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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0618
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2008

0123

Vizard(11)





昨日までの自分ならきっと見向きもせずに置いて、さっさと先を急いだはずだ。
常に監視がついているような居心地の悪さを感じて―。
それがどうだろうか。

今日は、一歩下がって先を行く一哉の後姿をちらちらと確認してはすぐに慌てて視線を自分の足元に向けるという行為を幾度となく繰り返す。
あからさまな背後からの視線に気づいたのか、前を歩いていた一哉は、瞳を一瞬だけ光らせると立ち止まって後ろを振り返る。

「どうかなさったんですか?」

2つの目に射竦められて綾の身体がびくりと揺れる。
動揺から揺れる瞳で、悠然と微笑む一哉の顔を見返す。

読めない…。

底が知れない…。

「べ、別に…」

そう答えるのがやっとで…。

「いつもなら早く教室に向かうものですから、どうかしたのかと思いましたよ」

ぴくりと綾の体が揺れる。
嫌なところをついてくる。

困ることになるのは、一哉のはずなのに…。
昨日、去り際に“バレる”という単語を口にしていた。
だから、綾が昨日みた姿は、一哉が隠してきたもうひとつの姿だと理解できる。
バレるという言葉は、裏を返せば知られたくないということ。
この場において、強いのは綾のはずなのに立場は逆転している。

唇をかみ締めたまま何も言わない綾を見つめる一哉。

「何もないんでしたら、早く行かないと遅刻しますよ」

忠告だけして、背を向けた。
少し俯きがちにしていた顔を上げて離れていく背中を見つめる。

「どうしたの?こんなところで立ち止まって」

しばらくそうしていたら、急に肩を叩かれ、弾かれたようにそちらに顔を向ける。
そこには、不思議そうな表情で小首をかしげている友人の姿があって…。
綾は、知らず知らずのうちに肩から力を抜いた。そして、もう一度先を歩いていってしまい、もう姿が見えなくなった一哉の背中を探してもう誰もいない方向へと視線を向けた。

「何でもないわ…行きましょ」

と促して、漸く長い間止めていた足を動かした。



しかし、授業を受けていても見事に身に入らなかった。
ふとした拍子に、ずっと一哉のことを考えている自分に気づく。
手にしたシャーペンをくるくる回しては、ぼうっと考えに耽る。
教師の言葉など、右から左だ。
明らかにやる気のない綾に気づいても注意する人間は誰ひとりいない。
横の席に座る友人が、たまに怪訝な視線をよこすぐらいだ。

はぁ。

ため息を零す。

何でこんなに気になるのか。
何故、あの時の光景が頭から離れないのか。
ぞんざいな言葉をぶつけられたときの冷たく冴え渡る瞳、かげりのある表情が目に焼きついて離れない。

一時間、ずっと考え続けるということを数度繰り返した挙句、綾は、昼休みになるやいなや、教師の終了の合図を聞くなり、がたりと音を立てて椅子から立ち上がると凄い勢いで教室を後にした。
クラスメートは、突然の綾の行動に驚いて彼女が教室を出て行くのを目で追いかけた。
その後、ざわつく。

一体、どうしたのか…と。



教室を出た綾の向かう場所は、自分の退屈を紛らわしてくれる男達のところなどではなく、中等部の校舎だった。
廊下を走る綾の姿を見た教師の中には、怒声を上げる者もいたが、それが綾だと気づくと彼らは一様に口をつぐむ。
綾は、そんな怒声など全くお構いなしに廊下を走って中等部の校舎へと向かった。

学校内だけが、唯一の一哉との接点なのだ。
ここにいる時間を逃したら、もう2人にとって重なる時間はない。
昨夜は、唯一の例外なのだ。

頭の中は、ぐちゃぐちゃだが、とりあえず向かった。

いつもなら、自分から出向いて綾のところに行くというのに、授業が終わりいつものように廊下に出た一哉はそこに立つ綾の姿を見て、俄かに驚いた。
じっと見つめる綾に、いつものように笑みをその顔に張り付かせた。

「珍しいですね」

にこりと笑いかけながら、綾に言うと彼女は大股に一哉に近づいてきて彼の腕を掴むとどこかへと連れていく。
一哉は、綾に腕を引っ張られながらも抗うことなくされるがままになる。
したいようにさせた。
それが、自分の仕事。彼女の機嫌を損ねないように…。

誰もいない教室に一哉を押し込むと後ろでに扉を閉めると先に中に入っていた一哉に詰め寄った。

「昨日のこときちんと説明して!」

眦を吊り上げ、眉間に深く皺を刻み、少し怒ったような口調で尋ねる綾に一哉は肩を竦める。

「昨日のことって何のことでしょうか?お嬢様」

軽く笑って尋ねる一哉に綾は少し紅くなっていた顔をますます赤くした。

自分の言葉、態度にいちいち過敏に反応する綾を見ながら一哉は、思う。

バカな女だ…と。
わざわざ蒸し返すような真似をするとは…。


「惚けないで!」

外にまで聞こえるのではないかというほどの大きな声で綾が対峙する一哉を睨み付ける。
笑みを張り付かせたまま綾を見ていた一哉だったが、ふっと吊り上げていた筋肉の緊張を解く。
すると彼の顔に浮き上がってくるのは、能面のような何も感じ取れない空恐ろしさすら感じさせる無表情。
目だけが、らんらんと怪しく光りを灯す。

綾は、甘さを一切排除された一哉の顔を見て、昨夜の彼の姿を再認識する。

決して見間違いなどではない。
夢でもない。
幻覚でもない。

昨日の、アレは紛れも無い現実だったのだ。
その証拠が今、目の前にいる…。

「よほど暇らしいな」

冷え冷えとする体の芯まで凍りそうな冷たい響き。
びくりと綾の体が揺れる。
2つの鋭い眼光に、綾の体が竦む。

「黙っていれば、まだ可愛げがあるものを…」
「何…?」

怪訝に目を細め自分を見つめる女をどこか高慢な態度で笑い見返す。
己がそれに感じずとも良いとわかってるのに変な緊張感が綾を襲う。
ごくりと唾を飲み込む。

「過ぎたる好奇心は、身を滅ぼすって知ってる?」
「……」
「今のお前だよ」
「わ、私は…ただ、あんなことしてたら危ないからっ」

底冷えのする一哉の声に上擦ったような震える声で答える綾に対して一哉は、彼女を睨みつける眼光の鋭さをさらに強くした。

「余計なお世話だ。偉そうな口きくな」
「なっ…!」
「ここでは、お前は俺の守るべき対象だ、一歩外出たら関係ない。プライベートに踏み込んでくんな。鬱陶しい。ったく…女ってヤツは碌なことを言いやしないな」
「ちょっと」

一哉の言い草に、かっとなった綾が言うだけ言って去ろうとする彼の腕を掴む。
しかし、それはすぐに彼の強い力によって振り払われた。
そんな無碍な扱いを受けたことのない綾は、当然驚きで振り払われたまま手を動かすことができなかった。

「一…哉」
「触るな」

とだけ言って、誰もいない教室から出て行こうとする。
しかし、このまま帰してなるものかと綾が咄嗟に一哉の名を呼ぶ。

「一哉!」

ぴたりと少年の足が止まって、無表情のまま綾を振り返る。

「いいの!?私、お父様に言いつけてやるわっ!今のことも、昨日のことも!」

口をついて出た言葉だった。
そんなこと全く考えてもいなかった。
だが、脅しともとれる綾の言葉を聞いても尚、相手はにやりと口元だけを歪めてみせた。

「勝手にすればいい……その代わり、覚悟はしておけよ」

覚悟…?

どういう意味だと綾は一哉の己よりも高い位置にある顔を上目遣いに見返す。
笑みを消して、低い地を這うような声を発した。

「お前のしてきたことも全部、報告してやる。いろんな男に迫って、貢がせて、飽きたらごみのように捨てる。決まった相手がいるっていうのに、教師まで誑かして……。気づいてないと思っているかもしれないがな……。お前が、視聴覚室で英語教師と何をやっているのかもこっちは、知ってる。やることが軽率なんだよ」

一哉の指摘に綾の顔が紅潮する。
英語教師と言われたが、この学校には数人の英語教師が存在している。
一哉の言っているその英語教師とはその中の1人を指していた。
自分が、今一番のめりこんでいる男だ。妻子ある男。
2人で入った視聴覚室で、キスまでなら許した。それ以上は、さすがにそれ以上はしていないが…。

でも、相手が望ならその先もいいと思ってたのも事実だった。
まあ、相手にそんな度胸はなかったのだが…。

まさか、そのことが一哉に知られているとは思ってもみなかった。
他の男とのことは、知られていると思っていても、その英語教師のことは隠していた。否、ばれていないと思っていた。

「お前の言う、お父様に全て話してやる。となれば……今まで何とか逃げてきたあの男との結婚の時期が早まるだろうなぁ?…ま、俺としちゃあそっちでもいいけど?お前の子守からも解放される。万々歳だ…」

指摘されてから、はっとしたような表情を一瞬浮べた後、一哉から視線を逸らして、俯きがちに教室の床に視線を走らせた。
困ったような表情を浮べる綾の顔を上から、つまらないものを見るような視線で見ていた一哉だったが、ふんと鼻で一回だけ笑うと「自分だけが弱み握ったっていい気になってるんじゃねぇよ。ばか女」とだけ言って、今度こそ綾の前から姿を消した。

綾は、しばらくその場から動くこともできなかった。
一哉の言っていることが真実だったからだ。
むしろ弱みを握られていたのは、自分の方だった……。

何で気づかなかったのか。
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2008

0122
目論んでおります。

この前、小さいモニターで自分のサイトを確認したらその見ずらいこと…。

もうちょっと見やすくしようかと考えてます。
ためしに、時間が空いたので小説ページの番外用のバナーを短くしてみました。
ただそれだけ。
本編用のバナーも作り直そうかな…。
でも、そうすると愛が面倒くさいな。

2008

0122
しんどかった。
昨日は、論文の修正をしている途中で落ちてつっぷして寝ていました。
いかんいかんと誤字脱字を調べていたら今度は、椅子の背もたれに体預けて寝てたせいか一度椅子から落ちました。

誰もいなくて良かった……と本気で思った。
体の至るところが痛い。

先生から原稿帰ってくるまでの間、1日だけ空白の時間ができたので、Blogに登場してみました。
時間も空いてるし講座の続きでも考えるかなぁ。
でも一度考え始めると抜けるのに時間かかるしなぁ…。

Vizardは父が暴れておりますが…。何でこんな人考えたかなぁ。私。
Vizardの展開でも考えるか。


2008

0122

Vizard (10)




綾は目を見張った。
こんな一哉知らない。

他の兄弟とは似ても似つかない整った顔にはいつものような柔らかな表情の代わりにひどく褪めた何も感じられないまるで人形のような顔がある。
つり上がった2つの瞳だけが鈍い光を放ち綾を捉えて離さない。
一瞬吐き捨てるように鼻で笑った後ますます綾を睨み付ける双眸を鋭くした。

嘲りの色を含んだ笑いに綾は目を見開いたがすぐにかっとなり眦をつりあげて自分と対峙する2歳年下の少年を見返した。
そんな笑いを向けられたことなどなかった。
常に自分の顔色を伺う者たちばかりだった。
寧ろそんな笑いを向けるのは自分の方だった。

「こんなところで何をしてるの?」

自然と声音はきつくなる。
さっきまでは、動揺で全く舌が回らなかったというのに、今度は頭よりも先に口が動いていた。
綾とは対照的に、一哉は何も答えなかった。
表情も何一つ変わらない。
まるで、命を持たない無機物に話かけているようだった。

「何で喧嘩なんかしてるの?」

いくら綾が聞こうとも一哉は何も答えなかった。

五月蝿い女だ…。

目前で顔を吊り上げて怒る綾を見て一哉はそう思った。
答えようとしない一哉に苛立ったように綾が高い声を上げた。

「一哉っ!」
「…五月蝿えよ」

腹の底から捻りだすような声だった。
自分の名を軽々しく口にする。

綾は、その声に言葉を飲み込んだ。
さらに驚愕に目を見開き、一哉の顔を見つめる。

「邪魔すんじゃねぇよ。お前に何の関係があるんだ?俺の私生活にまで踏み込んでくるんじゃねぇ」
「な……に…」
「鬱陶しい」

喉の奥がぎゅうっと締め付けられる。
上手く音にできなかった声が、空気に擦れる。

「ったく…よりにもよってお前にばれるとは…」

ちっと舌打ちして、一哉は綾に背を向けると大通りの方ではなく暗い路地の方へと姿を消した。
綾は、去っていく背中に声をかけることも引き止めることも…、動くこともできなかった。
ただ、黙って立ち尽くすしかなかった。

一哉の姿が見えなくなってもそれは変わらず…。
1人になった途端に、心臓がどくどくと脈打ち始める。
震える手で胸を押さえてずるずるとしゃがみこむ。

自分が見たのは、一体何か…。
夢か。幻か…。

そんな筈はない。

1人の少年の影を見た――。


目をつぶって陰鬱な表情の一哉の姿を思い出す。
目を手で覆って、視界に映る一切のものを排除する。大きく吐き出した息。少しだけ緊張がほぐれる感じがした。
そして、自分が緊張していたことを悟る。

「綾さんっ!」

焦った男の声を聞いて綾は顔を上げた。
男の顔を確認して、少し驚く。

肩で息をしながら綾に近づいてくる男を綾は、その場にしゃがみこんだまま待っていた。

帰ってなかったの……?

恐らく綾が消えた後を追いかけて漸く見つけたのだというのに存外に失礼な綾の言葉。
綾の身体を支えるようにして立たせる。

「急に走りだすから吃驚しました」
「帰っててって言ったのに?」

少し声が震えている。
男は、血相を変えて綾に言い返す。

「そんなことできませんよ!さぁ、僕と帰りましょう」

という男に手を引かれて綾は、漸くその場から動くことができた。
車の運転をしながら、しきりに一体何があったのかと聞く男の問いに頑なに口を閉ざしていた綾。
自分が見たこと言われたことを男に告げるのは、簡単だった。
だが、言ってはならない気がしたのだ。

何故かと問われれば、それをきちんと答えることはできない。

綾は、己の直感に従った。





夜、ベッドに入っても当然寝れるわけもなく…。
目がぎんぎんに冴えた状態で睡魔が訪れるのを待つしかなかった。
暗闇の中で、綾の頭からは一哉の姿が離れず。
笑いながら人を殴る姿。

無理に寝ようとしても、一哉から言われた暴言ともとれる言葉が耳のすぐ傍で再生されているようだった。



『鬱陶しい』



何度も何度も繰り返し、流れていた。

綾が眠りについたのは、空が白み始めるころだった。
いつまで経っても起きてこない綾に不審に思った使用人の1人が綾を起こしにくる。

身体を揺すられて綾が身じろぐ。

「…様…。お嬢様、朝ですよ」
「…ん…ぅ」
「お嬢様。起きてください。遅刻してしまいますよ」

ぼんやりとする頭で幼い頃から屋敷にいるもう老年期に入った女の言葉を聞き、綾は身体を緩慢な動作で身体を起こした。
眠い目を擦る。

「どうなさったんですか?珍しい」
「寝れなかったの」

欠伸をしながら、大きく伸びをする。
呆れたように大きく息を吐き出しながら女は、綾を見た。

「お食事の準備は整っていますからね。早く出てきてください。直にお迎えもお見えになりますから、急いでくださいよ」
「わかってるわ」

どこか口うるさい女に適当に返事をしてベッドから足を下ろす。
綾がベッドから降りるとき、ぎしりとベッドが音を立てた。
のろのろと身体を動かして、かけられている制服を手にとった。



「おはようございます。お父様」
「今日は、遅かったんだな。宗司がもう来ているよ。早くしなさい」
「はぁい……」

と気のない返事を父親に返しながら、宗司という名前を聞いて一哉の存在を思い出す。
昨夜寝れなかった元凶。
ぴたりと止まった娘の様子に、父親は怪訝な顔つきで目を通していた経済新聞から顔を上げて綾を見た。

「どうかしたかい?」

父の不審げな声にはっとして、慌てて否定する。

「ううん。…なんでもない」
「昨日も帰る時から様子がおかしいと堺くんから聞いているが…」

否定したのに、それでも食い下がってくる父親とそして余計なことを彼に教えた男に、余計なことを…と心の中で毒づいた。

「やだぁ、堺さんのただの心配性よ。別に何でもないわ」

と笑って誤魔化す。
父親は、疑わしい視線で綾を見ていたが、ふっと相好を和らげて「そうか」と頷くともう一度続きを読むために広げた新聞に目を落とした。
漸く納得してくれた父親に、ほっと肩の力を抜いていると遠慮がちに開いた部屋の扉から宗司が顔をのぞかせる。

「お嬢様。もう、そろそろ…」
「分かったわ」

時計を気にしつつ綾を見る宗司の姿に、綾は頷くと「では、いってきます」と父親に挨拶をして宗司の後について部屋を出て行った。

宗司の運転する車の後部座席でわずかな振動を感じながら、綾はしきりに考えていた。
一哉のことを。

どう接したらいいのかわからなかった。
今までのようには、振舞えないと思った。

あまりに鮮烈な記憶を綾に残していた。
学校についたのか、車が止められると宗司が先に車を降りて綾のためにドアを開ける。
外の光が差し込んでくるのに眩しさを感じつつも一回だけ、溜息を小さく零すと車から降りた。

「おはようございます。お嬢様」

車から降りた綾を待っていたのは、一哉だった。
いつものようににこりと笑って柔らかな口調で言う。

昨夜の翳りなどどこにも感じられない。
あまりに普通すぎて、綾の方が戸惑う。
ぐっと言葉を飲み、立ち止まったまま硬直したように動けなかった。
食い入るように一哉を見ていると宗司が怪訝な顔で綾の顔を覗き込んでくる。

「お嬢様。いかがなさいましたか?」
「…あ、ううん。な、なんでもないわ」
「……そうですか。では、いってらっしゃいませ。いつものお時間にお迎えにあがります」
「おねがい」

頭を下げる宗司に向かって言うと綾は、目の前に立つ少年の顔を見据えた。
柔和な顔で笑むだけ…。

一瞬、昨日見たものは夢だったのではないかと錯覚する。

「行きましょうか?お嬢様」
「…ぇ、ええ」

言葉に詰まりながらも頷いて綾は一哉の後を追った。

 

2008

0121

Vizard(9)




「ちょっと!綾さん、どうしたんですかっ!?」

後ろから慌てたような男の声が聞こえた。
だが、綾は、振り替えらなかった。

「やっぱり、自分で帰りますっ」

と少し大きな声で答えると走る足の速さを加速させてその場所へと向かった。
今までにない位に、走るということに力を注いだ。
それでも、もっと早く走れなかったのかという錯覚を抱いた。





往々にして、人は見誤る。
自分の力を図り間違えてくれる。
それは、自分からしてみれば好都合なことこの上ない。
丁度いいストレス発散にもなる。
一体、いつからこんなことに興じていただろうか。

見た目のひょろ長い着やせする体は、ただでさえ肉付きの薄い自分の体をさらに細くみせる。
また、記憶に残っていないがおそらく母譲りである甘い顔立ちは、その貧弱さにさらに花を添える結果となる。
その所為で、こういった手合いの輩には事欠かなかった。
夜の街を歩いていれば、自然と囲まれることが多い。
通りを行きかう人間は、明らかに己の窮地に気づいていながら決して手を差し伸べるということはしない。
傍観者に徹するのだ。
それは、いい。
それこそが人間の本質。

困っているものを見てどこかで安心するのだ。自分は幸福だと。

そのことをよく知っている。
これまで、身をもって経験してきているのだから…。



ざっと数人に回りを囲まれた時、「またか…」と一哉は思った。
それほどまでに自分の相貌は、貧弱に、カモにしやすく見えるのか…とも思う。
にやりと笑った相手の顔を即座に殴りつけてもいいのだが―。

ぐるりと視線を自分囲む男達に向ける。
人相は悪い。
そりゃあ、誰だって避けたくなるというもの。
体つきもがっしりしているのが多い。
腕に覚えがある者達かもしれないと思った。
だからと言って身構えることはしない。
もう少し、人数を増やしてもらわないとやりがいというものが全くと言っていいほどない。それでも、まぁいいかと考える。
自分に絡んできたのだ。それ相応の覚悟をしてもらおう。

少し俯けた一哉に、周りは彼が怯えているようだと勘違いしたようで、方々から嘲るような笑みがこぼれる。
下を向いたまま一哉は眦を吊り上げ、片頬の筋肉を持ち上げてわざと笑みを零した。
一哉の様子に、彼の周りを囲っていた男達が気づき、一哉が笑っているのを見て気色ばむ。

「んだぁ?てめえ」

ぐいっと大きな手で乱暴に服の襟を掴まれる。
その拍子に、体が揺さぶられるが一哉の顔色に変化はなかった。
それどころか……。

「離せ」

と言った一哉に男達が虚を突かれたような顔になった。
一瞬呆けたような顔をするが、一哉の言葉を理解するやいなや、顔を真っ赤にして怒り出す。
予想にたがわない単細胞ぶりに一哉は、笑みを深く刻んだ。

「てめえ、なめてると…」
「痛い目見るって?それは、こっちの台詞だ。バカ共。つるむしか能がないサル以下だな」

相手の自尊心を傷つけるような言葉をわざと並べてみせる。
最後に、ふっと鼻で笑ってやれば、それで終了。

伸びてきた拳を軽く手でパシッと受け止めてやると男は驚いたような顔をして一哉を見てくる。
一哉は、男の拳を手で受け止めながらも、冷静に男の力を分析していた。

何だ。この程度か…。つまらない。

そう評した。

「ここは、往来のジャマになる。場所移せよ」

と命じてやるが、当然聞く耳など持つはずも無い。
そんなこと分かっていた。

「恥を掻くのはお前らだけど」

煽るように言ってやれば、ますます頭に血を上らせた男達が掴みかかってくる。
それをひらりと交わしながら、一哉は場所を移動する。
どこで誰の目があるともわからない場所でやるのは、避けたかった。見つかれば――。

走り始めた一哉に、男達は逃げ出したと思い後を追う。
一哉は走りながら、男達が追ってくるのを確認すると小さく「バカめ」と呟いて路地に入る。
少し、大通りに近い気もしたが、まあいいだろうと及第点を与え、その場で男達が近づいてくるのを待った。
さて、今日は何分で片がつくか…。
腕に嵌められた腕時計で時間を確認しているとばたばたっという足音が聞こえてくる。
腕時計から顔を上げて、現れた男達を見ては、にやりと酷薄な笑みを浮かべた。

「覚悟はできてんだろうなぁ」
「覚悟がいるのは、お前達だろ?ごたごた言ってねぇで、とっととこいよ。面倒くせ」

顔に似合わない乱暴な言葉遣いで言うと小さく笑いながら流し目を送るようにして男達から視線を外した。
邪魔になりそうだったシャツをその場に脱ぎ捨てる。

「ガキが調子のってんじゃねぇっ!」

向かってくる男達を適当に交わしながら、偶に足を振り上げて蹴り飛ばしたり、拳を胴体にもぐりこませる。
相手の動きは決して一哉には当たらない。
一哉からしてみれば、男達の動きは止まって見えて、全てが隙だらけだった。
日ごろから鍛えられているものと鍛えられていないものの差。

それでも今日の相手は、物足りなかった。
汗ひとつかかない。
普段から、武術・体術をやらされている一哉は、稽古と称してここぞとばかりに暴力的になり、加減など知らない彼らを相手にしているだけに、強すぎたのかもしれない。
結局、見掛け倒しか…と思いながら、向かってくる相手を笑いながら交わして適度に力を加減しながら腕を振り上げたりという行為を繰り返していた一哉だったが、いい加減飽きてきたので、そろそろ切り上げるかと考えていた時だった。



「一哉っ!」

甲高いヒステリックな声がしたと思ったらぐいっと腕を引っ張られる。
そして、そのままもの凄い力で引っ張られた。
バランスを崩しながらも自分の腕を引っ張った相手を確認しようと身体の向きを変える。
引っ張られるようにして、自分の腕を引いて走る彼女の後を追う形になった。
最初、自分の腕を掴んだ相手の後姿を見たとき、目を見開いた。
今日、一番の驚きだったかもしれない。

何故、ここに…。

という疑念よりも、一哉は心の中で…。



見られた。



即座にそう思った。
後方を振り返ると何か遠吠えのようなものが聞こえたが、あの様子では追ってくることすらしないだろう。



綾は、ひたすら少年の腕を掴んだまま走った。
だから、彼の身体が硬直したことに気づかなかった。
すでに現場に向かうまでに全速力で走ったのだから、彼の腕を捕まえたときにはすでに息が上がっていたのだが、それでも丁度大通りに面した位置に立っていた少年の名前を呼び、腕を掴んで、そのまま走った。
もう既に疲れていたはずなのに、足は不思議と軽やかに動いた。
決して離すまいとぎゅっと腕を掴んだまま走った。

どれくらい走ったのだろうか。
どこに向かうのか考えもせずに走った。
自分がどの位置にいるのかもあまり把握していなかった。頭は、真っ白だった。

しかし、ぴたりと止まった相手に釣られるようにして、綾の足も止まる。
不審に思った綾が後ろを振り返るといつもとは、全く違う少年の顔があった。

その表情は、穏やかや甘さなどは一切抜け落ちていて……。



そう例えるなら、氷のような冷たく暗い表情だった。
何も写さないような冷めた視線の奥は、暗く陰湿で翳りが見える。そんな目で綾を見る。
纏うオーラも異質だった。

そんな視線、表情、全く見覚えがなかった。

いつも…。自分がどんな我侭を言ったって、無理難題を押し付けたって笑いながら従順に従っていた彼ではなかった。
自分を睨みつけることなど決してなかったのに…。
確かに彼なのに、全くの別人に見える。
こんな人物は、知らない。

身が竦む。
己を睨みつける相手の顔を食い入るように見つめながら綾は、一歩後ろに下がった。
目が逸らせなかった。

聞きたいこと、言いたいことは沢山あった。
何で喧嘩などしていたのか?
何故こんなところをうろついているのか…?
ぐるぐると頭の中でいろんな言葉が巡る。

「か…ずや、こんなところで何をしてるの?」

やっと出てきたのは、明らかにうろたえた声だった。
だが、一哉からの返事は、嘲笑のようなものだった。
彼は、一回ふんっと鼻で笑った。

綾は目を見開いて一哉を見返した。

 

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