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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0205
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2009

0118
vizard(84)
 

水原のもとに差出人無記名の不気味な封筒が届いてから翌日の夜。

一晩を置いたお陰もあってか、昨夜ほどの怒りを露呈させることはなかったが、水原の周囲からは不穏な空気が漂っていた。
その所為か、水原の屋敷内は緊迫した雰囲気が漂っていた。
使用人たちは互いに目配せし合い、注意を払っていた。
この空気の中で落ち着いていたのは、一哉と綾の2人だけだったのかもしれない。

一番、落ち着かないのは仕事がまだ残っていたにも関わらず、家へ来るように言われた堺だろう―。
何故か、いつも以上に人の視線が体にささるのだ。
昨夜の段階で、使用人たちには水原が受け取った郵便物の中身が知れ渡っている。
この屋敷内で知らないものがいるとすれば、それは堺だけに違いない。
涼しい顔で父親の傍らに立つ綾を見ても答えなど分かるわけもなく、ただ静かに怒っているであろう水原を伺いみることしかできなかった。

「申し訳ありません。遅くなりました」

緊迫した雰囲気の中、誰も口を開こうとしないまま、いや、開けないまま時間だけが無為に過ぎていったのだが、その緊迫した雰囲気を打ち破るように一哉が姿を現した。
一哉の姿を視界の端に捉えた瞬間に本能的に堺は、頭の片隅で警鐘が鳴るのを感じた。

「いい。それで?」
「はい。全て事実でございました」
「そうか」
「よろしければこちらをどうぞ」

自分の側に立ち、一哉の口から語られる自分の問いに対する答えを静かに聴きながら、水原はゆっくりと頷いた。
一言おいて、一哉が差し出したものには、さして興味も示す事がなく、「良い」と一言で遠ざける。
もう、見る必要もないと判断したのだろう。
ゆっくりと水原は、堺に視線を向けると一言、単調に命じた。

「出て行け」

突如として言われた言葉に、堺は呆気に取られたような顔をして、水原を見返した。
呆けた顔をして自分を見てくる憎らしい娘婿を視界から追い出すように水原は顔を背けると、一哉の後ろに立っていた使用人に命じる。

「あれを」
「かしこまりました」

言われるままに一礼をすると命じられた使用人が、堺の側までいき手にしていたものを広げ机の上においた。

「こちらにサインを」

そう言いながら彼女が指し示したのは、離婚届だった。
既に、綾のサインはされていた。
ぎょっとして、目を見開く堺。
一体どういうことかと下を見ていた顔をがばっと上げ、水原の顔を見た。

「…これは…」

掠れた声で問う堺を、水原はふんっと鼻息だけを返した。
代わりに答えたのは、水原の側い控えていた一哉だった。

「ご覧になってお分かりになりませんか?離婚届ですよ。堺さま」

口調は丁寧だが、どこかぞんざいな感じのする一哉にかっとなった堺は、それを命じたのが水原だということも忘れて、机を叩きつけて立ち上がった。

「貴様、どういうことだ!」
「…厭きれたお方ですね。それを差し出したのは、私ではなく、旦那様ですよ。それは、旦那様に向けた言葉と取られても仕方ありませんね」

冷静な一哉に指摘されて、堺はぐっと息を飲んだ。
視界の隅に映る水原の顔を見ると、彼は怒りを湛えた瞳で自分を見ている。
そうこうしているうちに、一哉がすぐ側まで歩みよってきて、堺の前につい先ほど、水原に差し出そうとしていたものを渡してきた。
恐る恐る手にとり、中身を確認する堺の顔は、徐々に青ざめていった。
そして、きっと一哉の顔を睨みつけた。

「貴様…」
「昨日、旦那様宛てに差出人不明の郵便物が届きましてね。開封して、中身をご覧になっていただいたところ、あなたの不貞の履歴が事細かに書かれていたそうです。私は、旦那様にご要望で事実確認をしたまでです。ご自分の不手際を私の所為にされても困ります」
「何を言うか!こんなことするのがお前以外のどこにいる!?」

自分の不徳のなすところを他人の所為にする男の性根にますます水原の怒りのボルテージが上がっていっていることなど男は気づかずに一哉に罵詈雑言をぶつける。
それも、一哉の手の内だったのかもしれない。
水原の不興を買うだけ買えばいい。
そうすれば、水原は男を絶対に、許しはしないし、その後の処分も完膚なきまでに叩きのめしてくれるに違いない。それを知っていたからだ。

「黙れっ!堺。貴様はとっとと言われたままにサインをして、この家を出て行け!私の娘をよくもこけにしてくれたもんだ。只で済むと思うな」

我慢の限界が来た水原が堺を一喝した。
青ざめた顔で、汚い言葉で一哉を罵っていた堺だったが、水原の迫力に言葉を飲み込んだ。
対照的に、笑っていたのは一哉だった。
言いたいことはまだある。
しかし、水原が堺にそれを許さなかった。

「ま、待ってくださいっ!これは、何かの嘘で」
「みっともない。不快だ。この男にサインをさせて、とっとと追い出せ。いいな」

食い下がろうとした堺を見ることも無く、居合わせた使用人たちに命じるとさっさと自室に引き上げる水原だった。
彼とて鬼ではない。
素直に堺が認め、謝るならば、離婚は免れないとしてもその後の処分は寛大にしようとしていたのだが、それは、堺が一哉を罵ったり、自分のしたことを認めようとしなかった浅ましい言動によって水原の気は180度変わってしまった。
娘と離婚させて、追い出すだけでは飽き足らない。
何で、こんな男と娘を結婚させてしまったのだろうか。
嫌がっている娘の言葉も聴かず、自分が正しいのだと押し付けたことがまざまざと彼の脳裏を過ぎる。
堺に対する怒りと綾に対する罪悪感が彼の心を支配していた。
その夜は、とても眠れそうになかった。





「お送りしろ」

水原の命じた通り、離婚届にサインをさせた後、一哉は近くにいる男の使用人数名に命じて、彼の体を家から出した。

「貴様!謀ったなっ!」

外に放り出された後、一哉は他の使用人たちに下がれと命じて、堺と2人きりになった。
悔しそうにぎりぎりと奥歯が音が鳴りそうなほど噛み締めながら怒号を吐く、男の言葉を涼しい顔で受け流した。

「失礼な。言いがかりもよして貰おうか。きちんとした事実だろう?」
「何を。お前達の方こそっ」

一哉と綾のことに触れようとした男に、一哉は鋭い眼光をくれてやると堺は、自然と体が竦み口を閉ざした。

「最後に、変な欲を出しすぎたな」

暗く淀んだ瞳と地を這うような低い声は、とても見た目からは想像できない。
何度見ても見慣れない。

「怜迩を狙ったのがお前だということは分かっている。その時点で、貴様の運命は決まっている。楽に死ねると思うなよ」

ぶるりと体の芯から震えるような脅し。
それと同時に、男は自分の計画が目の前の男に知れていたことを知り、愕然とした。
絶対に知られてはいないと思っていた―。

「残念ですね。もうちょっと賢いかと思っていたんですけど」

にっこりと秀麗な笑みを浮かべて悪辣な言葉を吐き捨てた。
笑っているはずなのに、どこか寒々しく、恐ろしさを相対した人間に抱かせるそれ。
だが、次の瞬間には、180度全く異なる表情を見せる。

「ただの欲にまみれた能無し男だったと言う訳だ。水原の人を見る目もたかが知れてるな」

吐き捨てるような己が主人を軽蔑するような言葉に堺は、もう既に何も言えなかった。
否、言ったら殺されるような気がしたのだ。目の前の冷たく無情な男に―。
人であって人でないような男に―。


こうして、その翌日水原 綾と堺 正一の離婚が成立した。
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