津田といる時間が何だか増えたように感じるのは気のせいではないだろう。
あれからというものの深岬、涼子、津田の関係が何か変わったかというと別に何も変わっていない。
激化することもなければ、沈静化する様子も見せない。
津田は、相も変わらず深岬にべったりだし、涼子も涼子で津田に一生懸命というところか。
変わったとすれば深岬の津田を邪険にする態度が軟化を見せたという位かもしれない。
後は、津田の友人と言葉を交わすようになったことくらいか―。
彼らと話して分かったことは、まぁ津田の言っていた言葉は的を外れたものではないということだった。
見目のいい津田と一緒にいれば、それ相応に女の子と話す機会も増えるというものだ。それを大いに利用するのが彼ら。
後は、深岬には阿呆にしか見えないがこれが悔しいことに頭がいい。
深岬にとっては分けのわからない文字の羅列のようなレポートも難なく短時間で仕上げてしまうのだ。
それを彼らは利用しているようだった。
こんなのが毎回続けば誰でも嫌になるだろうに―。気の毒に思わずにはいられなかった。
講義が全て終了して、簡単なようで難しい学科内の人間関係に疲れ果ててしまう深岬は部活の練習前にはすでに何故か練習後のように疲れ果てた様相で体育館に入る。
まだ、体を動かしているほうが疲れないかもしれないと思うのは強ち間違いでもなさそうだ。
そんな日が何日か続いている。
練習が始まるのは、4コマ終了後だ。
それに合わせて深岬は授業を組んでいるのだが、今日は生憎と4コマ目が休講になってしまった。
とくれば、不必要に空いてしまった時間をどう使うかが問題になってくる。
別段、やらなければならない課題のようなものも出ていない。
津田がどこかに行こうと誘ってきたが、近くにいる涼子の視線にそんな気にもなれずに体育館で時間を潰すとだけ言って別れた。
残念そうな顔をしていたが、ひきとめられた訳でもないので、そそくさと逃げるように体育館に入る。
とは言っても、誰もいない体育館だけに時間を潰すのは至難の業かもしれない。
そう思いながらまだ暗い体育館内に足を踏み入れると微かに人の話し声が聞こえてくる。
他の部活の人かと思いながら、体育館内に顔を覗かせる。
次の瞬間、深岬は何とも間抜けな声をあげることになる。
「うそっ!」
その声は館内に響いた。
その瞬間、弾かれたようにぴったりと密着していた男女は、離れた。
2人の視線が深岬へと集中する。
自分を見てくる2人の顔を驚愕に見開いた目で見返す。
「な…なんで、久保田さんとあ、麻美がぁ!?」
素っ頓狂な声をあげて、深岬もよく知る入部した当初、主将を務めていた3年生の名と同じ学年の麻美の名を呼ぶ。
慌ててすっ飛んできたのは、麻美だった。
入り口付近に立って自分達の方向を指差してくる深岬の腕を引っ張ると先ほどまで自分がいた場所へと連れてくる。
自然と久保田と麻美の間に挟まれるようにして座らされる。
「ちょ…、ちょっとどういうことでしょうか?どうなってるんでしょうか?何で久保田さんと麻美がこんなところでラブラブで…チューしてて…えええええ!?皆さんご承知の事実だったんでしょうか?私だけが知らなかったんでしょうか?」
「五月蝿い」
突然知った事実に深岬の頭はすでに混乱状態。
別に動揺するのは深岬ではなくていいはず。そう見られた2人の方こそもう少し驚いてもおかしくないのだが、何分1人で混乱している深岬を見ているうちに最初は驚いていた久保田と麻美の2人だったが、今では妙に落ち着いていた。
「ひ…ひどい」
「落ち着け」
「あのー経緯はどんな感じで?」
気になるのはそこだった。
大会のシーズンが終わると他にやることもなくて、付き合い始めるカップルが増えるとは聞いていたことには聞いていたのだが…。
「詳しく教えていただけると…」
「深岬ちゃん。とりあえず落ち着こうか?」
「く…久保田さん。こんな人目につくところでダメですよ!」
「はいはい。分かったから落ち着こうね。深呼吸」
と促がされるままに深呼吸を繰り返すと漸く落ち着きを取り戻した深岬だった。
「まさか、深岬に見られるとはー」
ぼやくように言うのは、麻美だった。
「い、いつから?」
尋ねる声は、動揺のためにどもってしまう。
落ちついて麻美がそれに答える。
「9月の終わりくらいだっけ?」
「そうそう。練習が休みになったころから」
互いに確認しあいながら言う2人。
2人だけの独特の雰囲気がある。仲の良さをうかがわせるそれに、不覚にも羨ましいと思えてくる。
「みんなは知ってるの?」
「みんなって部活の人?」
こっくりと頷いた深岬に麻美は首を振った。
「言ってない。だって、ことあるごとにひやかされるもの。小島さんと慶子さんみててわかるでしょ」
それはその通りだ。
麻美が口にした小島と慶子が付き合い始めてからというものの、2人は極力恋人らしい雰囲気を見せないようにしていたが、周りがそうすることを許さない部分もあった。
特に、飲み会の場では深岬も何度かそんな光景を目にしたことがあるだけに否定できずに頷き返した。
「この時間なら誰もいないからって思ってたんだけどなぁ。まさか深岬が来るなんて思ってもにみなかったよ」
「授業が休講になってやることなかったから」
「あ、そうなの?」
「うん」
「まぁ、見られたのが深岬で良かったかもしれないなぁ。これが、望だったら練習後には全員に知られてるからね」
悪戯っこのような笑みを浮べて言う麻美にそこまでは言いすぎではと思った深岬だったが、口にはしなかった。
その可能性が否めない部分もあるだけに乾いた笑いを浮べて返すだけにとどまった。
「誰にも言わないでね」
と念を押されるようにして言われる。
「それは…言わないけど。でも雰囲気とかで分かったりしないかなぁ?」
「そこまで鋭い人いないっしょ。それに…坂上とかに知られると厄介だしなぁ」
暗に鈍感と言っているその久保田の姿に深岬は引きつった笑みを浮べるのだった。
確かに久保田のいうことは尤もだ。
坂上は、はっきり言って一つ上の学年、久保田たちの学年を良く思っていない節がある上に、麻美を気に入って目をかけていた。
可愛がっている麻美が久保田と付き合い始めたと聞いたら、たとえ恋愛感情はないにしても面白くないと感じるだろう。
「それでも…ここでそーゆーことをやるのは危険かと…」
「それはそうかも」
「今度から気をつけるよ」
軽く言う2人に、今度じゃなくて今日も気をつけて欲しかったですと冗談めかして深岬が言うとどこか暢気な2人は声を上げて笑った。
そんな2人に笑い事じゃないってばと毒づく。
知られたくなければ慎めよと思わずには居られなかった。
その後、人が集まってくるまで3人で時間を潰す。
恋人同士の時間を邪魔している気になってどこかに行こうかと言った深岬だったが、2人がそんな遠慮されると返ってやだと言ったこともあり、そのままその場所にとどまった。
人が集まってきて練習が始まったのだが、その日の深岬は練習はおざなりにして、ずっと2人の姿を追いかけていた。
見事に練習中にはそんな素振りを見せない久保田と麻美の姿に役者だと感嘆していた深岬だったが、途中で麻美に「見すぎ…」と注意されてしまい慌てた。
一番落ち着かなかったのは深岬だったかもしれない。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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