「俺は、絶対に部内と学科内では、彼女は作らないって決めてる」
合宿の丁度中間日にあたる水曜日の午後。
深岬が時間を潰す目的で合宿所に顔を出したところ、バドミントン部が借りている部屋に入る前に4年生の福田とばったり遭遇し、中で大の字になって寝ている小島と坂上を見つけた。
小島と坂上を起こして、その後、急遽部員を集めてどこかへ行こうという話に発展した。
坂上と野坂が主に部員に声をかけてぞくぞくと合宿所に人が集まってきた。
もちろん、全員が集まったわけではないのだが――。
本当に思いつきでだが、ボーリングに出かけて食事に出かけた。
小さな店に15人以上の大人数で乗り込んだため、ほとんどその人数で店全体を埋め尽くしてしまった。
生憎と他の客がいなかったから良かったようなものだった。
そして、深岬たちが外に出た時には、陽も落ち、すっかり暗くなっていた。
大学までの帰り道で、坂上の車に乗り合わせた深岬が聞いた坂上の言葉だった。
彼のその言葉は、坂上なりの持論というところか。
部員同士で気が合い、付き合うこともそう珍しいことではない。
男女が同じ空間で共有する時間が多いだけ存分にありえる。
深岬の所属するバドミントン部でも何組かのカップルが存在している。
あからさまに分かりやすいカップルも居れば、他人から教えられるまで全く気づかないカップルもいる。
深岬は、別にその付き合いを否定する気はなかったが、坂上は彼の様子から判断するとどうも違うらしい。
坂上の座る運転席からは斜め後ろになる助手席側の後部座席に座った深岬は、ハンドルを操縦する坂上の斜め横顔を後ろから見つめた。
あまりにも突然言い出したから驚いたということもある。
何故急に言い出したのか。
「それ。前にも聞いたよー」
けらけら笑いながら、そう返したのは、助手席に座る望だった。
何が面白いのか深岬にはわからない。
「あれ?言ったっけ?」
覚えがないのか坂上は首を傾げている。
坂上の言葉に興味が湧いた深岬は、彼がそう思うに至った理由が知りたくなった。
「何でですか?」
「やー。別に当人達がそれでいいんならいいんだよ。そこまで、全否定するわけじゃなくて…。別れた後、面倒くせぇじゃん」
確かに…。と深岬は納得する。
付き合っている間はいいとしても、別れた後は周囲の人間も気を遣わざるを得ないだろう。
当人達もぎすぎすした関係になるだろうし、たとえ彼らが気にしないでくださいと声を大にして言ったところでそれは難しいというものだ。
どうしても腫れ物に触るような扱いをしてしまう。
「周りも気を遣うしさ。本人達も気まずいだろうしなぁ。去年、俺達の学年でそれで部活を辞めてった奴もいるしさ」
「ああー。アイツラね。俺達の学年にもいたしなぁ」
同乗していた上級生が納得したように頷く。
過去の記憶を思い出しているのかうんうんと頷いている。
横に座っている上級生の顔を横目で確認する深岬。
彼の顔には、苦笑いが浮かんでいる。
「あんときゃあ、ひどかったっすよね」
「確かにな~。お前らの学年すっげーぎこちなかったもんなぁ」
「かき乱すだけかき乱して後はさいならって。ふざけんじゃねーよっつーんすよ」
「はは…」
乾いた笑い。
2人ともあまり良い思い出ではないのかそんな笑いだった。
「そりゃ、部の中にはさ、部内恋愛活性なんて冗談半分で言ってるヤツらも居るけどさー」
「あー慶子とか、雪子とかな~。冗談でもないだろ?アレは…」
「あいつらも自分の好きなヤツが部内にいるだけで言ってるだけだろ?動機が不純なんだっつーの」
「あいつらはそーだろな」
坂上の言葉に納得したように頷く上級生とそのことに不満があるのか坂上はまだ何かぶつぶつと言っていたが、深岬は上の空で聞きながら、果たしてそうなのだろうかと考える。
確かに、後のことを考えると必ずしも誉められたことではない。
だが、人の気持ちなんて止められるものでもないだろう。
気付けばなんてこと良くあることじゃないのか。
夕食を済ませた小さな店での雪子の姿を思い出す。
小島の横に座る雪子は、これでもかというほど小島の世話を焼いていた。
別に小島だけでなく、同席した他の人間も同じように世話を焼いていたが、それは一重に小島が居たからだということくらい誰が見たってわかる。
深岬だけでなく、他の新入生や上級生も苦笑いを浮かべていた。
それでも、雪子の気持ちも分かるから彼女の行動を咎めることもできない。
それは、他の人間もそうなのか。それともその姿を見て楽しんでいるだけなのか。茶化すことはしても誰も非難などしない。
相手によく見られたいそれは、誰でも一緒だろう。
自分の中で境界を敷いたところでセーブできるのだろうか。
出来ないと思うのは、まだ自分が恋という感情をあまり上手く把握できていないからなのか。
まだ子供の証拠だからなのか。
笑って語る坂上の顔を見ながら、何故そこまで自信を持って近くの距離にいる人間とはそうはならないと断言できるのか。
分からなかった。
坂上の言うことも尤もだが、自分に置き換えて考えると必ずしも大手を振って頷くことなどできない。
そう思った。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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