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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0206
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2008

0706

Vizard (69)



上から見下ろされる鋭い刃物のような視線を感じながら堺は、掠れるような声で尚も言葉を繰り返した。

「まさか…」

震えた声。
一哉を指差す男の指は俄かに震え初めていた。
堺の震えた様子。己の状況。綾の己のシャツを掴む手。今、この場の全ての条件、要素を鑑みて堺の脳内を支配する考えが手に取るようにわかる。
それは、確実に一哉にとっても綾にとっても喜ばしいことではない。
堺の挙動不審な態度にも一哉は、目を眇めるが、だが落ち着いていた。
焦ることも何もしない。
目の前にいるこの男が何を言ってきても一哉が動じることは一つとしてないからだ。
そのために、今までの時間の浪費と苦労がある。

先に道を踏み外したのは一体誰だったのだろうか。

堺か―。
綾か―。
一哉か―。

「まさか…」
「何か?気にかかることでもあるのですか」

殊更、ゆっくりと唇を動かして、堺の不安を煽るように口にした。

「お前かっ!!貴様!おろせ」

掴みかからんばかりの勢いで一哉と彼の背後にいる綾に飛びつこうとする堺を冷静な彼は、簡単に振り払うと無様に床に尻をつく。
上から冷え冷えとした目で何も言わずに見下ろす。
一哉は肯定も否定もしなかった。

「冗談じゃないわ」

口を開いたのは、一哉の背後に隠れていた綾だった。
それは、堺の言葉を否定するものではなく、堺は綾の答えから己の危惧が現実のものであると悟る。
目をかっと見開いて掴みかかる。
それは、いとも簡単に手早く一哉によって跳ね除けられた。
己より優れた体格を有する一哉に堺が力で適わないのは、最早明白。
それは、何より堺自身が身をもって痛感している。
力で適わなければ次に出てくるのは、言葉しかない。

「こんなことが許されると…」

腹の底から捻りだすような、苦しそうな声が零れる。
目はぎらつき、立ちはだかる一哉と一哉の背後から睨みつけてくる綾をぎろりと血走ったような瞳で睨む。

「お前の父親に知れたらこんなボディーガードの1人や2人…」

ぎりぎりっと歯軋りをしながら脅しともとれる言葉を吐く堺にも、一哉は全く顔色を変えることはなかった。
それどころか――

「ご自由にどうぞ」

涼しい顔でさらりと答えた。
途端に虚を突かれたような表情になったのは、何も堺だけではなかった。
それまでぎゅっと強い力で握っていたはずのシャツが解くように手から離れていった。
一歩、後ずさるようにして距離を置き、一哉から離れる。
目を見開き、自分からは見えない表情を想像した。
口許には、冷酷な笑みが浮かんでいるのだろうか―。
その綾の想像通り、一哉の口許には涼しい笑みが湛えられ、見るものを魅了するであろうそれは、この場における堺にとって憎らしい以外の何物でもない。

喜んでいたのは自分だけで…。
きっと自分と同じように喜んでくれると思っていたのは間違いで…。
迷惑―邪魔でしかなかったのだろうか。

今は、一哉の背後に隠れて見ることの適わない綾が見ていたら、恐らくその笑みは綾に少なからず影を落としたかもしれない。
見えなかったことは幸せかもしれない。
だが、顔を見ずとも空気で分かったのか―今にも目の前に迫ってきそうな暗い、恐ろしい未来から逃れるように距離を取り、何かから守るように手で己の下腹部を覆った。
それは、考えたくない。
考えただけでも恐ろしい。
自然と部屋の出口である扉を探す。

「何?」

うろたえる一哉を想像していた堺は、己の予想もしない応えに実に愚かしいことだが、聞いた本人である自分の方が狼狽していた。
一方の、一哉と言えば憎らしいほどに余裕綽々と言った態度で酷薄な表情を浮かべているだけだった。

「お好きにと言っただけです」

同じ言葉をもう一度繰り返した後に少しの間をおく。
堺の喉の奥で飲み込まれた音がひゅっと音を立てる。
一哉は、目を眇めながら堺を見下ろしては、追い討ちをかけるようにゆっくりと口を開いた。
耳障りの良い、だが、決して穏やかではない言葉を一哉は口にした。

「恥をかくのはあなたです」

ぴくりと堺の眉尻が動き、怪訝な顔つきで一哉の顔を見上げた。
不安気に揺れ動く堺の目は、その動揺を如実に表している。
優位にたってもおかしくないという堺の手に取るように分かる動揺。それは、主導権を既に一哉に握られた証だ。

「何…?」

喉に張り付くような声は、聞くものを不快にさせる響きだ。
掠れてほとんど音をなさない声に一哉は、片眉だけを持ち上げて見せた。
薄ら笑いだけを口許に浮かべた男の姿は、堺の瞳にさぞかし不気味に映ったに違いない。
そして、男の後ろに立つ綾は、不安だけが膨らんでいくのを感じていた。

「わ、私が綾の腹の子がお前の子だと公表すれば…」
「勝手なことしないで!」

堺の言葉にいち早く反応したのは、一番に自分の立場の危うさを感じるべき一哉ではなく、綾だった。
だが、堺は綾の言葉に激昂したように声を張り上げた。
一哉は黙ったまま2人の会話を聞いていた。

「ふざけるなっ!スキャンダルも甚だしい!いいか、腹の子は堕ろせ!」
「嫌よ!!」

咄嗟に腹をかばうようにしながら、綾は甲高いヒステリックな声を張り上げた。

「お前の意志など関係あるかっ!いいか。堕ろせ!そして、お前もこの家から追い出してやるっ!こんな不祥事を起こしてただで済むと思っているのか!?」

綾に対して怒鳴りつけた勢いのまま、一哉に向かっても啖呵をきる。

「…っく」

しかし、一哉の口から零れたのは、謝罪の言葉でも、釈明の言葉でもなく、はっきりと嘲りが含まれた嘲笑と深いため息だった。
毒気を抜かれたように、感情が昂ぶっていた堺と綾は、軽く見開いた瞳で肩を揺らして笑う一哉を見た。
2人の視線を体で受け止めながら、一哉はふと浮かべていた笑みを消失させた。
そして、鋭い眼光で堺を睨みつけながら低い地を這うような声を発した。

「自分の立場、分かってるのですか?」

冷え冷えとした身も凍りそうなその声に背筋を硬直させたのは、堺だけではなかった。
綾は、一哉の身に着けているシャツを後ろから握りしめていたが、それを掴む手から冷えていくようだった。

「ご自分のされてきたことを棚にあげて、なんと身勝手な人か…」

ゆっくりと紡がれる声に堺は、はっとしたような顔になった。

「公表していただいても結構ですよ。ただし―」

さらに一段と低くなった声は、効果覿面だった。

「自分の身の破滅を覚悟しておくことだ」

びくりと綾の一哉のシャツを掴む手が震えた。
一哉もそれに気づいていたが、視線を堺から逸らすことはしなかった。

「先に不貞を働いたのは、貴方でしょうに―。すっかり忘れてお嬢様だけを責めるなど傲慢甚だしい。いいんですよ。私の手にあるあなたの浮気の数々を旦那様にお見せすれば、事は収まります。あなたの実家は没落の一途を辿るでしょうね。当然、あなたも只では済まないはずですよね?水原の当主は、甘くはありませんよ。それに引き換え、あなたは確証もなく喚きたてるだけだ。どちらが優位かは明らかでしょうに…」

理路整然と並べられる事実は、堺に現実を突きつける。
反論したくとも糸口の一つも見つからない時点で敗北は決定したに違いない。
精々できることと言えば、苦し紛れに悪態をつくことが唯一できることだった。

「くっ…。いいか覚えておけ!」
「何をでしょう?」
「いくら腹のガキがお前の子だろうが戸籍は私の子だお前は、本当の父親にはなれない。残念だったな。―この家は俺のモノだ!」

みっともない執着心を見せて声を張り上げた堺。
冷めた視線を送る。一哉と綾。
金に―水原という家に固執する男は、みっともない、矮小な男にしか見えなかったのだった。
堺は、2人の視線に気づいていたのか気づいていなかったのか。
壊れたように乾いた笑いを浮かべては、いつまでも喚き散らしていたのだった。

 

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