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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

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0209
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2008

0518

Vizard (49)



結局のところ、堺が水原に許してもらえたのは比較的すぐのことだったが、妻である綾は相当に腹を立てていたのだろう。
綾の機嫌が直るまでに、相当の時間を要した。
屋敷で働く人間の誰もが、堺の醜態を知ることになり、いい笑いものも同然だった。
それは、綾が父親から懐柔されなければもっと長引いていたかもしれない。
いい加減、堺を憐れに思った水原が娘に苦言を呈した形となった。
勿論、水原自身も堺にはもっとしっかりしてもわなければ困るといった旨を言い渡したのだが…。
しかし、水原はしっかりしてくれと言った口で、堺の姿が見えなくなったところで、あれでは無理だろうなとぼやいたのをたまたま通りかかった使用人の一人は聞いてしまった。

水原の助力もあってか、漸く、綾の機嫌を取ることができた堺はほっと胸を撫で下ろしていたこれで、やっと夫婦らしい生活が送れると暢気なことを考えていた。
自分がここへきた目的も果たせようと――
自分の血を引いた子供を水原の家に誕生させ、その後、当主の座を頂く…という目的。
堺の子供を産むことなんて、綾は全く望んでいないと知らずに――





刻、一刻と近づく時間に諦めの境地にも似た思いだった。
避けては、通ることができないと頭ではわかっている。

緊張した面持ちの彼女で後部座席に座る彼女をバックミラー越しに伺い見た。
学校から屋敷へと帰る車中。
唇を固く引き結んで、一点を見つめる。
周囲などまるで目に入っていない様子。
そんな彼女の様子を不審に思ったのは、何も彼―一哉だけではなかった。
車のハンドルを操作する宗司も同様の違和感は感じているようで、ちらちらとバックミラーで後部座席に座る彼女―綾の様子を先ほどから何度も伺っている。
一哉は、兄の責めるような視線を感じたが、自分には心当たりなど全くないので、分からないということを主張するように肩を竦める。
宗司は、無言の一哉の答えにふんっと鼻をならした後、もう一度バックミラーに映る浮かない綾の顔を確認した。

綾は、父親の言葉を思い出していた。
堺に対していつまで経っても腹を立て、見ている方が男に同情したくなる扱いに苦々しく進言したときのことだった。

「いつまで拗ねている気かね?」

父の書斎に呼び出されて開口一番にそう口にされて綾の表情がぴくりと一度引きつったあと、硬直した。

「拗ねてなんか…」
「あれでは正一君も可哀想じゃないか」
「あれは、あの人が悪いんじゃない。お父様だって不快に思ったでしょ?」
「それは、否定しないけどね。夫婦は仲良くしないと駄目だろう?これから何十年と同じ時間を過ごしていかなくてはいけないのに最初からこうでは、先が思いやられる」
「それは…だって」
「正一君とは、仲良くやりなさい」

そんなの無理だ。と思った。
自然と唇を噛む。

「一哉のことで怒るのは、もう止めておきなさい」
「どうして?一哉をやめさせようとしたのよ」
「彼の心配だという気持ちも分かってあげなさい。お互いにきちんと話をしてよく理解しあうことが君たちには大切じゃないか?違うかい?」

理解しあうも何も、問答無用で結婚まで持っていったのは一体どこの誰か――
だからこそ水原がそう言っているということも考えられるが、綾はなりふり構わず罵詈雑言を父親に対してぶつけたくなった。

――どうして、好意の欠片も抱いていない相手と話合う必要があるのか…。

「もし子供が産まれたときに、両親の仲が悪かったらその子も可哀想じゃないか」

水原の口から出た言葉に綾の体がぴくりと揺れた。

忘れていたわけではない。
目を背けていただけだ。

自分が、この家に産まれた時から背負っている運命。やらなければならないこと。
そのために、生きてきたのだと言っても過言ではない。
そのために、好きでもない男と結婚したのだ。
自分にその役目から逃げることを許してくれる人物は誰もいなかった――



宗司の運転する車は、気づけば屋敷の敷地内に到着していた。
車が所定の位置で停止した後、先に下りた一哉の手によって後部の扉が開かれても、後部座席に座った綾は、呆然としたままある一点だけを瞬きもせずに食い入るように見つめていただけだった。

「お嬢様?」

訝しむような一哉の声にはっとしたように顔を上げる。
2人の目が合ったその瞬間、綾の縋るような視線に気づき、一哉の心臓が一度大きく脈打つ。
顔に出さないでおくことが精一杯だった。

「どうかなさいましたか?」

できる限り平静さを保って尋ねる。

「…何でもないわ…」

縋りつくことができたのならば、どんなに救われただろうか――
しかし、できなかった。
言ったところで助けてはくれない。
それどころか、送り出すような言葉をくれるに違いないから――
苛立ったような表情とともに――
彼に期待するのは、間違っている。そう自分に言い聞かせた。

「何でも…ないわ」

ひどく耳に残る頼りない声だった。





時計を確認すると既に夜中の2時を回っていた。
手にしていた本を閉じると立ち上がって本棚に本を戻して、部屋を出た。
睡眠の前に、洗面所に向かい、歯を磨き、自室に戻るために長い廊下を歩く。
他の者はすでに就寝しているようで、屋敷は静まりかえっているため、極力、音を立てないようにして廊下を歩いていた一哉だったが、2階でその静寂を打ち破るような乱暴な音が聞こえてきて、1階を歩いていた一哉はぴたりと足を止めて2階を見上げた。
怪訝に思いながら確認するために2階へとあがるために、階段に足を一歩踏み出した。

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