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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0213
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2008

0416
「…わかった。涼子のことはもういいから…私も悪かった。あんたの気持ち考えずに行動してたし…、でもあんたも付き合う気がないならはっきりと言えばいいでしょ?そうすればあの子も次の男に目がいくわよ」
「あーゆー自分に自信のある人間って自分の非は認めないんだよ。すぐ周りの所為にするんだ」
「させときゃいいじゃない」
「今の状態でそんなこと言ったら絶対深岬ちゃんに何かするもん」

断言するように言う津田は、まるで過去に経験してきたかのような言葉だった。

「それは自分の経験から言ってること?」
「そういうわけじゃないけど…。近いかな…」
「ま、その意見に反対はしないわ…。そんな感じするし。今回のことは、もうあの子に睨まれるの勘弁って思ってあんたを置いてった私も悪かったから謝るね。ゴメン。次からはしない。あんたの気持ちも考えるようにするわ」

深岬がそう言うと津田はこっくりと頷く。

「僕もひどいこと言ったごめんなさい」

満面の笑みと言うわけではなかったが、軽く困ったように笑いながら謝る。
悪いのは津田ではない。
彼は、むしろ被害をこうむっただけなのだから―。

「お互い様ね。まぁ、メアド交換してたみたいだから仲良くなったのかと思っちゃったわよ…」

蒸し返すつもりはなかったのだが、深岬が何気ない調子で気になっていたことを口にすると津田は盛大に顔を顰めた。
その変貌にまた怒り出すのかとぎょっとする深岬だったが、津田は苦々しい口調でその彼女の問いに答えた。

「教えてくれなきゃ嫌ってしつこいから…。携帯変えに行こうかな…」
「何もそこまでしなくていいでしょ」
「できることならしたいよ。もう、昨日は本当に最悪だったんだから」
「だから、ゴメンって言ってるじゃない」

ぶっきらぼうな言い方だが、もう一度謝罪の言葉を口にする深岬に慌てて津田が訂正する。

「あ、いや…謝って欲しいんじゃなくて」
「だったら何よ」

少し眉間に皺を寄せて言う深岬に苦笑を浮かべる津田だった。

「深岬ちゃんからのメールの返信が来ないから何度も携帯確認してたらそんなこと言われるし…。さっさと帰ろうと思っても帰ろうとする度に引き止められるし…。結局、酔っちゃったから家まで送り届けさせられてさ…そのあと、あがってけって言われたんだけどさ」
「あがってけばいいじゃない」
「冗談。あれ、絶対に酔った振りだってば。他のヤツで僕より鈴木さんの家の近くに住んでるヤツがいるんだよ?そいつに任せようとしたら僕の服すんごい力で握るんだから!」

思い出しているのかどんどんとしかめっ面になっていく様は、他人の不幸を笑うようで嫌だが面白い。

「あがったら何されるかわかんないよ」
「役得じゃん」
「やめてよー。そんなことした日には、翌日には彼女面されて面倒なことになるよ」
「いやー。十分その気だったように見えたけどなぁ」
「うそっ!?」

学食での涼子を思い出しながら深岬が言うとぎょっとしたような声をあげる。
その顔の嫌そうなこと―。

「言ったでしょ?牽制されたって」
「あ、結局答えてくれなかったけど…。何言われたの?」
「あー。あんまり聞いても楽しい話じゃないからやめとく」
「言って」

何だか告げ口しているようで嫌な気分になるから、自分の内だけでとどめておくつもりだった。
軽く首を振りながら津田を見るとその顔は深岬が言うまで聞き続けてやるとばかりの顔付きだったので話を蒸し返した自分を恨んだ。

「あのね…」
「ん?何?」
「あんたが私に合わせてくれてるんだって言われただけよ」
「何それ。意味わかんない」

眉間にぐっと皺を寄せて呟く。
そりゃそうだろう。
その前後の部分を深岬は説明していないのだから、どういう流れでその話になったのかも涼子が何を思ってそんなことを言ったのかもわかるはずもない。
「分からないなら分からないままにしておきなさい」
「やだぁ。どういう意味?」
「うるさい。しつこい」

と縋ってくる男を一蹴して、昼ごはんが途中のままここに連れてこられた深岬は、先ほどまでは津田とのやり取りに気をとられていたお腹が空いたなと時計を確認するともうすぐ1時を回ろうとしていた。
思わず声があがる。

「げっ」
「どーしたの?」
「そんな悠長にどーしたの?って聞いてる場合かっ!?」
「えー?」
「3コマ目遅刻じゃんか。この馬鹿っ!」

取り合えず罵っておく。
原因は、深岬や涼子にあったとしても3コマ目の講義へ遅れたのは間違いなくこんなところへ連れてきた目の前の男の所為なのだから―。

「いいよぉ。さぼろうよー。僕、お腹空いた」
「あんたね…」

深岬の額に青筋が浮かぶ。
しかし、気づいているのか気づいていないのか立ち上がるとキッチンの方へと行き、冷蔵庫の中を漁りはじめる。
すぐに顔をあげて深岬に別に知りたくもない冷蔵庫事情を教えてくれる。

「なんもない」
「誰があんたの冷蔵庫を知りたいと言った?誰が」
「ご飯食べに行こーよ」
「一人で行け」

突っぱねた深岬にもめげることなくぽんぽんと言い返す様はすっかりいつもの2人だ。

「寂しくて死んじゃう」
「死ね」
「うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ」
「誰がウサギだ。そんなでかい図体晒してどの口が言う」
「えーこの口?」

近づいてしゃがんで冷蔵庫の中を漁る津田の背中を軽く足蹴にする。

「痛い…」
「ご飯行くなら一人で行きなさいよー。私は、授業に行くから」
「えーやだぁ」

小さな子供のように言う津田にがくりと力だ抜ける。

「ご飯ー。奢るからー」
「奢らなくていいから…授業の方が」
「行かなくていいって」
「どの口がそんなことを言うか」

と言って津田の口許をぎゅぅっと引っ張る。

「簡単じゃんあの授業」
「あっそう。あんたには簡単でも私の足りないおつむじゃ限界があんのよ。一緒にしないでくれるっ!!浪人して入ったヤツをなめんなっ」

苦労してついていっているというのにその努力を一瞬で無駄にするような言葉にふんっと力強く言い捨てる。

「だいじょーぶ。教えてあげるから」

気の抜けるような返事にそれこそ「それこそあんたの嫌ってる。あんたを利用する人じゃん」と言っても津田は笑いながら「深岬ちゃんは違うよ」とくすくすと笑うだけだった。
いまいち、その違いが分からない深岬だったが、結局津田に押し切られて一緒に大学近くの店に2度目の昼ご飯を食べに行った。
その場でカバンの中に入っていた物理学のノートの存在を思い出して目の前でがつがつと料理を食べる男に言うと無言で手を差し出されたのでパシンとその手を叩き、「あんたも私を利用する人」と軽く笑いながら心にもないことを言いながらノートを手渡す深岬だった。
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2008

0415
どこへ向かっているのか分からないまま津田の後を追いながら、色んなことが深岬の頭を駆け巡っていた。

涼子に連絡してきたのに何故、自分をこうして連れ出したのか…。
何故、あそこまでそっけない態度をとれるのか…。
涼子の前では彼女のことを“涼子ちゃん”と呼んでおきながら、彼女のいないところでは今までどおり“鈴木さん”と呼ぶのは何故か…。

そして、一番気になっていることは…。

何故にそんなに難しい顔をしているのか…。





言われるまでもなく途中からここへ向かっているということは気づいていた。
昨日に引き続き、何故か今日も津田の家の前に立っている。

「何でまたここに来る必要があるわけ?今日は、薬いらないわよ」

深岬の手首を掴んだまま、がちゃがちゃと音をたてて鍵を開ける津田に向かって言うが津田からの返答はなかった。
扉を開けて中に深岬を押し込む。

「入って」
「入ってってあんたが私の手掴んでるから入らなきゃしょうがないでしょ」
「適当に座ってて」

深岬が室内にあがると鍵を閉めて津田もあがってくる。
言われた通り、お洒落なローテーブルの前にちょこんと座ると津田も深岬の向かい側に腰をどっかりと下ろす。
何も言わずに深岬をじっと見つめる津田を上目遣いに見るといつものにこにことした笑顔ではなく、はっきりとした全てのパーツの配置が整った男の顔がある。

「何か怒ってる?」
「怒ってない。拗ねてる」

唇をへの字に曲げて憮然と言う津田は、どこからどうみても拗ねているというよりも怒っているという方が正しくみえる。

―どこがだよ。怒ってるじゃん…。

「何をそんなに怒ってるわけ?」

こういう津田は初めてでどうも慣れなくて落ち着かない。
顔の整った相手だけに迫力が増すというもの。
今すぐにでも退散したいのだが、相手が許してくれそうにもない。

「怒ってない」
「ああ、はいはい。何でそんなに拗ねてるわけ?」

どう見ても怒ってるようにしか見えないにの怒ってないと主張する津田に、深岬が面倒くさそうに言い直す。

―もう…どっちでもいいから早く理由を言え。

でなければ、解決しない。
恐らく自分をここに連れ出したのは、訳があるのだから。
まぁ、深岬にも容易に想像はつく…。

―昨日のことだろうな…。

「深岬ちゃん。ひどいよ」
「あ?何?ひどいって何が?」

急に詰られた深岬は顔をきょとんとさせて津田を見た。
そう言えばメールでもそんなことが書いてあったなと悠長にも思い出していると津田の声が聞こえてくるので慌てて視線を彼に戻す。

「何で俺のこと置いてったわけ?俺、気づかないほど馬鹿じゃない」

自分のことを呼ぶのもいつもの“僕”から“俺”に変わってるこのに気づく。

「何を?」
「鈴木さんが俺をどうしたいのか気づかないほど馬鹿じゃないって言ってるの」

まぁ、あれだけアピールされたら気づかないはずもないだろう。
何を隠そう自分も協力という協力をしたわけではないが、いらぬ火の粉を浴びたくなくてそれとなく手伝ったところはある。
昨日もそのうちの一つだ。
自分がいなければいかないと言った男を無理やり参加させた。

「分かってた?だったら…」

付き合ってあげれば?彼女もいないんでしょ…。

と続けようとした深岬だったが、皆まで言わせて貰えずに一蹴されてしまう。

「嫌だ」

低い声で言う津田に面食らったような顔をする。

「何その顔。俺にも選ぶ権利あるでしょ」
「何が不満なの?可愛いじゃない。いい子じゃない…」

眉間に皺を寄せていう津田に深岬はとんちんかんなことを聞いてしまう。
見た目で選ぶのはおかしいと分かっているのに―。

「どこがいい子?深岬ちゃんが俺と鈴木さんの間に挟まれてるの知ってる」
「知ってるならあの子を煽るようなことしないでよ」

その所為でいらぬ苦労を強いられているのだから深岬の主張は尤もだ。

「嫌だ。深岬ちゃんは俺の友達だもん」
「友達って言ったってねあの子には通じないの。今日だって散々牽制されたんだからね」

思い出しただけでも腹が立つ。

「友達としゃべって何が悪いのさ。ご飯に行って何が悪いの」
「あんたが今までの友達放ったらかして私にべったりなのが気に入らないんでしょ。私は、あの子じゃないから分からないわよ」
「今日、何言われた?」
「何であんたに言わなきゃならないの?」
「教えてよ」
「あのねぇ…今、その話は関係ないでしょ」
「ある」
「ない」

ちょっとした睨みあいが続く。
最初に口を開いたのは深岬だった。

「一体何が気に入らないわけ?」
「全部」

ぶすっとした表情で言う。

「あんたねぇ」
「深岬ちゃんが昨日俺を置いていったことも…」
「友達同士の飲み会でしょう?あんたの友達もいたじゃない」

深岬の呆れたような台詞に津田が答えることはなかった。

「深岬ちゃんのことを利用するあの女もあの女に協力してる深岬ちゃんも…み、」

バンッ

津田の言葉は、深岬が力任せにローテーブルを叩いたことで遮られた。
激しい音にびっくりしたように深岬を見返す。
机の上に叩きつけた手のひらがじんじんと痺れを訴えていたがそんなことどうでもいい。
深岬は対峙する相手を睨みつける。

「あんた人の友達をあんな女呼ばわりするってどういうつもり!?」

怒声に最初は、目を瞬かせていた津田だったが、負けじと応戦する。

「何で自分のことを利用する人間を友達なんて言えるんだよ!」
「確かにそうよ。あの子はあんたに近づきたいために私を利用してるわよ。今日の授業のノートだってそう。何が悪いの?流石に、睨まれたりするのはゴメンだけどね。好きな人に近づきたいって気持ちわかるもの!相手の傍に自分以外の人間がいたら嫉妬だってするわよっ!」
「俺の上辺だけ見て好きだなんて言ってくるようなヤツのことを何でそんな風に庇うわけっ!?そんなヤツから向けられる行為なんて気持ち悪いだけだ。いらない。くそくらえだよっ」

まるで深岬の怒声に呼応するように津田も声を張り上げる。
顔に似合わない汚い言葉に深岬が驚きを隠せない。

「…っ。別に庇ってるわけじゃないわよっ」
「庇ってる」
「庇ってない。まぁ、あんたの言うことも一理あるわよ。あの子は、見た目であんたを落とすって決めたみたいだし?そういうのもありじゃないの?」

このまま感情に任せて言い合いを続けても一向に収束しない。
深岬は、声を抑えた。

「俺は嫌なんだよ」
「視点変えてみればいいじゃない。付き合っていくうちに人となりがわかるってものでしょ」
「俺は友達を利用するような人間好きじゃない。そんなことするヤツ友達なんて呼んじゃいけない。無言で睨み聞かせるような真似して…自分さえよければいいって考え虫唾が走る」

涼子のことを言っているのはわかる。
深岬にだって利用されているのは分かっている。
津田の言い分から取り合えず、この先津田が涼子を良い目で見ることはないだろうということだけはわかった深岬だった。

2008

0414
おはようございます。
地獄的な満員電車にもみくちゃにされてる管理人です。
カウンターが異様に回っててびびる管理人です。
講座の続きを漸く書きはじめた管理人です。

sega様
裏ページのアドレスをメールにて返信しました。
遅くなってしまい申し訳ありません。
ご確認ください。

2008

0414
2コマ目終了時刻に近いとだけあって、人が流入しはじめていたため少し並ばなければならなかった。
二日酔いもとい三日酔いに苦しんでいた昨日とは打って変わって揚げ物が食べたくなった深岬は、フライを選択してレジで会計を済ませると涼子の座る席へと戻る。
もしかしてもう津田が来ているかと危ぶんだが、その心配は杞憂に終わった。
深岬が机にトレーを置いて座ると涼子が深岬のノートを差し出してくる。

「ありがとう」
「いいよ」

ノートを受け取りながら横の椅子においてあったカバンを手繰り寄せて中にしまう。
涼子も写し終わったノートをカバンの中に仕舞うと後は、食堂の入り口の方ばかりを気にしていた。
深岬はそれを一瞥した後、トレーの上にのっている箸を持つと小さな声で「いただきます」と言って今日の彼女の昼ごはんを食べ始めた。

何もそんなに気にしなくてもいいのではないかと思うくらい、そっちの方向ばかり見る涼子に小さく笑みを漏らす。

「何?」

深岬の笑う声が聞こえたのか怪訝な顔で深岬を見る涼子に彼女は、なんでもないと首を振った。
深岬の中で涼子は、もっと駆け引きの上手い人間かと思っていたが、そうでもないらしいと彼女の様子を見ていて分かった。
或いは、そうはさせない何かが津田のほうにあるのか―。
どちらにせよ深岬には関係のないことだ。

「あ!」

嬉しそうな声を発した涼子に津田が来たことがわかるのだが、生憎深岬は半分も食べていなかった。
本当なら津田が来る前に食べ終わってこの場を去るつもりだったのにこれではそうはできない。
捨てるのは、勿体無いし嫌だ。
かといって津田が現れたからと言って離れた席に一人で移るのも考えものだろう。涼子は喜ぶかもしれないが津田が何と思うか―。
うーんと眉間に皺を寄せながら「来るのが早い」と津田を心の中で罵ってみる。
その間にも涼子が席を立って、こっちこっちと手を振っている。
どうしようかと思いながらも深岬は、食べるスピードを速めた。
昨日の使いまわしというわけではないが、さっさと目の前のものを平らげて用があるとでも言って席を立てばいいと思ったからだ。
そうだ。そうすればいいとばかりに深岬が常ならぬスピードで料理を口の中に運んでいると箸を持つ手が大きな手によって掴まれる。

「えっ?」

驚いて自分の手首を掴む人物の顔を見上げる。

「あ、旭クン?」
「涼子ちゃん。深岬ちゃん借りてくね」

笑顔で涼子に言う津田に深岬はただ目をぱちぱちと瞬かせた。

「深岬ちゃん。行くよ」

という声は、いつもの彼らしくなく硬質な声だった。

「…ご飯食べてる途中なんだけど…」

いつもとちょっと違う甘さの抜けた津田に驚きながらも言うと津田の目が顰められる。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

どういうわけか自分に連絡してきたのに自分ではなく深岬を連れ出そうとしている津田に涼子が慌てた声をあげる。
これでは、自分が馬鹿みたいではないか―。
いいように利用されただけに見える。

「あ、そうだ…旭クン。さっきの講義いなかったでしょ?ノート貸してあげる」

その涼子の台詞に深岬が今度は唖然となる。
目を見開いて涼子を見つめる深岬だったが、彼女は深岬の視線になど気づくことなく先ほどまで必死になって写していたノートを差し出す。
深岬は悟った。
いつもならコピーをとる彼女がノートを写していた理由を―。
自分はまさに利用されたのだ。
そこまでやってしまう涼子に驚きと同時に凄いと感嘆してしまう。自然と悔しいと思うことはなかった。というよりも目から鱗状態でそんな感情まで行き着かなかった。
だが、津田は涼子が取り出したノートを冷めた視線で一瞥すると端的に言う。

「いい。深岬ちゃんに借りる」
「え…っ。でも…深岬ちゃんの……」
「借りればいいじゃない。貸してくれるって言ってるんだから。私のノートより見やすいはずよ」

助け舟を出す訳ではないが、ちょっと哀れに見えてきた涼子に深岬が援護するように言うと津田の深岬の手首を握る力に更に強い力が加わる。

「ね…。ほら、深岬ちゃんも言ってるし」

若干引きつっているように見えるが笑みを浮かべて差し出す涼子に津田はもう一度、「いらない」と返事をした。
今度こそ絶句して返す言葉も見つからなかった。

「深岬ちゃん。昨日の続きやろ」
「昨日?」

津田が何のことを言っているのか分からずに深岬は怪訝な顔つきをした。

「物理学のレポート」
「あ…あぁ、でも待ってよご飯食べてるんだけど」
「そのレポートなら終わってるから教えてあげるよ?」

昨日の昼休みのことを誤魔化すために考えた理由をなぜにここに出してくるのか深岬にはさっぱりだった。
割り込むチャンスとばかりにめげずに涼子が声を発する。
だが、それも一蹴されてしまう。

「いい。自分で考えないと意味ないから」

正論と言えば正論だ。
だが、それはやんわりとした口調で言われたのならまだましだったかもしれないが冷え冷えとした口調で言われたのだからそれ以上涼子も言い返す気力がなくなってしまった。
顔立ちが整っているだけに迫力がある。

「ご飯まだなの」
「昼飯くらい奢るから」
「ちょっと、何であんたが私の昼ごはんを払う必要があるのよ。いいから離して」
「来て」

深岬が軽く握られた手を振りながら言うが、津田は力を入れて一言言うだけだった。
深岬の動きが止まったのをいいことに深岬のカバンを目ざとく見つけるとそれを掴んで深岬を立たせる。
そして、涼子を振り返ると遠慮の欠片もなく言う。

「涼子ちゃん。ゴメン。後、頼むね」

満面の笑みで言われた涼子はぽかんとした顔で食堂を出て行く深岬と津田の背中を見送ることしかできなかった。
一方、訳がわからないのは深岬の方だった。
引っ張られるままに津田の後を追いかけながらも頭の中ではいろんな考えが次から次へと浮かんでいた。
しかし、一番気になることは何故、この自分を引っ張っていく男が、こんなにも怒っているように見えるのか―。

途中ですれ違った津田の友人達に彼は懇願する。

「用があって深岬ちゃん連れ出したから鈴木さんが一人で学食にいるんだ。一緒にいてあげて」

用も何もあんたが連れ出したんでしょうがと心の中で叫ぶものの口にはできなかった。憚られた。
津田にそういわれた彼らは気の良い返事をして学食のほうへと姿を消していった。
呆然とその集団の後ろ姿を見送っていた深岬だったが、ぐいっと手を引っ張られたので後ろ髪引かれる思いで学食の方角を気にしながらも先を行く津田の後を追った。

集団の「あいつ本当に進藤さんのこと気に入ってるなぁ」という雑談の声を聞きながら―。

2008

0413
「ごめんね…。退屈だよね」

先ほどから何度も繰り返される言葉。
そのたびに、深岬は「気にしなくていいから…」などと答えるのだが、何度もそう言われるうちにいっそのこと肯定してやったら涼子の気も済むのかと思い始めていた。
とはいえ、それを行動に移すことなどできないのだが…。

漸く、四分の三を書き終えたというところで机の上に置かれていた涼子の薄いピンク色の携帯がぶるぶると震える。
振動する携帯が机の上で物々しい音を立てる。
最初びっくりしたように2人の視線がその携帯に集中する。
慌てて机の上から持ち上げて折りたたみ式になっているそれを開いて確認する。

「旭クンからだ」

意外な名前に深岬は多少驚く。
それほどまでに仲良くなったのかと―。
少なくとも数日前までは、津田は涼子のメールアドレスも携帯番号も知らなかったはずだと認識している。
嬉しそうに顔を綻ばせる涼子を見ながら、「まぁこんな可愛い子に迫られちゃ…落ちて当然か」と冷静に分析する。
多少深岬がいなくても話す程度だった2人が電話番号まで交換するほど仲良くなったのならば、自分の気苦労も減るだろうと考えたりもしていた。
目の前では、涼子が電話を耳に当てている。
相手は、津田に違いない。
呆然と見ていた深岬と涼子の目が合う。
相手の目を見て、深岬の体に緊張が走る。

―何…?

涼子の目はどこか挑戦的で、そう―形容するならば、優越感に浸ったような目をしているという方がぴったりと当てはまるようだった。
何だか目を合わせているのが嫌になり、深岬から視線を外した。
程なくして涼子の電話の相手である津田が出たのであろう。涼子のトーンの高い嬉しそうな声が聞こえてくる。

「あ、旭クン?どうしたの?」

涼子の向かい側に座る深岬からは津田の声は聞こえない。
ただ、聞こえてくるのは涼子の声だけだった。

「うん。うん。そうそう」

「えーやだぁ。違うってばぁ」

「今?学食にいるよ」

一緒に昼でも食べるのだろうかと涼子の言葉から電話の内容を推測してみる。
そうならば、自分は完全なお邪魔虫だろう。先に退散するかなどと考えていると急に自分の名前が出てきて相手を見る。

「え?深岬ちゃん?一緒だけど…」

まぁ、不自然ではないのだが―。
涼子の表情が曇る。
だが、それは少しの間だけですぐに元の表情に戻った。

「あ。そう?うん。待ってる~。はぁーい、じゃあね」
「今から来るの?」
「うん。待っててって言われちゃった。旭クンが来るまでにノート写しちゃうね」

携帯をパチンと音をたてながら閉じて言う姿は嬉しそうだった。

「あ、うん。随分、仲良くなったみたいだね?」

と深岬が尋ねると涼子は顔をノートから深岬の顔へと向けた。
そして綺麗にグロスの塗られた口角を持ち上げて薄く笑う。

「寂しい?」

あの目だ。
今度は、目を逸らさずに笑いながら返す。
「別に」
「なんだぁ。てっきりやきもち焼いてるのかと思った」
「冗談。大体、何で私がアイツに纏わりつかれてるのかわかんないし?それに、アイツとは友達よ」

そうだ。
利害関係のない友達。
津田はどうかは知らないが、少なくとも深岬はそう思っている。というのは、昨日の津田との筆談の影響もあるが…。少なくとも深岬に津田を利用しようなんていう気持ちはない。

「…そう」

涼子は、顔をノートに戻しながら小さな声で言う。
下を向いた所為か声が篭って殊の外、低い声に聞こえる。
何か違和感のようなものを感じた深岬だったが、しばらくノートを写し続ける涼子を見続けた後、普通に話しかけてきた彼女に気のせいかと自分に言い聞かせた。

「なんかさー、深岬ちゃんといる旭クンってカッコいいけど可愛い感じがしてたんだよね」
「そう?」
「何かお姉さんに甘える弟みたいな感じで…」

それは、言い得て妙かもしれないと思った。
というよりも、仮面が外れかけてるんじゃないかと逆に津田を心配する。

「でもさ、旭クンと2人で遊んだり、昨日の飲み会で見て思ったけどやっぱ勘違いだったみたい」
「どーゆーこと?」
「やっぱり何て言うの?何をやってもサマになるっていうの?」
「さっぱり意味わかんない」

突拍子もない涼子の台詞に深岬は眉間に皺を寄せる。
少なくともサマになる津田など深岬には想像すらできない。
できるのは阿呆な言動や馬鹿なことをしている姿だけだ。

「この間はね。映画見に行ったんだけどね。自然とエスコートしてくれるし…。自然とあんなことできる男の人と付き合ったことないからすんごくドキドキしちゃった。王子さまみたいだよね~」
「お、王子ぃ?それはよーござんした」

想像もつかない。思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
というよりも気持ち悪い。
深岬は気づかなかったが、そのやる気の欠片もない深岬の返答が涼子は気に食わなかったようだった。

「昨日だって、凄くお酒強いし…。他の潰れちゃった子の処理もパパってしちゃうんだよー。話も面白かったし。色んな話しちゃった~。お陰で寝るの遅くなってさっきの授業すごく眠かったんだー。多分、旭クンもそれで授業これなかったんだと思う」

思い出しているのか顔を宙に向けて口元にシャーペンを当てて言う姿はまるで恋する乙女というところか。
だが、実のところを言うと涼子の言葉は半分本当で半分嘘だ。
一応、飲み会には参加していた津田だったが、ほとんど会話にも入ってこずに自分のペースで酒を飲むだけでずっと携帯を気にしていた。
偶に口を開いても友人に声を掛けられて相槌を打つ程度というもの。
津田の携帯番号を涼子が知ったのも酒に酔った勢いで強引に聞き出したためだ。
顔色を変えない深岬が面白くなくて吐かなくてもいい嘘を吐いた。
しかし、深岬はと言えばどこ吹く風で「ふぅん」と詰まらなさそうな顔で言うだけ。

「深岬ちゃんと居る旭クン可愛いって言ったけど…多分ね。あくまでも多分だよ?深岬ちゃんに合わせててくれたんじゃないのかなぁ?ほら、あれだけ見た目がいいとさー、引け腰になっちゃう子いるじゃない?深岬ちゃんもそういう子だって勘違いされたんじゃないのかなぁ」
「あ…そう」

自分は違うと言いたいのだなと悟る。
そして、自分の方が津田に近い位置にいるということをアピールしたいのだろう。ようは牽制だ。頭にのるなと…。
何となくではあるが、涼子の言わんとしていることが分かった深岬は椅子から立ち上がる。

「どうしたの?」

がたりという音に顔を上げて深岬を見る涼子。

「アイツが来るんなら私、邪魔でしょ?先に昼ご飯食べて消えるね」
「え、いいのに~深岬ちゃんも一緒でいいじゃん」
「いいのいいの。2人の方が嬉しいでしょ。それよりさっさと写しちゃいなよ。もうじきくるんじゃないの?」

遠慮の言葉を口にした深岬に気にしないでと答える涼子。
白々しいと思いながら深岬は、書きかけのノートを指差してにっこりと笑い席を立って昼ご飯を買いに行った。
深岬の指摘に、涼子が慌ててノートに向き直る。
それを見届けて深岬はつかつかとパンプスのヒールの音を立てて離れていった。
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