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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0619
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2008

0110

Vizard(7)




遅れて一哉が屋敷の中に入ると常駐の使用人の1人が「あちらです」とある部屋を指し示した。
軽く会釈をして「ありがとうございます」と言ってから部屋に入ると遅れて入ってきた一哉を咎めるような視線が一気に自分の身に集中するのを感じた。
恥ずかしくもその雰囲気に飲まれそうになるのを一哉は、感じた。

「遅くなり、大変申し訳ありません」

頭を深く下げる。
顔をあげると綾の父親でもあり、この屋敷の主でもある男が手招きをするので、彼の近くに足を進める。
彼の向かい側には、兄と同じかそれより若いだろう男が立っている。
その横には、綾がつまらなさそうな顔をして立っていた。
それだけで、一哉は、自分が今日屋敷に呼ばれた理由が何であるか何となくわかった。

「この子ですよ。ご安心いただけたかな?」
「草壁と申します。よろしくお願い致します」

主の言葉の後、一哉が名前を名乗ると男は尊大な態度でふんと鼻息を荒く噴出した。

なるほど…。
権力の上に胡坐を掻くようなタイプか……。

と一哉は即座に男を判断した。
そして、次に来る台詞も容易に想像できた。

「大事な婚約者をこんな貧弱な子どもに任せられるものですか」
「そう仰らずに、一通りの武道は仕込まれているし、若いとは言え、草壁の出身だから、その点に関しては充分かと私は思って彼を綾に付けたんだが…」
「ですが…」

婚約者の父親に諌められて勢いはなくしたものの、まだ言い足りない様子だった。
この調子だと一哉が問題なのではない。
どうしても、綾を男のいない女子高に放りこみたいというところか。あるいは、結婚の時期を早めたいというところか…。
恐らく後者だろうと一哉は男の様子から悟った。

馬鹿馬鹿しい。

一哉は、伏せた瞳の奥で侮蔑の眼差しを男に向けた。
その後も、何だかんだで難癖をつけていた男だったが、最終的に宥められるようにして納得したようだった。
それでも不満だったのか、帰り際に一哉の横を通りすぎるときに低い声で脅していった。

「綾さんにもしものことがあったら、僕がお前を殺してやる」

一哉は、男の言葉を聞かされた時、鼻で笑いそうになるのを堪えた。

できもしないのに…よく言う。

去って行く男に向かって頭を下げながら、床に向けた顔は笑っていた。
恐らく男が一哉が影で笑っていると知ろうものなら怒り狂ったかもしれない。
幸いにも男は、気づかぬまま去っていった。




授業が延長したために、少し遅れて一哉が自分の在籍する中等部の校舎から、綾のいる高等部の校舎に向かう。
綾のいるだろう―否、休み時間になるとどこかへと姿を消す彼女のことだから、いることは滅多にないのだが…その教室に向かう。

今日は、珍しく教室にいた。
というよりも一哉を待っていたようだった。

「遅いわよ」

一哉の姿を見つけるなり、駆け寄ってきて開口一番に言う。

「申し訳ありません。…ですが、よろしいのですか?」
「何が?」
「いつもなら…」

男とどこかへ消えるだろう?という言葉は濁した。
すると綾は何でもないことのように頷く。

「別にいいのよ。ただの暇つぶしだから…それより、昨日のこと謝りたくて」
「昨日のこと?」

首を傾げながら聞き返した一哉に綾は大きく頷いた。
別に今、言わなくていいだろうと思ったことは口には出さなかった。
余計なことを言うと身を滅ぼす結果になりかねない。
一番の得策は、口を噤んでにこにこ笑っていればいい。

だから、この時も一哉はそうしていた。
綾の言う昨日のことというのが、何なのか…。

「ごめんなさい。堺さんが変なこと言って」

と綾が語りだした途端に、そっちか…と一哉は思った。
落胆に近かったと言ってもいい。
そんなこと別に謝ることではないだろう。

寧ろ、謝って欲しかったのはずかずかと土足で自分の過去に入りこんできたこと―。
だが、このお嬢様は気づかないようだった。
まぁ、気づくはずもないだろうとは思っていたが…。

「いいえ。堺様のご心配は尤もですから。気にしておりません」
「何もあんなこと言う必要ないわよね」

婚約者である綾にこんな風に言われていたのなら男も報われないな…と思いつつ綾を見やる。
不満そうに頬を膨らませている。
一哉は、適当に相槌を打ちながら、綾の言葉を聞き流していた。
聞くに値しないと思ったから――。

ただ、彼女は満足したようで。
妙にすっきりとした顔で、「もうすぐ授業始まるから帰ったら?」と言われたので、一哉も頷きその場を後にした。
教室に入っていく彼女の姿を確認した後、廊下を歩いていると一哉は、急に手を引っ張られ、人のいない静かな教室内に連れ込まれる。
誰だ?と思って顔を向けると……。

そこに居たのは、綾の友人と認識している女子生徒だった。
彼女は、一哉と目が合うと薄く笑いかけて、一哉に口付けを落とす。
黙ったまま、一哉はそれを受け入れる。

「どうしたんですか?」
「今日の帰り。一緒に帰りましょ」
「…お嬢様をお送りした後でよければ…」
「いいわ。待ってる」

とだけ言うと教室を飛び出していった。
誰もいなくなった教室で、一哉はふんと軽く鼻で笑った。


それからは、特にこれと言ったこともなく時間だけが過ぎていった。
綾は、相変わらず我侭三昧。
一哉は、綾の我侭を嫌な顔一つせず、受け入れる。
学校にいる間だけの、守られるものと守るもの。
一歩外に出たら一切の干渉はしない。
偶に、綾の婚約者である堺から嫌味のようなものを言われたところで、一哉は全く堪える様子もない。
ただ日々が過ぎていく。

2人が出会った秋から冬へ。
そして冬から春へ…。

綾は、二年生に進級し、一哉も同じように3年生に進級。

時が経てばそれだけ、綾の自由な時間も着実に減っていった。
残り2年弱。

春から初夏へと季節は、変わろうとしていた…。

 

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2008

0109

Vizard (6)




「お帰りなさいませ。お嬢様」
「ええ。ありがとう」

がちゃりと開けられたドアから、吸い込まれるようにして綾が車の中に乗り込む。
いつもと同じように綾を兄に引き渡して、自分の仕事は終わりだった。
車に乗り込む綾を見届けていると兄の冷たい視線が己へとむくのを一哉は感じた。
兄と同じ土俵で戦ってはいけない。
一哉は、兄の視線を身体で受け止めながら、兄とは対照的に誰に対しても同じように向けるような柔らかな表情で兄を見返した。
彼は、綾が車内に乗り込んだのを確認するとドアを閉めながら吐き捨てるように言う。

「何をしている。この鈍間。さっさと乗れ」

理不尽にもほどがある。
いつもならば、綾は兄が車で家まで連れ帰る。
一哉は、彼らを見送った後、ここから家まで公共の交通機関を乗り継いで帰ることになっていた。
今日は、何も聞かされていなかったので一哉は、いつものように車が出るのを待っていたに過ぎないのだが…。
一哉が忘れていただけかというそうでない。
一度言われたことは、決して忘れない。
初めから言われていなかっただけのことだ。
だが、こんな理不尽な扱いなどとうに慣れきってそこにやりきれなさや腹立たしさを感じるというような神経はとうに消えていた。
いつものようににっこりと笑って謝る。

「申し訳ありません」

すると何を言われても顔色を変えることのない弟に兄は気持ち悪いものでも見るかのような視線を送りつけ、ふんっと大袈裟な動きで運転席に乗り込む。
一哉は、助手席側まで回ると車に乗り込み、シートベルトを着用した。

「何かあったの?」
「いえ、大したことではありません」

通常、決して同乗することのない一哉の姿に綾が尋ねたが、宗司がそう答えるともう聞いてこなかった。
何があるのか…と少しの不安感を覚えながらも兄がハンドルを操作する横でただ流れていく景色を眺めていた。
車の中は、無言の空間だった。
兄と弟の間にあるのは、ぎすぎすとした妙な空気。
それを綾は、じっと後部座席から伺うように見ていた。



水原の屋敷に着くと車を置いてくるという兄の代わりに綾に付き添って屋敷の中に入る。
これで2度目だった。
以前、父に連れられて綾と引き合わされたとき以来か…。
玄関までも道に敷き詰められている砂利を踏みしめながら思い出していると、横を歩いていた綾から急に声を掛けられる。

「ねぇ」

この場にいるのは、綾と自分しかいない。
一哉は、それが己に向けられたものだと悟ると顔を綾に向けた。

「何でしょうか」
「ねぇ…どうして、一哉の名前って一ていう文字がつくの?」

突拍子もない、脈絡もない綾の疑問の声に、一哉は一瞬虚を突かれたように相手を見返すことしかできなかった。
何故と言われても、入っているからついているだけだ…。
答えようもない。
彼女の意図していることがわからなかった。
すると、さらに……。

「だって、一哉って4番目でしょ?おかしいじゃない」

そういうことかと一哉は、そこで納得する。

「それに、他の3人とは年も離れているし…顔も似てないし……本当に草壁の人間?」

ついに来たかと一哉は思った。
顔にこそ出さないが、胸の中では、盛大に舌打ちをした。

「草壁の人間でなかったら、お嬢様をお守りすることはできませんよ。正真正銘、父とは血が繋がっています」

柔らかな口調で答えたからか、さらに相手は踏み込んでくる。
こういう態度は、一哉の最も厭うものだった。
相手の痛みがわからないこそ人の奥底まで平気で踏み込んでくるのだ。入ってきて欲しくないところまで…。

「じゃあ、何で名前に…一ってつくの?」
「今、お答えしたとおりです。父とは、血が繋がっています」

笑みを張り付かせて答える一哉の表情からは、決して彼女の問いに不快感を感じているなどとは、到底見えないだろう。
しかし、目の前の人物を殴りつけたいくらいには、不快感を感じていた。
それを感じ取らせるような子どもっぽさは見せないが…。

一哉の答えに漸く理解したのか、綾は目を見開いた。

「母とは血が繋がっていません。要は、妾の子という奴です。今の家には、実の母親が亡くなってから引き取られました。4歳のときです」

くすりと笑いながら答える一哉。
綾が何と答えて良いか分からずにいると、背後から叱責の声が飛んでくる。

「何をこんなところでぐずぐずしている。お前は、碌にお嬢様をお連れすることもできないか?」
「宗司。待って」

車を置いて戻ってきたのだろう一哉を睨みつけて言う宗司の厳しい姿に、綾が自分の所為だと言おうとしたのだが、それを遮って一哉が頭を下げた。

「申し訳ありません」
「違うの」
「さぁ、お嬢様行きましょう」

綾の言葉など聞かずに宗司は、彼女の肩を押して屋敷の中に入らせようとする。
頭を下げる一哉を置いて―。
綾は、強引な力で宗司に押されながらも首を動かして、自分より幼いはずの妙に大人びた少年を振り返ろうとした。
合点がいった―。
彼に対する兄弟たちの妙な雰囲気も…。
全てが……。

屋敷の中に入っていったのを確認した後、一哉は顔を上げた。
そして、己も用があるからここへ呼ばれたのだろうと理解していたので、遅れて屋敷の中へと入っていく。
その顔は、暗く険のある顔つきだった。
決して、誰もが見たことないような……。

チッと小さく舌打ちをしたが、その音は誰の耳にも入ることはなかった。
主君の屋敷である水原の家に足を踏み入れるころには、その顔つきは消失し、いつもの穏やかなソフトな顔つきに戻っていた。




それは、彼の―草壁 一哉という人間の仮面だった。
10年という時を経て培われてきた分厚い仮面……。
決して剥がれない。破れない。強力な仮面。



それを彼が、剥がすのは、1人になったときだけだろう。

2008

0108
七枷様

ご感想ありがとうございます。
あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いしますねvv

お体にはお気をつけください。ゆっくりお休みくださいね。油断大敵ですよ。
私は、後20日ばかりは死ぬ気でやらないと危険そうなので、きばります。
今日は最後ののんびりdayだと勝手に決めてますが発表前でそんな余裕はないとさっき気づきました。

いつものように以下反転でお願いします。

*twins*
息吹兄をぐちゃぐちゃのどろどろ…じゃなくて格好悪くしてみようというのがこの話の始まりでした。
本当は嵐だったのを急遽兄ちゃんに挿げ替えて…。
そのように思っていただけたのならば、やった甲斐がありました(笑)
もっと泣かせます。鳴かせます。啼かせ…(もういいっちゅうーねん。
北原兄弟の過去は大したことはありませんのでご了承を……。いずれ書きます。
小ネタで過去と絡めた話は思い浮かんでますので…お待ち頂ければいつか日の目を浴びることができると思いますよ。
確かに息吹の性格なら七枷様の仰るとおりこれからますます反発するでしょうね。それをどうやってねじ伏せていくか難しいところです。まぁ、力技であることは間違いないです。特に弟は…。

次のパパンの話は書いていてすんごく愉しかった話です。愉しすぎて長くなりましたが…。
見事に息吹が遊ばれております。

*Vizard*
序の口で放置しっぱなしだったお話です。
ちっとも進まない内容にいらいらしてらっしゃることと思います。
もうちょっとだけお待ちください。じっと我慢の子です。
奔放に振舞うお嬢様に疲弊する少年。達観視している部分もある可愛げのない少年ですが…。
綾の変革までは、もう少しです。
どうか焦らされて待っててください。
今月の後半には…おそらく。

*愛*
Blogでも書きましたが『指先の沈黙』ですが気に入らないんです。なんとなく怜迩サンがねぇ、腑に落ちないというなんというか。でもまぁ、置いておきます。
怜迩と息吹のやり取りは書いていて非常に愉しかったんですけどね。
一度自分の手を離れていってしまったものだから余計に不安なんでしょうね。そうそう大人ぶってもいられないというものです。所詮我侭小僧ですから…。よっぽどぎゃあぎゃあ喚き散らす息吹の方が大人だと私は思います。
萎縮してしまう希莉をどう扱っていくかが今後の怜迩の課題ですね。
いいところは全てパパンに持っていかれるとは思いますが…。
6部のネタでは、ちょこまかとうるさいジジババ共の登場も考えています。
まだまだ遠い未来のお話ですね。

*講座*
ぶ…ブラックユーモアってヤツですか?嫌味という時点でユーモアも何もありませんね。
話がそれました…元に戻します。

有利と浅斗の亜季に対する扱いはずっとこんな感じなので亜季もめげません。へこたれません。慣れっこです。
これが竪原家の日常です。
たまに亜季の反逆に合って驚きもしますが、基本はこんな感じです。
いつか小さい頃の話が書けたら面白いかなぁと考えつつこの3人を書いてます。
恐らく年が離れてたらまた関係は違ったのではないかと…。でれでれに甘やかしてそう。特に有利が…。
亜季は色気より食い気です。ひとつひとつの反応が大きいのも特徴です。たまに鬱陶しいです。
ですが、浅海にはそこがたまらないのかもしれません。物好きな男だな。
双葉と葉月の大人げない行動は、大好きなお姉ちゃんが遠くなっちゃうのが嫌だと思う気持ちの表れですね。
こんな経験ないでしょうか?
なんか本当にごちゃごちゃしてきてヤバイと思いつつ話を書いている次第であります。
やっと理香子と香澄が台頭してきたところだし…。一体どんだけかかるねんという突っ込みも入るところです。
こんな話でも好きだと言ってもらえることが本当に救いです。

これからはもうちょっと浅海と亜季を絡ませられるようにしたいと思います。頑張ります。
それでは、苦難ばかりのリアル生活に戻りたいと思います。
くそー、話が書きたいっ。

あ。いつものようにご感想、ご要望お待ちしております。
媒体はなんでも結構ですので気軽に残していってくださいね。

2008

0108
あ、講座UPしておきました。

変な夢をみました。
友達とあと知らないイケメンとひたすら田舎で家を建ててる途中のところを見学するという。
何故か、友達が建築中の手法について詳しく説明してくれてた。
しかも建ててる家が普通の家じゃなくてなんつったらいいんだろう…。
古い洋館みたいな感じのもの…。
そして、いつの間にかどろどろのコンクリートをひたすら投げつけあい喜んでいる。。。

さっぱ意味わかんねぇ。

途中で目が覚めて寝直したらひたすら先生に修論のことで怒られてる夢を見た。
講座の冒頭の亜季じゃないですけど…、夢見悪い…。

一気にやる気消失中。

2008

0108

Vizard(5)





「あの子可愛いわよね」

自分のクラスで横に座る友人の声に綾はふと顔をあげて友人の顔を見返した。

「あの子?」

綾が怪訝な顔つきをしたのに対し、友人は可笑しそうに口元に手をあてて笑った。
鳩が豆鉄砲を食らったみたいに目を丸くした綾の顔が余程面白かったのか…。

「やだぁ。わからない?皆も言ってるのよ」
「わからないわよ…」

友人の言い方に少しむっとしたように眉間に皺を寄せる。

「あの子。よく綾を探しにくるじゃない?結構、あれを楽しみにしてる子おおいのよ?」
「ああ…一哉のこと?」

そこで漸く友人が口にした存在が、最近付けられたばかりの一哉だと悟る。
一哉の顔を思い浮かべて確かに、顔は他の兄弟と違って可愛い顔つきをしているかもしれないが、綾からしてみれば、そんなことどうだっていい。
取り分けて話題にあげるようなことでもないと思っていた。
はっきり言って理解できないとさえ思った。

「そうそう。あの可愛い顔で微笑まれたら。もうダメよ…」

と顔をうっとりさせて言う友人の顔を横目に見ていた綾だったが、突如にっこりとその顔に笑みを浮べた。

「デートする?」

綾の言葉に、友人はきょとんとした顔で綾を見返した。
しかし、すぐに机の上に置かれた綺麗に手入れのされた綾の手をばっと掴んで握ると目を輝かせて頷く。

「いいの?」
「いいわよ」

くすりと笑みを零した。





漸く今日の自分の仕事が終わると…一哉は思いながら綾の後ろをついて正門の傍で綾の帰りを待つ兄のもとに向かっていた。
これが終われば、一哉には自由な時間が与えられる。
やれやれと思いながら一哉は、兄の待つ場所へと向かっていたのだが、何故か今日に限って綾の横には、彼女の友人がいた。
見覚えのある彼女の顔は、以前綾を探していたときに、キスをせがまれた女子生徒で…。
何故か、一哉の方を何度もちらちら確認する。

あの時は、面倒でせがまれた通りのことをしてやったが、こうやってしてみると面倒だと感じざるを得ない。
自分は、さして大したことだと思っていないので平然とした顔で相手と顔を付き合わせることができるが、相手は違うパターンが往々にしてある。
そう、目の前の彼女よろしく…。
居心地の悪さを感じながらも、自分へと向けられる視線には、気づかない振りをした。

どうせ、後少しだ…と自分に言い聞かせて。
直ぐそこに兄の姿が見えていた。

「お帰りなさいませ。お嬢様」
「ありがとう」
「どうぞ」

正門で待っていた一哉の兄の宗司が、車のドアを開けて綾に促がす。
軽く礼を言いながら車に乗り込む綾だったが、くるりと一哉の方に顔を向ける。
一体何だろうか?と一哉は一瞬、身構える。

「一哉」
「何でしょうか?」
「彼女を送ってあげて。私の大事なお友達なの。何かあったら許さないわよ」

とだけ言い切ると綾は車に乗り込んだ。
バタンとドアが閉められ、一哉が聞き返す時間はなかった。
一哉が綾の言っていた相手を見るとにっこりと笑い返してくるので、同じように笑い返した。
面倒なことを…と思っても顔には出さなかった。
彼女の我侭や突拍子もない命令に従うことが己の仕事なのだ。

「行きましょうか?どちらです?」

柔らかな口調で2人きりになった相手に問う。




車の後部座席から、窓の外に映る2人の姿を見ながら綾は、くすりと笑みを零した。
そこに映る常に穏やかな表情、柔らかな笑み……確かに友人の言うとおり、可愛いといえるかもしれない一哉の姿ある。
そして、常に顔色を変えない少年が今の自分の要求に戸惑っているように見えるのは気のせいだろうか。
それは、綾を充分に満足させるものだった。

「お嬢様、いかがなさいましたか?」
「なんでもないわ。出して頂戴」
「かしこまりました」

綾のかすかな笑い声が運転席に座る宗司の耳にも届いたようで…。
だが、宗司の問いには、なんでもないと答えて車を出すように命じる。
主である綾の命令に宗司は、特に意見を言うこともなく従いアクセルを踏む足に力を入れた。
わずかな振動音を身体に感じながら、目を窓の外に向けていた綾だったが、2人の横を通りすぎるときに一哉と目があったような気がした。
車が2人の横を通り過ぎると綾は興味を失ったかのように窓の外から変わり映えのしない車の中に視線を戻した。

そして、ハンドルを握る一哉の兄である宗司の顔を斜め後ろからじっと見つめた。
流石に、食い入るような綾の視線に宗司は怪訝に思ったのだろう信号が赤になったところで綾を振り返る。

「いかがなさいましたか?」
「え?」

宗司の言葉にはっとして彼を見返すと相手がふっと相好を崩す。

「私の顔をじっと見つめていらっしゃったようですから」

指摘されて漸く自分が彼を見つめていたことに気づく。
慌てて視線を逸らした。

「あ、ごめんなさい」
「いえ。私の顔に何かついていましたか?」
「え?そんなことは、ないわ。ないわよ」
「では、どうなさいましたか?」

と尋ねられて、綾は一瞬彼女には珍しくも言うか言わないか逡巡した。
ずっと気になっていたことだった。
俯きがちに視線を泳がし始めた綾に宗司は、目を細めた。

「一哉が何か失礼なことでも?」

そう尋ねる宗司の声音は、綾にも分かるぐらい冷ややかだった。

「そんなことはないわ」

ここで頷いてしまえば、一哉は自分の護衛から外されて自分はあの男が望むように女子高へと編入させられる。
それに、一哉自身に不満はない。
自分のやっていることも黙ってくれている。
ついて回るという若干の煩わしさはあるが、それは致し方ないもの。いてもいなくても困らない存在程度だ。

「…ならいいのですが…」

否定の言葉を口にした綾に宗司が答えた直後、信号が赤から青に変わったので車を再び走らせる。
丁度、アクセルを踏んだときに綾が小さな声で尋ねた。

「ねぇ、何で一哉って一番下なのに名前に一っていう文字が入ってるの?」

綾の問いに宗司のハンドルを握る手がぴくりと震えた。
バックミラー越しに綾の顔を伺う。

「何だか他の3人とは似てないし…年も離れてるし」

その問いに宗司は大きく溜息を零した。
綾は、その吐息の大きさに反応したように宗司の顔を伺う。

「そのことについては、私の口からは何ともお答えできません。一哉に聞いてみてください。お嬢様がお聞きになればきっと答えてくれますよ」

というよううに宗司からは、含みのあるような答えは得られても綾が望むような答えは得られなかった。
別に、宗司が答えても問題はないことなのだが、彼が答えるのを拒んだだけだった。
しかし、綾からしてみれば何か根深い問題でもあるのかと想像してしまうような答えで…。
すっきりとしない顔で、ハンドルを操作する宗司の顔を見続けた綾だった。

だが、終ぞ答えを得ることはできなかった。

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