現することは大袈裟かもしれないが、身の危険を感じる。

「何笑ってんのよ。気持ち悪い」
「何で帰ろうとしてんのよ」
「はぁ?もう何も用がないから帰るんでしょ」
「飲み会だって言ってたの聞いてなかったの?」

聞いていなかったわけではない。
食事をしながら何人かが話すのを深岬も聞いていた。
しかし、いつも参加せずに帰っている自分には関係ないことだと思っていたのだ。

「何で私が入ってるのよ。いつも帰ってるの知ってるでしょ?」
「いやぁねー。この前の暴れっぷりを見た先輩達が深岬をつれてこいって五月蝿いんだもん」
「はっ!?」

この前の―と言われて深岬が思い当たるのは、1泊2日の散々だった旅行だ。
勝手に落ち込んで、飲んで潰れて、果ては3日酔い。
暴れたといえばその飲み会くらいしか記憶にない。そして、深岬のその検討は外れることなく正しいものだった。

「福田さんなんか毎回のように深岬は?って聞いてくるんだから」
「全く意味わかんない」
「みさっちゃーん!行くぞー」

とまさに雪子の口から出た福田が深岬の肩をがしっと掴む。

「ちょっ!ちょっと!!」
「行きましょー」

待ってくれという声をあげる深岬など無視して、福田と雪子に強引に連れて行かれる。
移動しようとしていた一団の中に連れ込まれると皆一様に深岬を見て驚いたような表情をしている。

「お?珍しい。深岬ちゃんも今日は参加か」
「しません!帰ります」
「ダメよー」
「そうよー」

きっぱりと帰ると主張する深岬の横で福田と雪子が声を揃えて言うものだからさぁ困った。
2人掛り、しかも片方は男の力だけに深岬はそのまま力づくで連れていかれる。

「泊まるところないんだからっ!」
「私の家があるじゃない」
「知ってるんだからね。あんた、毎回のように酔いつぶれるじゃない。そうしたら私はどうしたらいいの!?」
「あ、じゃあ。鍵」

ひょいっと鍵を渡してくる雪子。
なんだかんだと言いながらもそれを受け取る深岬。

「はぁい。これで問題はなぁしっ!」

鍵のやり取りを見届けていた福田がもう酔っているのかと思えるような声を高らかにあげる。
確かに、強固して断る理由も無くなったので深岬は連れて行かれるままに飲み会に参加した。

いつもの飲み会の場となっている大学近辺の居酒屋に行くと、人数が多かったために今日は、分かれて夕食を食べに行ったため、もう一つの深岬が一緒に行動をともにしていたグループとは違う方のグループの人間が先に居酒屋には到着していた。

「あれ?深岬ちゃん。いっつもこないからてっきり今日もこないと思ってた~」

と声をかけてくるのは最近ほとんど皆勤賞だと誰かから聞いた望だった。

「なんか成り行きでこーなっちゃった」

苦笑いをしながら説明をして周囲を確認するとその横には、麻美の姿もある。但し、麻美の彼氏である久保田の姿はない。
何時の間に2人の中が改善したのだろうかと思ってしまう深岬だったがたまたま同じテーブルにいただけで決して改善したわけではないとすぐに分かった。
2人と同じテーブルにつき、話しというよりも深岬が一方的にぼやいている間にも人はどんどんと増えていく。
練習に参加していなかった坂上と野坂が揃って現れると場は一層騒がしくなった。

「あっれー深岬ちゃんじゃん。珍しい」

目ざとく深岬の姿に気づいた坂上が、声を上げる。
気づいてくれた坂上に純粋な嬉しさを感じる。
だが、次の瞬間―。

「こいつってばチョーひどいんすよ。この間の旅行中、俺にばっかやたらと凶暴的になる」
「っつーかそれ、お前が何かしたんだろ」

聞かされた者たちは坂上の言葉を笑い飛ばすのだが、深岬は今更になって何であんなことしたんだろうと後悔にまみれていた。
がくりと肩を落とした深岬に横にいた望と麻美が顔を覗き込んでくる。

「どうしたの?」

と尋ねてくるのは、麻美だ。

「激しく後悔中」
「ハハー、深岬ちゃん何してんの~」

と笑うのは望だった。

「その後、急に気持ち悪いって言って俺に…」

その後も続ける坂上の言葉にはっとして立ち上がると大きな声で制止する。

「あああああ!!それ以上言わないでくださいよっ!」
「深岬ー無駄無駄。皆知ってるからぁ」
「何でーっ!?」
「いろんなところでいろんな人が言ってるからぁ」
「ちょっとぉ!!」

深岬の絶叫にも周囲は笑うだけだった。
しばらくぎゃあぎゃあと騒いでいた深岬だったが、席に戻った後がっくりと項垂れて机に突っ伏す。

「恥ずかしさで死ねる…」
「そんな大袈裟な~」

半泣きで鼻を啜りながら言う深岬に軽快に笑い飛ばす望と気の毒な視線を送ってくる麻美だった。

「何で、あたしあんなことしたんだろぅ」

1人嘆く深岬を置いて、ほとんど人が集まったのでその日の飲み会が開始されたのだが、深岬のエンジンがかかるまではまだもう少し時間がかかりそうだった。

2008

0417
津田といる時間が何だか増えたように感じるのは気のせいではないだろう。
あれからというものの深岬、涼子、津田の関係が何か変わったかというと別に何も変わっていない。
激化することもなければ、沈静化する様子も見せない。
津田は、相も変わらず深岬にべったりだし、涼子も涼子で津田に一生懸命というところか。
変わったとすれば深岬の津田を邪険にする態度が軟化を見せたという位かもしれない。
後は、津田の友人と言葉を交わすようになったことくらいか―。
彼らと話して分かったことは、まぁ津田の言っていた言葉は的を外れたものではないということだった。
見目のいい津田と一緒にいれば、それ相応に女の子と話す機会も増えるというものだ。それを大いに利用するのが彼ら。
後は、深岬には阿呆にしか見えないがこれが悔しいことに頭がいい。
深岬にとっては分けのわからない文字の羅列のようなレポートも難なく短時間で仕上げてしまうのだ。
それを彼らは利用しているようだった。
こんなのが毎回続けば誰でも嫌になるだろうに―。気の毒に思わずにはいられなかった。

講義が全て終了して、簡単なようで難しい学科内の人間関係に疲れ果ててしまう深岬は部活の練習前にはすでに何故か練習後のように疲れ果てた様相で体育館に入る。
まだ、体を動かしているほうが疲れないかもしれないと思うのは強ち間違いでもなさそうだ。
そんな日が何日か続いている。

練習が始まるのは、4コマ終了後だ。
それに合わせて深岬は授業を組んでいるのだが、今日は生憎と4コマ目が休講になってしまった。
とくれば、不必要に空いてしまった時間をどう使うかが問題になってくる。
別段、やらなければならない課題のようなものも出ていない。
津田がどこかに行こうと誘ってきたが、近くにいる涼子の視線にそんな気にもなれずに体育館で時間を潰すとだけ言って別れた。
残念そうな顔をしていたが、ひきとめられた訳でもないので、そそくさと逃げるように体育館に入る。
とは言っても、誰もいない体育館だけに時間を潰すのは至難の業かもしれない。
そう思いながらまだ暗い体育館内に足を踏み入れると微かに人の話し声が聞こえてくる。
他の部活の人かと思いながら、体育館内に顔を覗かせる。
次の瞬間、深岬は何とも間抜けな声をあげることになる。

「うそっ!」

その声は館内に響いた。
その瞬間、弾かれたようにぴったりと密着していた男女は、離れた。
2人の視線が深岬へと集中する。
自分を見てくる2人の顔を驚愕に見開いた目で見返す。

「な…なんで、久保田さんとあ、麻美がぁ!?」

素っ頓狂な声をあげて、深岬もよく知る入部した当初、主将を務めていた3年生の名と同じ学年の麻美の名を呼ぶ。
慌ててすっ飛んできたのは、麻美だった。
入り口付近に立って自分達の方向を指差してくる深岬の腕を引っ張ると先ほどまで自分がいた場所へと連れてくる。
自然と久保田と麻美の間に挟まれるようにして座らされる。

「ちょ…、ちょっとどういうことでしょうか?どうなってるんでしょうか?何で久保田さんと麻美がこんなところでラブラブで…チューしてて…えええええ!?皆さんご承知の事実だったんでしょうか?私だけが知らなかったんでしょうか?」
「五月蝿い」

突然知った事実に深岬の頭はすでに混乱状態。
別に動揺するのは深岬ではなくていいはず。そう見られた2人の方こそもう少し驚いてもおかしくないのだが、何分1人で混乱している深岬を見ているうちに最初は驚いていた久保田と麻美の2人だったが、今では妙に落ち着いていた。

「ひ…ひどい」
「落ち着け」
「あのー経緯はどんな感じで?」

気になるのはそこだった。
大会のシーズンが終わると他にやることもなくて、付き合い始めるカップルが増えるとは聞いていたことには聞いていたのだが…。

「詳しく教えていただけると…」
「深岬ちゃん。とりあえず落ち着こうか?」
「く…久保田さん。こんな人目につくところでダメですよ!」
「はいはい。分かったから落ち着こうね。深呼吸」

と促がされるままに深呼吸を繰り返すと漸く落ち着きを取り戻した深岬だった。

「まさか、深岬に見られるとはー」

ぼやくように言うのは、麻美だった。

「い、いつから?」

尋ねる声は、動揺のためにどもってしまう。
落ちついて麻美がそれに答える。

「9月の終わりくらいだっけ?」
「そうそう。練習が休みになったころから」

互いに確認しあいながら言う2人。
2人だけの独特の雰囲気がある。仲の良さをうかがわせるそれに、不覚にも羨ましいと思えてくる。

「みんなは知ってるの?」
「みんなって部活の人?」

こっくりと頷いた深岬に麻美は首を振った。

「言ってない。だって、ことあるごとにひやかされるもの。小島さんと慶子さんみててわかるでしょ」

それはその通りだ。
麻美が口にした小島と慶子が付き合い始めてからというものの、2人は極力恋人らしい雰囲気を見せないようにしていたが、周りがそうすることを許さない部分もあった。
特に、飲み会の場では深岬も何度かそんな光景を目にしたことがあるだけに否定できずに頷き返した。

「この時間なら誰もいないからって思ってたんだけどなぁ。まさか深岬が来るなんて思ってもにみなかったよ」
「授業が休講になってやることなかったから」
「あ、そうなの?」
「うん」
「まぁ、見られたのが深岬で良かったかもしれないなぁ。これが、望だったら練習後には全員に知られてるからね」

悪戯っこのような笑みを浮べて言う麻美にそこまでは言いすぎではと思った深岬だったが、口にはしなかった。
その可能性が否めない部分もあるだけに乾いた笑いを浮べて返すだけにとどまった。

「誰にも言わないでね」

と念を押されるようにして言われる。

「それは…言わないけど。でも雰囲気とかで分かったりしないかなぁ?」
「そこまで鋭い人いないっしょ。それに…坂上とかに知られると厄介だしなぁ」

暗に鈍感と言っているその久保田の姿に深岬は引きつった笑みを浮べるのだった。
確かに久保田のいうことは尤もだ。
坂上は、はっきり言って一つ上の学年、久保田たちの学年を良く思っていない節がある上に、麻美を気に入って目をかけていた。
可愛がっている麻美が久保田と付き合い始めたと聞いたら、たとえ恋愛感情はないにしても面白くないと感じるだろう。
「それでも…ここでそーゆーことをやるのは危険かと…」
「それはそうかも」
「今度から気をつけるよ」

軽く言う2人に、今度じゃなくて今日も気をつけて欲しかったですと冗談めかして深岬が言うとどこか暢気な2人は声を上げて笑った。
そんな2人に笑い事じゃないってばと毒づく。
知られたくなければ慎めよと思わずには居られなかった。

その後、人が集まってくるまで3人で時間を潰す。
恋人同士の時間を邪魔している気になってどこかに行こうかと言った深岬だったが、2人がそんな遠慮されると返ってやだと言ったこともあり、そのままその場所にとどまった。

人が集まってきて練習が始まったのだが、その日の深岬は練習はおざなりにして、ずっと2人の姿を追いかけていた。
見事に練習中にはそんな素振りを見せない久保田と麻美の姿に役者だと感嘆していた深岬だったが、途中で麻美に「見すぎ…」と注意されてしまい慌てた。
一番落ち着かなかったのは深岬だったかもしれない。
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