「ねーねー、雪子。坂上さんって彼女いるの?」
練習が始まる前の時間。
バドミントン部の練習場所である第一体育館の片隅で雪子を見ることなく尋ねた深岬に雪子は壁打ちをしていた手を止めた。
自分の近くで靴紐を結んでいる深岬をまじまじと見る。
深岬は雪子の視線に気づくことなく、靴紐を結んでいたが、一定の間隔で鳴っていた音が止んだこととぽとっとシャトルが落ちた音に顔を上げた。
「どうしたの?」
雪子の様子に不審げに聞き返す深岬。
雪子は、深岬の横に座りこんで深岬の顔を両手で挟むようにしては、深岬の顔を覗き込む。
きょとんとして深岬は、雪子を見返した。
「あんた、坂上気になるの?」
「へ?いや、違うけど…」
「じゃあ、何で」
「この前の帰りに一緒に帰ってた子達とそういう話になってさ…」
「あ、そう」
深岬の答えに納得したのか、勢いがそがれたように深岬の顔から手を離して深岬から離れた。
小首を傾げて雪子を見返す。
「坂上のことだから、すぐ自分で言うようになるだろうけど…いるよ。これが信じられないくらい可愛いのがね」
「雪子は、見たことあるの?」
「あるよ。去年の学祭に連れてきてた時にね」
「じゃあ、この大学じゃないの?」
雪子の台詞からどうも同じ大学ではないと判断した深岬が尋ねると雪子は頷いた。
「詳しいことは興味なかったから聞いてない」
だろうね…と深岬は心の中だけで答えた。
体育館に入ってきた小島の姿を見つけて、あんたが興味あるのは、小島さんだもんね…。とも思った。
小島が一回だけ体育館の入り口に立って中を確認した後、去っていくのを見てから、雪子を見る。
「あ、じゃあ小島さんは?」
「いないよ」
「はやっ」
即答した雪子に揶揄半分で少し大きめの声で言うと雪子が顔を赤くする。
「深岬…あんたねぇ」
「そりゃ、バレバレになるわ。もっと上手くやれば?」
「うるさいわね…あ、センパイ来た!」
呆れたような視線を送る深岬に悔しそうに呟くように言うと雪子は、同じ空間の中に上級生を見つけて、駆け寄っていく。
その姿を見送りながら、深岬も立ち上がって既に集まって輪が出来ている同じ学年の集団の方へと寄っていく。
「空きコマどうする?」
と聞いてきたのは、涼子だった。
「どうしよっかなぁ」
「ウチ、来てもいいよ?」
眉根を寄せて悩む深岬に涼子が提案した時に、カバンの中に入れた携帯電話のバイブが震える。
「ちょっと待って」
涼子に断って確認する画面に出ているのは、坂上の名前だった。
どうしたんだろうと思って、深岬が涼子を一度見ると彼女からは、「出ていいよ」という返事が返ってくる。
『深岬ちゃん。今、ヒマ?』
「ヒマと言えばヒマですけど…」
『ご飯いこ』
「あ…はぁ」
涼子と一緒にいるので、彼女をちらりと確認すると涼子はきょとんとした顔で深岬を見返す。
「友達と一緒にいるんですけど…」
『あ、この間の子?』
と俄かに坂上の声が明るくなった気がした。
だが、深岬はあまり気にすることなく肯定した。
「そうですよ」
『連れてきていいから』
「あ、はぁ」
用件だけ伝えると通話は一方的に途切れた。
深岬は戸惑ったまま、携帯をカバンの中に仕舞うと涼子を見る。
「どうかした?」
「ご飯いこって、涼ちゃんも来る?」
「いいの?」
「連れておいでって言ってから問題ないと思う」
そう言って、涼子を連れて待ち合わせの場所に行く。
坂上の指定してきた待ち合わせ場所に深岬と涼子が到着すると坂上の他に小島と見たことのない2人の女子学生の姿がある。
「あ、来た来た」
「何ですか?急に」
「いや、学部の後輩の子たちなんだけどさ、バド部に興味あるっていうからご飯いこって誘ったんだけどさー、同じ学年の子に話を聞くのが一番かなぁと思って、深岬ちゃん呼んだんだけど」
坂上の説明に深岬はちらりと小島の近くにいる深岬と同じ学年の女の子達を見る。
イマドキの格好をした、可愛い女の子達。
少し下世話な目で見てしまうのは、仕方がない。
自分の横にいる涼子を見て薄々感じていた深岬だったが、自分はもう少し身形に気を使うべきかと考える。
美人でもない上に化粧ひとつしない顔。
服も適当でいつも動きやすいものが基本だ。
お洒落のおの字も出てきやしない。
「ナンパでもしたんですか?」
「あー近いものがあるかも…」
冗談半分で聞いた深岬に苦笑を浮かべて坂上は答える。
深岬は少し冷めた視線を坂上に送る。
坂上は気にした風でもなく邪気のない笑みを浮かべながらことを説明してくれる。
「去年落とした授業で声かけたらさー、バド部の人ですよね~って声かけられるからびっくりしちったよー。参ったね」
悪びれずに言う坂上の姿に、参ったねじゃねぇだろという深岬の言葉は喉の奥に飲み込まれた。
少し前に雪子に彼女がいると聞いたのにこの人は何をやっているんだと信じられない気持ちが大きい。
彼女がいようがいまいが関係ないものなのだろうか。
今まで、付き合ったことのない深岬にはわからない。
そう言えば、坂上に彼女がいることを深岬に教えてくれた雪子の姿も見当たらない。
「まぁ何でもいいですけど、珍しい雪子がいないですね」
坂上の背後を確認するように顔を動かしてみてみるが、やはり雪子の姿はない。
「雪子は、今日バイトの日でいないんだよ」
「そうなんですか。というか…私じゃなくても、麻美ちゃんとかでも良かったんじゃないですか?」
部活の練習のときでもよく麻美に声をかけている姿を見かける深岬は自分よりそっちの方がいいんじゃないかと思い口にしたが、坂上は笑いながら否定した。
「麻美ちゃんより深岬ちゃんの方が声がかけやすくって」
声がかけやすいという言葉の裏には、一体どんな意味が込められているのかはわからない。
というよりも気にしないようにした深岬だった。
「でも、良かった良かった。行こう行こう。リョウちゃんもこのために呼んだんだし、女の子ツルならやっぱりあの顔は最強だろ?」
にっと笑って女の子と話をしている小島を指差す。
別にナンパじゃないのだから、そこまでする必要はないかと思うが、女の子たちの様子を見ていると確かにとも思えてくるのだから不思議だ。
深岬は、小島から坂上に視線を戻す。
坂上の笑う顔は、何だか憎めない顔だった。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
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