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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0213
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2008

0412
寝ぼけ眼でキャンパスの構内を歩くのは、ついさっきまで乗っていた電車で寝こけていた所為もある。
通学時間2時間以上かかる深岬にとって1コマの授業ほどつらいものはない。
朝は5時半起きになる。
眠い目を擦って適当にご飯を見つけて食べる。
見つけてというところがポイントかもしれない。
母親が起きているときは、何か作って貰えるが起きていない時は自分で作るあるいは昨夜の残り物を探して食べてから出て行く。
顔を洗って化粧をして出て電車の中では足りない睡眠時間を補うようにして規則的な振動音に揺られながら眠る。

「あー眠い」

誰に聞かせるわけでもなくぼやく。
余計に眠くなってくるのは気のせいだろうか。
朝からテンションの高い奴を見ていると無性に腹が立つのは気のせいだろうか。
これが一般教養などの授業なら、もうすでに大学という空間に慣れてきた身。無理して出てくることはない。
しかし、専門教科はそうはいかない。
中には、専門教科だろうが一般教養の科目だろうが一向に構わずでてこないという強者もいるが、もともとそこまで成績も頭もいいというわけではない深岬には、ずる休みをするという選択肢は存在しなかった。
とろとろと歩いて教室に向かう。
電車の時間という電車通学の者には切っても切り離せない時間の制約というものがある。
一本遅い電車だと遅刻になる上に、この科目の教授が嫌がらせかといつも深岬は思うのだが、最初に出席を取るために遅刻ができない。
しかも出席簿を回して自分のところをチェックするならまだしもいちいち名前を呼ぶのだから尚更質が悪い。
従って、このクラスに女子学生は深岬と涼子の2人しかいないために代返は不可能となる。
鬱々とした気分のまま教室までの道のりを歩いて目的の教室に漸く到着する。
人もまだまばらだ。
後方の席の一つに座り、体を机に伏せて憎き教授がやってくるまでの数十分の間、眠ることにした。

深岬は、肩を遠慮がちに叩く指に覚醒した。
耳に入ってくるのは、ざわざわとした人の話し声。
それにもうすぐ授業かと思いながら緩慢とした動作で体を起こすと自分の肩を叩いてきた人物のいるであろう方向に目を向ける。

「おはよう」
「…はよぉ」

相手の言葉に返すように言うと軽くメイクが崩れない程度に目を擦る。
顔を確認するまでもなく声で相手が誰だかわかるのだが、はっきりとした視界に飛び込んできたのは、今日もばっちりとメイクが施されて綺麗に着飾った涼子の姿だった。
何となく退いてしまうのは何故だろうか。
めっきり苦手意識ができてしまったのか。それとも、本能的な反射だろうか。

「どうしたの?」

深岬の反応に気づいたのか小首を傾げながら聞いてくる姿は、何の悪意も感じられない。
悪意があったらあったで困るのだが。

「別に…なんでもない」

と深岬が答えたところで教室内に教授が入ってきたので涼子もそれ以上、何も言わなかった。

矢鱈と板書の多い講義で、また書くスピードも早いのでノートを取るのに必死になるので自然と授業自体は静かだ。
中には、早々に放棄して睡眠学習に入るものもいたがそれでも大半の学生が真面目にノートを取っている。
深岬もその中の1人だった。
逆に涼子はもう既に放棄している。
横目で確認した彼女は、詰まらなさそうに肩まで伸びた綺麗に巻かれた髪で指遊びをしている。

そんな彼女を見ながら、そう言えば昨日の飲み会は結局どうなったのだろうと思ったが、自分から聞くのも何だか気が引けた。
津田からは『ひどいよ』と深岬を詰るようなメールが届いていたが、無視をしたのは自分だ。
思い出したように教室内に津田の姿を探すがそこに彼の姿はなかった。
元々サボり癖のある男だけに特に気にも留めなかった深岬だった。

ほぼ90分間ペンを握っていると流石に疲れる。
いつもこの講義が終わった後はどっと疲れが押し寄せてくるのだ。
大きく息を吐き出した深岬がカバンに教科書とノートを閉まっていると横から手が出てくる。

「ノート貸して?」
「……いいよ」

涼子の言葉に苦労して取ったノートを差し出す。
少しは自分で努力しろよと思わない深岬ではなかったが、それは敢えて顔に出さなかった。

“僕を利用する人達”

津田の書いた文字が頭を過ぎる。
深岬が津田の友人だと思ってた人物達が津田を利用する者だというのならば、涼子はさしづめ深岬にとっての自分を利用する人なのかもしれない。
その思いが強くなるのは、それから直ぐのことだった。

「今からノート写すから…ちょっと早いけどお昼も兼ねて学食いかない?」

そう言われて別に断る理由もなかったので頷いて2人ですぐ近くの食堂に向かう。

「コピーじゃないの?」

コピー機という文明の利器があるのに、何故そんなわざわざ面倒な方を選ぶのか深岬には不思議でならなかった。
いつも涼子がコピー機を利用しているのを知っているだけに余計に―。
大体、授業中にノートを取るのを諦めたからこそ深岬にノートを貸してと言ってきたのではないか…。それなのにどうしてだろうと思うのだったが、まぁすぐにノートを返して欲しいというわけでもない。
気になったから一応聞いてみたのだが…。

「うん。コピー代も莫迦にならないし、それに途中まで書いてるから~」

軽く言いながら食堂に入り、適当な席に座る。

早速ノートを写し始める涼子だったが、その時間ははっきり言って深岬には何もやることがなく暇な時間でしかない。
退屈だと思いつつも面と向かってそんなことは言えないので、黙って見ていた。
綺麗な女の子らしい字で書き取られていく文字をただ追いかけていた。

退屈だなぁと思いつつ学食の中をきょろきょろしても面白いものは見当たらない。
そんな深岬に気づいたのだろう涼子が顔を上げて済まなさそうな顔をして顔の前で両手を合わせてくる。

「ゴメンね。急いで終わらせるから」
「いい、いい。別にやることあるわけじゃないから」

そうやって言われてしまえば、深岬はそう答えるしかなかった。
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2008

0411
いつも少し早く終わる授業。今日も同じく規定となっている時間を待たずに教授が姿を消した。
途端にがたがたと椅子から立ち上がる音や、ノートや教科書をしまう音、人の話し声などで室内は騒がしくなる。
周りと同じように机に出したものをしまう。

「何も聞いてなかったね」
「これならサボってたのと一緒だわ」

苦笑交じりに深岬に声をかけた津田に激しく同意して椅子から立ち上がる。
一体何してるんだかと思わないわけではない。

教室の外に出ようとすると声を掛けられる。

「深岬ちゃん」

その高い声を忘れていたわけではない。
ただ声が聞こえてきたときに途轍もない疲労感に見舞われた。

「何?」

ぎこちない態度で問うと涼子よりも身長の高い深岬を下から上目遣いで見つめながら言う。

「秘密ってなに?あれからメールしたのに気づいてくれないから気になって仕方なかったんだよ」

軽く頬を膨らませる涼子。
頬を膨らませていても顔に貼り付けられた笑顔のお陰か怖くも何ともない。
それどころか誰が見ても可愛いいと思えるものなのだろうだが、深岬は素直にそう思うことができなかった。
数ヶ月前なら思えたかもしれない。
涼子の言葉を聞きながら、講義の間に考えた理由をそっくりそのまま言おうとした深岬だったが、ぴたりと止まる。

「嘘…。メール?」
「やだぁ。気づいてなかったの?」
「あれ?気づいてなかったの?」

慌ててバッグの中から携帯を取り出して確認すると画面上にメールの着信を告げるマークが表示されている。
あっと思うのと同時に、何故か涼子だけでなく隣の席にいた津田がまるで揃えたかのように同じ台詞が2人の口から滑り落ちる。
涼子はまだいい送った本人なのだから、何故深岬の携帯が入ったバッグから自分よりも遠くに座っていた津田が気づいていたのか―。

「ちょっと、何であんたが気づいてるわけ?」
「ぶるってたじゃん」
「何で言わないの」
「てっきり気づいてるのかと思ってたし」
「気づいてたらあんたと筆談してるわけないでしょ」

足で津田のジーンズを履いた細い足を加減もなく蹴り上げると「痛い」と悲鳴があがるがふんっと睨みつける。
深岬に蹴られた足をさする津田と面食らったように目を剥く涼子。
携帯を操作して数十分前ほどに来た涼子からのメールを確認する。

『秘密って何?気になるよ』

という文面を見て、もう一度津田を睨みつけると津田の傍には涼子が心配そうな顔して駆け寄っていた。

「大丈夫?」

加減はしなかったがそんな大袈裟にするほどの力ではない筈だと思うのは、深岬の思い違いなのだろうか。
大丈夫と答える津田に対して執拗なまでに「大丈夫?」と気遣う涼子に、深岬は睨みつけたときにはもう一言くらい文句を言ってやろうかと思っていたのだが気が削がれてしまった。

「…ノートコピーして、本探しに行ってただけよ」
「え?何が?」

声のトーンを落として答えた深岬に聞き返してくる涼子に何だか馬鹿らしく思えてきた。
自分で聞いてきた癖に今は邪魔しないでくれとばかりに深岬に対してはそっけない態度。深岬には今の涼子の態度がそう思えてならなかった。

「なんでもない……。帰る。また、明日ね」
「あ、待って!」

引きつった笑みを浮かべながらくるりと背を向けた深岬に引き止めるような声をかけたのは、津田ではなく涼子だった。
一瞬、気づかない振りをして帰りたくもなったのだが、この至近距離で気づかない振りは無理があるだろうと思い足を止め振り返る。

思いっきり怪訝な顔つきをしている深岬に対して、涼子はにこりと笑う。

「あのね。旭クンの友達とも話してたんだけど…飲み会しない?」

―何を言い出すのかと思えば飲み会かよ。

とは顔には出さないものの心の中言う。

「旭くんもいいでしょ?」
「あ…ああ。深岬ちゃんがいるなら」

ご自然に答える津田。
ぴくっと涼子の顔が一瞬だけだが、固まったのを深岬は見逃さなかった。

―あんたもそこで何故に私の名前を出すっ!?

強かな彼女はすぐに表情を取り繕っていたが、内心では穏やかではないだろう。

「いつ?」
「急なんだけど…今日は、ダメ?」
「随分と急だね…」
「何かみんなの予定聞いてたら今日しかなくって…」

苦笑とともにはっきりと言う深岬に涼子も苦笑を浮かべた。

「ゴメン。今日は、パス」
「え?」

3日酔いの状態の深岬はとてもじゃないが飲む気分になんて慣れない。
講義に遅刻してまでも貰った薬のお陰かだいぶと収まってはきているが、思い出しただけでも気持ち悪くなってくるというのに、目の前にそれが出てきたら一体どうなるか分かったものじゃない。
まさか、断られるとは思っていなかったのだろう。涼子は驚いたような顔で深岬を見て、その後深岬が行くなら行くと行った津田の顔を確認する。

「じゃ、俺も行かない」
「そんなぁ」
涼子が絶句する。
余計な火種を増やすなと思う深岬の思いは間違ってはいないだろう。
変に涼子から睨まれる前に口を挟む。

「あんたは行け」
「深岬ちゃん行かないんだろ?」

他人仕様で話しかけてくる津田は途轍もない違和感を深岬に与え、どこか深岬を落ち着かなくさせる。
その違和感を追い払うように一気に言う。

「あんたは、親がいなけりゃ何もできない子供かいっ。私は、2日酔いで思い出すだけでも気持ち悪いからいかないの。あんたは違うでしょ?私が行くなら行くつもりだったんだから。違う?行けるなら行ってあげなよ。企画したの誰か知らないけどさ…その子に悪いよ」
「深岬ちゃんいないんならつまらない」
「それは行ってみないとわからないでしょ。次があるんなら次のときは絶対参加するし…あればだけどね?もしあったら、また誘ってよ。じゃ、私は気持ち悪いから帰るわ」

津田の答えは聞かずに一方的に言い切ると手を振って教室の出口へと向かう。

「あ、うん。お大事に」
「それ変だって…ただの二日酔いだもん」

深岬の背中に声をかけた涼子を振り返るとすがすがしいほどの笑顔で手を振っている。
対して、津田と言えば恨みがましい顔を深岬へと向けている。
敢えて気づかない振りをして涼子に手を振り返すと今度こそ教室を出た。



「あー冷や冷やした…」

外に出るなりぼやいた声はひどく疲れた声だと自分でも分かる声だった。

「あのバカ…。ややこしくすんなっつーの」

という台詞は一人に向けられたもの。
その人物は、まだ教室内にいる。

「帰ろ。帰ろ」

と言って荷物の置いてある雪子のアパートへと向かう深岬だった。
帰りの電車の中で見事に爆睡してしまった深岬だったが、乗り換えの駅について何気なく携帯を確認するとメールが一件届いていた。
誰からだろと思いながら確認すると自分が涼子たちの飲み会に参加するように仕向けた津田からのもので、何か用があったのかと思いながらも受信メールを開ける。

『深岬ちゃん。ひどいよ』

そのメールには、それだけが書かれていた。
深岬は、苦笑しつつもそのメールに返信はすることなく消去すると携帯を鞄の中にしまった。

2008

0410
ネット開通のメドが全く立ちません。
お久しぶりです。
管理人です。

飲み会飲み会飲み会ばかりで全く話がかけなくてストックがガツガツ減っていっています。
ヤバシ…




そんなことが言いたいんじゃないんです。
本題にはいります。
裏サイトアドレス請求をくださったsega様。
申し訳ありません。今週末あたりにネットカフェに行くつもりなのでどうかそれまで返事はお待ちください。すみません。

2008

0410
深岬と津田が履修している3コマ目の講義は昼の一時から開始なのだが、津田の家を出た時点で一時ちょっと前だったために、いくら津田が大学の近くに住んでいるとはいえ2人は仲良く遅刻した。
すでに担当教授が黒板の前に立ち授業をしているのを教室の窓の外から見つけて後方のドアからそっと教室内に入る。
適当に空いていた後ろの席に並んで座る。
極力音を立てないようにと気を配ったところで静かな講義中に人の動く音は、目立つ。
一部の視線を集めながらも2人は席につくことができた。
カバンの中からノートを取り出しながら顔を上げると少し前の席に座っている涼子と目が合い、ぴたりと深岬の手の動きが止まる。

―に、睨まれてる気がするんですけど…?

口に出せるわけも、ましてや横に座る津田に言えるわけもなく視線が外れるまでひきつった笑みを浮べることしかできなかった。
前を向いた涼子を見た時にはほっとして肩の力をぬき、大きく息を吐き出した。
そんな深岬を横から不思議そうな目で見ている津田に、深岬は気づくことはなかった。
ペンケースの中からシャープペンを取り出しているとカバンがぶるぶると振動し始める。
なんだろうと思って確認すると涼子から深岬の携帯電話に届いたメールお着信を告げるバイブ音だった。

「はやっ…」

声にはしなかったが、口の動きだけで感嘆の言葉を発する。
いくら空気が掠れるほどの小さい音とは言え、近くにいた津田が気づかないはずもなく当然彼の視線は、深岬へと向き、彼女の手に握られた携帯電話に目が行く。
覗き込むようにしてくる津田の顔を押しのけながら画面を確認する。

『用ってなんだったの?全然、こないから心配したよー』

何ていうメールの本文は、授業に来ない友人を心配する親切といえば親切なメール。
しかし、深岬はそれを見てげっそりとする。
用と言って涼子たちの前から去った深岬と津田だったが、そんなもの津田の口から出た嘘だったのだから。
自然と険しくなる深岬の顔。
何て返事を返せばいいのかわからなくて、このまま気づかなかった振りをしようかとも思ったが、それはそれで授業の終わりと同時に涼子が深岬のもとに駆け寄ってくるのは目に見えていた。

何でこんな面倒くさいことになってしまったのだろうかと考えているとひょいっと携帯電話を取り上げられる。
犯人は言うまでもなく横に座る津田だった。

「あっ…」

深岬が止める間もなく携帯電話を取り上げてしまうと手が届かないように深岬に背を向けるようにして我が物ののように強奪した携帯を弄る。

そして、すぐに深岬に返す。
何をしたのか慌てて画面を確認すると送信しましたという文字が画面上にはっきりと刻まれており、横目で津田を確認すると涼しい顔で黒板に向かっている。
一体何を送ったのか送信済みメールの履歴で確認する『ひ・み・つ』とだけ書かれたメール。

―何送ってんのよー!!

という叫びは尤もだろう。
勢いに任せて津田の足を踏む。
力強く踏まれた津田は、机の上に上体を傾け、悶絶する。
2人の姿は、周囲から見れば何をじゃれあっているのかと思えるのようなものだ。
邪魔と言えば邪魔であり、目障りな存在。
生憎とずっと教卓の上に教科書を置いてそれをつらつらと読み続けているだけの講義ともいえない講義をしている教授には、2人の様子など全く目に入ってなどいなかった。それが、せめてもの救いか―。

取り合えず開けてあるノートに殴り書きのような乱暴な文字で『何してくれんのよ!』と書いてみる。
すると津田も自分のルーズリーフに『困ってたから助けてあげたんだよ?』なんて白々しく書いて寄越す。
言うに事欠いてそれかと深岬はさらに衝動の赴くままペンを走らせる。

『ふざけんな』
『もー、だったら。この前の物理学のノートコピーしに行ってたっていうのは?僕、サボってたし…』

津田の即座に考えた理由を見て、驚いたようにきょとんとした表情で津田の顔を見返す。
するといたずらっ子のような笑みを一瞬だけ見せる。
確かに理由には、なるかもしれないが一時間という時間を潰す理由にはならないだろう。
どうしようと考えながら、ノートにペンを走らせる。

『じゃあ、丁度レポート出てたから図書館に参考の本探しに行ってたということで何か聞かれたら話合わせて』
『ウソ。レポート出てたのっ!?』

寝耳に水のことに驚きなのか津田の字は揺れている。

『出てるわよ』
『聞いてない』
『そんなの知らん』

しかし、深岬の反応は冷たい。
じとりと恨みがましい目で見られているのは気づいていたが、知らん顔を決め込む。

『教えてよー。いつまで?』
『てっきり友達から聞いてるのかと思ってた。来週の講義の時に提出』
『友達って深岬ちゃんだもん』
『いつの間に?』
『ひどっ。傷つく…ずっと前からじゃん』
『あそこにいるのは?』

書いた後にペンで涼子の近くに座っている今日の昼にも学食の近くで顔を合わせたであろう数人を指すと意外な答えが返って来た。

『僕を利用する人達』

ぴくっと深岬の手が止まり、まじまじと相手を見返す。
深岬の視線を受けとめながらも一度深岬と視線を交わらせるとすぐに視線をノートに走らせ、涼しい顔でまたペンを走らせる。

『冗談。本気にしないで』

遅れてノートに書かれた文字を追いかける深岬だったが、とても冗談だとは思えなかった。
馬鹿な言動をしてもこの横にいる男がそんなことを言うのを一度だって聞いたことなどない。
それに――。
すぐに顔を逸らしてしまったが、真剣な表情だった。

ノートに書かれた利用という文字にひきつけられるようにしてしばらく固まってしまった深岬だった。

まるでその言葉に引き寄せられるようにして友達って何だろうと考えてしまう。
こう言われると自分と涼子の関係も疑問に思えてくる。

食い入るようにノートを見つめたまま動かなくなった深岬を不審に思ったのだろう津田が深岬の体をツンツンと指で突っついたので、ハッとしてノートにペンを走らせる。

『この間の物理学の授業のノートいる?』
『いるっ!!』

おずおずと津田の方を確認しながら、深岬がノートにそう書くと即座に満面の笑顔とともに返ってくる返事。
別に津田の書いた“利用”という言葉に影響を受けたわけではない。
ただ、津田の書いた言葉を見ているときっと誰からも借りてないと思ったから―。
即答に軽く笑いながら頷き返しつつもきちんと笑えているかわからない深岬だった。
その後もペンを走らせる津田。
まだ、何かあるのかと目を向けると―。

『深岬ちゃん大好き』

いつも津田が深岬に向けて言う言葉が書かれていた。
毎度毎度のことながらこいつは勘違いをさせたいのかと思いつつ、あからさまに呆れたような息を深く吐き出してペンを走らせる。

『だから、それは彼女に言え』

といつもの返しをする。
2人は始終そのような感じでとてもじゃないが講義など全く聞かずに筆談を続けた。

2008

0409
結局、気分の悪さの抜けない深岬とそれほど面白かったのかいつまで経っても笑っている津田に2人は揃いも揃って授業を自主休講した。

「何もあんたまで休まなくていいのに」

2コマ目の授業時間の終了時刻に近づくに連れ、人が増えてきた学食を出た深岬が同じように外に出た津田に呆れたような口調で言うが、相手はにこにこといつもの人畜無害そうでいてその実フェロモン垂れ流しの笑みを浮べているだけだった。

「だって、深岬ちゃん放っていけないでしょ?」
「子供じゃないんだから、放っておかれても大丈夫よ」
「本当に深岬ちゃんってば~強がりなんだからぁ」

長身の男に科をつくって言われても気持ちが悪い以外の何物でもない。
顔を顰めて津田を無視して先に歩き始めた深岬にぴたりとその動作を止めて追いかける。

「気持ち悪さが倍増する」
「あわわ。待ってよ~先行っちゃやだぁ」

間抜けな声を上げて追いかける津田だったが、生憎と人どおりの少ない道でのことなので、目撃者は誰もいなかった。
津田という男は、深岬と2人きりのところでしかそういった所を見せることはしない。
多少、ぼろが出そうになっているのかわざとなのかは分からないが深岬の学科内での友人である涼子がいる場面でも普通の格好いい男を装っている。
深岬に見せている姿が演技か地なの。はたまた、他の人間に見せている姿が演技なのか地なのかは、甚だ疑問である。
放っておいても追いかけてくることを深岬は分かっている。
実にそのとおりに津田は、小走りで深岬の後を追いかけると横に並んで歩き始める。

「もう……」

いつものように阿呆なことを言おうとしたのだろうが、ぴたりとその声が途絶える。
途絶えた声を不審に思うのは深岬だった。
横を歩く津田に目を向けるとさきほどまでも崩れた顔などどこへやら―。
きりっとした表情で前を見据える。
津田の視線の先を追いかけると授業が終わって昼食のために出てきたのであろう。
涼子の姿と数名の学科で見かけたことのある顔ぶれがある。必要性を感じなかったので、名前までは覚えていないが…。

あっと小さな声を上げて深岬が目を見開くと向こうも気づいたようで笑顔で手を振ってくる。
だが、その笑顔が逆に怖いもののように感じるのは気のせいだろうか。

「さっきの授業出てなかったけどどうしたの?」

駆け寄るようにして深岬に近づいてきて問う。
咎めるように聞こえるのはその声の強さだろう。

涼子と一緒にいた学生は、遅れて深岬たちの前に現れる。

「何の連絡もないから心配したよー」
「あ…うん。ちょっと…」
「俺が、呼び止めたんだ」

言い淀む深岬に助け舟を出したのは、深岬だけに見せる阿呆の姿ではなく、彼の友人や他人が良く知る津田 旭という人物そのもの。
表情をあまり変えずに薄っすらと笑みを浮べて言う姿は360度どこから見ても穴のない完璧ないい男だ。
しかし、それはすでに阿呆の方に慣れきった深岬からしてみれば気持ち悪い以外の何物でもないのだが…。
周りは違うらしい。
それもそのはずだろう。
彼らは、完璧な津田しか知らないのだから…。

「またかよー。お前、ほんっとに最近進藤さんにべったりだよなぁ」

涼子と一緒に深岬の前に現れた学科のクラスメートであろう男子の1人の砕けたしゃべり方は、彼と自分の横にいる津田という人間の近しさのようなものを教えてくれる。
よく知らない相手や初対面の相手に対してこんな風に話しかけたりすることはできまい。
呆れたような友人の声にも津田は軽く笑ってみせる。
こうして見てみれば、本当に嫌味なくらいいい男だ。これが、津田に声をかけた友人のような男がやったらただの気障ッたらしい嫌なやつという印象を与えるのだろうが…、なまじっか顔が整っているだけにその様も見事にはまるのだ。
顔がいいというだけで何倍も得なヤツと卑屈ながらも思ってしまうのはひがみだろうか。
いや、この男にはそう思わせ何かがあると深岬は思う。

「今から飯?」
「ああ、うん。進藤さんいなかったから、鈴木さん誘って…」
「ああ、そう」

それには至極詰まらなさそうな顔をして答えた津田だった。

「2人も一緒に行かない?」
「いい。さっき、食ってきたから…。別の用あるし…。じゃ、また後で。深岬ちゃんイコ」

誘いの言葉もすげなく断ると深岬の手を引いて団体の前を離れる。
強い力に引っ張られるままに深岬は津田と一緒に涼子の前から姿を消した。
津田の友人である男達は、そんな津田になれているのであろう軽い感じで「後でな~」と返していたようだったが、深岬は涼子が今どんな顔をしているのかと想像するだけで何だか怖くなって後ろを振り向くことはできなかった。

しばらく手を引かれるままに歩いていた深岬だったが、人目もなくなった頃に小さな声で言う。

「うそつき」

ぴたりと足が止まる。
ぱっと握っていたはずの深岬の手を解放して振り返ると悪戯をした子供のようににっと笑うのだ。

「ゴメンね?」
「本当に悪いと思ってる?」
「思ってなーい」

全く悪びれる様子もなくけろっとした顔で言う津田に苦笑を禁じえなかった。

「じゃ、謝るな。ま、ありがと…。ちょっと助かった」

と言うとひどく嬉しそうに笑うのだ。

「ご飯いこっ。さっき見てただけだからお腹すいちゃったんだよねぇ」
「1人で行け」
「やぁだぁ。ほら、一緒に行ってくれたら2日酔い…あ、違ったっけ?3日酔いだっけ」

わざとそんなことを言う津田に深岬がぴくりと眉間に皺を寄せて、足を踏みつける。

「言い直すな。ムカツク」
「薬あげるよー。すんごく効くから~」

あの場から連れ出してくれたことに感謝はしているものの胃の中に食事を入れたばかりの深岬は、再度昼飯を食べる気などさらさらない。
しかし、薬は魅力的だった。
もうこの気持ち悪さから解放されるならなんだっていいのだ。

「仕方ないわね」

つんっとそっぽを向きながらの素直じゃない言い方ながらも津田はくすっと小さく笑って深岬を学外へ連れ出した。
近くの薄汚れた到底、津田には似合わないそれこそ涼子などが見たら眉間に皺を寄せそうな定食屋に行った。
大学の近くにあってすいているとは言い難いところだったが、まず女の子はこない類の店だなと思って店内を見回す。見渡す限り、年食った親父と汗臭い大学生ばかりだった。
何度も来ているのか、津田はメニューを見ることなく頼む。
深岬は、津田が食べる間、ただ見ているだけもつまらないのですっきりするかと思ってアイスを食べて時間を過ごした。
途中、「食べる?」といつかのファミレスのように差し出されたが、脂まみれの肉を食べる気には到底なれずに首を横に振った。

その後、約束どおり薬をくれるという津田の言葉を実現するために津田のすむ学生マンションへと向かった。
この時、深岬は初めて津田のマンションに行くことになった。

別に特筆すべきこともない普通のマンションだったのだが、中は驚くほど綺麗だった。
自分の部屋よりも綺麗に整えられた部屋に深岬は悔しさのようなものを感じて、揶揄い半分で「彼女でも来て掃除してくの」と聞けば、軽く笑うだけだった。
差し出された錠剤を受け取ってコップの水も一緒に受け取る。

「ありがと…」

と言いながら錠剤を流し込んでいると…。

「女の子でこの部屋入ったの妹除いて深岬ちゃんが初めて」

そういえば、前にもそんなこと言ってたなぁとそれ以外、別に何も感じることもなく水をごくごくと流し込む。
空になったコップを受け取りながら、流しのシンクに置きながら深岬を振り返る。

「3コマ目もサボる?家帰ってきたら面倒くさくなっちゃったんだよねぇ」
「あ、そ。じゃ、私はこれで…サボるならサボれば?」

冷たい一言とともにくるりと背を向けた深岬に慌てて津田が追いかける。

「あ、待ってよー。ひどいじゃん。僕も行くー」
「あんたがサボるっていうから私は授業行こうとしただけじゃん」
「嘘に決まってるじゃん」
「私がサボるって言ったら?」
「勿論サボる」
「バカ」

胸を張って断言した男に冷たい一瞥をくれてやる深岬だった。
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