「深岬ちゃん。昨日と同じ服」
会うなり目ざとくそう言うのは、津田だった。
「うるさい。そこに触れるなバカ」
「バカって言った方がバカなんだよぉだ。飲み会?」
小学生のような返しをする津田にいつもなら一つと言わず二つくらい憎まれ口を叩くのだが、今日の深岬にそんな余裕はなかった。
「そうよ」
「何かお疲れモード?」
「分かる?」
げっそりとした顔で問う深岬にこっくりと頷く。
深岬の目元にはクマがういていて、傍から見ても疲れているということがわかる。
「分かる。何だか人生に疲れたオジサンみたい」
「一言余計」
「痛いっ!」
余計な一言を発したがために深岬の制裁が津田に加わる。
「本当のことなのに」
もう一発。
昨日の疲れが取れないというのに、馬鹿の相手をしていられなかった。
強制的に参加させられた深岬は、旅行のときのように自ら醜態を晒すことはしなかったが、多大なお荷物の処理はさせられた。
旅行のときに坂上の車の中で聞かされた雪子を目の当たりにして、その処理の役目が深岬に回ってきたのだ。
遅れて飲み会に参加した小島に酔いつぶれた状態で絡み、離れなくなった雪子を無理やり引き剥がして、家へと連れ帰る。
ぐでんぐでんになった状態の雪子が歩けるわけもなくまた深岬一人でそんな状態の雪子を連れ帰ることは不可能だったので、男の部員が運んではくれたのだが、その後が厄介と言えば厄介だった。
雪子の家に着いた深岬は今度は、泣き始めた雪子の相手をしてほとんど寝れなかったのだ。
だから、睡眠不足の状態と精神的な疲労の両方が今の深岬を襲う。
今すぐにでも帰りたい。
寝たい。
「深岬ちゃん。また2日酔い?」
「違うわボケ。そうそう何度も2日酔いになって堪るか」
「もう機嫌悪いなぁ」
少しのことに声を荒げる深岬だった。
津田の言うことは尤もで、口にされると自分が八つ当たりしている様がよくわかる。
「あ…あたしのことはいいから…あんたはどーなのよ」
「僕?何のこと」
「決まってるでしょ」
「ああ。相変わらず~」
苦笑を浮かべる津田に「はあぁ」と大きく息を吐き出す。
「いい加減にはっきり言っちゃえば?この際」
と口にするのはいい加減にこの状態から解放されたいからだ。
「そうしたいのは、山々なんだけどねぇ」
「思わず、昨日の飲み会で先輩に愚痴っちゃったわよ。友達の板ばさみで苦労してるんですーって」
「何か言ってたぁ?」
「あんただったらそりゃ仕方ないって言われて終わりだった」
力なく言う深岬に軽く笑って返す津田。
「笑い事じゃないって…。私、いい加減疲れてきたんだけど」
「ごめーん。でも見捨てちゃイヤっ」
半分ふざけながら言う津田だったが、瞳が笑っていない。
それに気づいているから深岬も冗談めかして言う。
「見捨てないわよ。見捨てるとあんたが拗ねるって分かってるから」
嫌味を含ませた深岬に対して、それでも見捨てないという言葉が嬉しいのかにこにこっと顔の筋肉が緩んでいる。
「みっともなく緩ませるな」
「はいっ!」
「バカ」
「だからぁ」
「バカっていう人がバカなんでしょ。そーよ、どうせ私はバカですよー」
すたすたと先を歩いていく深岬を早足で追いかけてくる津田。
教室に入って適当な席に座る。
すると勿論、遅れて津田が深岬の横に陣取って座る。
程なくして涼子も姿を見せる。
軽く挨拶をして彼女は深岬の横ではなく津田の横に座った。
最近はずっとこうなので、深岬も特に気にはしていない。
津田も慣れたもので、別に動じる様子も見せない。
少し遅れて津田の友人達が入ってきて深岬の前に座るとちょっとした一団ができあがる。
「そーいえば昨日の夜、進藤さん見かけた」
突然、話を振られた深岬がきょとんとした顔で前の席に座る津田の友人を見返す。
昨日と言われて思い当たるのは、まぁ碌な姿じゃない。
軽く引きつった笑みを浮かべながら「どこで?」と聞く。
「道で、何か嫌がってるところ無理やり引きづられてるっぽかったけど、何だったの?あれ?」
「飲み会に参加しろって引っ張られてたのよ」
「部活?」
「そうそう。見てたなら声かけてくれれば良かったのに…そしたら帰れたかもしれないじゃん」
むっとした表情で言う深岬だったが、彼に非はない。
「無理だって。あんなところで声かける勇気ねぇもん」
「コイツだったら、間違いなく声かけてるわよ」
横に座る津田の顔を親指で指しながら言う。
「津田の場合、進藤さんに呼ばれたら飛んでいきそうだなぁ」
軽くおどけながら言う友人の言葉に、深岬も全くもってその通りだと思ってしまう。
津田も津田で苦笑を浮かべながら、その友人の言葉を肯定する。
「深岬ちゃんだったら仕方ないか」
「ほらな?」
と軽く笑いあうのだがその会話に涼子が入ってくることはなかった。
講義中に横に座る津田が深岬の腕を突っつく。
一体、何かとそちらに顔を向けると津田が普段講義のノートを取るのに使用しているルーズリーフがそっと差し出される。
何だと思いながら目を落とすと―。
『鈴木さんが、今日飲み会しないか?だって…』
と書かれているのを目にして自然とため息が零れる。横目でちらりと津田を確認すると舌を出して笑っている。
恐らく、涼子は津田だけを誘ったつもりなのだ。
それをそ知らぬ顔して、津田は深岬にも回してきた。
涼子も内心穏やかじゃないだろうと思う。
いや、もしかしたら津田の行動を見越して、今日ならば深岬が絶対に参加しないだろうと踏んでこうやって今日という日にちを選んで聞いているのかもしれない。
深岬は、でかでかとノートに書いて返す。
『無理』
と。
そのルーズリーフいっぱいでかでかと書かれた文字を見て津田はくくっと笑った。
津田の笑う顔を見ながら、ふんっと勢いよく鼻から息を吐き出す。
そして、そのルーズリーフを津田に返すのではなく前にいるクラスメートに回す。
彼らは嬉々として賛同していた。
すぐに帰ってきた紙を津田に渡すと彼は、涼子に回すのではなくさらに書き加えて深岬に突き出してくる。
涼子に見えないように体で隠すようにしながら…。
『だよね…。俺もいかないっと』
『どーせあんたは、私が行かないからでしょ』
一応、隙間から見えるといけないと思って深岬は書いた傍から上から黒く塗りつぶす。
『その通り』
津田も同じように書いてはすぐに塗りつぶす。
少し涼子が可哀想かなと思いつつもまぁ、巻き添え食らって迷惑こうむってるわけだからいいかと言い聞かせた深岬だった。
休み時間になると同時に津田に食い下がっていた涼子だったが、無理と一蹴されていた。
代わりと言ってはなんだが津田の友人達は妙に嬉しそうな顔で涼子に約束を取り付けていた。
結局、後にひけない状態になったまま、涼子が本当は誘いたかった津田が不在のまま飲み会が開かれたようだった。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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