吹き付けてくる風が冷たくなってきた11月の半ば…。
まだはっきりとしない頭で眠い目を擦りながら、歩く。
腕にしている時計で時間を確認すれば、もう遅刻だという時間。
電車を一本遅くしたら、完全にアウトとなる時間になってしまった。
とはいえ、少し走れば間に合うかもしれない。だが、そんな気力ももったいない。
ま、いっかととろとろと歩く。
遅刻などどうでもいいと何食わぬ顔で教室に向っていると、深岬が入ろうとした教室から出てくる良く見知った顔がある。
2人並んで談笑しながら来る姿は、一対の絵のようだった。
美男美女。
見た目だけは――。
女の方は、さておき。男は、深岬の知る限り、ねじの一本外れたどっか抜けた男なのだが…。
どうも他人には違う目で映るらしい。本人が、取り繕っているということもあるが……。
不思議でならなかった。
最初の頃―、深岬に津田が懐くようになった最初の頃は丁度狙っていた男が急に近づいたことに喜んで声をかけていた涼子だったが、津田は全くといっていいほど相手にしていなかった。
話をするのは、深岬を介してのみ。
それがいつの頃からか2人だけでも話をしている姿を見るようになったのは…。
だからと言って深岬に何らかの変化があるのかといわれればそんなことは全くない。
むしろ、何故そっけない態度を取っている自分に寄ってくるのかわからなかった。
それこそ、友人もいるようだし、女にももてる男だ。なおさら、わからないことだらけだった。
涼子と津田が、話をするようになったからと言って、2人にそれ以上の進展は見られないようだった。
なぜなら…。
深岬を見つければ、涼子などおかまいなしに津田は、深岬に駆け寄ってくるのだから。
そう今のように――。
深岬に気づいた津田が深岬に駆け寄ってくる。
「深岬ちゃんだ」
と女を置いて、自分に近づいてくる。
まさに、毛並みのいい大型犬を見ているようだった。
その男から置き去りにされた友人を見ると少し不満そうな顔をしている。
まずいか…と思った。
だが、こういうことは気にしないほうが為だ。
変に意識すると相手をさらに感情的にさせる。
「何で出てきたの?」
「休講だって」
「はぁ?そういうことは、前日までに掲示板に出しとけっつーの。私の睡眠時間を返せ」
こちとら朝早くから出てきているというのに。
そんな深岬の思いが顔に表れていたのか。
くくっと笑う声がする。
笑い声の持ち主に視線だけを送る。
「そんな顔しなくても」
「うるさい。こっちは、眠いのを我慢して、2時間かけて来てるってーのに。あんたわかる?一コマの時は5時半起きなんだから」
「ハハッ。俺の家泊まっても良かったのに。そしたら寝れるでしょ」
「いらん。寝れても女に刺されるのは、遠慮したいわ。大体、あんた女を自分の家にあげたことないんでしょ」
「深岬ちゃんは、特別~」
にっこり笑って言う津田に心底嫌そうな表情を浮べる深岬。
「そんな特別いらんわ」
ばっさり切り捨てても、津田はにこにこ笑ってるだけ。
げっそりしたような表情を浮べて、深岬はいつの間にか横に来ていた涼子を見た。
先ほど深岬が見た不機嫌そうな顔などどこへやら。
強い…。
そう思ってしまった。
寒気すらする。
「深岬ちゃん。オハヨ」
「ああ、おはよ。コイツから聞いたけど休講?」
「みたいだよ。困っちゃうよね」
「ホント、最悪。あー、体育館でも行くかな…。今の時間誰かいるかなぁ、あ…ラケットが雪子のところだしなぁ」
とぶつぶつ言いながら深岬が考えているとぐいっと津田に腕を掴まれる。
突然のことに驚いて深岬は、津田の顔を見返した。
「何?」
「ご飯イコ」
「はぁ?何で」
「朝飯食べてない。おなか空いてるんだよね」
腹を押さえて言う津田に深岬は、冷たい視線を送る。
「死ねば?」
「冷たい…」
「アハハー。深岬ちゃんてば、何で旭クンにそんなに冷たいの?可哀想だよ」
「もっと言ってあげて、でないと深岬ちゃんはわかってくれないんだよな…」
「こんなヤツに優しくする必要ナシ」
「可哀想に。よしよし。イコっ?ご飯。おなか空いてるんでしょ?深岬ちゃんも付いてきてくれるよ」
「何で?2人で行けばいいじゃん」
そう提案した深岬だったのだが、津田が手を離さなかったこともあって結局大学近くの24時間営業しているファミレスに来ていた。
嬉しそうな顔をして自分の横に座って綺麗な箸使いで目の前にある料理を平らげる男を呆れたような視線で見る。
深岬の視線に気づいたのか津田は、自分をじっと見てくる深岬に向かってにこっと笑うと箸で摘んだものを「あーん」と差し出してくる。
ぎょっとする深岬。
生憎と涼子は席を外しているから良かったものの、きっと見ていたらどんな顔をしていただろうかと想像するだけでうんざりとしてくる。
まぁ、涼子の居る前では津田も決してこんなことはしないが…。
「何コレ?」
と口許まで運ばれてきたものを指差して聞くと…。
「欲しいのかと思ったから」
「欲しかったら、自分で取るわよ」
勝手というところを強調すると津田は、深岬の方へと向けていたものを自分の方へと引き寄せぱくりと食べる。
「僕のなのに?」
「あんたのものは私のもの」
「じゃ、深岬ちゃんのものは僕のもの」
「違うわよ。私のものは私のもの」
「ええっ!?」
言い切ってつんとそっぽを向いた深岬に津田の不満そうな声が聞こえてくる。
そこへ、涼子が戻ってきたので2人の会話は途切れた。
内心、落ち着かなかい深岬に対して、津田は全くそんなもの感じさせずに食事を続ける。
「あ、そうだ」
「何よ?」
急に思い出したように大きな声を出す津田に深岬は、眉間に皺を寄せながらも相手を見る。
「鈴木さんに明日遊ぼうって誘われてるんだけど、深岬ちゃんも行こうよ」
「……無理」
津田が鈴木と呼ぶのは、目の前に座る涼子で。
深岬は、少し押し黙った後、簡潔に断る。
すると眉間に皺を寄せて不満そうな顔をしている。
ちらりと涼子を横目で見ると、小さく笑っている。
狙ってたな…。
と心の中で呟いた。
まぁ、行けたとしても喜んで辞退をするのだが…。
「何で?」
「だって、旅行なんだもん」
「ええー?」
「ごめんね~」
と軽く笑いながら津田から視線をそらす。
涼子には、以前に話していたから敢えてそのタイミングを狙って津田を誘ったに違いない。
津田は、もちろん深岬がいると思って受けたに違いない。
「タダ飯、タダ酒かっくらって来るわ~。あー楽しみ」
わざとらしくもそんな風に言ってみる。
横目で津田の表情を確認すると俄かに不機嫌そうな顔している。
「誰と?」
「部活の先輩達数人と」
「…あの人も?」
「もちろん。あ、お土産は期待しないでねー」
津田が口にした“あの人”というのは、深岬の片思いの相手である坂上だ。
深岬から強引に聞き出した津田は、そのことも知っている。知っていて聞いてきたのだ。
坂上と行くのか…と。
正確に答えるなら、坂上のほかにも数人いる。もちろん雪子も一緒だ。
11月半ばという微妙なこの時期に旅行をしようと言い出したのは雪子だった。
それに他の上級生達が乗り気になってしまい、強行されることになった。
その場に居合わせた深岬は、当然のごとくメンバーとして数えられてしまい。
強制参加が言い渡された。
2日という短い期間なので、どうしても近場にはなるだろうが、その中に坂上も含まれていて…。深岬にしてみればラッキーで。
少し、否かなり楽しみにしていた。
それでも。深岬の答えにますます表情を曇らせる津田だった。
深岬は、そんな津田の様子には気づかずに少し浮き足だった声を上げる。
「あーほんとは、旅行なかったら行くんだけどねー」
とわざとらしく言ってみたりもする。
実際、そうであってもなんだかんだ理由をつけていかなかったとは思うのだが…。
不服そうな顔をしている津田とは対照的にすっきりした顔で嬉しそうな顔を浮かべている深岬だった。
気分は、もうすでに明日を向いていた――。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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