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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0205
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2009

0112
vizard(83)

呆気なく男の幕は降りた―。

その影で笑う者が2人。





「面白いものが手に入ったんだけど。興味ない?」

そう告げた女の唇には、毒々しい色の紅が引かれていた。
何とはなしに、一哉は女の手を取った。

「くだらないものだったら、殺すぞ」
「おーこわっ」

わざとらしく体を2、3度横に揺らした女を吐き捨てるように「似合わない」と一蹴すると一哉は吸いかけの煙草を口に戻した。
紫煙を深く肺に吸い込みながら、女の言葉を聞き流していた。

「最近は、大人しくなったって噂で聞いたのに全然じゃない」
「噂なんて信じる奴はクソだな」

女の方を見ることもなく、何もない空間をぼうっと見ながら体内に溜まった煙を出し、宙の中で好き勝手に舞い、やがて消えていくのをただ見つめていた。
自分を見てくれることない男に、女は焦れたように男の顎を掴み自分の方に向かせた。

「その口の汚さも相変わらずね。好きよ」

にっこりと笑いながら顔を近づけていく。
だが、すぐに男によって手は振り払われ、顔は背けられた。
いっそのこと憎らしくも思える男の態度。
むっとしつつも、しつこく言い寄ると手痛い仕返しが待っているのを女は長年の付き合いで知っている。

「お前の好意なんかクソ食らえだ。さっさと寄越せよ」
「急かす男は嫌われるわよ」

嫌味を籠めて口にするものの、相手に全く効き目はなかった。

「ふんだ。お前に好かれるほうが死にたくなるね」
「全く、憎らしいところは相変わらず。ほら、絶対泣いて喜ぶわよ」

これ以上、駆け引きをしても無意味だと悟った聡い女は、手にしていたものを渡した。
一哉は、受け取りながら鼻で笑ってみせた。

「はっ。どうだか」

憎まれ口しか叩かない年若い青年の表情の変化をいまかいまかと待ち望んで、一哉の動きを小指一本も見逃すまいと見つめてくる中、自分へと注がれる視線にも頓着することなく、受け取った茶封筒の中に入っていたものに目を通す。
ざっと目を通した後、女を横目で見る。
すると女は、したり顔で笑うだけだった。
そして、唇の動きだけで「どう?」と勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
ふんっと鼻を鳴らして、一哉は座っていたスツールから立ち上がると銜えていた煙草を灰皿に置き、一言女に残して姿を消した。

「流石」

それだけで、女は十分だったのかもしれない。
ふふっと毒々しい唇の端を持ち上げて見せた。
灰皿に残されたたった今まで一哉に吸われていたまだ、火のついたままの煙草を銜えるとゆっくりと煙を吸い込んだ。





「どうしたの?嬉しそうな顔して」

どこかへとふらふらと出かけていったと思ったら、早く戻ってきた一哉を見つけて綾が問う。
綾の問いに一哉はただ、口の端を持ち上げただけで「わかる?」と聞いた。

「分かる?って。分かるに決まってるじゃない」
「仕方ないな…」

とだけ言うとおもむろに綾の唇に自分の唇を重ねた。
どちらからともなく、自然と深くなるそれ。
かさりと音をたてた、紙の音によって邪魔をされるまで続いた。
2人の間に挟まれたそれに綾の視線が自然と向く。
2人の唾液で濡れた綾の唇を親指で拭ってやりながら、彼女の視線の注がれているそれに気づく。

「ああ、これ?」
「何?」
「宝物」

曖昧な表現をする一哉に綾の顔がはてなをいくつも刻む。
それを、可笑しそうに笑いながら、一哉は彼女の前から姿を消した。
その後姿を見送りつつ、やっぱり何か様子が変だと思いながらもまぁ、愉しそうだかあいいかと気にしないようにした綾だったが、数日のうちに一哉が宝物と称したものの正体を知ることができた。



それを渡されたときの水原と言ったら、目を当てられたものではなかった。
鬼のような形相で、今にも火を噴きそうなほど赤く、怒りの様相を呈していた。
それは、今まで綾が見たこともない父の姿だった。
唯一の救いは、張本人である男の姿がないことか。

無記名で投函されたそれは、堺の不貞を示すもの。
過去のものから、つい最近、愛人関係にあった女との間に子供が産まれたことまで、事細かに克明に記述されていた。
差出人不明のものだけに、事実確認が取れてないもの故に、宛名の書かれた水原に差し出すことに使用人たちは戸惑いがあったものの、もし隠していて、後で知れたらということを考えると恐ろしかったので、水原に開封を依頼したところ、このような事態になってしまったのだ。
その場に居合わせた者たちは、水原の怒りにひっと息を飲み、微動だにできなかった。
ただのいたずらと一蹴できないほどの詳細に記述されたそれ。
まるで、確かめろとでも言うように事実確認がしやすいように相手の情報まで詳細に書かれていたり、恐らく音声でも入っているのだろうテープや写真の存在が少なくとも全くのでっちあげであるということを否定している。
机にそれらをぶちまけた後、水原は怒り抑えてはいるが怒気が滲み出た声で近くにいたものに命じる。

「草壁…。一哉を呼べ」

部屋でゆっくりとした時間を過ごしていた一哉は、水原の命によって自分を呼びにきた使用人を見て、かかったと顔では怪訝な顔つきをしつつもほくそ笑んだ。
そうだ。
水原の怒りの発端である封筒は、一哉が投函したものだった。
数日前に女から受け取った、堺の浮気の情報をもとに、一哉がもう一度自分の手で調べ直したものを纏めただけのもの。
それには、過去に堺の弱みを握るために調べた過去の浮気の証拠も盛り込んだ。
そして、一番に水原の怒りを買ったのは、最近産まれた赤子の存在だろう。
今頃、怒り心頭だろうにと思いながら、いつもと変わらない足取りで自分を呼び出した男のもとへ行く。
自分の想像に難くない、寧ろ、想像以上の怒りを秘めた男の姿を見て、勝ちを確信した一哉だった。

「旦那様、お呼びですか?」
「これを調べろ」

見るのも汚らわしいというように手にしたものを見ることもなく、一哉に差し出す。
一哉は、片方の眉をわざとらしく持ち上げながら、その自分が用意した数枚の紙を受け取る。

「明日までには、全てお調べ致します」
「頼む」

一礼をして部屋を後にした一哉は、零れてくる笑いを堪えながら、自室に戻った。
戻った後は、机の上に用済みとなった紙を放り投げると机の引き出しから次に、水原に見せるべきものを数点用意した。
それらは、水原に言われるでもなく準備がし尽くされていた。
この家から、堺を追い出すための道具だ。
水原の様子では、堺は無事には済まないだろう。
悉く、救えない男だと零れてくる笑いが止まらない。

自分の快楽によって自分の身が滅ぼされる―。

これ以上ない、ショーが明日には見られるに違いない…。
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