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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0205
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2009

0101
vizard (81)
 

一哉が山崎を連れていくために車を使ったために、移動手段の無かった伊達は、事態の収拾をはかった後、帰るには公共の交通機関を使うしかなかった。
そのため、屋敷に着くまでにさらに時間が掛かってしまった。
やっと着いたと思い屋敷の門をくぐる。

「ただいま、戻りました」

動き回った故の肉体的疲労の所為か、慕っていた男がまさか自分の仇なす人間だと知った故の精神的疲労の所為かいつものように帰りの挨拶を告げた声音は、自分のものとは思えぬほどに疲れきったものだった。
扉の開いた音に誰かが気づいたのだろう。慌しく自分の許へ駆け寄ってくるのを感じたのだが、顔を上げる気力も無かった。
死人のようにゆっくりと靴を脱ぎ、屋内に上がる。

「伊達!」

甲高いその声は、綾だった。
流石に、雇い主の1人でもある相手にいくら疲れてるとはいえ、草臥れた姿で応対するわけにもいかず、慌てて佇まいを正した。

「遅くなり、大変申し訳ございませんでした」
「一哉は?」

伊達が皆まで言い終わる前に綾は、伊達に飛び掛るようにして伊達の腕を掴むと問うてくる。
その剣幕に面を食らったような顔になる伊達だったが、もう一度繰り返すように問われ、体を揺さぶられれば、応えないわけにはいかなかった。
たとえ、自分が彼の行き先を良く知らなくとも…。

「…それが、私には…」
「お嬢様。何をしているんですか?」

伊達がわからないと告げようとした矢先に、彼の背後から綾が物凄い剣幕で尋ねてきた男の声が聞こえてきて、2人して驚いたように後ろを振り返った。
水原で雇われている使用人専用の勝手口から姿を現した一哉の姿に、綾が我先にと飛び出した。
その拍子に伊達が手にしていたボールが床に落ち、数度バウンドを繰り返した後、やがてその動きを止めた。
伊達は、落ちたボールよりも一哉が連れていった山崎のその後と、彼が起こした行動の真意を知りたく、じっと綾に飛びつかれ困ったような表情を浮かべている一哉を一歩離れた位置から見つめた。

「何かわかったの?犯人は?」

綾は聞いておきながらも、矢継ぎ早に次から次へと問うものだから、一哉が応える間など一切あったものじゃない。
それほどまでに動転していると言えばそれまでかもしれないが、このままではこの場は一向に動かないだろう。
そんな彼女を落ち着かせるために、一哉は綾の肩をぐっと強い力で掴むと目と目を合わせる。

「落ち着いてください。今からお話しますから」
「…ごめんなさい……」

落ち着けと言われて、はっとしたように一哉から離れる綾だった。
彼女の本心を言うならば、今すぐにでも一哉に抱きついて、不安を紛らわして欲しいというのが本心かもしれないが、この場には伊達がいる。
自分たちのことを知らない彼の前でそんなことできるはずもなかった。
たとえ知らず知らずのうちに本能にそって行動していたとしても一哉がそれを許さないだろう。

自分の声に反応して離れてくれた綾にほっと胸を撫で下ろしながら、一哉は伊達に目を向けた。

「片付けは済んだか?」
「え、あ…はい」

端的な問いだったが、それが自分へと向けられたものだとわかった伊達は、山崎のことを考えていたためにしどろもどろになりながらも頷いた。
伊達の答えに満足したように一度、頷くと一哉は視界に入った見覚えのあるボールに目を向けた。

「何だ。持ってきたのか」
「あ、はい」
「まぁいい。怜迩様に聞いて処分しろ」
「わかりました」

返事をして、伊達は床に転がったボールを掴み上げた。

「旦那様は?」
「まだよ」
「そうですか。じゃあ、先にお嬢様だけにでも報告させて頂いた方がよろしいでしょうか?」
「そうね。こんなところでも何だわ。私の部屋で聞くわ」

流れるような動作で綾と一哉は姿を消した。
1人残された伊達は、一番気になる事も聞けずに佇んでいた。
彼らについていくこともできたかもしれないが、何故か2人を取り巻く雰囲気に割って入っていくことができなかったのだ。
とはいえ、伊達も完全な部外者でもない。
時は遅くてもいずれは聞かされるであろうことは想像に難くなかった。
もう一度、手にしたボールに目を落とした後、ふぅっと息を吐いてその場を後にした。





部屋の扉が閉まるなり、彼女は詰め寄ってきた。
内心で苦笑しながらも、これが子を想う母親の姿だろうと妙に納得している自分がいる。
それと対照的なのが、ここにはない男だった。

「一体、何だったの?」
「堺は?」

早く教えろとばかりに急かして来る綾の言葉を交わして、一哉は堺の所在を気にした。
この空間には綾と一哉の2人しかいない。従って、先ほど伊達がいたときのように一哉の綾に対する姿勢は、丁寧なものではなく、ぞんざいなものに変わっている。
だが、綾も今更気になど留めない。
それよりも、綾は早く自分に答えをくれない一哉に苛々を募らせていた。

「あんな男なんてどうでもいいじゃない!早く、私の聞いていることに答えて」
「今回に限って、無関係じゃない。寧ろ、あいつは関係者だ」

ぎろりと瞳が鋭くうごめく。
その瞳に、自分が睨まれたわけでもなく、数年前にその瞳で見つめられたときを思い出して綾の体がすくんだ。
そして、すぐに一哉の言葉に一つの疑念が綾に生まれる。

「関係者ってことは…」
「怜迩を狙わせた張本人は、堺だ。あの男…」

ぎりっと唇を噛み、忌々しげに堺の名を口にした一哉に、綾は目を見開いて彼を見つめた。
信じ難かった。背筋が粟立ち、体中の皮膚の毛穴がきゅっと締まり、鳥肌がたつ。
まさか、こんな身近にいたとは思いもよらなかった。
今回は、無事だったから良かったものの、もし怜迩がいなくなっていたかと思うと恐ろしくてならなかったのだ。

それは、一哉とて同じだったのだ。
弱みを握って完全に掌握したと思った相手にこんな風に噛まれるとは思ってもみなかった。
それだけに、一哉は業腹だった。
握った拳がみしみしと音を立てる。
ただの冗談でこんなことを口にするわけがないということは、綾とて知っている。
目を瞠ったまま、綾は悔しそうに唇を噛み、険しい表情を浮かべている一哉の顔を見続けた。

―ただ、彼女に分からなかったのは、己の戸籍上の夫である男が息子を狙った理由だった。


それは、至極簡単なことだったのに―。
 
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