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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0213
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2008

0426

Vizard (27)


仕方なさそうに笑う顔が好きだ。
同じくらいの身長だったはずなのに、いつの間にか頭一つ自分より大きくなって、それに追随するように体つきもしっかりとしてもう大人の男を匂わせる。
意地悪を言っては、自分が困る姿を見ている相手に嫌な感情ひとつ抱かない。
あまりに愉しそうな顔をしているから…。
時折、見せる悲しげな瞳の理由を知りたいと思う。
学校という狭い空間の中でしか、一緒にいることはできないけれど…。
自分を取り囲む環境がそれを許してくれないけど…。

このまま時が止まれば……。

などと夢物語のようなことを何度考えたか。
しかし、いくら考えたところで不毛だ。
あの日から、彼が自分を見る瞳にそれまでは明らかに見せていた嫌悪の色は消えたけれど、宣言通り彼が自分を好きになることはないだろうから。
自分が思うように相手は返してはくれない。
しかし、捨て置かれるよりはマシではないだろうかと思う。
苦しさは膨れ上がっていく一方だが…。

頼めば、キスはしてくれる。
頼まなくてもしてくれるようにはなった。
以前に、自分以外にも彼に触れた女がいると思うと嫉妬で気が狂いそうだ。
もっと深いつながりがあったかと思うと良家の子女にあるまじきことだが、自分にもと言ってせがみたくなる。
しかし、それはいくら頼んだところでしてはくれないだろうと綾は分かっていた。
自分に触れた後に伏せられた顔を見ていればわかることだ―。



時がくれば……。





終わる。





近づけば近づくほど、遠くに感じるのは何故か。
いずれ離れなければならないということが分かっているからか―。





時など止まってしまえばいいのに。





そんなくだらないことばかりを考えていた所為だろうか…。
この状況は。

時が止まってしまえばいいなんて馬鹿なことをずっと考えていたからか。
確かにそのまま押し当てられているものを突きつけられれば自分の時は間違いなく止まる。
それでもいいかと思えてしまうのだから…。
好まない相手との結婚などせずに死ねるのだから……。



「私を殺すの?」



自由になる口で問うた声は、落ち着いていた。
自分で自分の冷静な声を耳にして笑いそうになる。

しかし、答えはなかった。
自分の喉元に押し当てられた鋭利な刃物が一度、動揺に揺れただけだった。





年の瀬も迫った12月。
いつもと同じように一哉から一哉の兄である宗司へと自分の身体は引き渡されて帰りの車に乗っていた。
もっと一緒にいたいと言った綾に、一哉は困ったように笑いながら「我侭言うな」と一蹴して綾を兄が待つところへと連れていった。
兄の視界に入るまでは、手を握ってくれていた。
大きくて。冷たい手。
この手がずっと自分を放さないでいてくれればいいのに…。
ぎゅっと力を入れて握り返した綾に気づかないはずはないが、一哉は知らない顔をして先を歩き、宗司を視界の遠くに捉えるとぱっと手を離した。

宗司に促がされるままに車に乗った。
車の外で立ったまま見送る一哉の顔をじっと見つめる。
何の感情も読み取れない表情で彼は自分を見つめていた。

そのまま加速して走り出した車は、いつもと同じルートを辿って屋敷へと帰れるはずだった。

しかし、その日はイレギュラーだった。

白昼堂々と行われた誘拐劇。
狙われたのは、国内有数の企業の社長の娘。
目的は、金と欲望。
犯人は――。

彼女を守るはずの男は、暴漢の手によって傷を負い、気絶させられていた。
自分1人で十分だという自負が誤りだった。
そして、相手はきっと調べつくしていたに違いない。

彼女達の車が信号で停止しているときに起こった出来事だった。
いとも簡単に彼女は、連れ去られた。

突然の出来事の所為もあってか、彼女は暴れることもしなかった。
ただ小さくここには、居ない人物の名を呼んだ。

「一哉」

と。





複数の覆面を被った黒尽くめの男達の手によって汚いバンに載せられて目隠しをされる。
手を拘束され、騒ぐなと一言低い声で言われる。

騒いだところで何もならないということは冷静な頭で判断できていたので、何も言わなかった。
物分りよく、頷くだけだった。

どこにつれていかれるのかと思えば、ホテルだった。
清掃員の格好をした男達によってホテルの一室に運ばれた。
目隠しをされたままだったので、はっきりとは分からないが、聞こえてきた会話から判断すると自分を攫った男達は、雇われた人間だったようだ。
ここで引き渡されて、今は別の人間が綾の傍で見張っていた。
それは、気配でわかった。

暗闇の世界で思った。
男が脅迫の電話をかけているのをどこか遠い世界でただ今の状況を見ているような錯覚に陥りながら聞いていた。
喉元に押し当てられたナイフのような鋭利な刃物も別に怖くなかった。
すぐ傍に、死の臭いを感じながらも―。

冷静な証拠に他人のことを考える余裕もあった。
恐らく父は、慌てているに違いないと。
そして、婚約者だとでかい面をしているあの好まない男も…。
きっと周りに当たり散らしているに違いない。

気絶させられた宗司は無事だろうか…。

そして、最後に彼を想った。
一哉を…。

このことは既に彼の耳に届いているだろうか。
心配を…。
少しでもいい。自分の身を案じてくれているだろうか。
そう考えて、下らない期待をするのは止めようと思った綾だった。

自分など彼を困らせるだけの存在だ。
だから、寧ろこのままいなくなってしまえば清々するに違いない――。

それでも、こう思ってしまうのだ。
自分がここで死ねば少しでも彼の記憶に長く留まることができるだろうかと。
それとも、いなくなった者のことなど綺麗さっぱり忘れてしまうだろうか。
我ながら馬鹿馬鹿しい考えだ。

でも、どんな形でもいい。彼の記憶にずっと消えない自分の姿があればいいと思う。そうどんな形でも。
どれだけ醜悪でみっともなくとも。
自分という存在が、彼の中に残ればいいのだ。
屈折した想い。
一哉からしてみれば、いい迷惑にしかならないかもしれない。いや、きっとそうだろう。

それに、ここで物言わぬ体となれたらきっと自分は幸せなまま逝けると思うから――。
望まぬ相手との結婚もしなくて済む。
ここ数ヶ月の自分にとって幸福な時間だけを抱いていけるのなら、本望だ。

最期まで、自分のことしか考えていない自分にほとほと嫌気が差してくる。
自嘲気味に口許を歪めた綾に、同じ室内に居た男達が眉をひそめた。
一段と強く刃物が押し当てられる。
動揺などしなかった。





「このまま、殺してくれる?」





少しでもいい。
あなたは、私の身を案じてくれる?
ほんのこれっぽちっでもいいの。
それさえあれば、心置きなく死ねるから……。

そして、解放してあげられるから―。
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