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更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き. 嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック

2026

0322
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2008

0129

Vizard(17)



恋―。

それは、自分には焦がれても手にすることはできないと思っていた代物。
それには、自分の家が邪魔になるから。
最初から抱いてはいけないと決めていた。

だから、男はいつも自分にとって遊び道具。
振り回しこそすれ、間違っても引きづられてはダメ。
いつでも、そう言い聞かせて遊んできた。
男を相手にしてきた。





一度、認めてしまえば、後はいくらでも説明がつく。

何故、気になっていたのか―。

上級生とのキスシーンを目撃してショックを受けたのか。

自分とは段違いに大人の魅力に溢れた大人の女とホテルに入っていった一哉の姿を目にして動けないほどショックを受けたのか…。



どれも、恋という文字で簡単に説明がついてしまうから人の気持ちは不思議だ。



しかし、自覚したと同時に振り切らねばならないものだった。



傷が浅いうちに……。





しかし、気づいた時点で遅い。

気づかなければ…まだ、救いようがあったのかもしれない。

先が決まっているからと言って諦められるほど大人ではなかった。
元が、蝶よ花よと甘やかされて過ごしてきた彼女。母親が亡くなってからというものの、さらに彼女を取り巻く環境はそれに拍車をかけたものとして変化していった。
欲しいものは、綾が口にする前に全て彼女の目の前に並んだ。
手に入らないものは、ないと思ってた。

そんな綾が欲しいものが、すぐそこにあるのに我慢できるはずもない。
今までと同じようにそれは、自分の手にあるべきものなのだ。いや、するのだ。





子供の欲しがるものほど性質の悪いものはない。
なりふり構わないからだ――。





子供の行動に振り回される親ほど、冷静に客観視した時に情けなく惨めなのはない。子供への愛、故に見せるそれは微笑ましい。
しかし、その子供が16…いや、もうすぐ17といういい年した分別のある年だとそうはいかない。
失笑を買うようなものだ。

「綾はどうしたのかな?最近、部屋に閉じこもったままだが…」

という主人の声に一礼する。
聞かれても答えようがなかった。
かく言う自分も彼女が何を考えているのかさっぱり分からなかった。
ほとんど顔を合わせていない。

「お前でもわからない…か?」

背後を視線だけで振り返る当主にもう一度深く頭を下げる。

「申し訳ありません」
「いや。お前の所為じゃない…。堺氏の誘いも最近は断っているようだが?」

呆れたように大げさに息を吐き出す。
気にするなという主の声にぐっと体に力を入れる。

綾の気まぐれの処理をするのは、宗司の仕事に入っていた。
断りの言葉を相手に告げるのも、屋敷から追い返すのも、婚約者に素気無くされた男の不機嫌な言葉をぶつけられるのも自分の仕事。

「一方的に会いたくない…と仰っていまして」

と宗司が口にするとやれやれと言った様子で肩を竦めた。
煙草を取り出し口に銜えるとすっといつも父と一緒に、彼の護衛としてついている宗司の兄である弥一がすっと火を差し出した。
火がついた煙草をくゆらせながら、大きく息を吐き出す。

「あの年頃の娘の考えることはわからん…あれの母親がいたらもう少しは違ったんだろうがな…」

とぼそりと零した。
苦悩を滲ませたとような声音。

「まあ、いないものを求めたところで仕方ないがな」

その言葉に、返すものはいなかった。
ほとんど吸い終わっていない煙草を近くの華美な装飾の施された灰皿に押し付けると部屋を出て行く。

「旦那様。どちらへ…」
「綾のところだ。お前達はもう下がっていいぞ」
「では、失礼します」

宗司も弥一も頭を下げて部屋を出る当主を見送った。
主人の姿が消えた後、先に顔をあげた弥一が人を食ったような笑みを浮かべる。

「ありゃあ、あのボンボンに泣きつかれたか」

かかっと笑いながら言う兄を咎めるように睨みつける。

「おっと、そんな怖い顔して睨むなよ」

弟の視線に気づいて肩を竦めてみせながら、部屋を出て行った。
兄の背中を睨みつけていた宗司だった。





部屋の扉をコンコンと叩く音に綾は俯けていた顔をあげた。
ぱたぱたとスリッパの音をたてて扉に近寄ると綾が開ける前に、部屋の扉が開く。
顔を出した父親に、一瞬目を見開いた綾だったが、何となく嫌な予感を覚える。

「綾、ちょっといいかい」
「なぁに?お父様?」

やんわりとした口調で伺う父親だが、彼が引くことはないということを綾は知っている。

「何故、最近堺氏の誘いを断るんだい?」

ぴくりと綾の表情が強張る。
今まで綾と堺の関係には、口を閉ざしてきた父親からの言葉。

ついにきた…。

「綾?どうなんだ…?」

くっと唇をかみ締める。口を噤んだままの綾に咎めるような父親の声。

「綾」
「…だって、つまんないんだもん」

視線をそらしながら綾がそっくりそのまま言葉を再現するような顔つきでそっぽを向きながら答える。
傍から見たら小憎らしい顔そのものの綾の表情も親ばかフィルターのかかった男から見れば、可愛いものでしかない。
とはいえ、この点だけは我慢してもらわねばならない。
苦笑を浮かべつつ綾の肩に手を置き、諭すように言い聞かせる。

「綾…。お前と堺氏は……」
「わかってるわ。けど、これから嫌でも顔を突き合せなければならないのに、今から焦って顔を突き合わす必要ないでしょ?わざわざ貴重な時間を割いてまで会いたいと思うような人じゃないわ。ねぇ、お父様からも言って頂戴?お願い」
「何をだい?」
「時期がくるまで、あまり干渉してほしくないのよ」
「綾…けど、堺氏はお前との関係を思って」
「私のことを思うなら、放っておいて欲しいの。お願い」

目を潤ませて上目遣いにお願いをすれば、娘を可愛がる父親は娘の婚約者である男の言葉よりも娘の言葉を優先させるというもの。
分かっていての行動だった。
少し険しい顔をしたものの、すぐににこっと安心させるような笑みを浮かべた。
父親の表情をじっと伺っていた綾だったが、父親の表情の変化を読み取って心の中で笑みを浮かべた。

「わかった…。けど、わかってるね?高校を卒業するまでだよ?それまでは、あまり君に干渉しないように堺氏には言っておこう」
「ええ。ありがとう、お父様」

にこりと笑って返す娘に満足したように鷹揚に頷く。

「じゃあ、おやすみなさい。明日から学校なの。2学期始まるから」
「ああ、おやすみ」

父親が出て行き、かたんと音をたててしまった扉にもたれて息を吐き出す。



明日から2学期が始まる。
ようやく待ちに待った時間だった。
一哉に会うことができる。

期間にして、一ヶ月半という期間一度―いや、ホテルへと消えていく姿を一度だけ見たが、それ以外では会っていない。
何故学校内だけでしか会うことが適わないのか―。
今までの休みの期間、なぜ会わなくても平気だったのかわからない。
何度、父親に頼んでここへ呼んでもらおうかと思ったことか。
何度、宗司に聞こうかと思ったことか。

明日から、また会えると思うとそれだけで心が浮き上がりそうだった。

そして、一緒にいた女が誰なのか―。
知りたいと思った。

好きな相手のことを知りたいと思うのは、当然のこと――。
知りたい。会いたい。

 

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