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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0322
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2008

0122

Vizard (10)




綾は目を見張った。
こんな一哉知らない。

他の兄弟とは似ても似つかない整った顔にはいつものような柔らかな表情の代わりにひどく褪めた何も感じられないまるで人形のような顔がある。
つり上がった2つの瞳だけが鈍い光を放ち綾を捉えて離さない。
一瞬吐き捨てるように鼻で笑った後ますます綾を睨み付ける双眸を鋭くした。

嘲りの色を含んだ笑いに綾は目を見開いたがすぐにかっとなり眦をつりあげて自分と対峙する2歳年下の少年を見返した。
そんな笑いを向けられたことなどなかった。
常に自分の顔色を伺う者たちばかりだった。
寧ろそんな笑いを向けるのは自分の方だった。

「こんなところで何をしてるの?」

自然と声音はきつくなる。
さっきまでは、動揺で全く舌が回らなかったというのに、今度は頭よりも先に口が動いていた。
綾とは対照的に、一哉は何も答えなかった。
表情も何一つ変わらない。
まるで、命を持たない無機物に話かけているようだった。

「何で喧嘩なんかしてるの?」

いくら綾が聞こうとも一哉は何も答えなかった。

五月蝿い女だ…。

目前で顔を吊り上げて怒る綾を見て一哉はそう思った。
答えようとしない一哉に苛立ったように綾が高い声を上げた。

「一哉っ!」
「…五月蝿えよ」

腹の底から捻りだすような声だった。
自分の名を軽々しく口にする。

綾は、その声に言葉を飲み込んだ。
さらに驚愕に目を見開き、一哉の顔を見つめる。

「邪魔すんじゃねぇよ。お前に何の関係があるんだ?俺の私生活にまで踏み込んでくるんじゃねぇ」
「な……に…」
「鬱陶しい」

喉の奥がぎゅうっと締め付けられる。
上手く音にできなかった声が、空気に擦れる。

「ったく…よりにもよってお前にばれるとは…」

ちっと舌打ちして、一哉は綾に背を向けると大通りの方ではなく暗い路地の方へと姿を消した。
綾は、去っていく背中に声をかけることも引き止めることも…、動くこともできなかった。
ただ、黙って立ち尽くすしかなかった。

一哉の姿が見えなくなってもそれは変わらず…。
1人になった途端に、心臓がどくどくと脈打ち始める。
震える手で胸を押さえてずるずるとしゃがみこむ。

自分が見たのは、一体何か…。
夢か。幻か…。

そんな筈はない。

1人の少年の影を見た――。


目をつぶって陰鬱な表情の一哉の姿を思い出す。
目を手で覆って、視界に映る一切のものを排除する。大きく吐き出した息。少しだけ緊張がほぐれる感じがした。
そして、自分が緊張していたことを悟る。

「綾さんっ!」

焦った男の声を聞いて綾は顔を上げた。
男の顔を確認して、少し驚く。

肩で息をしながら綾に近づいてくる男を綾は、その場にしゃがみこんだまま待っていた。

帰ってなかったの……?

恐らく綾が消えた後を追いかけて漸く見つけたのだというのに存外に失礼な綾の言葉。
綾の身体を支えるようにして立たせる。

「急に走りだすから吃驚しました」
「帰っててって言ったのに?」

少し声が震えている。
男は、血相を変えて綾に言い返す。

「そんなことできませんよ!さぁ、僕と帰りましょう」

という男に手を引かれて綾は、漸くその場から動くことができた。
車の運転をしながら、しきりに一体何があったのかと聞く男の問いに頑なに口を閉ざしていた綾。
自分が見たこと言われたことを男に告げるのは、簡単だった。
だが、言ってはならない気がしたのだ。

何故かと問われれば、それをきちんと答えることはできない。

綾は、己の直感に従った。





夜、ベッドに入っても当然寝れるわけもなく…。
目がぎんぎんに冴えた状態で睡魔が訪れるのを待つしかなかった。
暗闇の中で、綾の頭からは一哉の姿が離れず。
笑いながら人を殴る姿。

無理に寝ようとしても、一哉から言われた暴言ともとれる言葉が耳のすぐ傍で再生されているようだった。



『鬱陶しい』



何度も何度も繰り返し、流れていた。

綾が眠りについたのは、空が白み始めるころだった。
いつまで経っても起きてこない綾に不審に思った使用人の1人が綾を起こしにくる。

身体を揺すられて綾が身じろぐ。

「…様…。お嬢様、朝ですよ」
「…ん…ぅ」
「お嬢様。起きてください。遅刻してしまいますよ」

ぼんやりとする頭で幼い頃から屋敷にいるもう老年期に入った女の言葉を聞き、綾は身体を緩慢な動作で身体を起こした。
眠い目を擦る。

「どうなさったんですか?珍しい」
「寝れなかったの」

欠伸をしながら、大きく伸びをする。
呆れたように大きく息を吐き出しながら女は、綾を見た。

「お食事の準備は整っていますからね。早く出てきてください。直にお迎えもお見えになりますから、急いでくださいよ」
「わかってるわ」

どこか口うるさい女に適当に返事をしてベッドから足を下ろす。
綾がベッドから降りるとき、ぎしりとベッドが音を立てた。
のろのろと身体を動かして、かけられている制服を手にとった。



「おはようございます。お父様」
「今日は、遅かったんだな。宗司がもう来ているよ。早くしなさい」
「はぁい……」

と気のない返事を父親に返しながら、宗司という名前を聞いて一哉の存在を思い出す。
昨夜寝れなかった元凶。
ぴたりと止まった娘の様子に、父親は怪訝な顔つきで目を通していた経済新聞から顔を上げて綾を見た。

「どうかしたかい?」

父の不審げな声にはっとして、慌てて否定する。

「ううん。…なんでもない」
「昨日も帰る時から様子がおかしいと堺くんから聞いているが…」

否定したのに、それでも食い下がってくる父親とそして余計なことを彼に教えた男に、余計なことを…と心の中で毒づいた。

「やだぁ、堺さんのただの心配性よ。別に何でもないわ」

と笑って誤魔化す。
父親は、疑わしい視線で綾を見ていたが、ふっと相好を和らげて「そうか」と頷くともう一度続きを読むために広げた新聞に目を落とした。
漸く納得してくれた父親に、ほっと肩の力を抜いていると遠慮がちに開いた部屋の扉から宗司が顔をのぞかせる。

「お嬢様。もう、そろそろ…」
「分かったわ」

時計を気にしつつ綾を見る宗司の姿に、綾は頷くと「では、いってきます」と父親に挨拶をして宗司の後について部屋を出て行った。

宗司の運転する車の後部座席でわずかな振動を感じながら、綾はしきりに考えていた。
一哉のことを。

どう接したらいいのかわからなかった。
今までのようには、振舞えないと思った。

あまりに鮮烈な記憶を綾に残していた。
学校についたのか、車が止められると宗司が先に車を降りて綾のためにドアを開ける。
外の光が差し込んでくるのに眩しさを感じつつも一回だけ、溜息を小さく零すと車から降りた。

「おはようございます。お嬢様」

車から降りた綾を待っていたのは、一哉だった。
いつものようににこりと笑って柔らかな口調で言う。

昨夜の翳りなどどこにも感じられない。
あまりに普通すぎて、綾の方が戸惑う。
ぐっと言葉を飲み、立ち止まったまま硬直したように動けなかった。
食い入るように一哉を見ていると宗司が怪訝な顔で綾の顔を覗き込んでくる。

「お嬢様。いかがなさいましたか?」
「…あ、ううん。な、なんでもないわ」
「……そうですか。では、いってらっしゃいませ。いつものお時間にお迎えにあがります」
「おねがい」

頭を下げる宗司に向かって言うと綾は、目の前に立つ少年の顔を見据えた。
柔和な顔で笑むだけ…。

一瞬、昨日見たものは夢だったのではないかと錯覚する。

「行きましょうか?お嬢様」
「…ぇ、ええ」

言葉に詰まりながらも頷いて綾は一哉の後を追った。

 

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