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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0209
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2008

0517

Vizard (48)




いつもと変わらない朝の風景なのだろうが、彼には全ての者が自分をあざ笑っているように見えてならなかった。
人目を気にしながら朝食を取るそんな彼の様子など意に介することなく―全く、興味がない様子で自分の分の朝食を取り澄ました顔で済ませる彼女。
2人の間には、会話はなかった。
何しろ、綾が取り付くシマも与えなかったという方が正しいだろう。
ツンとそっぽを向いたまま、同じテーブルにつく堺のことなど一回も見ようとしない。
恐ろしく徹底されたように――
給仕のために、居合わせた使用人の一人はそんな綾の様子が気になり、ちらちらと不躾な視線を送る。
それは、誉められたものではないが、結婚したばかりの夫婦が結婚後数日で、冷え切ったと形容しても問題ないであろう関係になっていれば、人の下世話な興味と思考が働いても文句は言えまい。
綾とてその視線に気づいてはいたが、敢えて注意をするようなこともしなかった。
適度に満腹感が生じたところで椅子から立つとダイニングルームを出た。
その際にも、堺を見る事も口を利くこともなかった。

一哉は、学生服に身を包み、自分と同じように屋敷に住み込みで働いている他の使用人と同じテーブルについて朝食を食べていた。
最初こそ声を掛けられることもあったが、当たりさわりのない返事だけをしていた一哉を他の人間は、面白くないと判断したようで、彼に声をかける回数も減っていき、今では業務連絡程度しか言葉を交わさなくなった。
無言で食事をする傍ら、他の人間の口さがないおしゃべりが聞こえてくる。
どうせ、いつもと同じ愚痴の言い合いだろうとさして気にもせずに箸を動かしていた一哉だったが、聞こえてきたお喋りの声にぴたりと手を止めた。

「昨日、堺家から婿養子に入った正一様だったかしら…、その人が旦那様と綾お嬢様を怒らせたらしいわよ」
「え…?」

一哉と同じテーブルで食事をしていた2人の女は、屋敷で働く、言わば女中のようなものだった。
言い出した女とは、別の女が驚きの声ををあげるのと同時に、一哉は、顔をそちらへと向けた。
彼女達は、一哉の視線に気づいたようで目を丸くして一哉を見返した。
それを気まずく思い、すぐに視線を手元に戻した一哉だったが、耳はいつもより彼女達の話に注意を向けられていた。
彼女達は、すぐに顔をうつむけて、視線を戻した一哉を怪訝に思い、互いの顔を見合わせて首を傾げた。
盗み見るように一哉を見るが、すぐに彼女達の興味は尽きたようで、それまでの話に彼女達の興味は戻った。

「凄かったらしいわよ」
「帰ってきてすぐじゃない」
「そうよ。身の程知らずだと思わない?旦那様もそうだけど、お嬢様が大分とお怒りになったようで、部屋から閉め出されたらしいわよ」

下世話な会話にの後。
ぴたりと会話は止まり、その直後、高い品の無い笑い声が部屋に充満した。
一哉は、聞くに堪えない笑い声から逃げるように立ち上がると自分の食器をシンクに置くと部屋を出た。
部屋を出ると先ほど話題に上がっていた一人が廊下を歩いており、すれ違う。

「調子に乗るなよ」

地を這うような声でぶつけられる悪意。
一哉の足はぴたりと止まる。

「……」

自分の横を通りすぎ、己に背を向けているであろう男を振り返ると相手も自分を見ていた。
険しい瞳で――

「何のことでしょう」

涼しい顔で問う一哉。
悪意には慣れている。
自分に悪意を向ける人間の感情を逆撫ですることも得意としていた。
今のように白々しい顔で、問えばそれだけでいい。笑みを付け加えてやればもっといい。
さすれば、目の前の男のようにますます感情を荒立てる。

「お前のような取るに足りないヤツなど、いくらでも替えがいるんだからな!私がその気になれば」
「楽しみにしておりますよ」

男の声を遮った。
一哉の台詞に言葉を失ったように、呆けた顔をする。
内心で男の間抜けな表情をあざけり、笑いながら続ける。

「なっ…」
「それほどの力をあなたが手にすることができることを心から――

薄っすらと笑みを浮かべていても決して目は笑っていない。
表情が何より物語っていた。
――お前には、無理だと…。

その言葉が決して額面どおりの言葉ではないことだといくら愚鈍な男とて感じた。
下のものに馬鹿にされることは、ひどく業腹なことだ。

「き…貴様……」
「何やってるの!?」

一哉と男の対峙は、割り込んできた甲高い声によって中断された。
2人の男の視線は、つかつかと大股に近づいてくる彼女に向けられた。
2人の男の間に立ちはだかる。

「何をしているの?」

彼女が強く責めるような視線を向けたのは、使用人である一哉ではなく、夫である堺にであった。
さすがにこれはまずいだろうと一哉の方が、この状況を危ぶんだ。

「お嬢様。私が至らないところがあったようですので…」

綾の剥きだしの敵意に呆気に取られていた堺だったが、一哉の言葉につまりながらもふんっと鼻息を荒くした。
自分の佇まいを正すと背後からの一哉の言葉に表情を軟化させた彼女に言う。

「そ、そうだ。出来損ないは、水原の品位に関わるからな」

――よく言ってくれる。
出来損ないはどちらだと胸中でふんぞり返る男を罵る。

同じくして綾は、堺の言葉に不快感を露わにした。
眉間に深い皺を刻み、夫である男を睨めつけた。
もとより、昨晩からの男の言い分、振る舞いに腹を立てていた綾だけに、その怒りは留まるところを知らないようだった。
何もかもが腹立たしい。

「あなたにそんな心配して頂かなくて結構。余計な口出ししないで下さる?一哉。この人の言うことなんか気にしないでいいわよ。行きましょ。遅刻しちゃうわ」

男を睨みつけたままくるりと背を向けるとまるで堺に見せ付けるかのように、一哉には笑みを浮かべて、一哉の腕を引いて、男の前から姿を消す。

「あの男…勘違いも甚だしいったらないわ。実家の力で水原に入れた分際で…。この家にきた時点で用済みだと言うのに…」

その途中、苛立ったような綾の声を一哉の耳は拾ったが、敢えて何も言わなかった。
気づかない振りをした一哉だった――
綾の言葉が間違っているとも正しいとも一哉は、口にはしなかった。

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