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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0219
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2008

0328

Vizard(24)




コンコン。

遠慮がちに鳴らされる音は、今日何回目か。
そして、今のような行為を何日続けたのか。
もう既にわからない。

それでも、意思表示なのだ。
というよりもこんなことでしか、己の意思を表すことのできない自分に嫌になる。

その間にも、ずっと誰かが部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。
綾はベッドに座ったままじっとその音が止むのを待っていた。

するとしばらくしてからその音が途絶えた。
漸く諦めたかと綾が思っていると何やら扉の向こうで言い争う声が聞こえる。
一体、何事かとそちらに目を向けると勝手に部屋の扉が開く。
別に鍵がつけられていない部屋だ。空けようと思えばいつでも開けられる。
ただ、今まで綾の様子を伺いにきてた者たちは、皆綾に配慮して強引に入ってくるような真似をしなかっただけなのだ。

では、綾の意思を無視するように入ってこようとしているのは誰か…。



それは、一哉だった。
いつもの穏やかな表情は立ち消えたすっきりとした美少年を思わせる顔つきで部屋に入ってきて綾を視界に捕らえるとその一点のみに集中する。
綾は、突然入ってきた一哉に驚きに目を見開いて食い入るように彼の顔を見つめた。
開いた扉の向こうには、誰の姿もないことがわかった。
今ここにいるのは、綾と一哉の2人だけ―。

通常なら考えられない光景だった。




一哉、数日間出てくる気配のなかった綾の様子を父から聞き、話しをさせてくれと懇願した。
話をさせてくれれば、彼女を元に戻す自信があると言い切った。
そして、今ここにいる。
もちろん兄の宗司は、自分を差し置いてそんな行動をとろうとする一哉にいい顔をしなかった。
だが、一番の権限を持つ父と、また、何とかこの状況を改善したいと願って止まない綾の父親が許可したことで実現したのだ。




「か…ずや」

綾が小さな掠れるような声で名を呼ぶのと同時だっただろうか。
一哉は乱暴な手付きで部屋の扉を閉めると大股に綾の座るベッドに近づいていき、綾の目の前に立つ。
冷え冷えとするような目で綾の顔を上から見下ろす。

「お前は、一体何がしたいんだ?」

落ち着いた声。
綾は、うろたえた表情で見返すだけで、その問いに答えることはできなかった。
答えない綾に、一哉は続ける。

「また、お得意の我侭か?いい加減にしろよ。お前ひとつの行動でどれだけの人間が迷惑を被ると思ってるんだ?いい加減自覚しろよ。いつまでも我侭ばかり言っていい年じゃないだろうが」

一哉の言葉を聞きながら、綾の瞳には涙が浮かぶ。
綾のそんな表情を見ても一哉は何も思わない。
眉一つ動かさない。

2人の温度差は、むしろ滑稽だ。



何で…一哉までそんなことを言うの…。
どうして、お父様と同じようなことを…。
私の気持ち知ってるんでしょ?


感情の高ぶりと同時に唇がわなわなと震えだす。
それを上から見つめるだけの一哉。

「好き…なの。だから…嫌なの」

だから…。

震える声で言う綾のか弱い訴えを退ける。

「っるせぇ!!」

怒声にぐっと口を噤む。
ぼろぼろと止まらない涙をいくつも零しながら自分を怒鳴りつけた相手を見返す。

「お前の婚約者はあの男だ!いい加減わかれよ!お前の我侭に巻き込まれるこっちの迷惑も考えろっ!」
「けど、けど…あたしは…一哉が…あなたがいいの」

大きく溜息が零れる。
はき捨てるように笑うと綾から顔を逸らして頭をかきむしる。
これでは、おもちゃが買ってもらえなくて駄々をこねてる子どもと一緒だ。
欲しいものが手に入らないから、意地でも手に入れようとする。

「お前は、何がしたいんだよ」

苛立たしげな一哉とさめざめと涙を零す綾。

「あたしは…、一哉と……一哉と一緒に」
「……わかった」

綾に全ての言葉を言わせなかった。
言う前に遮った。
一哉は頭においていた手を下ろして、顔を綾に向ける。
一哉の言葉に驚いたように自分の顔を見てくる綾の視線を真っ直ぐに受け止める。

「わかった…期限付きでお前の我侭につきあってやる」
「ぇ…」

小さな声で聞き返す。
だが、彼は言い直すことなどせずに続ける。
表情はさきほどから何一つ変わらない。
それどころか、どんどんと面倒くさそうな表情を隠しもしない。

「但し、お前のことは好きにならない。期限がきたら終わりだ」

それ以降、口を閉ざした一哉を何度も瞬きを繰り返しながら綾は見返す。

いつまでもこんな茶番を繰り広げられたら迷惑千万。
それならいっそのことと咄嗟に考えた上での言葉だった。
綾が食いついてくるか、それともそんなことじゃ嫌だとさらに我を通してくるかはわからなかったが、このまま平行線を辿るよりずっとましだろう。
一哉が言い出さなければ、きっとこの我侭な彼女は言い続けただろうから――。

「どうするんだ?」
「それって…」
「お前の恋人を演じてやるって言ってるんだ。期限はお前が飽きるか卒業までだ。こっちの条件は、期限がきたらとっとと大人しくあの男と結婚しろ。今度は、どんな我侭も認めない」

ごくりと綾の喉が上下に動く。
表情は変化してもうんともすんとも言わない綾に、一哉は苛立ったように続ける。

「どうする?これが嫌だというのなら、お前の護衛から外れる」

綾が選ぶのは、ひとつしかなかった。

「わ、わかった。それでもいい…」
「今度こんな真似してみろ。即座にお前のところから離れていくからな」

それは、軽い脅迫に似たものだった。
一哉がそう言えば、綾が頷くことは明白だった。



馬鹿な女だ……。俺みたいなヤツのどこがいいんだか……。



「じゃあ、期限がくるまでお前が望むような恋人を演じてやる。満足か?」

聞き返して、部屋を出て行こうとした一哉に綾が、「待って」と声をかける。
まだ、何か言うことがあるのかと振り返った一哉に綾は懇願する。

「その間…他の人と付き合わないで…」

眉一つ動かさない一哉の答えをじっと待つ。





「それが、お前の望むことならな」

とだけ答えて一哉は、部屋を出ていく。
無事説得したと父と主でもある綾の父親に告げるために――。





期限付きの恋人がいつまで続くのか。
綾が飽きるのが先か、それとも卒業を迎えるのが先か。

どちらにせよ。
それは、仮初の姿にすぎない。
思いは一方通行。



どこまで耐えられるのだろうか…。

どちらがかとは問わないでおこう…。問うほうが、無粋というもの―。
それは時間の経過だけが教えてくれるものに違いない。

 

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