「…わかった。涼子のことはもういいから…私も悪かった。あんたの気持ち考えずに行動してたし…、でもあんたも付き合う気がないならはっきりと言えばいいでしょ?そうすればあの子も次の男に目がいくわよ」
「あーゆー自分に自信のある人間って自分の非は認めないんだよ。すぐ周りの所為にするんだ」
「させときゃいいじゃない」
「今の状態でそんなこと言ったら絶対深岬ちゃんに何かするもん」
断言するように言う津田は、まるで過去に経験してきたかのような言葉だった。
「それは自分の経験から言ってること?」
「そういうわけじゃないけど…。近いかな…」
「ま、その意見に反対はしないわ…。そんな感じするし。今回のことは、もうあの子に睨まれるの勘弁って思ってあんたを置いてった私も悪かったから謝るね。ゴメン。次からはしない。あんたの気持ちも考えるようにするわ」
深岬がそう言うと津田はこっくりと頷く。
「僕もひどいこと言ったごめんなさい」
満面の笑みと言うわけではなかったが、軽く困ったように笑いながら謝る。
悪いのは津田ではない。
彼は、むしろ被害をこうむっただけなのだから―。
「お互い様ね。まぁ、メアド交換してたみたいだから仲良くなったのかと思っちゃったわよ…」
蒸し返すつもりはなかったのだが、深岬が何気ない調子で気になっていたことを口にすると津田は盛大に顔を顰めた。
その変貌にまた怒り出すのかとぎょっとする深岬だったが、津田は苦々しい口調でその彼女の問いに答えた。
「教えてくれなきゃ嫌ってしつこいから…。携帯変えに行こうかな…」
「何もそこまでしなくていいでしょ」
「できることならしたいよ。もう、昨日は本当に最悪だったんだから」
「だから、ゴメンって言ってるじゃない」
ぶっきらぼうな言い方だが、もう一度謝罪の言葉を口にする深岬に慌てて津田が訂正する。
「あ、いや…謝って欲しいんじゃなくて」
「だったら何よ」
少し眉間に皺を寄せて言う深岬に苦笑を浮かべる津田だった。
「深岬ちゃんからのメールの返信が来ないから何度も携帯確認してたらそんなこと言われるし…。さっさと帰ろうと思っても帰ろうとする度に引き止められるし…。結局、酔っちゃったから家まで送り届けさせられてさ…そのあと、あがってけって言われたんだけどさ」
「あがってけばいいじゃない」
「冗談。あれ、絶対に酔った振りだってば。他のヤツで僕より鈴木さんの家の近くに住んでるヤツがいるんだよ?そいつに任せようとしたら僕の服すんごい力で握るんだから!」
思い出しているのかどんどんとしかめっ面になっていく様は、他人の不幸を笑うようで嫌だが面白い。
「あがったら何されるかわかんないよ」
「役得じゃん」
「やめてよー。そんなことした日には、翌日には彼女面されて面倒なことになるよ」
「いやー。十分その気だったように見えたけどなぁ」
「うそっ!?」
学食での涼子を思い出しながら深岬が言うとぎょっとしたような声をあげる。
その顔の嫌そうなこと―。
「言ったでしょ?牽制されたって」
「あ、結局答えてくれなかったけど…。何言われたの?」
「あー。あんまり聞いても楽しい話じゃないからやめとく」
「言って」
何だか告げ口しているようで嫌な気分になるから、自分の内だけでとどめておくつもりだった。
軽く首を振りながら津田を見るとその顔は深岬が言うまで聞き続けてやるとばかりの顔付きだったので話を蒸し返した自分を恨んだ。
「あのね…」
「ん?何?」
「あんたが私に合わせてくれてるんだって言われただけよ」
「何それ。意味わかんない」
眉間にぐっと皺を寄せて呟く。
そりゃそうだろう。
その前後の部分を深岬は説明していないのだから、どういう流れでその話になったのかも涼子が何を思ってそんなことを言ったのかもわかるはずもない。
「分からないなら分からないままにしておきなさい」
「やだぁ。どういう意味?」
「うるさい。しつこい」
と縋ってくる男を一蹴して、昼ごはんが途中のままここに連れてこられた深岬は、先ほどまでは津田とのやり取りに気をとられていたお腹が空いたなと時計を確認するともうすぐ1時を回ろうとしていた。
思わず声があがる。
「げっ」
「どーしたの?」
「そんな悠長にどーしたの?って聞いてる場合かっ!?」
「えー?」
「3コマ目遅刻じゃんか。この馬鹿っ!」
取り合えず罵っておく。
原因は、深岬や涼子にあったとしても3コマ目の講義へ遅れたのは間違いなくこんなところへ連れてきた目の前の男の所為なのだから―。
「いいよぉ。さぼろうよー。僕、お腹空いた」
「あんたね…」
深岬の額に青筋が浮かぶ。
しかし、気づいているのか気づいていないのか立ち上がるとキッチンの方へと行き、冷蔵庫の中を漁りはじめる。
すぐに顔をあげて深岬に別に知りたくもない冷蔵庫事情を教えてくれる。
「なんもない」
「誰があんたの冷蔵庫を知りたいと言った?誰が」
「ご飯食べに行こーよ」
「一人で行け」
突っぱねた深岬にもめげることなくぽんぽんと言い返す様はすっかりいつもの2人だ。
「寂しくて死んじゃう」
「死ね」
「うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ」
「誰がウサギだ。そんなでかい図体晒してどの口が言う」
「えーこの口?」
近づいてしゃがんで冷蔵庫の中を漁る津田の背中を軽く足蹴にする。
「痛い…」
「ご飯行くなら一人で行きなさいよー。私は、授業に行くから」
「えーやだぁ」
小さな子供のように言う津田にがくりと力だ抜ける。
「ご飯ー。奢るからー」
「奢らなくていいから…授業の方が」
「行かなくていいって」
「どの口がそんなことを言うか」
と言って津田の口許をぎゅぅっと引っ張る。
「簡単じゃんあの授業」
「あっそう。あんたには簡単でも私の足りないおつむじゃ限界があんのよ。一緒にしないでくれるっ!!浪人して入ったヤツをなめんなっ」
苦労してついていっているというのにその努力を一瞬で無駄にするような言葉にふんっと力強く言い捨てる。
「だいじょーぶ。教えてあげるから」
気の抜けるような返事にそれこそ「それこそあんたの嫌ってる。あんたを利用する人じゃん」と言っても津田は笑いながら「深岬ちゃんは違うよ」とくすくすと笑うだけだった。
いまいち、その違いが分からない深岬だったが、結局津田に押し切られて一緒に大学近くの店に2度目の昼ご飯を食べに行った。
その場でカバンの中に入っていた物理学のノートの存在を思い出して目の前でがつがつと料理を食べる男に言うと無言で手を差し出されたのでパシンとその手を叩き、「あんたも私を利用する人」と軽く笑いながら心にもないことを言いながらノートを手渡す深岬だった。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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