更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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2008
Vizard (54)
一哉が部屋で本を読んでいるとドアがノックされる音が聞こえてくる。
顔をあげて、机の上に読みかけの本をおくとドアに向かう。
部屋の主が出てくるまで、ドアをノックした人物は大人しく待っていたようだった。
一哉がドアを開け、外を確認するとドアの前で待っていたのは、東だった。
年月の経過とともに、深く皺の刻まれた顔に能面のように無表情な顔は、どこか人あらざる者のように感じられてならない。
東の姿を見て、内心ではぎょっとしたがなんとか平静を保って応対した。
いつまで経っても決して慣れることはないだろうと思う。
「何か御用でしょうか」
「あなたに頼みたいことがあります」
抑揚のないしわがれた声。
頭ひとつ下げることなく、能面のような表情は相変わらず。
とても物を頼むような態度には、見えない。
「何でしょう」
「これを…」
彼女が差し出したのは、一枚の紙切れだった。
ぴくりと一度、一哉の眉尻が動いた。
紙切れを受け取ると、小さく畳まれたそれを開く。
そこには、地図と恐らく目的地であろう場所の名前が、達筆な字で書かれていた。
「調査…事務所?」
小さな声で、紙面に踊る文字を読み上げた後、怪訝な顔つきで目の前の東を見た。
「左様。そこへ行って、受け取ってきて欲しいものがあります」
「何を、…ですか?」
「あなたは知る必要ありません。そこへ行って、受け取ったものをこちらへ持ってくるだけのことです。小学生でもできることでございましょ。今、手の空いている者はあなたしかいないのです。私も、生憎と用がございまして…。私の名前を出せば、相手方はお分かりになるはずです。頼みましたよ」
言いたいことだけ告げると東は、機敏な動作でくるりと背を向けた。
一哉は、まだうんともいやだとも言っていない。
最初から聞く気などないのか彼女は、それ以上は何も言わず、振り返ることもせずに姿を消した。
手に残った小さな紙の紙片をじっと困惑した瞳で見つめていたが、ふぅと息を吐き出すと出かける準備をするために室内に戻った。
紙片に書かれた地図を頼りに言われた場所に向かう。
街中の一角にそれは、あった。
小奇麗なビルの中に足を踏み入れる。
目線を泳がせて内装や、ビルの作りを確認しながら、なるほどなと軽く頷く。
何を調べさせているのかはわからないが、―知る必要もないと一哉は東から言われたのだが―、水原の人間がが利用するには妥当なところだろうと評価した。
自分が利用していたような路地に立つぼろいビルに入っているほとんど潜りに近いところとは天と地の差だ。
「一体、何を調べさせてるんだか…」
目を眇め、その瞳に鋭い眼光を宿すと扉を開けた。
遠慮の欠片もない足取りで中まで進み、受付と思しき女の前に進むといわれた通りに東の名を口にした。
すると東の言っていた通り、彼女の名を口にすると受付に座っていた女は、すぐに立ち上がり奥へと姿を消した。
すぐに奥から一人の男が出てくる。
血相を変えた男の登場にそちらへとゆっくりと顔を向けた一哉の顔を見て、想像していた老婆が未成年に姿を変えていたことに男は、拍子抜けしたように肩の力を抜いた。
その僅かな変化に一哉は気づいていた。
内心では、眉を潜めつつ男と向き合う。
「東の使いの者です。所用のものを受け取りに参りました」
落ち着いた態度で、おおよそ子供らしからぬ台詞を口にする一哉に、男は戸惑っていた様子だったが、すぐにふっと相好を崩して一哉に一歩近づく。
その薄笑いが気に食わなかった。
いけすかない奴だ。と思ってもモノを受け取るまでは帰ることはできない。
「わざわざご苦労様、君は確か…草壁家の四男坊だね」
「それが何か?」
意味深な視線を寄越してくる男に一哉の眉間に皺が刻まれる。
一種のアピールのつもりかと心の中で罵ってやる。
「その年で、それだけ落ち着いていたら大したものだ…苦労してるみたいだしね。母君が亡くなったのは、君が4歳のときだから、それから14年になるのかな?」
――べらべらと喋る奴だ…。
やはり、いけ好かない。
今すぐ、喉元を手で締め上げたい。
それとも、その横っ面を握った拳で殴りつけるてやるか。
ぎっと握った拳が音を立てる。
「私のことは、今は関係ないでしょう。東から依頼されているものを受け取りに来ただけです。私のことについて能書き垂れてくれなんて一言も言っていないはずですが?」
睨みつけながら、一哉が言うとことのほかその眼光が鋭かったのか男は一瞬、背筋に寒気を感じ、背中を震わせた。
すぐに取り繕うように引きつった笑みを浮かべる。
「失礼。私としたことが…、ついつい口が滑りました」
一哉の鋭い眼光から逃げるように背を向けて、奥へと再び入っていく男の背中を睨み続けた。
すぐに戻ってきた男は、封書を差し出す。
それを無言で一哉が受け取るとため息とともに男は意味深な言葉を呟いた。
「東のおばあさんも一体、こんなものを調べてどうするつもりなのかね」
封書を握る一哉の手がぴくりと震えた。
封書から男の顔を伺うと先ほどまでべらべらといらぬ口を利いて一哉の気分を害したことなど忘れ去ったように、にやりと下卑た笑いを見せて、口を開く。
「こんなもの調べさせてあの家を崩壊させたいのかねぇ」
「それは…」
どういう意味かと問おうとした一哉だったが、男は肩を竦めて背を向けるとそのまま奥に戻っていってしまった。
恐らく戻ってくることはないだろうと一哉は、男の背中から封書に視線を戻した。
一体、この中に何が入っているのか――。
気になっても知る必要のないことと釘を刺されているだけに、開けて中身を確認することはできない。
諦めて、無言のまま踵を返した。
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