普段は、静かな広い家に子供の楽しそうな声が響く。
笑い声に混じって、まだ小さな子供の泣き声も聞こえる。
「可愛いなぁ」
と小さく呟く男の声は、この屋敷とも言うべき広さを持つ大きな家の主である水原 一哉。
温厚そうな顔をしている彼の見た目に騙されてはいけない。
頭の中では、いくつもの策を巡らし、牙を向くものには容赦ない。
国内と言わずに世界でも恐れられている男である。
彼の視線の先にあるのは、泣いているまだ赤ん坊とも言える小さな小さな子供―彼にとっては、孫にあたる子供を抱いたまだ小さな少女と見紛うばかりの立川 希莉の姿。
大きな声をあげてなく子供の背を軽くぽんぽんと叩きながら、落ち着かせるように体を左右にゆっくりと振っている。
その横には、自分の息子である怜迩の姿がある。
怜迩の腕には、こちらは体は大きいがまだ幼児と呼ぶべき子供の姿がある。
そこには、まだ若い家族の姿がある。
普段は、別の場所で暮らしている彼らをここに連れ出したのは、他でもない一哉本人である。
何かと息子は、自分と彼女が接触を持つことを嫌う。
息子をからかって楽しむという歪んだ嗜好を持つ彼が、彼女にちょっかいをかけないわけがない。
正確に言うならば、海里は彼とは全く血の繋がりはなく関係も孫などではないのだが、希莉の甥である海里は、自分にもよく懐いている。可愛いと素直に思える。
しかも、彼女にはもれなく孫の萌と海里がついてくる。
手を出さないわけがない。
息子の怜迩のいない隙を狙って希莉の許にわざわざ出かけ、怜迩に何か言われているのだろう拒否する彼女を丸め込んでここへ連れてきた。
当然、それを知った怜迩が時間を置くことなく表れた。
そして、今に至る。
ひとしきり息子をからかって満足した後、彼はソファに座って彼らの様子を見ている。
子供の声に、気付いたのか彼の妻である綾も顔を見せた。
「あら…希莉ちゃん達来てたのね」
一哉の横に座りながら、綾が言うのを彼は、ふふんと笑って子供達の姿を見る。
「そう。僕が連れてきたんだ」
「あらまぁ」
それは、怜迩がさぞかし怒ったのではないかと綾は即座に思った。
そんな妻の考えなどお構いなしに、一哉はぼそりと呟く。
「懐かしいなぁ、あの位の子供を見ると怜迩が産まれた頃を思い出すよね」
「……そうね」
少し眉が悲しそうに下げられるのは、決して見間違いなどではない。
綾の肩に手を回すと一哉は、ぽんぽんと慰めるように叩くと綾は、一哉の手を掴む。
「…でもあなたは、意地悪だったわ」
「…えー?優しくしてあげたのになぁ」
「どこが?外面だけは良くて…」
「綾さんヒドイよ…」
「だって本当のことよ。私が影でどれだけ泣いたと思ってるの?」
妻の言葉に苦笑を浮かべる一哉に、綾は怯むことなく言い募る。
それでも、「懐かしい思い出よね…」と綾が口にして体を一哉に預けた。
彼は、妻の言葉に黙ったまま鷹揚に頷いた。
懐かしいと口にすることができるのは、2人が年月を経てそう言えるだけの余裕ができた証拠なのだろうか―。
それは、2人にしかわからない。
30年以上前――。
―草壁家。
「一哉。準備はいいか?」
いつも厳しい顔の父親だが、その日はいつもよりも厳しい顔つきに見えたと覚えている。
―水原家。
何気なく、部屋の外に出た自分を呼び止める父の温和な声にふと振り返った。
「綾。こちらへ来なさい」
それは初めての出逢い。
運命を左右するほどの…。
外面だけは完璧な彼との――。
ワガママな彼女との――。
愛しい愛しい最初の出逢い。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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