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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0322
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2008

0131

Vizard(19)



休み明けのクラスでは、夏休みの間に何していたか、どこに旅行に行っただとか、遊びに行ったとかいう会話が始終なされている。
口では、2学期始まるのが憂鬱だと言いながらもどこか嬉しそうに話す彼ら。
確かに、退屈な授業は嫌なのかもしれないが、久しぶりに会う友人達に嬉しさを隠せないのかもしれない。
教室に入って自分の席に座ると先に来て自分の机に座る友人の顔を見た。
彼女の顔は、その空間内において異質だった。

その顔は、どこか悲壮。
じっと一点を見つめたまま、瞬きも忘れて動かない。

綾は、席につくなり彼女を伺うように見た。

「何かあったの?」

恐る恐る彼女に声をかける。
ゆっくりと彼女の顔が綾に向く。

「あ、綾…。久しぶり。おはよ…う」
「顔色悪いわよ?何かあったの?」
「べ…別に、たいしたことじゃないわ…」

彼女は、綾から視線をそらす。
明らかに何でもないというようにはどう見ても見えないのに、彼女の言葉を信じろというのか。
そんなこと綾には、できなかった。
おせっかいに過ぎない行為。
綾は、彼女の言葉に「そうね」と頷くことはできなかった。

「たいしたことじゃないわって顔じゃないわよ?何かあったの?あったのなら、私に話して?友達でしょ。心配なのよ」

親切の押し売りとは、よく言ったもの。
踏み入って欲しくないからこそ、明るく見せることのできない顔つきで突っぱねているというのに。
下手な野次馬根性で、親切心でおせっかいを働く。

聞かなければ良かったと後悔するのは、聞いた本人ばかり。

きゅっと引き結ばれた唇。
少しの逡巡を見せた後、綾の横に座る彼女は小さな声で問う。

「一哉…」

だが、その声は小さすぎて綾には届かなかった。
友人の顔をじっと伺っていた綾は、彼女の唇が動いたことに気づいたが、その音までは聞き取ることができなかった。
眉間に皺を寄せて、怪訝な表情で聞き返す。

「何?」
「…一哉は?」

突然、耳に飛び込んできた人物の名に綾は2つの瞳をこれでもかというほどに見開いた。
自分を縋るように見てくる友人と目が合う。
じっと見つめあう。

何故、友人が一哉の名を口にしたのか分からない。
己のもとに一哉が来たときに、遭遇することはあったとしても少なくとも彼の下の名前を呼び捨てで呼ぶほど親しくはなかったはずだ。
綾の記憶にある限りでは、彼女は少なくとも“一哉クン”と呼んでいた。
だが、今、彼女の口から出てきたのは、彼との親密さを表すような……それだった。

「か、一哉がどうかしたの?」

間抜けにもそう返すのがやっと。
嫌な予感が綾の身を襲う。
ドキドキと動悸がする。

「…な、何も聞いてないの?」
「……聞いてるって?何を?」

綾が問い返したのに対し、一瞬口を噤み、目を逸らした。
不自然な友人の姿を視線で追いかける。

「ね…。一哉と何かあったの?何かされた?」
「一哉とどうすれば連絡がとれるの?」
「取るも何も一哉なら、中等部の校舎に行けば…」
「違うの。2人で会えなければ意味ないのよ」

必死の形相の友人に綾は、驚きを隠せない。
大きな彼女の声に、先ほどまで綾たちの会話など気にもせずに方々で各人談笑していた声が静まり、一気に綾とその友人に彼らの視線が集まる。
居心地の悪い思いをしながらも、綾は衆人観衆の視線を気にしつつ声を抑えて彼女に問う。

「一哉と2人で会って何を話すの?」

少し、声に険が篭るのは仕方ない。
何故、友人と彼の親密さを見せ付けられなければならないのか…。

綾の中で嫌な感情が噴出してきそうだった。

「聞きたいことがあるの」

ぎゅっと唇をかみ締める友人の姿が印象的だった。
険しい視線は、机を睨みつけているのだが、そこに映っているのは、無機物ではなく彼女の口から零れた綾のにとって特別を意味する人物のようだった。

「聞きたいことって…?」

聞かなければいいものを、彼のことで知らないことがあるのを許せない綾は、聞かずにはいられない。
綾から視線を逸らしていた友人は、ゆっくりと綾の方に顔を向ける。
何も怯むことはないのに、綾は友人にじっと見つめられて動揺を覚えてしまう。

「だって、付き合っている人から連絡こなくなったら誰だって不安になるでしょ?」

綾の身体を衝撃が突き抜ける。

付き合っている?
誰と誰が?

周りの喧騒も一切聞こえなくなる。
友人の顔から視線が外せない。

付き合っているというのは…一哉と目の前にいる彼女なのか。
そんな筈は…。

だって、何も言ってなかった。
そんなの聞いてない。
それに、一哉は別の女と――。

もし、彼女と一哉が付き合っていたとするならばおかしい――。
もし彼女と付き合っているというのなら、他の女とキスをしたりとか…、ホテルに行くということはしない筈だ……。

「付き合ってる…?誰と誰が……?」

瞬きをすることもできずに、半ば呆然とした頭で友人の答えを待つ。

「決まってるでしょ?私と一哉よ」
「嘘」

そう。嘘だと信じたい。

ねぇ、嘘だと言って。

しかし、綾がいくら願ったところで現実は覆らない。

「嘘じゃないわよ。……綾が言ったんじゃない。貸してあげるって」

はっとなって記憶がよみがえってくる。
自分が彼女が一哉のことを可愛いと言っているのを聞いて、一哉に彼女を送ってやるようにと言ったことを…。
ほんの暇つぶしのつもりでやったことを。
どれだけ綾が我侭や困らせるようなことを言っても変わることのないあのいつも澄ましたような顔で、穏やかに笑う少年の困る顔が見られるかという出来心で自分がした行為を――。

そして、彼らはいつの間にか自分の知らないところで綾と一哉の間にはない関係を築いたというのか……。

何時から……?

聞きたいのに、唇は動かない。
それどころか、予想外の言葉が友人から向けられる。

「ねぇ、あなたが何か言ったんじゃないの?彼に…」

ぴくっと身体を揺らした後、目の前の彼女に焦点を合わせる。
怪訝に眉を顰める友人の顔。
それは、綾を疑うような視線だった。

恋に溺れた女は恐ろしい――。

どこで見た言葉か。聞いた言葉かわからないが…綾の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。


自分が何を一哉に言うというのか。
知らなかったというのに―。

無言のまま、首を横に振って違うという意思表示をする綾に対し、友人は信じてくれるどころかさらに疑わしい視線を送りつけてくる。

「し、知らないわ…」
「だって、おかしいじゃない!じゃなきゃ、何で一哉が急に冷たくなるわけ?正直に言ってよ」
「ほ、本当に何も知らないわ!だって、一哉と付き合っていただなんて…」
「どうだか?一哉から聞いてるんじゃない?」

綾に対しての疑念が払拭できない彼女と、自分は無関係だと主張する綾。
責めるような視線を送りつけてくる友人に対し、寧ろ彼女を責めたいのは自分の方だ…。
友人を問い詰める前に、問い詰めらている。

何故、自分はこんな風に責められなければならないのか綾にはわからない。分かるはずもない。
負の感情をぶつけたいのは、綾も同じ。

甲高い声をあげる彼女に、周囲の視線も尚のこと綾と彼女に向いてくる。
一体どうしたというもの珍しい視線にも2人は、全く気づかない。
その時点で2人とも冷静さを欠いていたのかもしれない。

離れていった一哉と何としてでも接触を取りたい者と。
自分が思いを寄せていると自覚した時に、過去の己の行為を後悔する者。何故知らされていなかったのかと友人を恨みにも似た思い。

どこか険悪な雰囲気の2人に、周囲もざわつく。
綾と彼女の周りには、いつの間にか人だかりができていた。

チャイムの音も彼女達の耳には届いていなかった。
教室にはどこか異質な雰囲気が流れていた。

それは、新学期始まって最初のホームルームのために入ってきた教師も感じたことで――。
教師によって制止されるまで綾と彼女はそのまま、視線を交差させていた。

互いに、睨みあうような視線。
くっきりと感情をぶつけてくる彼女と動揺の中にもある感情を忍ばせた綾の視線だった。
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