電車に揺られているとバッグの中にしまってあったマナーモードにしてあるそれが震えて、着信を告げる。
うとうととしていた深岬は、目を擦りながらバッグの中から取り出して、確認する。
『相談があるんだけど…明日いい?』
というメールは、言わずもがな涼子からのものだった。
文面を確認した深岬は、やっときたかと思いながらも快諾するようなメールを返信する。
存外遅かったなと感じながら―。
深岬が涼子と津田が揃っていなかった日に津田の友人達と昼を一緒に食べに行った先で彼らから言われたことに―彼らを通した涼子の意思に腹を立てた日から数日が過ぎていた。
言いたいことがあるなら面と向かって言えと彼らに切り捨てた深岬に対して、あまりに早い行動だと怪しまれると思ったのだろうか。
それから、数日経ってから漸く涼子からメールが来た。
深岬に一喝された彼らは、翌日から妙によそよそしかったが、涼子は普通に接してきたものだから、いつ彼らから深岬の言葉を聞いていたのかはわからない。
どういう出方をしてくるかと思いながら深岬は、小さくだが卑屈な笑みを浮べた。
その日は、深岬の部活の練習日にあたらなかったためにそれは講義終了後になった。
「深岬ちゃん。買い物行こうよ」
講義終了直後に教室を出た深岬にそんな日に限って間の悪くそんなことを言ってくる津田。
横には涼子もいる。
涼子の方が先約なのでばっさりと切り捨てる深岬。
「無理っ」
「何で?今日は部活ないでしょ」
「涼子と約束してるの。ゴメンね」
ちらりと津田が深岬の横にいる涼子に視線を走らせる。
「仕方ないか…。じゃ、また今度」
と手を振って別れたのだが、すぐに携帯がぶるぶる震える。
深岬には、それが誰からのものか分かっていたので敢えて見なかった。
涼子との話が終わった後に確認すればいいと思ったからだ。
「どこでする?」
「家でいい?」
「別にいいけど」
と言って涼子の家に向かう。
部屋に入って小さなローテーブルを挟んで向かい合う。
「あのね相談っていうのは、旭クンのことなんだけど…」
「分かってる。それで、私にどうして欲しいの?」
数日前に分かってはいることだが、敢えて聞く。
「お願いっ。協力して欲しいの」
顔の前でパンッと手を合わせて顔を軽く下げる。
意外と正攻法で来たかと思った深岬だったが、よくよく考えてみたらその前にワンクッション置かれているわけだから正攻法であるとは言いがたいなとのんびりと考えていた。
反応のない深岬に涼子が上目遣いに深岬を見る。
涼子と目のあった深岬は、にっこりと笑う。
「嫌」
ちょっと意地悪いかもしれないが、深岬ははっきりと答えた。
「え…なんで?」
驚愕に見開いた目で涼子が力の抜けた声で言う。
断られるとは思ってもみなかったのだろう。
いい返事が貰えるとでも思っていたのだろうか―。と深岬は思わず笑いそうになった。
本来ならば、いいよと言って頷いてやるべきなのだろうが深岬は津田の気持ちも知っているだけに頷くことはできなかった。
「友達でしょ?」
―来たな。
即座にそう思った。
利用するための友達―。
便利な言葉だ。
間をおいた後、軽く息を吐き出しながら諭すように言う。
「友達って便利な言葉よね」
意味深な発現をする深岬に涼子の顔が怪訝な顔つきになる。
「そうやって言えば協力したくなっちゃうのかなぁ」
勿体つけるように言う深岬に、一番初めに深岬がはっきりと「嫌」と言ったはずなのに、涼子は期待に満ちた目をして深岬を見つめる。
そんな涼子を調子のいい子と思いながら深岬は続けた。
「そういう時に“友達”っていう言葉を楯にするのはおかしいでしょ。それに…津田も私の友達だよ。どっちかに肩入れするっておかしいでしょ?私からしたら2人とも友達だから何もしない。協力もしなければ、邪魔もしない…」
「嘘」
深岬の言葉は途中で遮られた。
涼子の睨みと共に―。
「深岬ちゃんは、嫌なんでしょ?私と旭クンが仲良くするの。だからいっつも邪魔するんだわ」
険のこもった台詞に深岬の顔が顰められる。
「私がいつ邪魔したっていうのよ」
邪魔も何もそもそもただの傍観者に徹していたのだから、深岬にそんなつもりは毛頭ない。
こんな風に責められることすら想像もしていなかった。
言い返す深岬の語気も自然と強くなる。
「いっつもいっつも私から旭クン取っていっちゃうじゃない」
「取った覚えなんてないわよ。あいつが勝手にしてることじゃない。それにねー、アイツの彼女は相当疲れるよ。見た目だけで惹かれてるならやめた方がいい」
「何それ自慢?自分の方が好かれてるって?自分の方が旭クンのこと良く知ってるって?最悪ー」
嫉妬に駆られてそんな言葉を口にする涼子に、分かってはいても深岬は聖人君子ではない。悪し様に言われれば腹も立つ。
「私のこと影で笑ってるんでしょ?何で旭クンも深岬ちゃんがいいのかわかんな…」
「いい加減にしなよ」
深岬の発した低い低い声に涼子が息を呑む。
「アンタ…、自分の言ったこと分かってるの?あいつのことも否定してんじゃん。本当に好きなの?」
深岬の言葉に口を噤む。
言い返してこないのをいいことに続けざまに深岬は吐き捨てるように言う。
「上手くいかないからって人の所為にすんなっ!腹の立つ……。少なくとも上辺だけに惹かれて集まってくる女とは付き合わないよ。それをアイツはきちんと見抜いている」
「違うもん…上辺だけじゃない…」
「あ、そう。それならそれでいいけど、私には関係ないことだわ。けどね…津田はあんたのことそうやって見てる。振り向かせたかったらその誤解を解くところから始めないと何やったって無駄よ」
深岬は冷たく言い放つ。
それでも、助言を一つ残してやる。
黙って下を向いた涼子にもう一度大きく息を吐き出して横においていたカバンを掴むと立ち上がる。
衣擦れのする音に涼子が深岬を見上げる。
2人の視線がぶつかりあったところで深岬が憮然とした表情で告げる。
「帰る。これだけは言っておく。私は、あんたの味方もしなければ、津田の味方もしない。やるなら2人でやれっつーの。人を巻き込まないでくれる?」
「み…さきちゃん」
上から少し目の潤んだ涼子を見下ろしながら言い放つ。
その姿はふんぞり返っているようにも見えてどこか偉そうだ。
「そういう顔は、私には通用しないから…やるなら津田の友達にでもすれば?…後一ついいこと教えてあげる。津田は、自分のために人を利用する子嫌いよ」
涼子が目を見開く。
心当たりがあるからだろう。
深岬もそのつもりで言った。言外にお前のことだとばかりに―。
そのまますぐ近くにある玄関に歩いていく。
最後に座ったまま動かない涼子を振り返る。
「話ぐらいなら聞いてあげるから…」
と言葉を残して涼子の家を出た深岬だった。
外に出るなり、震えていた携帯の存在を思い出してチェックするとやはり深岬の想像した通り、津田からだった。
『何かあった?』
雰囲気で感じ取ったのかもしれない。
そのメールにくすりと笑って深岬は電話をかける。
相手は、暇をもてあましていたのか直ぐに出た。
『もしもしっ!』
「うるさい」
『あ、ごめん…で…』
「何を聞きたいの?」
『あの鈴木さんと…』
「ああ、相談乗ってただけ。もう終わったから買い物行くなら付き合うけど?」
『それって…僕のコト?』
「自惚れんなバカ」
間髪入れずに言い捨てる。
どちらの味方もしないと言った時点で涼子とのことを津田に言うのはアンフェアな気がした深岬は黙っていることにした。
涼子が深岬の言葉に何かを感じて変わるならそれもあり、2人が付き合うなら付き合うで津田と深岬との関係にちょっとした変化は現れるかもしれないが別に自分には関係ないことだ。
付き合わないなら付き合わないでも別にいい。
それは、2人の問題なのだから。
電話の向こうで恐らく不満げな顔をしているであろう津田を想像して早々に話を切り替える。
「行かないっつーんならこのまま私帰るけど?」
『行く。行きますっ。だから帰っちゃヤ!』
食いついてきた津田にもう一度小さく「バカ」と言って電話を切る深岬だった。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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