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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0205
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2008

0920
Vizard(77)

以前から、感じてはいたのだ。

ただ、分かってはいても認めたくなかっただけなのだろう。
己の口から彼の名前を呼びたくなかった―。
想像と言う名の確信を現実というものとして認識したくなかったのだ。

知らない振り、気づかない振り―。
こうすることは、簡単だったかもしれない。
しかし、本来愚直な伊達にはできなかったのだ。





伊達が、一哉の補佐という形で怜迩のボディガードとして働くようになってから数日経過していた時だった。
未だに悩みのようなものを抱えていた伊達だったが、日の経過とともに違和感を感じ始めていた。
最初は、ほんの偶然としか彼も思っていなかった。
怜迩を見送った後、すぐに姿を消した一哉においていかれるような形になった伊達が、今日はどうしたものかとくるりと体の向きを返した瞬間に目があった。
すぐ近くにいる見慣れた姿に伊達は、目を見開いて驚いた表情をしてみせた。
記憶に馴染んだ後姿は、すぐに彼だと理解できた。
考えるよりも先に体が動いていたというのが正しいだろう。
自然と口をついて言葉が滑り落ちた。

伊達には気付くことのなかった男が、己の名が呼ばれたことに驚いて体が硬直したように背筋をぴしっと伸ばして、ゆっくりとぎこちない動きで振り返った男の顔に、伊達の眉間に皺が自然と寄った。
それは、男の顔が何かを繕うように卑屈な笑みが浮かんでた所為かもしれない。

「だ…伊達。あ…、お前こそ…」
「私のクライアントがこちらにいますから。山崎さんは?」

落ち着いた声で伊達が答え、一歩近づくとさらに男の顔は強張った。

「俺のクライアントも…」
「そうですか。では、私はこれで」

あからさまな不自然さにも伊達は、気づかない振り―気にしないように自分に言い聞かせた。
これ以上、不信感を抱く前に怜迩が校舎から姿を見せてくれたことは、伊達にとって有難いことだった。
怜迩が戻ってきた以上、その場に留まる理由は何一つない。

「あ…、ああ」

正直なところ、この時から確信めいたものはあったのかもしれない。
自分が慕う男の暗い影に―。



その日以来、伊達は自然と以前よりも目を周囲に配るようになった。
その所為もあってか余計に目がつき始めた。
自分でさえ違和感を覚えているのだから、一哉が気づかないはずはない。
もの言いたげな一哉の視線を感じつつも伊達は、何一つ気づかない振りをし続けた。

しかし、それも長くは続かなかった。

自分が出向く先々にいるのだ。
怜迩がすぐ側にいるときのみ…。
伊達が1人でいるときには、気配はなかった。
そうとくれば、例え鈍感な人間であろうとその真意に気づくはずだ。
それが、一般の人間ならば気づかないであろう、さりげなさであっても同業者に通用するはずもなかった。
伊達は、一般に言うならば普通というカテゴリに分類される人間でもない。
ましてや、もうこの世界に7年も身をおいている伊達にしてみれば、気づかないとでも思われているのだろうかと邪推してしまうほどだった。

普通の神経をした人間ならば、気味悪さを感じて然るべきだろう。
伊達にとって守るべき対象が怜迩であり、己の仕事は彼を危険に晒さないこと。もし、危険がすぐ側に来ているだとしたら、回避すること。
それは、怜迩と離れていてはなかなか難しい。
故に、一緒にいる時間は多い。
従って、たとえ自分ではなくとも自分がつけられているのではないかと思ってしまうのも仕方ない。
そして、通常の感覚の持ち主ならば気味の悪さを感じるものなのかもしれないが、それ以前に感じるべきは、危機感だろう。
そう。
自分ではなく。自分が守るべき対象の―。

いくら、己が世話になった男とは言え、自分の仕事、即ち、己がプライド、己の評価に直結するものまで明け渡すことなどできない。
迷った末に、現在の自分のクライアントである一哉に打ち明けた。
ずっと気づいていたことは、既に承知の上かもしれないと伊達は、構えていた。
どんな辛辣な言葉が出てくるのかと戦々恐々としていた。
しかし、帰ってきたのは声を荒げるわけでもなく、まるで詰まらないものを聞いたかのような無感情な平坦な声だった。

「いつから…?」

端的に、それ以上聞かなかった。
しかし、それに続く言葉を伊達は的確に理解していた。

―気づいていたのはいつからだ…。

と。
最初に引っかかりを覚えた時を正直に伝えた伊達に彼は一瞬だけ口の端を持ち上げ、笑ってみせた。
秀麗な顔に浮かんだ笑みを目撃した伊達が呆けた顔で、もう既に無表情に戻った一哉の顔を凝視し続けていた。

「殊の外、間抜けじゃなくて良かった」

とどこか揶揄するような台詞だったが、伊達は呆然と一哉の顔に見蕩れていたために、その言葉に反応できるまでに、いつもより時間がかかった。
しかし、それ以上何も聞かれることもなかった。

どうして良いかわからずに迷いあぐねた結果、相談の意味も籠めて一哉に伊達は聞いたのに、彼は答えをくれるどころか、それっきり何も言ってはくれなかった。
そして、そのまま時間は経過してその日が来たのだ。





心臓が早鐘を打つのは、命の危険に晒されたであろうか。
それとも、受け入れたくない事実から目を背けたいという心の現われか。
ただ、分かるのは自分が危険から庇うように抱きかかえた子供の体温が伝わってきて、まだ幼い彼が生きているということを告げる温もりだけだ。
彼の―怜迩の無事と怪我がないことを確認すると怜迩を立たせて、自分も立った。

そして、急ブレーキによって急停止したままの車へと近づいていった伊達だった。
そこには、一哉の手によって外に引きずり出された男が萎縮して地面に座っていた。否、座らされていた。
首根っこを乱暴に掴まれ、いつもはかっちりと着込んだスーツがよれよれになり、惨めに項垂れる姿を見た瞬間に伊達の口から滑り落ちるように力ない声で男の名が紡がれた。

「山崎…さん」

がっくりと地面だけを見つめていた男だったが、その聞き覚えのある伊達の声には反応したように顔をあげた。
伊達と男の目があった瞬間、2人の視線は180度全く異なるものだった。

縋るような男の瞳と―。
軽蔑の意味を含んだ伊達の瞳。



そこには、伊達がかつて憧れ、尊敬していた男の面影など一切残ってはいなかった。



「あんた。何がしたかったんだ…」

 

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