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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0212
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2008

0430

Vizard (31)


苛立ちと喧騒が場を支配する。

「まだか!?まだなのか!!早くしろっ!」

がなりたてるのは、まだ年若い青年。
彼には、この状況で声を張り上げることしかできなかった。
何度となく繰り返されるバラエティのない同じ言葉に既に聞き飽きていた。
無力な男は、煩く騒ぎ立てるしかできないのだ。
今更、誰も動じない。
自分に与えられた仕事を全うするだけだ。
大企業の令嬢が攫われたとあれば、警察が動き出して当然の出来事だ。
今、室内には要請を受け、遅れて登場した警察官が大仰な機械を持ち込んでいる。

「正一君。少し落ち着きなさい」

苦い口調で諌める壮年の男に、諌められた青年は歯がゆそうな表情を向けたが、青年以上に苦悩に満ちた表情をしていて、青年は零れてきそうになった言葉を飲み込んだ。
感情の赴くまま浮かせていた腰を下ろした。

すでに何度か連絡はきていた。
しかし、一回ごとの通話時間が短く、警察が持ち込んだ逆探知は意味をなさなかった。
従って、どこから電話がかけられているのか発信元の特定は困難を極めていた。
時間の経過と共に関係者の苛立ちや焦燥は募る一方だった。

それから数時間後、漸く彼らは探し人の居場所を知ることになる。
それは、彼らにとって待ち望んだ報せだった。





目隠しをされ、五感の中でも重要な視覚を遮られてしまうとその他の感覚器が尚のこと発達したかのように鋭敏になる。
肌を突き刺すような緊迫感。

同じ空間にいるのは、2人の男。
1人は電話を通じて、恐らく父と交渉を続けている男。
もう1人は、首元にナイフを突きつけている。
声からして、2人は若くはない。
そう、自分の父親とそう変わらないであろう位の年のはずだ。
心なしか聞いたことがあるような声なのは、気のせいだろうか。

繰り返される電話を通じた会話。相手が自分の父親だということも分かる。
静かな空間において、電話の向こうの声すら微かに聞こえてくる。
焦ったような父親。
数度となく繰り返されるそれは、既に何度目だろうか。
父親の心配を余所に、自分はこの場で殺されてもいいとさえ思っている。

なんて、親不孝な娘だろうか…。

自分で自分に言い聞かせる。

でも嫌なものは嫌なのだ。
一度、幸せというものを味わってしまえば、自分からそれを手放すことは難しい。
願わくば、自分に鋭利な刃物を突きつけている男が、少し、ほんの少し手を動かすだけでいい。
そうすれば、それは間違いなく致命傷になるから――。

それなのに、口を封じられていない綾が、殺してという願いに応じてくれる気配はなかった。
ただ、時間だけが過ぎていく。

それは、綾にとって残りの猶予の時間なのか。
それとも男達にとっての猶予の時間なのか―。





今にも雪が降りそうな寒い冬空の下、高く聳え立つ煌々と光る建物を睨みつけた。
もう辺りは、真っ暗で夜の帳が降りていた。
吐く息は白く、肌を突き刺すような寒さがある。
少年の脳は、一度、目を通したものを忘れることなどなかった。一度見れば十分だった。
埋もれた優れた能力の一片にすぎなかった。

「ここか…」

睨みつけたまま動かなかったが、大きく息を吐き出した後、見上げるため上げていた顔を下へと下ろした。
ざりっと道路の砂利を踏み、足を大きく一歩踏み出した。

眼光だけは異様な光を発していた。

ホテルの自動ドアが少年の体を感知して、開くと同時に体を滑りこませるようにして中へと足を踏み入れる。
ホテル内は、宿泊客やチェックインを済ませる客でにぎやかで、特に怪しまれることなく奥へと進むことができた。
何食わぬ顔をして、エレベータホールまで突き進むと上へと向かう機体を待つ。
視線で辺りを確認する。
特に、変わった様子はないところから、恐らくまだ警察などがここへ来ている気配はないことから、自分が出てきた水原の家の者たちがこの場所を突き止めたといことは考えられない。
自分が出てきたときの様子から、とてもじゃないが、突き止めるまでには時間が掛かりそうだということは簡単に予想できたので、自分より早くここへくることはないだろうとは踏んではいたが、やはり想像通り、ここへは辿りついていないらしい。
2、3度軽く首を左右に動かして辺りを確認した後、チンというエレベータが到着した音が聞こえてきて、そそくさとその身を狭い箱の中へと押し込めた。

己以外に誰も同乗者のいない箱の中で、目的の階のボタンを押した後、長くゆっくりと息を吐き出して気を落ち着ける。
ものの数秒にしかならないが、瞼を閉じて、じっと目を伏せる。
己の心臓の音がすぐ耳の傍で聞こえるようだった。
コートの中でぎゅっと握られた手は、じんわりと汗を掻き、己の緊張を如実に表していた。

無事でいて欲しい―。

部屋の中がどうなっているかなど彼に知りようもない。
ただ、そう願うことしかできなかった。
最悪の事態を想定すると心臓が早鐘のように脈打つ。
それを落ち着けるようにゆっくりと息を吐き出して、自分の気持ちを落ち着けるのだ。
否、気持ちは怖いくらいに落ち着いていた。
体だけが妙な高揚感、緊張を覚えていて、対照的に頭や精神は奇妙なほど落ち着いていた。

ゆっくりとエレベータは静かに停止し、ベルを模した音が目的の階へと到着したことを告げる。
閉じていた瞳を開けて、静かに足を外へと踏み出す。
床を敷き詰めるように敷かれた毛足の長い絨毯が一歩、一歩足を踏み出す度にその衝撃を吸収する。
自分以外に誰も廊下を歩くものなど居らず、まるでこの世界には自分しかいないようにさえ感じられる。
一定の速度を保ち、迷うことなく目的の部屋へと向かう。
重厚な扉の前に立ち、じっと睨みつけた後、手を持ち上げて、部屋の扉をノックした。





コン、コン――。





部屋のドアをノックする音に室内にいた男達が息を呑むような気配がしたのを綾は的確に感じ取っていた。
目が不自由であるが故に、肌で、耳でしか感じ取ることはできなかったが、確かに一種の緊張感のようなものが走ったのは確かだった。

男達は互いに、緊張がありありと現れた表情で顔を見合わせる。
やがて、静かに1人の男が立ち上がり、部屋のドアへと向かう。

もう1人の男に見守られながら――。





この時間がひどく長いもののように感じられた。
やがて、鍵を開錠する音が聞こえ、彼は身を固くした。
そして、扉の向こうから壮年の男の顔が見えるなり、頤を素早く掴み上げたのだった。
ぎりぎりと締め上げるように頤を掴んだ手に力を入れる。
男は、苦痛に顔を歪ませたが、呻き声も上げられなかった。
空いた手で乱暴にドアを開くと体を素早く中へと滑り込ませて、頤を掴んだままの男を力いっぱい壁に叩きつける。
鍛えてもいない男にはそれだけで十分だった。
手を離すとずるずるとその体は床に吸い込まれるようにして沈む。
無表情でそれを見下ろす。



―ガンッ!!



何かを叩きつけるような鈍い大きな音に驚いたように体が跳ねたのは、綾だけではなかった。
綾は自分の傍にいる男がびくっと立ち上がり、離れていくのを感じた。
視界が不明瞭なため、気配でしか感じられなかったが。

やがて、もう一度大きな音と同時に自分の名を呼ぶ声に吃驚して見えない目で恐らく己の名を呼んだであろう人物がいる方向を見た。





「綾っ!!」

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