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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0211
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2008

0510

Vizard (41)




出来れば、もう二度と来たくは無かった。
そう胸に思いながら、草壁 一哉は十年以上暮らした家の門の前に立った。
本来は、懐かしんでもおかしくないものだ。家というものは――
しかし、彼にとって“家”という場所は、幼い頃は畏怖の対象。
今では、忌むべき対象であり、懐かしさなど微塵も感じるはずはなかった。

だが、それも今日で終わりを告げる。
ここを、家と呼ぶ間柄が消失するのだから――
そう思いながら、閉ざされた門に手を伸ばした。





水原家の令嬢と彼女の婚約者である堺 正一。いや、婿養子に入った彼を堺と呼ぶには語弊があるだろう。水原 正一の結婚式、並びにその披露宴が盛大に行われたのは、昨日のことだった。
この結婚により、新たに水原を名乗る人間が一人増えた。
それは、水原の当主である男が考えた通りのシナリオでもあり、また、水原の名を名乗れるようになった男もそうであった。
ただ、当事者となった水原 綾は、決して望んでいなかったことだ。

そして、彼女のボディーガードを任されていた一哉は、これでもかというほど意匠を凝らされた衣装に綺麗に着飾られて晴れの舞台だというのに浮かない顔をして、明らかに身に着けているものに負けている彼女の傍に立ち続けた。
己が仕事を全うするために――
それは、一重に苦痛の時間だった。
苦痛を感じていたのは、何も一哉だけではなかった。
彼女の表情がそれを物語っていたというのに、さらに彼女に「笑え」と酷なことを言った。
自分がそう口にしたときの彼女の表情は、決して忘れないだろう。
酷く歪んだ笑みを見せた。
彼女にそんな表情をさせているのは、自分だと分かっている。我ながらひどい男だという自覚は一哉とてある。

滞りなく式、披露宴を終え、実に満足そうな水原の当主と次期当主となるべく男に相反して、一番幸せを感じるべき花嫁は沈んだ気持ちから抜け出すことができないようだった。
すぐ側に本当に愛している男が居て、何故それでいて他の男との結婚を喜べようか――
しかし、それを理解してくれる者は誰一人としていなかった。
己が愛している男でさえも――

必死に取り繕っていた。
余裕のある表情と見せかけて実のところ余裕など全く無かった。
近く、他人の男のものになる彼女の側にいることは苦痛だった。
近く、彼女の夫になり、果ては己の雇い主となる男の戯言を聞かされるのは――

彼女に幸せにはなって欲しい――
しかし、それを見たくはない。
側で指を銜えてみていることしかできない自分にそれは何物にも変え難い苦痛でしかないだろうから――
だから、離れようと思った。
彼女が気づかない内に――

彼女と彼女の婚約者が新婚旅行に旅立った。
本来ならば、それに自分も同行するべきだったのだ。
しかし、卑怯にも勉学を理由にして、兄に任せた。
自分が付いて行かないということを知った彼女が驚き、悲しそうなそれで居て、責めるような瞳で自分を見ていたことにも気づいていながら気づかない振りをし続けた。





顔を伏せて、どこか暗い表情で庭の土を踏む学校指定の革靴を睨みつけていた一哉だった。
だが、鋭い視線を感じて顔をあげる。
そこには、すぐ上の兄である草壁 御津の姿があった。
憎悪むき出しの視線に、一哉は既に慣れており、またかと心の中で思うのと同時に、相手が更に不快な思いをするであろう笑みをふわりとその口許に浮かべた。
確かに一哉の思惑は外れてなかったようで、御津はぐっと奥歯を噛み、歯軋りをさせ、忌々しい表情を隠しもしなかった。

「お久振りです」

白々しくも涼しい表情でそう告げると醜い、苦々しい表情を浮かべ、吐き捨てるように相手は言う。

「どの面下げてきた」
「どの面?こんな面ですが、何か不満でも?急いでるので」

と御津の前を通り過ぎようとした。
しかし、肩を腕を掴まれて阻まれた。
ぴくりと一哉の表情筋が引きつり、即座にその手を逆に捻り上げていた。

「いてっ!!」

まさか反撃されるなどとは思ってもいなかったようで、突然走った痛みに悲鳴があがる。
反撃されないと思っていて、隙だらけの体を晒していること自体が馬鹿げていると一哉は思うのだが、それは痛みに顔を顰める彼にはわからないようだった。
ぎりっと更に力をこめてやるとますます野太い悲鳴があがる。
男のそれなど聞いていて愉しいものではない。

「何やってるの!?」

そろそろ離してやるかと力をかけながら考えていた一哉の耳に耳障りな甲高い悲鳴とも言える怒号が飛んでくる。
息子の悲鳴を聞いて飛んできたのだろう。
そして、既にこの世に存在はしていないが、憎らしい女の息子が己の可愛い息子の腕を捻り上げ、息子が痛みに顔を顰めているのを見た瞬間に声を張り上げていた。
一哉は、鬱陶しい奴が出てきたと思いながらパッと掴み上げていた御津の手を解放すると、いつものように厚塗りの化粧を施した女は、息子に駆け寄った。
それを冷めた目で見ていた一哉だったが、何食わぬ顔でわざわざ嫌な思いをしてまでここへ足を運んだ理由である本来の目的を果たすために、彼らの横を通り過ぎようとした。

「お待ちなさいっ」

声を荒げた女だったが、一切無視して家に中へと足を踏み入れる。
ヒステリックな声を上げて、自分の後を追ってくる女の存在に気づいてはいたが、放っておいた。
丁度いい。

迷うことなく、家の中の父の部屋の前に立つとノックもなしに部屋の中に足を踏み入れた。
室内に居たのは、父親だけでなく長兄の姿もあった。
2人で何やら話し込んでいた様子だったが、突如遠慮の欠片もなく開いた扉に驚き、室内にいた2人は部屋の入り口を怪訝な表情で見やった。
そして、2人ともそこに立つ末っ子の姿を見て一様に驚いた表情をした。
一哉は向かいあって話をしていた2人に険しい表情のまま近づいていく。
その一哉の後ろからけたたましい声をあげて追いかけてくる女の姿が確認できた。
それにも彼らは驚き、ぎょっとしたような表情で互いに顔を見合わせた。

一哉は、兄や煩く騒ぎ立てる戸籍上の母の存在を完全に忘れ去ったような様子で、父親の前に立つと顔色一つ変えることなく父に言う。
それは、最早、宣言に近かった。





「俺を勘当してください」





ただ、近くに居て見ていることしかできないことは苦痛だから――
逃げることにした……。

そのために、草壁の名を捨てるんだ――





――俺は、卑怯だから…。

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