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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0213
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2008

0425

Vizard (26)


満足だった。

幸せだった。

この時間があれば、他に何もいらなかった。
欲しいのは、この時間が永遠に続くこと――。



しかし、それは叶うことのない夢のまた夢。





季節は、すでに夏を過ぎ、秋へと移り変わっていた。

既に手馴れたもので、傷を作ることはなくなった。
これまで、料理などしたことのなかった綾が、屋敷の厨房に足を踏み入れるだけでなく、「お料理教えて欲しいのだけど…」と口にしたときは、流石に長年この屋敷に勤めてきた家政婦ですら驚きを隠せなかった。
少し顔を赤らめて照れたように言う少女の顔を失礼だと分かっていてもまじまじと見つめてしまった。

それもだいぶと前のことだ。
それからというものの、暇を見つけてはこうして厨房に足しげく顔を出すようになった彼女は、今ではすっかり手馴れたものだった。
何を想像しているのか。嬉しそうに笑みながら、それを少し大きめのお弁当箱につめる姿は、恋する女の子さながらだった。
「一体誰に?」というような無粋な質問は長年努める老女は問わなかった。

彼女の将来が家によって潰されることを憂いて――。

今は好きにさせてあげることがいいのだと……。





それを受け取る彼女の指から絆創膏が消えたのは、何時の頃か。
最初見たときには、一体何があったのかと驚いたものだ。
そして、突き出されるものを受け取る次いでに傷だらけになった手を掴みあげた自分を驚いた表情で見つめた彼女の顔は忘れない。
問えば、顔を赤らめた後、逸らした。
意外にも古風な女だと思った。
同時にこれがいつまで続くかと内心では、鼻で笑っていたものだ。
その日以来、止むことはない習慣。有に1年近く経過しようとしていた。
これを兄が知れば、どうなることかと思いつつも頭から邪魔な存在を追い払った。
己の主が己が馬鹿にしている自分に甲斐甲斐しく毎朝、早起きして弁当を渡してくるのだから―。それはそれで面白い。

こんな茶番、すぐに飽きると思っていた。
どうせ一時の我侭に違いないと…。

それがどうだ?
もうすぐで1年が経過しようとしている。
綾は、3年に進級し、最後の年を迎えている。
そして、一哉は高等部に進学した。
身長もぐっと伸び、体つきもひょろひょろで頼りなかったはずの体つきが徐々にしっかりとしたものに変貌を遂げようとしていた。
母譲りの秀麗な顔つきとあいまって、見た目にも魅力的な青年だ。

主に向かって我侭に付き合ってやると言った自分に主である彼女は喜んでいた。
かといって、大々的にその様を見せることはまずいと一哉だけでなく綾自身が分かっていた。
だから、彼らがそうすることができるのは、誰の目もつかない学校という狭い空間だけだった。
この場には、煩わしい兄達もいない。
矢鱈と口を挟もうとする婚約者もいない。

この場だけが、綾にとって至上の場所であり、一哉にとっては戸惑いの空間と言ってもよかった。
学校という場所故に、下手なことはできない。
もとより、終わりが見えているのだ。
綾はともかく茶番程度にしか思っていない一哉は、彼女に触れるつもりもなかったし、彼女のしたいことに付き合うだけのつもりだったのだ。
せがまれてキスはした。
しかし、それ以上はしていない。

彼女と一緒にいる時間が増えて、知ったのは面白いくらいに大人しい姿だ。
もっと我侭で尊大な態度でも取るかと思えば―そうであったのなら一哉も付き合いやすかったに違いないのだが―全くそんなことはなく。一哉からしてみれば、出鼻をくじかれたような感じに陥った。
だったら、こちらが振り回してやればいいと振り回している一哉でもあった。
そうすることで、相手が付き合いきれないと自分を見限ればいいのだ。
しかし、現実は思ったより上手くはいかなかった。
綾の自分を見る目は、変わらなかった。

ちらりと横目で綾を見ると不思議そうな瞳で自分を見返してくる。
太くなった腕を伸ばして、今では自分より小さくなり丁度いい位置にある彼女の後頭部を大きな手の平で引き寄せると躊躇いもなく唇を重ね合わせる。
触れるだけで顔を離した後、綾を見返すと目をぱちぱちとさせていたが、やがて頭が理解できたのだろう。
顔が紅潮しはじめる。
くっと鼻で笑う一哉に綾が上目遣いに少し吊り上げた瞳で見返した。否、睨み返したといったところか。

「こんなもんで赤くなって。やっぱガキだな」

片頬を吊り上げて、少し低くなった声で言う一哉は、男くささを増していて心臓に悪い。
顔を手で押さえながら睨み返すが、威力は全くなかった。

「こんなところでしないでよ」

少し頬を膨らませて言う彼女の姿は子供っぽい。

「今更だろ」
「もうっ」

と怒ったような口調をしてみせるもののそれは、どこか嬉しそうだった。
そんな表情を見せられると居た堪れない気持ちになる。
不自然さを悟られないように視線を外す一哉だった。

何故に自分がこんな思いをしなければならないのだ。

間違えるな。
自分は、ただお遊びに付き合っているだけだ。
最後の遊びに。

いつもの女達に接するのと同じでいい。
良いはずなのだ。

罪悪感も感じる必要はない。否、感じる必要などない。そんなものであるはずがないのだ。
では、この感情はなんだ?
この言葉に出来ない気持ち悪さは…。



最初に言ったじゃないか。
絶対に好きになどならないと――。





だから、違う。
絶対に違う。
これは、そんな感情じゃない。
そんな甘いものじゃない。





超がつくほどの我侭で尊大だった彼女があまりに、自分に見せる姿が一途で…。
だから、こんな変な感じがするだけなのだ。





絶対に違う。
これは、違う。
違うのだ。





彼女は、自分にとって――。

 
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