徐々に合宿所の一室に人が増えていく。
人が増えていってるが、まだ増やそうとする坂上にどれだけ集めれば気が済むのかと深岬は思いながら見ていた。
「どこ行くんだぁ?」
と言いながら福田が入ってくる。
坂上は携帯片手に福田の顔を見つけると頭だけを下げる。
その顔はどこか嬉しそうな顔をしている。
「お、深岬ちゃんだ」
「ども…」
深岬の姿を見つけてにっと笑う福田。
釣られるようにして深岬も笑みを浮かべる。
深岬の耳に坂上の電話の相手との会話が聞こえてくる。
「あ、望?絵里ちゃんも一緒?」
望に連絡を取っているということがわかる。
ただ、そこには、自分との間にはない親密さのようなものを深岬は感じる。
「はぁ?出なくていいよ、その授業。何とかなるなる。え?出るの?じゃあ、終わったら来いよ。ああ、うん。待ってるから」
坂上は、その後も続けて電話を掛け始める。
「麻美。何だよ?機嫌悪ぃな」
苦笑を浮かべながら電話の向こうにいる麻美と会話をする坂上の姿。
私が、この場にいなかったら坂上はこうやって連絡をくれただろうかと考えながら深岬は電話の相手と話をしている坂上を見続けた。
「麻美のヤツ、機嫌悪いでやんの」
用済みとなった携帯電話をジーンズのポケットの中にしまいながら、坂上は笑いながらすでにその場に集まってきていた上級生や新入生に向かって言う。
「何かあったの?」
「さぁ?3年がいないからじゃねぇ?」
至極つまらなさそうに言う坂上に、上級生は苦笑を浮かべた。
「麻美ちゃん。3年生大好きだもんねぇ」
「そこがサカガミには、面白くないんだねー」
「違いますよ。麻美じゃなくて3年がノリ悪いから…」
「はいはい。そういうことにしておこうか」
坂上の反論も上級生は笑いながら流しているが、深岬はその会話をほとんど聞いてはいなかった。
もやが掛かったように入ってはこなかった。
すぐに、その場では別の会話が始まっていた。
そこでも中心にいるのは、坂上だ。
「俺。この前、学科の新歓があったんですけどね。クラスの女子に女装させられたんすよ」
「サカガミがぁ?」
「気色悪いかも…」
「しっつれーなこと言わないでくださいよ」
自分から振った話に茶々をいれられ、笑いながらも文句を言う。
しかし、それは反感を買うようなものではなく、その場を和ませるものだ。
「そのカッコがさー見事に望に見つかって滅茶苦茶、笑われたんですから」
「あれ?学部一緒だったけ?」
「そうです。同じ経済学部経済学科ですよ。アイツ、一目散に俺のところに走ってきやがって、開口一番に大きな声できしょっ!ですよ」
「あー何となく望ちゃんの気持ちわかるわ」
「何で!?俺の気持ちは?」
「えーサカガミは、それでも楽しんでそうだから」
会話の弾むその輪の中にいるのだが、中に入っていけない。
一種の疎外感のようなものを感じ、近くにいるのに遠くにいるようなそんな感覚に陥る。
顔には、合わせたように笑みを浮かべるだけ。
何で自分がそんな思いをしているのかすら深岬にはわからない。
自分の感情をもてあましていた。
坂上が呼び出した望と絵里が合宿所に顔を出すとがらりと雰囲気が変わる。
良い意味で場の空気が読めないというか何というか。
「サカガミは急すぎるし!」
と部屋に座って談笑していた坂上の姿を見つけると望は彼に駆け寄っていく。
早々に望の口から零れたのは、急に呼び出されたことに対する不満。
だが、望の不満の声にも坂上はにっと笑うだけで、全く答えた様子なんてない。
望も坂上のことを呼び捨てで呼んでる…と呆然と見つめていた深岬のもとに、望と一緒に部屋に姿を見せた絵里が寄ってくる。
「急に坂上さんから連絡あるからびっくりした」
「授業中だった?」
「まぁね…。でこの大人数何?」
「どっか行くみたいな雰囲気だよ」
絵里に状況を説明しているとガラッと部屋のドアが開く。
部屋に居座っていた人間の視線がそちらに向く。
「うわっ、何コレ」
驚いた雪子の姿がある。
「げっ…忘れてた」
とまずそうな声をあげる坂上に雪子の視線が飛ぶ。
「坂上?」
「わりぃわりぃ。これから皆でどこか行こうっつー話をしてたんだけどよ…お前に連絡すんの忘れてた」
「ちょっとひどくない!?」
眦を吊り上げて怒りの声をあげる雪子に両手を顔の前に突き出して謝る坂上の姿。
「サカガミひどー。雪子さんカワイソー」
「もっと言ってやって」
それに便乗するように坂上の傍にいた望が言う。
非難の目を向けられて坂上は、慌てたように同じ空間にいた小島を引き合いに出す。
「リョウちゃんには、怒らないのかよ!?」
「ん?」
急に名前を出された小島はとぼけた顔で騒ぎの一団を見る。
「あの顔は、今まで寝てた顔でしょ!」
「さっすがーよく見てるな」
「茶化すなっ!!」
ゴンっという音とともに坂上の頭に雪子の拳がめり込む。
悲鳴をあげる坂上にふんっと鼻息荒く背を向けると雪子は当然のように小島の横に行って座る。
「凶暴女」
「なんか言った?」
「地獄耳」
「もう一回が殴られたい?」
「坂上も雪子もいい加減にしとけよー」
もう一度始まりそうな坂上と雪子の勢いに見かねた上級生が苦笑を浮かべつつ諌める。
するとそれ以上はお互いに何も言わなかった。
「え…と、車出せる人何人いますか?」
と漸く本題に入る。
上級生の何人かが手をあげているのを坂上は数える。
「こんだけありゃあ十分かな?じゃ、今手上げてくれた人、車出して貰っていいですか」
「はいはーい」
「正門でいい?」
と言って数人が姿を消していく。
坂上と小島も立ち上がると部屋を出て行く前に坂上が振り返る。
「あ、望。付く頃に電話するから」
「うん。わかったー」
同じ学年の雪子ではなく、坂上がそう言ったのは深岬と同じ学年の望だった。
普通は同じ学年の雪子に頼むところを何でだろうとこの時、深岬はただ漠然と思っていた。
深岬がそう思った理由に気付くようになるのはもう少し―ほんの少し先のことだった。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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