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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0210
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2008

0512

Vizard (43)




答えを待つ時間は、凄く長く感じられた。

それは、一哉だけではなかった――
固唾を飲んで見守る。―そんな言葉がぴったりと当てはまるような空間の雰囲気だった。
その場に居合わせた誰もが、男の口から出てくる答えを待っていた。

――なんと答えを出すのか。

睨みあいに近い、眼光の鋭さで互いの視線を交わす。
過去にこれほど顔を付き合わせたことはあっただろうか――
無かったとすれば、皮肉なものだ。

親子関係を断ち切れと息子から迫られたときに、初めて長く顔を付き合わせる親子などどこに存在しようか。

「何故だ?」

誰もが疑問に思うことだった。
疑問に思うこと自体が不思議といえば、不思議なのだが――

これまで、この家に引き取られてからというものの、どれだけ罵倒されようとも謂れのない暴力に大きな傷を作っても顔色一つ変えなかった。
だからこそ、年々その勢いは増していくばかりだったのだが、そんなもの意に介した様子もなく日々を消化していた一哉だ。
否、時期を待っていたというべきだろうか――
その理由として、庇護が無くなることを避けたという考えもあるだろうが…。
並大抵の忍耐力では、その環境に耐えうるのは至難の技とも言えよう。
それが、何故この微妙なタイミングでこの家から出て行くというのか…。

誰もが分からないのだ。

当然と言えば、当然。
その答えは一哉の中にしか存在しない。一哉の心にのみ、その理由がある――
彼らには、いくら逆立ちをしてみたところで、それを探り当てることも、理解することもできないだろう。

「何故?…もう嫌なんですよ。何もかも……。それが理由です」

卑屈な笑みを浮かべて答える。

「あなた、何勝手なこと言って」

背後から聞こえてきた耳障りな高い声に一哉は顔だけをその声のした方に向けた。
ひどく暗い視線をその身に受けた女は、すぐに口を噤んだ。

「勝手はどっちですか?親を亡くして、右も左もわからない子供にあんたは一体何をした。俺に死んだ母親を重ねてうさを晴らしてただけだろ。まだ足りないっていうのか?」

一哉の言い草に女の顔が気色ばむ。
顔を真っ赤にさせて、一哉に掴みよるが、いとも簡単にそれを振り払うと女はみっともなくも床に尻を強かに打ちつけた。
ますます憤慨し、顔を紅潮させ、自分を下から睨みつける女を一哉は、上から見下ろす。

「一哉。止めなさい」

静止するような父親の言葉に再び、父親に視線を戻す。

「答えは?」

取り繕う必要もないと感じたのか、一哉はぞんざいな態度で父に問う。
彼は、再び口を噤んで一哉の顔を難しい顔で見つめた。
緊迫した雰囲気の中でどれくらいそうしていただろうか。

父と子の睨み合いが続く中、父親はふっと一哉から視線を逸らして大きく息を吐き出した後、重く言葉をその唇に乗せた。



「駄目だ」



一哉の目が一瞬、見開かれた後、鋭い目つきになった。
ぎりっと奥歯を噛み、握っていた拳が震えだすほど強く握った。

「ならん。それだけは、ならん」

一哉を見ないのは、相変わらずだが、首を何度も横に振り、同じ言葉を繰り返す。

「何故!?」

今度は、一哉が声を荒げた。
流石にそれには、驚いたようで、父親は下を向けていた顔をぱっと上げて息子の顔を見た。

「お前には、旦那様やお嬢様が絶大な信頼を寄せている…。今、ここで出て行かれるのは困る」

―そんなもの知るか…。

そう怒鳴りつけられたらどれだけ気分がすっとしただろうか。
ただ、思ってはみても行動にできない自分が恨めしかった。
ここで自分がいくらごねても結果は変わらない。
また、こんな父の言葉など無視して家を飛び出すということも考えない一哉ではなかったが、冷静に考えてみれば、その後が危うくなる事は明白だった。
自分がいなくなったことで、草壁がどうなろうと関係ない。寧ろ、めちゃくちゃに崩壊してしまえばいいとさえ思っている。主家である水原の不興を買って…。
しかし、水原の大きさは一哉にとっても脅威だった。
恐らく、信頼を置かれている分だけ裏切ったときの対応はさまざまな筈だ。
そのためにも名目が必要だと考えたのだ。
勘当されたとあれば、誉められたものではないが、一応の理由にはなる。
だが、目の前の男にそうすることへの度胸はない。
主からの信頼を失うことを恐れて――
何代も前から続く、長年の水原の関係のことを考えるとここで、一哉を手放すことが得策ではないのは、誰が見ても明白だった。

「……そうですか…」

力なく返事して、一哉はそれ以上の返答を聞くのを拒否するかのように背を向けた。
聞くまでもない。
分かっているから…。

「弥一」

背を向けた一哉に対して、父親は一番上の息子の名を呼んだ。
名を呼ばれた彼は、まるで最初から心得ていたかのように今、まさに部屋を出て行こうとする一哉の後を追った。
一哉は、自分の後を追ってくる気配に気づき、ぴたりと足を止めて振り返る。
父親の危惧していることが手にとるように分かったからだ。

振り向いた一哉と同じく足を止めた弥一は、弟の顔を見て戦慄に近いものを覚える。
得体の知れない何かを感じて――

「ついてこなくていいですよ」

薄っすらと笑みを浮かべる姿は、先ほどの苛立ちに任せて父親に迫っていた姿とは到底、同一人物とは結びつかない。
これは、誰だと問いたくなった。
笑っているのに、笑っていない。作り笑いは、誰だってするものだ。少なくとも自分にだって覚えがある。
しかし、こんなに威圧感を覚えるものをかつて自分は目にしただろうか。

「馬鹿な真似はしませんよ。心得ていますから」

とだけ言うと、背を向けて部屋を姿を消した。
何となく、そう何となくだが、弥一は後を追うべきではないと思ったのだ。
「何をのんびりしてるんだよ」ともう一人のこの場に運悪く居合わせた弟に詰られたが、彼にはわからないのかと思った。
ある意味で、だからいつまでたっても愚鈍なままなのだと妙に納得している自分もいたが、煩く喚きたてる外野は無視して、父親を見返すと構わないというように彼は、一度大きく頷いた。
だから、弥一もそれ以上、一哉の後を追いかけるようなことはしなかった。
内心で、後を追えと言われたらどうしようかとも思っていたので、ほっと肩の力を抜いた。
そして、気づく知らず知らずのうちに手のひらに汗を掻いていた。
己の手をただ呆然と見て、思った。

もしかして…、まだあどけなさを残す少年に過ぎない彼が、途轍もない化け物を腹に飼っているのではないかと――
自分達は、見誤っていないかと――

それは、ただの予感でしかなかったけれど……。

 

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