更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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2008
Vizard (53)
じゃりっと砂を踏む靴の音が規則正しく聞こえる。
背後では、同級生や下級生の嬉しそうにはしゃぐ声が聞こえる。
何がそんなに愉しいのか分からない。
ここへ来る事の意味すら見出せない。
後、数ヶ月で卒業を迎える。
否応がなく、ここに転入してきてから既に5年が経過しようとしている。
時の経過は早いと富に思うようになったのは、最近のことだ。
なのに、この一年、あの屋敷は何も進展しなかった。
自分も含めて――。
何もかも――。
進展どころか、後退している…。
ぴたりと足を止めて、地面を食い入るように見つめた。
切れ長の瞳には、そこに見えるはずの地面も砂利もアスファルトを突き破って咲こうとしている花も人の足も…、何も写していないように見えた。
ため息を零して空を見上げた後、己の心と同じく淀んだ空の色を見て、さらに深く沈んでいくような気分に陥りながら、今にも雨が降り出しそうな天気に早く帰るべきだと足を踏み出した。
綾は、避妊薬を服用し続け、そのことは彼女自身と一哉とそして、薬の手配をした使用人の東しか知らない。
彼女の夫である堺も、父親も与り知らないことだ。
したがって、堺との肉体関係は存続していても妊娠などしない。
結婚から1年以上経っても妊娠の兆候すら見せない娘に父親は、不安を隠せない様子だった。
父親の不安げな瞳が自分へと向けられているのに気づきながら綾は知らない振りを続けた。
これは、報いだ――。
自分を道具にしたことへの――。
そんな親子を目の当たりにしては、一哉は綾の暴挙とも言える行動を止められなかったことに罪悪感を感じるのだ。
どこかで自分が言えばやめてくれるという甘い考えがあった。
あれほどまでに自分を渇望し、求めたのは彼女だ。
だから、自分が言えば分かってくれると思っていた。
言いくるめられると思っていた。
それは、奢りでしかなかった――。
思いあがりも甚だしい奢りでしかなかったのだ。
どれだけ、忠告をしようとも、止めろと声を荒げても、嘆願さえも彼女には届かなかった。
堺も堺で、もともと綾にそうする意志がないということも手伝ってか、綾と堺の関係は希薄以外の何物でもなく、日常生活において口を利くこともなければ、目を合わせることもなかった。
それは、入り婿である堺にとって屋敷を、息苦しく肩が詰まる場所とさせた。
次第に屋敷にいる時間が減っていき、今では夜を過ごすために帰ってくるだけ――。
あるいは、水原の仕事を本格的に手伝うようになってからというもののその激務に家に帰る時間もないのか、帰ってこない日もままあった。
水原は、そんな娘夫婦をどうにかうまくやってくれればと近くで見ながら思うのだが、口は挟まないでいた。
挟んでしまえばそれは、2人にとって命令であり、重荷になる。
そんな関係、すぐにでも崩壊するに決まっていると思ったからだ――。
しかし、水原のその考え自体が大きな思い違いであると指摘するものはいなかった。
既に、堺と綾の2人は崩壊しているのだから――。
1年前に――。
そんなこと知らない水原は、極力2人の間には口を挟まないで置こうと考えていたのだ。
2人のことは、2人で決めるべき。
自分がそうであったように、娘にもそうであって欲しいという親の願いだった。
――しかし、娘はそんな父親の意志を汲むどころか、父親に対して恨みに近い感情すら抱いている。
暗く。
淀んでいる。
周りも。
自分も――。
何もかも――。
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