深岬がバドミントン部の部活に参加するようになってから、日が経つに連れて入部を希望して体育館にやってくる新入生、或いは、ひやかしも含めて見学をしにやってくる新入生の数は日に日に増えていった。
新入生としては、初めに部に顔を出していた深岬は勿論のこと連日のように入れ替わり立ち替わり現れる新入生の姿に、深岬だけじゃなく上級生も把握ができずに困る結果になっていった。
そこそこ真面目に練習には取り組んでいるもののバドミントン一筋という訳でなく、部活もやって他のことも適度に楽しみたいというような人間の集まりだ。
初心者を敬遠するような部の雰囲気でもないことが、それに拍車をかけていたのかもしれない。
現に、上級生の半分は初心者で始めたものもいるし、見学に来た新入生も大半は初心者ばかり。
そうこうしているうちに、練習に参加する新入生の数も増えていった。
もう何がなんだかわからない状態。
「今年は、一体どうしたんだ?」
と首を傾げるのは上級生。
「今、何人?」
「数だけで言ったらざっと15人は入部確定」
「うわーすげっ」
「俺らの年って、10人だけで残ったの2年に上がって6人しか残ってねぇし」
練習後、すっかり恒例となった食事に連れて行って貰った先での上級生の話にもくもくと食事を口に運びながら耳を傾ける深岬。
今日は、深岬の他に2人参加者が居た。深岬の他に、男と女が1人ずつ。
どうやって話に絡んだらいいかもわからなくて黙ったまま聞いているしかなかった。
笑いながら言ったのは、坂上で、彼は続けて言う。
「今年は何人残るかなぁ、半分残ればいいほうだな」
「っつーか、坂上、気がはえーよ。まだ新歓も終わってねぇだろ」
「ホントだよ~」
上級生が笑い飛ばすのに合わせるように笑うしか深岬たちにはできなかった。
一コマ目からの授業ははっきり言って面倒くさい。
朝早く起きなきゃならないし、それこそ本当に前日大学の近く…雪子の家にでも泊めてもらって学校に行きたくなるくらい面倒。
家を出るのは、6時半位に出なくちゃならない。
それこそ、じゃあ一コマ目の授業を取らなければいいという話になりそうだが、そうは上手くいかないというもの。
その授業が必修の課目だったりするものだから厄介なのだ。
電車に揺られながらうとうとする。
辛うじて席を確保できた日はまだいいが、できなかった日なんて最悪だ。
乗り換えも含めて2時間近く電車で立ちっ放しはつらい。
不思議なもので、まるで体内に正確な時計でも備えているかのように大学近くの駅になると目が覚める。
ぼうっとして働かない頭で電車を降りると大学に向かう。
眠い目を擦って教室に入ると後ろからぽんっと背中を叩かれる。
振り返ると涼子の姿がある。
「おはよ…」
「おはよう。眠い」
「眠いねぇ」
いつもよりか2割り増しで間延びした声で言う深岬に軽く笑いながら涼子は相槌を打つと空いている席に二人で並んで座る。
カバンの中からノートを取り出す。
「何で、一コマからこんな授業があるんだか…」
「あはは、仕方ないよ~昨日も部活だっけ?」
深岬のぼやきに律儀に返してくれる涼子の問いに頷く。
結局、涼子は適当に選んでテニスサークルに入ったようだった。
やっぱりサークルと部活では何か違うものがあるようなのは、深岬も感じ取っていた。
「うん、今日は休みだけどね…。今さ、新入生が凄くてさ」
「凄いって?」
「増殖中」
「うそ~」
「先輩達も首傾げるくらいだよ」
「それは、凄いね」
「名前覚えらんなくて困る」
と深岬が言うと涼子は可愛く笑った。
自然とクラス中の視線が涼子に集まっているのが深岬には、分かった。
涼子はなれているのかあまり気にしたような様子はなく、その後も普通に会話をする2人だった。
5コマまで授業のある日は、それだけで疲れてしまう。
練習をしている体育館に顔を出すと今日も見知らぬ顔が増えている。
「こんにちわ~」
と言って入っていくと坂上に手招きをされる。
何だろうと首をかしげながら入っていく。
「新入生だって。すっかり馴染んでるけどこっちも新入生ね。深岬ちゃんって言う名前」
「え、そうなんですか?普通に入ってくるからてっきり上級生かと思いましたよ」
笑いながら言われた深岬は、そりゃあ早くから参加してたら嫌でも慣れるわと口には出さないものの心の中で毒づいた。
「進藤 深岬です」
「片岡 麻美です。よろしくね」
「深岬ちゃんと一緒で経験者だって」
「へー、そうなんですか」
あまり感慨もなく答える。
総合大学なだけに学部数も学生の数も多い。
注目を集める機会も増えてきたとはいえ、まだメジャーとは言い難いスポーツだが、数撃ちゃ当たるとは言ったもので何人かは経験者くらいいるだろうと思って深岬はあまり深く考えずに答えた。
「反応薄いなぁー」
「だって、そりゃあいるでしょ。経験者の1人や2人」
「それはねー今年の入部希望の子って経験者が少ないんだよ」
と答えをくれたのは、いつの間にか近くに来ていたこの部の部長だった。
深岬から見ると2学年上にあたる。
「あー、そうなんですか?」
「そう。だから重宝しないとね?」
「いや、初心者でも強くなる子は強くなるんじゃないですか?テニスやってた子とかなんか特に…」
「あ、でもやる気が違うから」
『私、やる気あんまりありませんけど…』とは口にし難かった。
もともと、学科では期待ができそうになかった友達が出来ればいいという程度にしか思っていないのだ。
ものすごく居た堪れない感じがしてきた深岬は、適当に着替えに行くと誤魔化して輪の中を抜け出した。
着替えていると更衣室に雪子が入ってくる。
顔を向けると雪子も深岬を見つけて寄ってきては、手にしていた荷物を深岬に渡してくる。
「ほら、ラケットとシューズ」
「ありがと」
いちいち持ってくるのが面倒なラケットとシューズを雪子から受け取りながら礼を述べる。
雪子が預かってくれるという言葉に甘えて、預けっぱなしにしていた。
部室も一応あることにはあるのだが、狭くて個人のものはあまり置けるような状況じゃなかったので雪子が提案してくれたのに飛びついた。
一応、最初にまずいかなと思った深岬だったが、いちいち、毎回家から持ってくる面倒くささには敵わなかった。
「また新しい子来たって?」
「うん。さっき坂上さんが紹介してくれた。経験者らしいよ」
「今年、経験者少ないからなぁ」
とぼやくように言う雪子。
やっぱり気になるところらしい。
着替えを終えて、靴を履き替える。
誰でも出入りできる更衣室に貴重品を置いておくのは危険なので、貴重品とラケットを手にして更衣室を雪子と一緒に出る。
「今日も、飲み会するよ。もちろん参加だよねー」
「っていうか、あんた本当に好きよね」
「えー?そうでもないよー」
嘘つけと深岬は心の中で呟いた。
そして、今日もアレを見る羽目になるのかと少し嘆息した。
アレというのは、雪子と小島がべったりする所。
まぁ一方的に雪子が小島を掴んで離さないのだが、小島も別に抵抗もしないから雪子がますますエスカレートするのではないんだろうかと深岬は冷静に分析する。
雪子は傍から見たら誰でもわかるくらいに小島が好きだというオーラが出ているのだが、小島は全くそんな様子を見せない。
普段、あまり自分から話をしない小島はどこか掴みにくい。
こちらから話しかければきちんと返事を返してはくれるし、面白ければ笑いもする。
けど、やっぱり一種のとっつきにくさのようなものがある。
これでもましになったほうだと雪子も坂上も声を揃えて言うが、何分彼らのような親しみやすい人間と比べてしまうとどうもまだ近寄りにくい。
練習を終えた後、帰ると言っているのに無理やり雪子の家に連れて行かれて何度目になるかわからない飲み会。
こんなんだから新しく入ってきた子達にも新入生に見られないんだと思わざるを得ない深岬だった。
更新日記と小説(18禁)とたまに嘆き.
嫌いな方・興味のない方・間違っちゃった方はバックバック
Post your Comment