更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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2008
Vizard (65)
「そ…それは…っ」
翳すようにちらつかせるそれに顔を青ざめさせる。
綾の立ち位置からは、写真に写っているものは小さすぎてよく見えない。
堺の動揺に何が写っているのかと興味が湧き、目を細めてみるが、確認はできない。
「お分かりですか?」
「や…やめろ」
綾の立つ後方をちらりと視線で気にしながら、額に冷や汗を浮かばせて声を張り上げる。
だが、一哉は酷薄な笑みをさらにその整った配置の顔に深く刻んだだけだった。
その表情が物語っていた。
誰が止めてやるかと――。
「ふっ…」
「よ、よせっ!やめろっ!!」
「あなたの浮気調査の証拠とでもいいましょうか?こういう物的証拠があって初めて、相手を追い詰めることができるんですよ。今のあなたのように―」
静止の声も聞かずに薄く形の整った唇からは、追い詰める言葉が滑るように零れ落ちた。
堺の声に紛れはしたが、しかと綾の耳にも一哉の声は届いていた。
大きく見開いた目で取り乱す堺の背中を見つめた後、すぐに一哉を見た。
手にした写真は、堺に提示した写真の他にも数枚あるようだった。
「他の写真も?」
部屋の扉に一番近いところから聞こえてきた冷静な声に、2人の男は意識を向けた。
一人は、面白いことを聞いてくれる―と。
もう一人は、がばりと大きな所作で振り返り、動揺と己のしてきたことに対する脅迫観念によって歪んだ表情を綾に晒した。
「ええ。勿論、ご覧になりますか?」
「違う!!私じゃないっ!私であるはずが!!」
綾のいる方向を見つめたままみっともなく喚き散らす堺を背後で一哉は口許だけを歪めて笑い、綾は醜いものを見るもかのように険のある表情をした。
綾の表情の変化を平常心を失いながらも悟った堺は、みるみるうちに歪み、醜いものへと変化していく。
ふぅと大きく息を吐き出すと一哉は手にしていた写真へと目を落とすと呆れたような、妙に感心したように口を開いた。
「まぁ、こんな映りの悪い写真じゃ。そう仰るのは無理もないかと思いますけどね…」
「そ…、そうだ。馬鹿げている。私がこんなことするわけないだろう!私を嵌めようなど」
「では、こちらの写真ではいかがでしょうか?ああ。あなたの顔がよくわかる。…―失礼、私の仕事はお嬢様に仇なす者の排除なものですから、多少で過ぎた真似かとは思いましたが、知ってしまった以上、野放しにはできませんでしたので」
一哉の弁護というわけではないが、事実を口にしたまでの発言に食いつくようにして早口で捲し立てる堺の逃げ道を塞ぐように別の写真をちらつかせる。
「…!?…これは…」
つい先日の身に覚えのありすぎる写真に開いた口がふさがらない。
明らかに至近距離で取られた写真に震えが走る。
「ご存知ですか?その慌て様が何よりの証拠だということを…」
綾と2人だけになった部屋で写真をしまっていると部屋の戸口に立ったままだった綾が近づいてくる気配がしてゆっくりと顔をあげた。
寄り添うように立つと細く整えられた指で一哉の手から写真を取り上げた。
じっと写真を見つめた。
目で追いながらも眉ひとつ動かさない。ただの情報として捉えていることがわかる。
「今まで、ずっといなかったのコレの所為?」
透き通るような澄んだ声で落ち着いた様子で尋ねる綾を見て戸惑いを覚えつつも頷いた。
「そう…」
「…驚かないのか?」
「何に?驚く必要なんてないわ……。知っていたもの」
「知っていた?」
怪訝な顔つきで自分を見てくる一哉に気づいていたが、綾は彼に顔を向けることなく頷くことで返した。
「私が東を通じて依頼したところは、あなたほどに証拠は集められなかったけれど…」
くすりと小さな笑みを零して―。
東という彼女が信頼を寄せる老女の使用人を思い出して、己がその東から頼まれて街中にある事務所に遣いに出たときに受け取ってきたものを思い出す。
そして、その帰りに目撃したことにより堺に対して疑念を持った。
「まさか…あの時の」
「…?」
小さく口の中で転がすように呟いた一哉の言葉に怪訝な顔つきで横に立つ彼の顔を見返した。
「旦那様は…」
「知らないと思うわ。伝えたところで、あの男と離婚したところで子供がいない私には、次のお父様のお眼鏡に適う男と結婚させられる。水原のために…。冗談じゃないわ。あの男もお父様も許さない―。水原なんかなくなればいいんだわ。2人とも利用してあげる……」
眦を吊り上げ、恨みをたっぷりと籠めた暗い声音。
綺麗に整えられた親指の爪をぎりっと強く歯で噛みながら、綾は口にする。
俯いた顔で誰に聞かせるわけでもなく呟く綾を上から見つめながら、一哉の顔は苦悶するように苦渋の表情を刻んでいた。
彼女の心を支配するのもまた暗いものだ…。
己のものとどちらが深いか―。
そう考えて、だがしかし、すぐに考えることを放棄して、綾の口許に置かれた手を取り上げると突如握られた手首の強い力に驚く彼女などお構いなしに薄く開いた唇に己のそれを重ね合わせた。
すぐに綾は瞼を下ろし、与えられる甘い感覚を甘受した。
長い口付けの後、とさりと固いベッドの上に体が横たえられる。
――2人を止めるモノも、枷となるものは最早、何もなかった。
差し出されたものに老女はぴくりとこめかみの筋肉を動かした。
それでも動揺を悟らせることはしなかった。
「よろしいのですか?」
抑揚のない声で尋ねた彼女に、彼女の主たる若い女は、満面の笑みを浮かべ、大きく首を縦に振った。
翳りのない笑みを見たのは、何時からのことだろうか。
手渡された錠剤のシートと目の前の主人の顔を交互に見て、老女は頷いた。
「構わないわ。もう必要ないの…、処分して」
「左様でございますか」
「ええ」
「では、この経口避妊薬は処分させていただきます」
優秀な彼女は何も言わない。
全ては、主のため―。
彼女が望むのならばなんだってしよう。
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