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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0212
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2008

0427

Vizard (28)



余りに突然の報せだった。

半分だけ、兄とも思っていない自分をひたすら目の敵にする兄にまだ帰りたくない―離れたくないと主張する彼女を突き放すようにして、兄に引き渡したあと、寄り道することもなく自宅へと戻ったときだった。

2度目を問うてる時間の猶予もなかった。
聞き間違いなどではないだろう。
聞いた瞬間に戦慄が身体を突き抜ける。
それは、紛れもない恐怖だった。
いつもは余裕綽綽の笑みと態度を見せる長兄も今日ばかりは、笑う余裕がないようだ。
急かすように、自分と一緒に来るように言う。

焦りから来るのだろう。乱暴な運転で主の屋敷へと向かう車の中でまんじりともしない時間を過ごした。
一体、何があった―。

別れたときに見た彼女の顔を思いだす。

一体、何が―。

自分の手を見つめる。
数時間前までには、この手は確かに彼女に触れていたといのに―。
人の―自分以外の―彼女の温もりがあったはずなのに―。

その彼女が今、窮地に立たされているなんて誰が信じられようか。





敷地内に車が乗り入れる
重い車体が敷き詰められた砂利を踏む音が体まで響く。
車の動きが停止すると同時に、飛び出すようにして兄と一哉は車から出た。
どれだけ気が急いていても主の家の玄関を勝手に開けて足を踏み入れるなどということは仕えるものとしてしてはいけないことだ。
呼び鈴を鳴らして人が顔を出すのを待つ。
僅かな時間がもどかしい。
程なくして顔を出した家政婦は、一哉と弥一の顔を認めて中へと促した。
その彼女の顔もどこか憔悴したような顔だった。
無理もないだろう。

しかし、弥一も一哉もそんな彼女に目もくれずに室内へとあがり込むと真っ直ぐにある部屋へと向かう。
己らの主である男の書斎に――。

足を踏み入れると部屋の主であり、一哉―否、草壁という家にとって仕えるべき相手が部屋を右へ行ったり左へ行ったり落ち着かない様子で忙しなく動き回っている。
顔を蒼白させた当主の姿。
髪はかきむしったのだろう乱れ、顔は焦燥し、ぶつぶつと呟きながら行ったりきたり。
その彼の傍では、一哉の父である男がひたすら床に頭を擦りつけていた。
そんな部下の姿も目に入っていない様子。

彼の動揺は推して測るべきだ。
無理もない。
妻亡き後、残された唯一の最愛の娘が拉致・誘拐されたというのだ。落ち着けという方が無理だというもの。
安否が気になって仕方ない。
綾と一緒にいたはずの宗司は、病院で手当を受けている。
何があったのか全くわからない。要領を得ない。

憔悴しきった屋敷の主は、部屋に新しく入ってきた侵入者2人を見て「あぁ」と小さく喉の奥で声を漏らした後、また顔を逸らして、部屋の中を縦横無尽に落ち着かない様子で歩き始める。
一哉は、視線で疲れきった男の行動を目で追いかけた。
視界の端に、頭を下げ続ける父の姿を捕らえながら。

綾の父親の動揺は分かる。
綾の身を守ることを任されておきながら、職務を全うできずにこのような事態を招いたことに対する草壁を統括する人間としての自分の父の失態を詫びる態度も分からないでもない。
ただ、この時間は無駄だ。
冷めた視線で、一哉は遥かに自分より経験も年の功も積んでいる2人の大人を見て思った。
横目で一緒に現れた兄を確認するが、兄もいつもの飄々とした姿は想像もつかないほど深刻な表情を浮かべて、俄かに色を失った表情をしたままじっと佇んでいる。緊張が彼を取り巻いていた。

「犯人からの連絡は?」

そう口にした一哉の声は、その空間において通常より響くようだった。
自分へと注がれる視線にも臆することはなかった。
父や兄からは非難の視線を感じた。
彼らには、目もくれず一哉は、水原その人だけを見続けた。
一哉の視線に、言葉に、はっとしたようにまだ年若い少年を見たが、鋭い一哉の視線とぶつかり、すぐに顔を逸らして言葉を濁した。

「あ…ああ…」

その男の様子に、一哉の目が光る。

「ご存知のようですね」

落ち着いた物腰の少年に、妙な違和感を覚える大人たち。
しかし、この異質な状況において彼らの妙なひっかかりはすぐに消失した。
彼らが疑問を抱く前に、主が戸惑いの表情を見せている間に一哉は続けて口を開いた。

「誰です?」
「……それは…」

明らかに言い難そうな表情をしてみせる主の姿に一哉の眉間には皺がよっていく。
何を言いよどむ必要がある。
分かっているのならこんなところで何をしているのだというのが、一哉の思うところ。
もどかしいことこの上ない。
ぐっと拳を握る。

「分かっているのなら、何故ここでこんな…」
「一哉!」

食ってかかろうとする息子の暴挙にたまらず父親が声を張り上げた。
だが、一喝された一哉は、退きさがらなかった。
あろうことか怒鳴りつけた父親を眦を吊り上げて睨みつける。
一哉の方こそ、父に向かって「頭を下げるなら猿でもできる」と言い返そうとして口を開こうとしたときだった。
一哉たちが入ってきたきり閉じられていた扉がゆっくりと音をたてて開く。
同時に室内にいた者たちの視線がそちらへと向けられる。
一哉も例外ではなく、唯一の入り口となっている扉へと目を向ける。

現れたのは、ここにはいない綾と一緒にいたはずの次兄だった。
厳しい顔つきをして、部屋に入ってきた兄の後ろから、こんなときでも厚く化粧を施した義母が現れる。
その後ろからすぐ上の兄にあたる3番目の兄の御津も入ってくる。
草壁の家のものが全て顔を揃えていた。ある意味壮観であり、ある意味異質な空間だった。

母親に付き添われ現れた次兄は、頭に傷でも負ったのだろう、これ見よがしに包帯が巻かれていた。
負傷した兄・宗司の姿を見て、一哉の眉間に皺が寄った。
だが、すぐに無表情になり、冷めた視線で兄を見た。
どのような弁解の口上が男の口から出てくるのか待った。

「申し訳ございませんでした」

開口一番にそう言うと父と同じく、床に額を擦り付けた。
その光景を見た瞬間に、こいつもかと思い、自分の横でひたすら頭を下げ続ける兄の姿を蔑ずむような視線で睨みつけた。
こんなところに居ても時間の無駄だと考え、踵を返そうとした一哉だったが、自分を睨みつける視線に気づき顔をあげた。

「お前、何、自分は関係ないとか白々しい面してる?何が起こっているのか分かってるのか?」

上の兄2人とは違い、筋肉ではなく脂肪によって肉付きのいい体をした兄の御津だった。
自分より先に取り立てられるようにして主家の令嬢を守るという仕事を与えられた義弟が常々気に入らなかっただけに、ここぞとばかりに食ってかかる。
その御津の言葉にぴくりと一哉の筋肉が反応した。
反応したのは、それだけではなかった。
義母、そして頭を下げていたはずの宗司が顔をあげてこちらを見ている。

「そうよ。御津の言うとおりだわ。おまけとは言え、あなただってお嬢様のボディーガードを仰せつかっているんですけからね」

義母が御津の言葉に呼応するかのように口を開く。

「そうだ。元はと言えば、お前がお嬢様をもっと早く連れてくればこんなことにはならなかった筈だ」

母親の言葉に同調するようにして、自分の無力を他人の所為にするような言葉を吐く次兄・宗司に一哉はぐっと拳を握りしめた。
睨みつける一哉の視線が気に入らなかったのか、それともただ責任転嫁をしたかっただけなのか。宗司の口先は止まらなかった。
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