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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0219
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2008

0325

Vizard(22)



痛い。
苦しい。

伝わらない――。





一番、振り向いて欲しい人に振り向いてもらえない。



目の前で繰り広げられる光景を少し離れた位置から見ることだけが、自分に許されたこと。
きっと分かってやってる。
見られていると分かってやっている。
それくらいは、分かる。
女の方は気づいてないかもしれないが、男の方―一哉は、間違いなく確信犯だ。

きゅっと唇を噛み締めてカバンを持つ拳にも力を入れてぎゅっと握る。
綺麗に整えられた爪が手のひらに食い込む。

物陰に隠れているように見えるが、綾の下駄箱の位置からは、丸見え。
あえて狙ったような場所は、きっと一哉が選んだに違いない。

綾の視界には、互いの身体を密着させる2人の姿。

「すみません。来たようなので」

という若干低い声が聞こえてきて、女の背に隠れた一哉が発したものだとわかる。
女は、別段困らせる様子はなく、身体を彼から離す。

「仕方ないわね。じゃあ、また後で」
「ええ。すぐ戻ってきます」

と笑いながら顔を寄せる。

一部始終を綾は見ていた。

唇を押し付けあった後に離れていく2人の姿。
軽く笑いながら自分へと近づいてくる一哉。
ただ、待った。待っていた。待つことしかできなかった。

「行きましょうか?お嬢様」

それは、まるで彼からの忠告のように思えた。
自分と彼の距離は、それ以上でも以下でもないのだと…。

それは、当然なのかもしれない。
彼は言った。


憎いと――。


先を行く一哉の後ろを追いかけながら、片隅で一哉と触れ合っていた女をちらりと確認する。
相手も綾のことを見ていた。
別に何も感じる必要などないのに、綾は、気まずくてばつが悪そうな顔をして彼女から目を逸らした。
だから、気づかなかった。
彼女が嘲笑を浮べていたことなど…。

後少しで、自分の正規のボディーガードである宗司の待つ場所へと到着する。
綾は、ぐっと拳を握りなおすと意を決したように口を開いた。

「あ、あんなところで…恥ずかしくないのっ!」

だが、出てきた言葉は何の可愛げもない詰る言葉。
何故、自分はこういう風にしかできない。

先を行く一哉の足が止まる。
くるりと振り返ると人目もある所為か…にっこりと笑って「ええ」と答えた。

「最低よ」
「じゃあ、あなたも最低ですよ」

顔は笑っているのに、目は笑っていない。
綾がぐっと言葉に詰まっていると彼は言う。まるで、綾に言い聞かせるかのように。

「そんな人間を好きだといったあなたも最低の人間でしょう?……なんなら、兄に報告してもらって結構ですよ。そちらの方がこちらとしても清々します。これで心置きなく遊べますから」

くるりと背を向ける。もう綾には、見向きもせずに先に歩いていってしまう。
綾は遠ざかっていく背中に声を張り上げる。

「嫌よ!宗司には言わないんだから!!」

きちんと聞こえているはずなのに、一哉はなんの反応も見せない。
少しくらい動揺してくれてもいい筈なのに…。
何で、自分ばかりがこんな思いをしなければならないのか……。
自分を兄の手に送り届けた後、待たせている彼女と何をするのか。どこへ行くのか。知りたくても聞けない。
近くにいるのに遠い。

何でこんな惨めな思いを……。

それでも、離れたくないのだから仕方がない。
必死だった。
どれだけ相手から煙たがられても少しでも一緒にいれる時間をと必死だった。

それは、惨めなまでの健気さ。
どうしていいかわからなくて悩んだ挙句の稚拙な答え。

それ以外の何物でもなかった。





「お嬢様。到着いたしましたよ」

宗司の声にはっとして顔を上げる。
直ぐ傍には、ドアを開けて顔を覗き込ませている宗司の姿がある。
慌てて、綾は近くにおいてあるカバンを掴むと彼の身体を押し退けて車から降りる。

「あ、ありがとう」
「いいえ。堺様がお待ちです」

背後から掛けられた声に綾の身体がぴたりと硬直する。
恐る恐る振り返る。

「何で?」
「さぁ、私のような下の者には、理由までは聞かされておりませんが」

父親が手を回して自分が卒業するまでは、極力干渉をしてこないという話になったのではないか…。
今の綾にとって会いたくない人物。
さらに動揺を増加させる人物。

動けないでいると宗司が近寄ってきて、綾の背中に手を添えて軽く押す。
力は入っていないはずなのに、その力に流されるようにして玄関へと向かって歩き出す。
玄関に入りそのまま自室へと逃げる時間も与えられずに、客間へと通される。
そこには、堺だけでなく、父親の姿もある。

「あ、帰ってきたね。おかえり、綾」
「た、ただいま。お父様。…なんで、堺さんが…」
「いや、今日はどうしても綾と一緒にというものだから、綾もいつも自分のわがままばかりではなくて、彼の言うことも聞いてあげたらどうかな?」

と理解のあるような台詞を言う父を動揺した瞳で見返す。
すぐに堺が座っていた椅子から立ち上がって近寄ってくる。

「綾さん。行こうか?」

嫌だという拒絶の言葉を言う前に客間から連れ出される。
父親の「気をつけて行っておいで」という言葉を背に受けながら綾は手を引かれるままにまた再び外へと連れ出された。
外に出ると一緒に家の中に入ってきたはずの宗司が車の後部座席の扉を開けて待っている。
そのまま後部座席に押し込まれるようにして入ると続けて堺も入ってくる。
後部座席の扉が閉められて、運転席に宗司が座ると車が発進する。
どこへ向かっているのかと綾が尋ねる間もなく、堺が綾の手を強く握った。思わず身体が跳ねる。
綾の反応に堺はくすりと笑うと綾の手に唇を落とす。
寒気すら覚える気障な行動。

「今日はね。どうしても君と一緒にいたかったんだ」
「……」

という彼の言葉にを実行するべく連れてこられたのは、ホテルのレストランだった。
その前には、制服のままだった綾の着替えをする為に高級ブティックにも足を踏み入れた。
正装して、向かいあう2人の姿は、まさに一組のカップル。

「何で、僕が今日君に一緒にいてほしいって言ったかわかる?」

わかるはずもない綾は、正直に首を振る。

「寂しいな。夢中になっているのは、僕だけなのかな」

少し目を伏せながら言う彼の姿。
取り繕うように言葉を発する。

「そ、そんなことは…」
「まぁ、いいよ…。今日は、僕の誕生日なんだ。だから一緒にいてくれるよね?」

有無を言わせない雰囲気があった。
嫌な予感はしていた。
宗司は既にこの場にいなかった。

ただ、運ばれてくる食事を食べることでその嫌な予感というものを振り払おうと必死だった。
これが終われば、解放されるのだからと言い聞かせて―。





フルコースの食事を食べ終えて、漸く帰れると安堵した時だった。
綾がホテルの外に出ようとするのに対して、「違うよ」という声がかかる。
ぞわりと身体中に纏わりつくような声だった。
立ち止まった綾の腰に手が回される。
それは、太くごつごつとした男の手で、決して自分が触れて欲しいと願った手とは異なっていた。あの細く綺麗な手ではなかった。

「今日は、こっちだよ」

と引かれるままに向かった場所は、上の階へと行くためのエレベータ。
そこにあるのは、宿泊するための部屋だ。

「そ、そんな…お父様にも」
「お父上には、僕のほうから伝えてあるから心配しなくても大丈夫」

綾の逃げ道を塞ぐように堺が答えるとまるでタイミングを見計らったかのようにエレベータのドアが開く。
その小さな箱の中に押し込まれて、向かった先は最上階。
スイートと呼ばれる部屋。
尻込みをする綾など全く気にすることなく彼女の身体を部屋の中に案内する。
そのまま向かったのは、寝室。
激しく脈打つ綾の身体。
動悸がすぐ耳の傍で聞こえてくるようだった。

ここで……。このまま……。

嫌。

想像もしたくない。

何で。何で…。

と何度も心の中で繰り返す。
俄かに身体が震え始める。
それは、これから自分の身に起こることを考えての反応だ。

「大丈夫。怖がらなくていいよ」

と耳元で囁く男の声に鳥肌が立ち、ある明確な意思を持って自分に触れようとする手に吐気を覚える。
気づいた時には、叫ぶようにして相手の身体を突き放していた。

「嫌っ!!」

まさか綾からの抵抗など考えていなかった男は、突き飛ばされたままベッドの方に倒れた。
男の身体が自分から離れると同時に綾は部屋を飛び出していた。

 

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