更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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2008
Vizard(75)
杞憂で終わってくれれば、それに越したことはない。
そう願ってはいても、頭の中の思考は悪い方向へと向かっていく。
悪いことばかり考えていると現実に悪いことが起こってしまうものだ…。
怜迩は、いつもならたった一人しかついていないはずの黒服まみれの男に円らなくりっとした目で、2、3度ぱちぱちと瞬きを繰り返した後、見慣れた男に目を向けた。
「1人増えたの?」
と冷静に問うた怜迩の声は、子供には不似合いのどこか大人びた声だった。
可愛らしさとは無縁のものだった。
「そうですよ」
怜迩の言葉通りなので、問われた一哉も特に否定はしなかった。
怜迩は、眉一つ動かすことなく、続けて問うた。
「何かあったの?」
突如、1人増えた自分の身を守ってくれる存在に、いくら子供とは言え、何かあったと思わざるを得ないだろう。
気のせいだとは思いたいところだったが、気になる以上、何か策を講じておくべきだろう。
己の考えに従って、一哉は早々に怜迩にとって自分と同じ存在をもう1人用意した。
但し、それは草壁の者ではない。
兄達の不満はありありと手に取るように分かった。
水原に代々仕えてきている草壁家の人間として、水原の直径の孫である怜迩を守る任につくことは、一番の名誉に近いことだ。
現在、一哉にとって2番目の兄である宗司と3番目の兄である御津には、今正式に誰についているわけでもない。
水原には、弥一がついている。
綾には、今は怜迩に掛かりっきりになってはいるが、もちろん一哉だ。
もし、新たに怜迩につける人間を選ぶとしたら、残りの2人のどちらかだろうということは、他の使用人、果ては当人達ですら疑いもしなかった。
しかし、一哉が選んだのは、全く草壁家とは縁のないものだった。
とはいえ、兄達の不満にいちいちそれを気にしている一哉でもなかった。
口をついて出てくる不平、否、雑言も涼しい顔でやり過ごした。
「おや?何かあった方が怜迩様は良かったですか?」
どこか意地の悪さを含ませたような笑みを口許に張り付かせたまま、逆に聞き返した一哉だったが、怜迩は口を閉ざしたまま一哉を見返した後、ふいっと顔を逸らしてしまった。
「別に…、ない方が皆、嬉しいでしょ。そのための新しい人なんでしょ」
「その通りです」
可愛げの欠片もない物言いだったが、ふふっと笑いながら、歩きだした怜迩の後を追う一哉だった。
良家の子女が通う怜迩の小学校では、警備に自信を持っているからか、それが生徒の関係者であっても、部外者として学内に居座ることを良しとしない学校だった。
送迎時間こそ人でごった返す学校周辺もひとたび、朝の波をすぎれば、時折、聞こえてくる子供達の声を除いて、静かな校舎だけが残る。
一哉たちに見送られた怜迩は、颯爽と今にもかけださんばかりの勢いで校舎ないへと姿を消した。
怜迩の姿が見えなくなった後、一哉はふぅっと息を吐き出すと肩を下ろした。
「することないだろ。しばらく、遊んできていいぞ」
背後に立って自分と同じように怜迩の姿が校舎の中へと消えていくのを見守っていた男に相手を見ることもなく言うとそのまま男を置いてどこかへと姿を消そうとした。
慌てたのは、一哉の一歩後ろに控えて一哉と同じように怜迩の後姿を見送っていた男だった。
こちらも去ろうとしている一哉の大きな背中に慌てたように声をかける。
「す、すみません!あのっ!ちょっと」
慌てて俄かに上擦った声を張り上げると2、3歩足を進めた後、足が止まり、ゆっくりと振り返った。
「何だ?」
と問う声は、自分を見つめる視線は、冷え冷えとしていて、一瞬息を呑んでしまう男だった。
「いいのですか?」
視線だけで校舎をちらりと見ると一哉の顔をじっと強い眼差しで見返した。
自分は間違っていないと―心の中で繰り返しながら…。
「伊達」
ただ、己の名を呼ばれただけなのに伊達と呼ばれた若い青年は、背筋をぴんと伸ばした。
「余計なことは、するな。時間の無駄だ」
きっぱりと無駄と言い切った男に、伊達は目を大きく見開いた。
本来ならば、自分には回ってこないはずだった大役に緊張を覚えつつも使命感に燃えていた青年には、その一哉の言葉が信じられなかった。
「…余計、なこと…ですか?」
「ああ。学校が部外者を入ることを良しとしないんだ。俺達が何もできるわけないだろ。時間は有意義に使え」
とだけ言い捨てるともう振り返ることはしなかった。
残された伊達は、自分がどうしていいかわからずにその場に立ち尽くすことしかできなかった。
数時間後、再び姿を見せた一哉は一瞥をくれただけで、伊達から視線を逸らすと黙って伊達の横に立ち、朝見送った子供が帰ってくるのを待った。
ただ、一哉の視線から数時間もの間、動くことなく、じっと待っていただけの自分を馬鹿にされたような気がしてむっとしたように眉間に皺を寄せた。
「ここでずっと立っていたのか?」
その問いに不服そうな声を喉の奥から絞り出す。
「…そうですけど…、何か」
「何か起きたか?」
伊達の言葉を遮って、強い声音で問う。
その強さは、自分の言葉に自信を持っている男の声だった。
答えにまごついたのは、勿論、伊達の方だった。
「…それは」
「時間の無駄だと言った筈だ。次からは、どこかで時間潰してろ」
「でも…何か起きた時に…」
尚のこと食い下がってくる伊達に、一哉はこれ見よがしにため息を吐き出して見せた。
「こっちとしては、学校との間に余計な波風を立てたくないんだ。これは、綾さんの意志だ」
「…旦那様は何と?」
「怜迩様のことに関して、旦那様に口出しをする権利は与えられていない、いや、綾さんが与えさせない。わかったか…」
念を押すように、きつい視線を送るとしぶしぶと言った態で、伊達は頷き、まるで怒られた後の子供のように顔を俯けた。
横目でそれを見ながら一哉は、続けた。
「暇なら仕事をやるが?」
幾分か柔らかくなった声のトーンに伊達は、ちらりと視線だけをそう告げた男に向けた。
にやりと口許の端を吊り上げただけの男の目は決して笑ってなどいなかった。
小馬鹿にされたように感じた伊達は、眉間に皺を寄せて言い切る。
「結構です。自分で、やることくらい探せます」
強い口調に、ふんと軽く鼻で笑うと一哉は子供の声が聞こえ始めた校舎へと目を向け、伊達の顔を見ないまま言った。
「ま。そんな役立たずはいらんがな。お前を選んだ俺の信用に関わる」
その言葉は、伊達の闘志にますます火をつける言葉だった。
眦を吊り上げ、悔しそうに唇を強く噛んだまま、伊達は怜迩が出てくるまでの間ずっと過ごしていたために、怜迩が戻ってきて真っ先に、怜迩に「怖い顔してどうしたの?」と指摘されてしまい、答えに窮してしまう結果となった。
幼い子供の素朴な疑問にあたふたとしてしまった伊達は、己の横で苦笑を浮かべていた一哉の顔を知らない。
杞憂で終わってくれれば、それに越したことはない。
そう願ってはいても、頭の中の思考は悪い方向へと向かっていく。
悪いことばかり考えていると現実に悪いことが起こってしまうものだ…。
怜迩は、いつもならたった一人しかついていないはずの黒服まみれの男に円らなくりっとした目で、2、3度ぱちぱちと瞬きを繰り返した後、見慣れた男に目を向けた。
「1人増えたの?」
と冷静に問うた怜迩の声は、子供には不似合いのどこか大人びた声だった。
可愛らしさとは無縁のものだった。
「そうですよ」
怜迩の言葉通りなので、問われた一哉も特に否定はしなかった。
怜迩は、眉一つ動かすことなく、続けて問うた。
「何かあったの?」
突如、1人増えた自分の身を守ってくれる存在に、いくら子供とは言え、何かあったと思わざるを得ないだろう。
気のせいだとは思いたいところだったが、気になる以上、何か策を講じておくべきだろう。
己の考えに従って、一哉は早々に怜迩にとって自分と同じ存在をもう1人用意した。
但し、それは草壁の者ではない。
兄達の不満はありありと手に取るように分かった。
水原に代々仕えてきている草壁家の人間として、水原の直径の孫である怜迩を守る任につくことは、一番の名誉に近いことだ。
現在、一哉にとって2番目の兄である宗司と3番目の兄である御津には、今正式に誰についているわけでもない。
水原には、弥一がついている。
綾には、今は怜迩に掛かりっきりになってはいるが、もちろん一哉だ。
もし、新たに怜迩につける人間を選ぶとしたら、残りの2人のどちらかだろうということは、他の使用人、果ては当人達ですら疑いもしなかった。
しかし、一哉が選んだのは、全く草壁家とは縁のないものだった。
とはいえ、兄達の不満にいちいちそれを気にしている一哉でもなかった。
口をついて出てくる不平、否、雑言も涼しい顔でやり過ごした。
「おや?何かあった方が怜迩様は良かったですか?」
どこか意地の悪さを含ませたような笑みを口許に張り付かせたまま、逆に聞き返した一哉だったが、怜迩は口を閉ざしたまま一哉を見返した後、ふいっと顔を逸らしてしまった。
「別に…、ない方が皆、嬉しいでしょ。そのための新しい人なんでしょ」
「その通りです」
可愛げの欠片もない物言いだったが、ふふっと笑いながら、歩きだした怜迩の後を追う一哉だった。
良家の子女が通う怜迩の小学校では、警備に自信を持っているからか、それが生徒の関係者であっても、部外者として学内に居座ることを良しとしない学校だった。
送迎時間こそ人でごった返す学校周辺もひとたび、朝の波をすぎれば、時折、聞こえてくる子供達の声を除いて、静かな校舎だけが残る。
一哉たちに見送られた怜迩は、颯爽と今にもかけださんばかりの勢いで校舎ないへと姿を消した。
怜迩の姿が見えなくなった後、一哉はふぅっと息を吐き出すと肩を下ろした。
「することないだろ。しばらく、遊んできていいぞ」
背後に立って自分と同じように怜迩の姿が校舎の中へと消えていくのを見守っていた男に相手を見ることもなく言うとそのまま男を置いてどこかへと姿を消そうとした。
慌てたのは、一哉の一歩後ろに控えて一哉と同じように怜迩の後姿を見送っていた男だった。
こちらも去ろうとしている一哉の大きな背中に慌てたように声をかける。
「す、すみません!あのっ!ちょっと」
慌てて俄かに上擦った声を張り上げると2、3歩足を進めた後、足が止まり、ゆっくりと振り返った。
「何だ?」
と問う声は、自分を見つめる視線は、冷え冷えとしていて、一瞬息を呑んでしまう男だった。
「いいのですか?」
視線だけで校舎をちらりと見ると一哉の顔をじっと強い眼差しで見返した。
自分は間違っていないと―心の中で繰り返しながら…。
「伊達」
ただ、己の名を呼ばれただけなのに伊達と呼ばれた若い青年は、背筋をぴんと伸ばした。
「余計なことは、するな。時間の無駄だ」
きっぱりと無駄と言い切った男に、伊達は目を大きく見開いた。
本来ならば、自分には回ってこないはずだった大役に緊張を覚えつつも使命感に燃えていた青年には、その一哉の言葉が信じられなかった。
「…余計、なこと…ですか?」
「ああ。学校が部外者を入ることを良しとしないんだ。俺達が何もできるわけないだろ。時間は有意義に使え」
とだけ言い捨てるともう振り返ることはしなかった。
残された伊達は、自分がどうしていいかわからずにその場に立ち尽くすことしかできなかった。
数時間後、再び姿を見せた一哉は一瞥をくれただけで、伊達から視線を逸らすと黙って伊達の横に立ち、朝見送った子供が帰ってくるのを待った。
ただ、一哉の視線から数時間もの間、動くことなく、じっと待っていただけの自分を馬鹿にされたような気がしてむっとしたように眉間に皺を寄せた。
「ここでずっと立っていたのか?」
その問いに不服そうな声を喉の奥から絞り出す。
「…そうですけど…、何か」
「何か起きたか?」
伊達の言葉を遮って、強い声音で問う。
その強さは、自分の言葉に自信を持っている男の声だった。
答えにまごついたのは、勿論、伊達の方だった。
「…それは」
「時間の無駄だと言った筈だ。次からは、どこかで時間潰してろ」
「でも…何か起きた時に…」
尚のこと食い下がってくる伊達に、一哉はこれ見よがしにため息を吐き出して見せた。
「こっちとしては、学校との間に余計な波風を立てたくないんだ。これは、綾さんの意志だ」
「…旦那様は何と?」
「怜迩様のことに関して、旦那様に口出しをする権利は与えられていない、いや、綾さんが与えさせない。わかったか…」
念を押すように、きつい視線を送るとしぶしぶと言った態で、伊達は頷き、まるで怒られた後の子供のように顔を俯けた。
横目でそれを見ながら一哉は、続けた。
「暇なら仕事をやるが?」
幾分か柔らかくなった声のトーンに伊達は、ちらりと視線だけをそう告げた男に向けた。
にやりと口許の端を吊り上げただけの男の目は決して笑ってなどいなかった。
小馬鹿にされたように感じた伊達は、眉間に皺を寄せて言い切る。
「結構です。自分で、やることくらい探せます」
強い口調に、ふんと軽く鼻で笑うと一哉は子供の声が聞こえ始めた校舎へと目を向け、伊達の顔を見ないまま言った。
「ま。そんな役立たずはいらんがな。お前を選んだ俺の信用に関わる」
その言葉は、伊達の闘志にますます火をつける言葉だった。
眦を吊り上げ、悔しそうに唇を強く噛んだまま、伊達は怜迩が出てくるまでの間ずっと過ごしていたために、怜迩が戻ってきて真っ先に、怜迩に「怖い顔してどうしたの?」と指摘されてしまい、答えに窮してしまう結果となった。
幼い子供の素朴な疑問にあたふたとしてしまった伊達は、己の横で苦笑を浮かべていた一哉の顔を知らない。
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